リンゴの木の下で

小槻みしろ

文字の大きさ
上 下
2 / 10

二話

しおりを挟む
「もういや!」 
 
 王宮に来て一か月後、私はひとり叫んだ。
 ふかふかのベッドも何も、私を癒してはくれない。
 初めてこの部屋に足を踏み入れた時は、感動に涙したのに。
 
「どうして、聖女はこの世に一人だけなの?  おかしいわよ!」
 
 泣きたい気分の時ほど、目は乾いて痛いだけだ。
 王宮で待っていたのは、夢のような生活じゃなく――想像を絶する激務だった。
 いれかわりたちかわり訪れる人々を神々しく迎え、癒す。一日中だ。手がしびれるほど、人の頭にかざし――膝が折れそうなほど、立ち尽くして……一日が終わる頃には、私はぎちぎちに絞られたふきんみたいにぼろぼろだ。
 なのに明日も同じことを繰り返すのだ。明日だけじゃない、明後日もその先もずっと……。
 これじゃ、村にいた時とかわらない。
 違うのは、この役目に代わりがいないことだ。
 ふいに召使が入ってくる。あたたかな湯気をたてたコップをトレイに載せて。
 
「お疲れの様でしたので、薬湯をお持ちいたしました」
「……ありがとう」
 
 最初はすごくうれしかった。 
 でも、この薬湯の湯気をかぐだけで、もう胸が悪い。
 
「これで、また明日も励んでくださいませ」
「……はい」
 
 私は苦く、かすかに笑った。
 またこれだ。
 ここにいる人は皆、私に親切にしてくれた。
 でも、それは、私が聖女で――聖女は一人しかいないからだ。
 
「聖女様にしかできない仕事にございます」
 
 この言葉が、こんなに重いとは思わなかった。
 
「こんなんだったら、村にいた方が――」
 
 そこまで考えて、思い直す。村でまた、ただの女になるなんてごめんだ。
 
「でも、少しでいいから休みたい。」
 
 せめて一日くらい、休みが欲しい。息をつくのも苦しくて、私は胸に手を添えた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

処理中です...