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遅い[るかの視点]

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今日も行くと約束したのに、忘れていた。

安西と再会できたのが、嬉しかったのかもしれない。

「星(ひかる)、急ごう」

「うん」

ちょうど、スマホに流星から連絡がやってきた。

海の華まで、迎えにきてもらった。

みんなに別れを告げて、店をでると流星が待っていた。

「宇宙(そら)兄さんが、怒っていたよ。」

「ごめん。すっかり、忘れてしまってた。」

「飲んでるね」

流星は、笑っていた。

「あの人が、午前中会いに来てね。目覚めない、婆ちゃんと爺ちゃんに怒って帰ったよ。」

「あの人が、そうしたのにか…」

「るか君は、あの人に色々されてたって」

「ああ、あの人は俺が出てくるとすぐに気づくから。そういう意味では、親をしていたんじゃないか?月(るい)をよく見てた。」

「そう」

流星は、あの人の話をすると辛そうだった。

「あの人が嫌いなのか?」

「嫌いだよ。大嫌いだ」

「そうだよな。あの人は、みんなに酷い事をした。でも、あの人はあの人なりにみんなを愛していたのだけはわかってあげて欲しい」

「酷い事をされていたのに、よくそんな風に言えるね」

「俺は、痛みや苦しみを感じとるのだけは鋭かった。あの人も、感じていたよ。常に苦しみを…。それでも、あんな風にならなければあの人は生きていけなかったんだよ。」

流れる景色を見ながら、俺の腕を初めて掴んだあの人を思い出していた。

「ついたよ」

「ありがとう」

星(ひかる)と一緒に車を降りた。

「遅いぞ、酒飲んでたのか?」

「すっかり忘れていた」

「なんだ、それ。」

そう言いながら、宇宙(そら)君は俺と星(ひかる)を病室に連れてきた。

12歳の俺を会わせてあげたいのに、うまくかわりかたがわからなかった。

「相変わらず眠ってる。」

「急変するのか?こんなに穏やかなのに」

「そうじゃないかと、担当医は言ってる。」

婆さんの手を握った。

愛を教えてもらったのに、月(るい)が消えて俺が出てきた事が、申し訳なかった。

高校生の頃、星(ひかる)に出会い、星(ひかる)の絵ばかりを描(か)いていた月(るい)のせいで。

俺と月(るい)の入れ替わりは、激しかった。

家に帰ると俺がやってきて、婆さんは夜な夜な泣いていた。

感情を俺に渡さなかった月(るい)は、少しの痛みでもすぐに逃げたのだ。

それが、例え嬉しい痛みであっても…。

流星も入ってきた。

「婆さん、また俺になっちまったぞ。どうする?」

ダランとした婆さんの手が、一瞬だけ俺を握りしめた。

「宇宙(そら)君、今握ってきたよ」

「本当か?」

宇宙(そら)君も、婆さんの手を掴んだ。

「婆さん。俺もどれないんだよ。わかるか?」

また、手を握りしめてきた。

「反応してるな」

「目覚めるか?」

「それとこれとは、別だな。担当医に伝えてくる」

宇宙(そら)君は、行ってしまった。

「婆ちゃんは、るか君に会った事あるの?」

流星が、婆さんの手を握った。

「るかでいいよ。あるよ。何回も…。」

星(ひかる)が、俺の隣に座った。

「恋をすると感情のコントロールが出来なくなるってわかるだろ?」

「わかるよ」

「その痛みが、幸せか苦しいかわからなくなったりするのわかる?」

「わかるよ」

流星は、そう言いながら婆さんの手を擦ってる。

「とにかく、月(るい)は痛みに弱かったんだ。だから、家に帰って一人になると胸の痛みを我慢できなくて引っ込んだ。その度に、俺が出てきて。婆さんと爺さんは、一発で見抜くんだよ。だけど、何も言わなかった。あいつみたいに戻すこともしない。そしたら、朝にはまた月(るい)に戻った。」

「また、戻れる気がしたのか?会いに来たら」

「そうだよ」

俺は、流星に笑った。

婆さんの手を擦るけど…。

もう、反応は帰ってこなかった。

「また、明日もおいで」

宇宙(そら)君が、そう言って病室に入ってきた。

結局、二人は目覚めないままで俺と星(ひかる)は流星に家の下まで送ってもらった。


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