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拓夢の話4

うまくやれた…

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何とか出来てよかった。

「たっちゃん、出来るじゃん」

美沙は、俺の腕にスッポリおさまってくっついている。

「たっちゃん、安達さんってどんな人?」

「普通の男の人だよ」

「へー」

美沙の目に見透かされそうで怖くて、でも俺は目を反らす事はしなかった。

「それなら、いいの。美沙を裏切らないでね」

「わかってる」

美沙は、前とは違う何かに変わった気がしていた。それは、赤ちゃんが駄目になった事と結婚が出来なかった事が関係してる気がした。

「たっちゃん、嘘ついたら許さないから」

「嘘は、つかないよ」

再会したくなどなかった。美沙を綺麗な思い出のまま終わらせたかった。

「たっちゃん、愛してるよ」

そう言って、抱き締められる。【愛】って言葉が蛇のように絡み付き。俺を食いちぎろうとしてるのがわかる。美沙は、そう言って眠る。離してくれなくて、動けない。
涙が流れてくるのを止める為に、顔を上にあげた。

愛してる気持ちのまま別れた愛しい美沙を嫌いになりたくなかった……。
今、この腕の中に眠る美沙は、俺が愛していた時の美沙じゃなくて…。
お腹の力を抜けば、すぐに吐いてしまいそうになる程、気持ち悪くて怖くて…。今すぐにでもいなくなって欲しい存在に変わっていた。

美沙に触れようとする右手が、小刻みに震える。
俺は、首の後ろを持って誤魔化した。

【凛に会いたい】

【凛を抱き締めたい】

【凛】

【凛】

【助けて】

震えないように、吐かないように、必死で体に力をいれとかないといけない。どれぐらいそうしてただろうか?美沙が目を覚ました。

「たっちゃん、起きてたの?」

「あっ、うん」

「腕、痺れたよね」

「ちょっと」

美沙が起き上がると腕の痺れがダイレクトに響いてくる。

「ごめんね」

そう言って、手でマッサージしてくれるけど…。痺れより気持ち悪くて、やめて欲しい。

「もう、大丈夫」

まだ、痺れてる癖に嘘をついた。

「たっちゃん、明後日来るからね」

「うん」

「合鍵ちょうだい」

「えっ?いる?」

「いるに決まってるでしょ?美沙は、たっちゃんの彼女だよ」

「そうだよな!ごめん。次でもいいかな?」

「いいよ!ちゃんと次は用意しててね」

「わかってる」

「じゃあ、そろそろ今日は帰るね」

「うん」

「たっちゃん、裏切らないでね」

「わかってる」

裏切るとか裏切らないとかよくわからないよ。美沙、俺…。美沙を嫌いになってく自分が嫌いだ。

美沙は、服を整えてる。

「年が明けたら、両親に挨拶しにきて」

「それは…」

「解散するからいいでしょ?」

そう言って、ニコニコ笑われてる。
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