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拓夢の話3

わかってても、俺は…

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プルルルー

何度も響く音を聞いてた。だけど、凛は出なかった。わかっていた。凛が出ない事なんて…。わかってるのに、悲しくなって…。キッチンに座り込んで、頭を抱えて泣いた。

ブー、ブー

「はい」

『ごめんね。今、夫が疲れて寝たから』

「休みだったの?」

『うん、明日から出張だから…。どうしたの?』

「愛さなくていいから、この先も仲良くしてて」

『拓夢、どうしたの?』

「お願いだから…。俺」

ガタン……。

俺は、顔をあげてスマホを落とした。

「拓夢、誰と話してるの?」

「美沙」

「誰と話してるの?」

「と、友達だよ」

「どんな友達?」

「こ、高校の時の先輩が
悩みがあるってかかってきたんだ」

「へー」

俺は、慌ててスマホを取って切った。

「もう、終わったから!大丈夫」

電源を落とした。

「そう」

「電池、丁度なくなったから充電するわ」

「拓夢」

「な、何?」

美沙は、俺に近づいてくる。

「明日花って女みたいな奴がいたら、許さないから」

その言葉に、心臓がズキズキ痛む。

「どういう意味?」

「美沙は、体が傷ついたんだよ!お父さんとお母さんにも怒られたんだよ!わかるよね?拓夢」

意味がわからなくて、怖くて堪らない。足が震えそうになるのを感じるのは、あの時と美沙が同じ目をしてるからだ…。

「拓夢、もっかいしよう!美沙、拓夢が好きな所。全部知ってるよ」

そう言って、スマホをテーブルの上に置かれて引っ張られていく。

「拓夢」

ベッドに横にされる。美沙は、俺の足の間にスッポリと顔を埋める。体は、快感に飲み込まれようとしてる。これを昔の俺なら、愛だって勘違いしてただろう…。でも、俺は違うってわかってる。ただ、体が気持ちいいだけだ。

「こうされるの好きでしょ?」

「うん」

あのスマホの履歴を見られたらどうしよう?掛けられたら、どうしよう?俺の頭の中をしめてるのは、凛だ。

「集中して、拓夢」

「してる」

頭の中が痺れない。うまく真っ白になっていかない。それでも、俺のモノは頑張ってくれてる。体が満たされても何にも意味ないんだよ!美沙…。
俺は、哀れみで美沙を見ようとするから目を閉じる。

【拓夢………ァァッ】

頭の中に凛が浮かび上がった。

「拓夢、気持ちいい?」

「うん」

セックスすれば、自分のものに出来るとしたら…。それは、10代までだ!大人は、そんな簡単になどいかない。快楽と愛情がセットで動いていない。俺は、もう子供じゃない。愛がなくてもセックス出来るようになってしまったんだ。

「拓夢、嬉しい。こんなになって」

「うん」

俺は、大人になった。口から出任せを並べて話せるようになってる。
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