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拓夢の話4
嘘はつけない…
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ピンポーン
冷たい床で、俺は眠っていたようだった。
「いたたた…」
身体中が痛い。一生懸命起して玄関のドアを開ける。
ガチャ……。
「おはよう」
「もう、そんな時間?」
現れた凛を見つめながら、俺は目を擦っていた。
「これでも、ゆっくり来たんだよ」
凛は、そう言って笑った。
「どうぞ」
「お邪魔します」
俺は、凛を家にあげる。目覚めた時に、凛が現れたのが嬉しかった。俺は、キッチンで水を飲む。
「拓夢、何かあった?」
「何もないよ」
「嘘だよ!」
ダイニングテーブルの椅子に腰かける凛の向かいに座る。
「嘘じゃない」
「電話の女の人が関係してる?」
「聞こえてたの?」
「ごめんね、聞くつもりはなかったんだけど…。拓夢にとって、大事な人なら!私との事は…」
「そんなんじゃないよ」
俺は、少し声が大きくなった。凛に八つ当たりするつもりじゃなかった。そんなつもりは、なかった。
「拓夢、震えてるよ」
凛は、そう言って俺の隣にやってきた。俺の手を握りしめようとしてくれる。
「駄目、汚いから」
咄嗟に口から出た言葉。
「汚いって?汚くないよ」
「俺は、知らない間に前の彼女を妊娠させてた糞やろうだから」
声が震えてるのを自分で感じていた。
「泣かないで、拓夢」
凛は、俺の頬に手を当てて涙を拭ってくれる。
「だから、俺は…」
「知らなかったんでしょ?」
凛に覗き込まれた。その目に嘘はつけなかった。
「知らなかった」
震える手で、凛に触れる。
「だったら、拓夢が悪いわけじゃないよ」
凛は、そう言って笑ってくれる。
「でも、それが全部嘘だったら俺はどうしたらいい?」
凛の顔を見ていると、さっきの智との会話を思い出してしまった。
「嘘?どういう事?」
「凛、前の彼女がね」
ピンポーン……
「誰か来たよ」
「いいよ!別に出なくて」
「凛、聞いてくれる」
「うん」
ピンポーン…
「大丈夫?」
「多分、勧誘だから」
「そっか」
「彼女の事を…」
ピンポーン…
「しつこいね」
「よくあるんだ」
「そうなんだね」
「凛、彼女の事、バンドを辞めたメンバーから聞いたんだ」
「うん」
ピンポーン…
「何か、怖いよ!拓夢」
「確かに」
凛は、俺の手を握りしめる。
ピンポーン…
「出るよ!」
「待って、ついてく」
そう言って、凛は俺と手を繋いでくれる。震えながら、玄関に二人で向かう。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピポ、ピポ、ピポ、ピンポーン…
ここまで、しつこい勧誘は初めてだった。
「大丈夫?」
「たぶん」
玄関にやってきて、ドアスコープを覗いた。
「誰かいる?」
「誰もいない」
俺は、そう言って、もう一度覗き込んだ。
「うわぁっっ」
「どうしたの?」
「しっー」
俺は、凛とその場にしゃがみこんだ。
「拓夢」
凛は、小さな声で俺にそう言って肩を擦ってくれる。ドアスコープを誰かが覗いていた。
冷たい床で、俺は眠っていたようだった。
「いたたた…」
身体中が痛い。一生懸命起して玄関のドアを開ける。
ガチャ……。
「おはよう」
「もう、そんな時間?」
現れた凛を見つめながら、俺は目を擦っていた。
「これでも、ゆっくり来たんだよ」
凛は、そう言って笑った。
「どうぞ」
「お邪魔します」
俺は、凛を家にあげる。目覚めた時に、凛が現れたのが嬉しかった。俺は、キッチンで水を飲む。
「拓夢、何かあった?」
「何もないよ」
「嘘だよ!」
ダイニングテーブルの椅子に腰かける凛の向かいに座る。
「嘘じゃない」
「電話の女の人が関係してる?」
「聞こえてたの?」
「ごめんね、聞くつもりはなかったんだけど…。拓夢にとって、大事な人なら!私との事は…」
「そんなんじゃないよ」
俺は、少し声が大きくなった。凛に八つ当たりするつもりじゃなかった。そんなつもりは、なかった。
「拓夢、震えてるよ」
凛は、そう言って俺の隣にやってきた。俺の手を握りしめようとしてくれる。
「駄目、汚いから」
咄嗟に口から出た言葉。
「汚いって?汚くないよ」
「俺は、知らない間に前の彼女を妊娠させてた糞やろうだから」
声が震えてるのを自分で感じていた。
「泣かないで、拓夢」
凛は、俺の頬に手を当てて涙を拭ってくれる。
「だから、俺は…」
「知らなかったんでしょ?」
凛に覗き込まれた。その目に嘘はつけなかった。
「知らなかった」
震える手で、凛に触れる。
「だったら、拓夢が悪いわけじゃないよ」
凛は、そう言って笑ってくれる。
「でも、それが全部嘘だったら俺はどうしたらいい?」
凛の顔を見ていると、さっきの智との会話を思い出してしまった。
「嘘?どういう事?」
「凛、前の彼女がね」
ピンポーン……
「誰か来たよ」
「いいよ!別に出なくて」
「凛、聞いてくれる」
「うん」
ピンポーン…
「大丈夫?」
「多分、勧誘だから」
「そっか」
「彼女の事を…」
ピンポーン…
「しつこいね」
「よくあるんだ」
「そうなんだね」
「凛、彼女の事、バンドを辞めたメンバーから聞いたんだ」
「うん」
ピンポーン…
「何か、怖いよ!拓夢」
「確かに」
凛は、俺の手を握りしめる。
ピンポーン…
「出るよ!」
「待って、ついてく」
そう言って、凛は俺と手を繋いでくれる。震えながら、玄関に二人で向かう。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピポ、ピポ、ピポ、ピンポーン…
ここまで、しつこい勧誘は初めてだった。
「大丈夫?」
「たぶん」
玄関にやってきて、ドアスコープを覗いた。
「誰かいる?」
「誰もいない」
俺は、そう言って、もう一度覗き込んだ。
「うわぁっっ」
「どうしたの?」
「しっー」
俺は、凛とその場にしゃがみこんだ。
「拓夢」
凛は、小さな声で俺にそう言って肩を擦ってくれる。ドアスコープを誰かが覗いていた。
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