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凛の話4

悲しみ…

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悲しみが針の束になったように、私の胸をチクチクとさす。息が出来なくなる程、痛い。

「龍ちゃん、苦しい」

「うん」

龍ちゃんの涙が、私の肩を濡らすのを感じる。

「龍ちゃん…」

「大丈夫だから」

私は、昔から龍ちゃんの大丈夫が好きだった。妊娠検査薬が陽性を示したと喜んで跳び跳ねて、二人で嬉しくて病院に行った日の事を思い出した。病院につき、診察をされるとすぐに、「何も見えません」と言われた。そんな筈はない、ちゃんと陽性になりました。そう説明すると「化学流産ですね」と説明された。じゃあ、近いうちに妊娠するのではないだろうか?喜んだものの、奇跡なんてものは起きなかった。やっぱり、私の身体は私を裏切る。そう思って泣いた。あの日の悔しさを今でも引きずっている。
あれから、私は意固地に追いかけていた。赤ちゃんだけを手にする為に必死だった。必死にならないといけない気がしたから…。そんな脆い精神を見抜かれて、占いや友人が進める商品に沢山お金を使った。何百万は、使ったと思う。いくらか何か数えていなかったから、わからない。途中クレジットカードも使っていたから…。気づくと話がそれてしまった。

「大丈夫だよ!凛」

龍ちゃんの言葉に引き戻された。龍ちゃんは、私の髪を優しく撫でてくれる。龍ちゃんは、あの日の帰り道も私に何度も「大丈夫」って言ってくれた。龍ちゃんが、そう言ってくれたら本当に大丈夫な気がした。あの日だけじゃない。悔しくて堪らなくて死にたくなったあの日も、龍ちゃんは私に「大丈夫だから」って言ってくれた。

「龍ちゃん、ごめんね」

私は、ごめんね以外に上手な言葉を見つけられなかった。

「だから、謝らないでいいんだよ」

そう言って、優しくされればされる程、悲しみがこの胸を刺してくる。

「龍ちゃん」

忘れる程、抱き合う事が出来ない事が、余計に私を苦しくさせる。
男女でなければ、きっと龍ちゃんとは、世界一のパートナーだって思ってる。

何故?赤ちゃんを望んでしまうのかな?

「凛、もうあの時みたいに苦しまないで欲しい」

龍ちゃんも、あの時をまだちゃんと覚えてるんだ。私達、夫婦に槍を突き刺した従姉妹夫婦と子供達……。

「あの時の事、まだ覚えてるの?」

「覚えてるよ!心に刃物が刺さって苦しかった」

「私も、あれは忘れられない」

私の従姉妹が、言った言葉を私は忘れない。あの日、私と龍ちゃんはあの場所で凄く惨めな気持ちにさせられた。悔しくて、悲しくて、やり場のない怒りを押さえながらあの場所にいた。

「ごめんな。俺、許せない。凛の従姉妹だってわかってるけど」

「私だって許せないから同じだよ」

私は、龍ちゃんを抱き締めながら、あの日を思い出していた。
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