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凛の話8

世界一馬鹿な私

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ピンポーン

自分でもわからないけど、震える指はインターホンを鳴らしていた。

ピンポーン

また、鳴らす。

ピンポーン

また、鳴らした。

『はい』

拓夢の声が、した。

「星村さん」

『えっ?』

私は、名字で呼んでいた。

「星村さん、幸せでした」

ありがとうとか、さよならとかじゃなくて、その言葉しか出なかった。

ガチャ…

鍵が開いた!私は、足に力が入らなくて動けないままだった。

「拓夢」

「ちょっと待ってて」

「わかった!ベッドにいるから」

「うん」

その声がして、ドアが開く。上半身裸の拓夢が、立ってる。

「何か用?」

「ごめんね、私。空気読めなくて」

足が、ガタガタ震えてるのがわかる。

「凛?」

「今、帰るから!そうしたいんだけど、ごめんなさい。ごめんなさい」

うまく力が入らなくて、一歩が踏み出せない。私の目から、涙がボロボロ流れ落ちる。胸が締め付けられて苦しい。

「大丈夫?」

そう言って、拓夢に触られそうになった時だった。

「触らないで!」

私は、拓夢を涙目で睨み付けてしまった。拓夢は、どうして?って顔を向ける。

「優しくされたら、勘違いしちゃうの。星村さんともっと居たいって!失ったら生きていけないって!だから、優しくしないで下さい」

「凛」

唇をグッと噛むと、足に力がやっと入ってくれた。

「星村さん、ありがとう!私、幸せでした。色々忘れられたから」

「凛」

何で、拓夢が泣いてるの?

「星村さんと過ごせた日々は、忘れません。さよなら」

「待って、凛」

腕を掴まれそうになるのを交わして、私は泣きながら走り出した。もう、いいの!私には、龍ちゃんがいるから…。
大丈夫だから!

私は、振り向かずに走った。走って、走って、走って…。

「はぁ、はぁ、はぁ」

傘を忘れたのに気づいた。

「どうしよう」

駅前まで、やってきた。震える手でスマホを取って、理沙ちゃんに連絡する。

プルルルー

『もしもし』

「ごめんね!どこに行けばいいかな?」

『たくむんと話せなかった?』

「えっ!あー、終わったの!星村さんは、元カノさんと居たから」

『何それ?』

「愛してた人だったから!嫌いになれなかったんだよ」

『凛ちゃん、…にいるからおいで』

「うん」

『理沙が、話いっぱい聞いてあげるから』

「うん」

『待ってるから』

「うん、行くね」

私は、泣きながらタクシーに乗り込んで理沙ちゃんに聞いた住所を告げる。

拓夢…。

私達は、もう終わりなんだよね。

タクシーから、流れてく街並みを見つめていた。

さよなら、拓夢。

拓夢の幸せだけを願っているから…。

鞄の中に、あの日拓夢に借りたハンカチが入っていたのを忘れていた。

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