上 下
158 / 646
拓夢の話8

待っていた人

しおりを挟む
俺は、最終電車に乗って家に帰ってきた。

「たっちゃん」

「ごめん、遅くなって」

家の前で、美紗が待っていた。そう、さっきの電話は美紗だった。

「ごめんね、拓夢。拓夢にはもう会わないからだから、幸せでね!だけど、もう、許さないでしょ?」

さっき電話で、そう言われて俺は、美紗を求めていた。許すとか許さないとかと違う気がした。もう、誰でもよかったのかも知れない。心の痛みを拭ってくれるなら…。

「入ろうか」

「うん」

俺は、玄関の鍵を開けて美紗を中に入れた。

「たっちゃん、ありがとう」

入った瞬間、美紗に抱き締められる。もう、どうでもいいや!頭の中から、何もかも消せるなら…。鍵を閉めた。

「美紗」

俺は、美紗を抱き締める。玄関で、靴を脱いでそのまま数歩歩いて美紗を廊下に押し倒した。あの日、凛と重なりあった洗面所が目に入る。俺は、無視するように美紗にキスをする。

「たっちゃん、いいよ」

頬に手を当てられる。大丈夫出来るから…。もう、凛なんか忘れてしまえばいい。美紗の膝丈のスカートに手を入れる。

「たっちゃん」

「美紗…」

悲しみや苦しみや怒りの沸き上がったぐちゃぐちゃな感情で、美紗を求める。シャツを脱ぎ捨てて、カチャカチャと、ベルトを外して…。

「あれ?」

出来ないのは、何でだ!

「もう、何でよ」

美紗が、怒って起き上がると、玄関に向かって歩いて行こうとする。

「待ってって、美紗」

俺は、美紗の腕を掴んだ。

「何で?何で?出来ないのよ」

「待てって!すぐ、なるから!大丈夫だから」

美紗は、俺の顔をジーと見つめる。

「美紗」

俺は、美紗の手を握りしめる。

「本当に出来るの?」

美紗は、小さな声で囁いてきた。

「大丈夫だから」

ピンポーン

誰かがインターホンを鳴らしてる。

「隣の人かも」

ピンポーン

「出たら?」

ピンポーン

「ごめん!待ってて」

俺は、しつこいインターホンに出た。俺の家のインターホンは、電話みたいになっているタイプだから美紗には何も聞こえなかった。

『星村さん』と言われた声に、誰がそこにいるのかすぐにわかった。その声が、かすかに震えてるのを感じる。出たい!会いたい!顔が見たい。俺の胸の中に凛が広がってく。『幸せでした』と言われて、俺は凛に会わなくちゃいけないと思った。急いで、玄関に向かって鍵を開けにいく。
美紗に声をかけられて、返事をした。美紗が、リビングに繋がる扉を閉めたのを見た瞬間に玄関の鍵を開けていた。

凛の姿を見た瞬間、俺は凛を酷く傷つけたのがわかった。あの日、赤ちゃんの事で苦しんでないていた凛がそこにいた。剥き出しになったのがわかった。俺が、包んだ凛の痛みを…。俺は、剥がしたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...