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許してください[安西の視点]

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頭が割れそうに痛くて目が覚めた。

午前中は、天の川カフェで残りを仕上げて、午後は藤堂とだな。

起き上がって、洗面所で顔を洗った。

目の進行スピードが早いな。

どんどん白くなってる。

こんな老いぼれな僕を好きになってくれるなんて。

眼帯でもはめて、髪を染めれば少しはマシになるのではないか?

髪の毛を櫛で、とかしながら思っていた。

洗面所に置いた指輪を二つ見つめていた。

久しぶりに指にはめてみよう。

歪な形の霧人の指輪もはいるんだ。

サイズは、お揃いだから…。

あの日…。

「遺体は、見るべきじゃないよ」

正人さんが、僕にそう言った。

それでも、僕は見たんだ。

「指輪、こんな形になってしまった。」

指先のなくなった手から正人さんが渡してきた。

「人形みたいに思わない?霧人じゃないみたいだよね」

どうしたら、こんな風に人間がなるのか教えて欲しいぐらいだった。

霧人、僕は駄目だ。

別の人を考えている。

指にはめた霧人の指輪にキスをした。

頭から映像を追い出して、服を着替えた。

ポケットにそれをしまって、キャリーケースを引きながら、天の川カフェにやってきた。

「おはよう、美矢君」

「おはよう、正人さん」

僕は、ゴロゴロとキャリーケースをひいて昨日の部屋に入る。

四角いキューブ状の箱を机の上に置いた。

コンコン

「はい」

「指輪を両手にはめてるなんて、どんな心境?」

正人さんは、コーヒーを置いてくれる。

「いえ」

「朝御飯、まだだよね。試作品のホットサンド食べてみて」

「ありがとうございます。」

正人さんは、四角いキューブを手に持った。

「お墓参りについていこうか?」

「大丈夫です」

「好きになれそうな人…。嫌、もう気持ちを奪われてる人に出会ったんだよね?」

「忘れます。ちゃんと、忘れますから」

僕の言葉に、正人さんは座ってと手を指した。

「美矢君」

「はい」

「もういい加減、霧人を解放してあげてくれないかな?」

アイスコーヒーの氷がカチャンと言った。

「どういう意味ですか?」

「兄としてのお願いだよ。いつまでも、美矢君が許して欲しいと願う度に霧人は、この世界に縛りつけられているんだよ。わかるかな?」

「わかりません」

正人さんは、少し怒った声をだした。

「だから、美矢君が霧人に縛られてるんじゃなくて、美矢君が霧人を縛りつけてるんだよ。」

そう言って、正人さんは泣いた。

「僕が、霧人を…。」

「怒ってごめんね。でもね、もう10年だよ。兄としては、霧人を解放してあげて欲しいんだよ。」

「霧人を忘れて、誰かを愛せって事ですか?」

「忘れろとは言わない。ただ、思い出にかえてあげて欲しいんだよ。」

正人さんは、そう言って四角いキューブを僕の手に握らせた。

「里揆(さとき)さんの時にも、そうするべきだったんじゃないか?美矢君は、霧人を裏切るのが怖くて自分の気持ちに嘘をついたんだろ?里揆(さとき)さんの事、愛していたのに…。」

正人さんの言葉に、僕は目を合わせられなかった。

「美矢君が、誰かを好きになる足枷になるのが霧人なら、もう、返してくれる?」

そう言って、四角いキューブを僕の手から奪った。

「嫌です。」

「だったら、霧人がいても人を好きになれるって証明してよ」

正人さんは、キューブを僕の手に握らせた。

「証明って?」

「一週間後の、霧人の月命日の日に、霧人のお墓に連れてきてくれる?」

「そんな相手は…」

「いないなんて、言わせないよ。美矢君が、これを持ってきて、両手に指輪をはめてる。6年前と同じだよ。里揆(さとき)さんに気持ちを伝えられた時と同じ。これでも俺は、この10年美矢君をずっと見てきたんだよ。だから、連れてきて」

「もし、出来なかったら…」

「霧人は、返してもらうよ」

そう言って、正人さんは部屋を出ていった。

僕は、ホットサンドをかじっていた。

これ…。霧人が作ってくれた味だ。

キューブを見つめる。

霧人を返したくない。

僕が、霧人を縛りつけてるなんて思わなかった。

霧人、どうすればいいんだ。

僕は…。






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