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凛の話7

終わりたいんでしょ?

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拓夢は、私をジッーと見つめる。嘘がバレる気がする。私は、目を伏せた。

「じゃあ、こっちから帰るから!気をつけてね、さよなら」

バサッって、いつもより乱暴に傘を開いてしまった。あの日から、そんな開け方した事なかったのに…。惨めで、情けない。不倫なんかしなきゃよかった。拓夢に惹かれなければ、龍ちゃんとの日々だけで充分だった。

「凛、待って」

拓夢は、私に声をかけるけど、私は急ぎ足で立ち去った。

嫌だ、嫌だ!手を繋げないのも、隣の他人みたいに扱われるのも…。

あんなに優しくされたから、あんなに求められたから…。今されたら、残酷でしかない。

私は、拓夢から離れるように少し小走りになる。
傘にパチパチと雨が当たってる。

涙で視界は、滲んでいて。

「危ない」

そう言って、腕を掴まれて引っ張られた。傘のせいで、よく前が見えてなかった。ちょうど、階段に差し掛かる所だったみたいだった。

「離して」

「何で、帰るの?」

「お腹痛いっていってるじゃん」

「泣く程、痛いの?」

龍ちゃんが、買ってくれた虹色の傘に拓夢と二人スッポリ包まれていた。

「終わりたいんでしょ?」

拓夢は、私の言葉に驚いた顔をしてる。

「そんなわけないだろ?」

「じゃあ、何で」

「ここじゃ、あれだから」

そう言って、拓夢は私を人気のない場所に連れて行く。

「俺、知らなかったんだ。不倫って普通に手とか繋いだらいけないとか…。旦那さんがいないからって、毎日誘ったら駄目だとか…。何にも知らなかったから…。普通の恋人とは、違うのはわかってたけど…。そういうのわかってなかったから…。だから、ちゃんとしなきゃって!手は繋いじゃ駄目だし。誘っちゃ駄目だしって…」

そう言って、拓夢は、キャップを脱いだ。

「顔とかもバレたら駄目だろうなとか色々考えたんだよ」

そう言って、困った顔をしている。

「終わらせたいわけじゃなかったんだね」

涙が頬を濡らしていく。

「当たり前だろ!終わらせたいわけないだろ」

そう言って、拓夢は、抱き締めてくれる。

「凛」

「何?」

「ごめんな!急に態度変えて」

「ううん」

「でも、俺と凛は、堂々とし過ぎだと思ったから!」

「うん」

「だから、こうやってしなくちゃ」

拓夢は、通行人が見えて私の持ってる傘を傾けてキスをしてきた。龍ちゃんのとの傘に新しい想い出が追加される。

「ごめん、我慢出来なかった」

反対側の肩が二人共濡れていた。

「晩ご飯、私が何か作る!拓夢の家で」

「えっ?本当に!」

「うん」

「外食より嬉しいわ」

拓夢は、そう言ってニコニコ笑ってくれる。よかった!いつもの拓夢だ。
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