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拓夢の話8

行かないで、凛

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「何か用?」

俺は、凛を傷つけてるのをわかっていながら、優しく出来なくて、冷たく吐き捨てるように言う。

「ごめんね、私。空気読めなくて」

凛の足が、ガタガタ震えてるのがわかる。今すぐ、抱き締めてやりたくて堪らなくて…。

「凛?」

と優しく名前を呼んでいた。

「今、帰るから!そうしたいんだけど、ごめんなさい。ごめんなさい」

凛の目から溢れ出る涙を見つめてると、その涙を拭って抱き締めたくなった。

「大丈夫?」

俺は、そう言って凛に触れようとした。

「触らないで!」

凛は、俺を涙目で睨み付けてしまった。俺は、どうして?って顔を凛に向けた。だって、凛は俺を好きなんだろ?

「優しくされたら、勘違いしちゃうの。星村さんともっと居たいって!失ったら生きていけないって!だから、優しくしないで下さい」
 
そう言われて、もう他人だよって言われてるみたいで胸が痛くて堪らない。

「凛」

俺は、力強く凛の名前を呼んだ。

「星村さん、ありがとう!私、幸せでした。色々忘れられたから」

その言葉に、俺は我慢していた涙を止められなかった。

「凛」

凛は、不思議そうな顔をしていた。何で、俺が泣いてるのかがわからない顔をしていた。

「星村さんと過ごせた日々は、忘れません。さよなら」

そう言って、いなくなろうとする凛の腕を掴もうとした。

「待って、凛」

そう言ったけど、聞いてくれなくて…。この手に凛を引き寄せる事が出来なかった。俺は、忘れ去られた虹色の傘を見つめていた。

「凛」

その傘を拾って、玄関に入った。追いかけたかった。だけど、美紗を呼んだのは俺で…。美紗を放ってなどおけなかった。玄関の鍵を閉めて、トボトボとリビングに向かった。昔見たドラマでは、主人公がこんなシチュエーションになったら追いかけていた。だけど、現実は違う。美紗を置いて、凛を追いかけるなんて出来ない。

「たっちゃん」

ベッドに美紗が座っているのが見える。

「ごめん。遅くなって」

「隣人さん、大丈夫だった?」

「ああ、うん!もうちょっと静かにしてってだけ」

「そう!じゃあ、静かにしなきゃね」

俺は、美紗の隣にいく。

「さっきの続きしたいの?」

したくないとは、言えなかった。だって、言えば美紗を傷つけるから…。
俺は、ゆっくり頷いた。

「いいよ!美紗は…」

『星村さん……さよなら』

俺は、凛の言葉を思い出して涙が流れてきた。

「あんな女、忘れたらいいの」

「えっ?」

「忘れたくて、呼んだんでしょ?美紗を…」

一瞬、美紗が凛との会話を聞いていたのかと思って背筋が凍った。

リリリリーンー

「電話鳴ってるよ!」

ポケットに入ってるスマホが、鳴り響いている。

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