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拓夢の話4

美沙が怖い

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「両親、驚かない?俺が、急に現れたら」

「そんな事ないよ!だって、美沙の赤ちゃんの父親だって話してるから」

「そうだよな」

「お父さん怒ってたのよ!拓夢を殺してやるって」

その目にゾクゾクと寒気が走るのを感じる。

「でも、今は説得したから大丈夫だよ!会ったって殺されないから」

そう言って、美沙は頬を撫でてくる。

「たっちゃん、結婚しようね」

そう言って、キスをされた。無理やり唇を開けて舌をねじ込んでくる。気持ち悪さが、全身を包み込んだ。

「じゃあね、たっちゃん」

唇が離されて、美沙は立ち上がった。怖くて、怖くて、仕方ない。
今、目の前を歩いてる美沙は一体誰なんだ。俺が、愛していたかつての美沙はもう存在しない。

「じゃあね」

「気をつけて」

「また、明後日ね」

「うん」

美沙がいなくなって、部屋を出た瞬間に鍵を閉めた。

「はー」と腹の力を抜いた瞬間。

「うっ…」

俺は、急いでトイレに駆け込んだ。

ゲーゲーと戻した。

「怖い、怖い」

俺は、吐き終わってからガタガタと震えていた。
洗面所で、口を何度も何度もゆすいだ。

「助けて、凛」

俺は、洗面所に座り込んだ。

「助けて、凛」

ゆっくり立ち上がった。
引っ越したい。

ブー、ブー、ブー

「はい」

『もしもし』

「拓夢、大丈夫か?」

「何が?」

『美沙ちゃん、来なかったか?』

その声の主は、智だった。

「来たよ」

『ごめん、俺!あんな人だって思わなかったから…。知らなくて。変わってるって思わなくて。拓夢と付き合ってた頃のままだと思ってたから…』

「何の話してるんだよ」

『ごめんな!ごめんな!本当、ごめんな!』

智は、何度も何度も俺に謝ってくる。

「だから、何の話だって言ってんだよ」

『俺な!聞いたんだ。………』

智の言葉に、俺はスマホを床に落とした。
ゴトッ…。

「うっ…」

走って、トイレに行ってまた吐いていた。美沙が、怖いと思った気持ちが間違いじゃなかったのを知った。口をゆすいで、戻ると…。落としたスマホから、智の声が響いていた。

「もしもし、ごめん」

『寝たのか?』

「えっ…。あっ、うん」

『もう、会うな』

「無理だよ」

『ごめん、俺のせいで!どうしようかな…。拓夢、本当にごめん』

「もう、いいんだよ!俺が美沙を傷つけて、赤ちゃんも作ったわけだし」

『それ、何の話?』

「美沙、俺の赤ちゃん妊娠してたから…」

『いつ?』

「いつかは、知らないけど…。お見合い、そのせいで駄目になったから」

『会社でずっと美沙ちゃん働いてたけど』

智の言葉に、体が凍りついていく感覚がした。どういう意味かわからなくて…。俺は、うまく言葉を話せなくなった。

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