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凛の最初の話【1】

苦しまないで

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ギュッーって抱き締められる。

「大丈夫だよ!凛」

髪を優しく撫でられる。

「子供が出来ないからって、ポンコツなんかじゃないよ。凛、どうして自分の価値を低く見積もってるの?それだけが、凛の価値じゃないよ」

「拓夢……。でも、私。何も産み出せてない。この世界に生きていた証を何も残せてない。生きる意味が、時々わからなくなるの。死にたいとか、そんな事じゃないの…わかる?」

「わかるよ」

「何の為にここにいるのか、何の為に生かされてるのか、わからなくなる時があるの。価値のないガラクタのような自分を抱えて生きるのは苦痛だよ」

「凛は、ガラクタなんかじゃないよ。これ以上、自分を責めないで!赤ちゃん出来ない事に苦しまないで」

「拓夢」

私は、拓夢に抱きついた。結婚して13年。そのうちの11年は、赤ちゃんがいない事に苦しめられてきた。何をやっても、無意味な体。何の答えも返してくれない体。他人の幸せが妬ましくて、友人の出産に嫉妬した。スマホを破壊したくもなった。私ばっかりこんな思いを何故するのかと泣いて叫んで喧嘩した。

「もう、苦しみたくない」

小さな声で言った声を拓夢は、聞き逃さずに抱き締めてくれた。私の人生、赤ちゃんに縛られてばかりだった。

「凛、もう苦しまないで」

「拓夢、もう赤ちゃんに縛られたくない」

「うん、そうだね」

簡単に子供を作って産めるいとこが羨ましかった。治療さえすれば出来る友人が羨ましかった。私は、どちらも手に入れられないポンコツな体で!自然になんか任せてたら、絶対に妊娠しない体で…。わかってたなら、結婚しなかった。一人で生きていた。

「出来ない事しようか?」

「えっ?」

「子供いたら、出来ない事!俺としない?」

「そんなのないよ」

拓夢は、私の頬をつねる。

「あるよ!絶対にある」

「本当に?」

「ある」

子供がいたら出来ない事なんてあるの?

「やってみる」

拓夢は、私の言葉にキスをしてきた。

「探してみよう!出来ない事、たくさん」

「うん」

「いつか、凛がその場所から抜け出せるように」

「わかった」

「頑張ってみよう」

そう言って、拓夢は私を抱き締めてくれる。何も考えない事がこんなに幸せだって忘れていた。拓夢に対して、恋愛感情はなかった。ただ、一緒に傷を舐めあってるだけに過ぎない事はわかっていた。

「ちょっと眠る?」

「うん」

泣きすぎて、疲れていた。

私は、ゆっくりと目を閉じた。子供が欲しいと思わない人生を手に入れたい。二人でも幸せだと思える人生を手に入れたい。そう思いながら眠った。
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