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第1話
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今でも覚えている。施設の中じゃ年上なのにいつも大人しくしていたから、他の子からはいじめられはしないけど中々馴染めなくて1人だった。皆友達と遊んでいるのに僕だけいつも1人で……寂しくて。でも、
『……また1人か。』
『僕だって……好きで1人なんじゃないよ……』
『……一緒に、来るか?』
そう言ってメソメソしてた僕に手を差し伸べてくれた頭に犬みたいな耳が付いてる男の子“あっくん”。その頃はよく分かってなかったけどあの子は……“アニマ”だったんだ。だから僕みたいに独りぼっちだったんだと思う。その頃の時代は今以上にアニマは怖がられていて、僕も会ったことも無いくせに話を聞いただけで怯えてた。でもあっくんのお陰でそんな怯えもなくなった。あっくんは凄く優しかったから。
『あっくん!!』
『そんなに大きい声で呼ばなくても、わかる』
『えへへ……ごめんね?』
本当にあっくんが大好きだった……だったんじゃない。ずっとずっと大好きで、大切なんだ。僕が嬉しい時も悲しい時も傍に居てくれた、たった1人の友達だから。
『あっくん……行っちゃうの……?やだよ、ずっと一緒にいてよ!あっくんと離れたくない!!』
『三祈(みつき)くん、寂しいのは分かるけどもう決まってしまったの……ごめんなさい。』
『三祈……ごめん。でも、また何処かで会おう。ちゃんと約束はできないけど……これ、あげる。御守り』
『ほんと……?すごい…きれい……ありがとう、あっくん……っ僕…僕っ絶対あっくんに会いに行くよ!だから、だからね…僕を忘れないで…!』
あっくんの引き取り先が決まってあっくんが施設から出て行く事が決まった日。僕はあっくんにも施設の先生にも駄々こねたんだ。物凄く泣きじゃくって。あっくんが居なくなるのが耐えられなくてあっくんも先生も困ってたのは分かってたのにずっと泣いてた。あっくんはそんな僕に綺麗な青白く光る石をくれたんだ。宝石みたいに綺麗な石。それを受け取って僕はあっくんに会いに行くって言ったんだ、僕にしては珍しく大きな声だったから先生もあっくんも驚いた顔してた。だから、僕は今の両親に引き取られて医大生になっても、あっくんを探してる。
=======================
「ほぉーん。んでその貰った石を肌身離さずペンダントにして持ち歩いて今もずっと探してる、と。いやぁガチ恋じゃないの。愛じゃんもう」
「ガ、ガチ恋……!?べ、別にあっくんは……その……そういうんじゃないです!ずっと仲良くしてくれた、友達だから……!」
「その友達の為に怖がって専攻する人がほぼ居ない“アニマ医療技術”なんて取らんて。普通。」
「う……じゃあ、先輩はどうなんですか!先輩だって取ってるじゃないですか!!」
「えぇ~オレぇ?オレはほら、モフモフ大好きだし?アニマ専門医になれば合法的にモフれるじゃん?」
「そんな不純な動機だったんですか……!?」
そして今現在の僕……有瀬三祈は通っている大学も参加する学会の準備に同じ専攻の先輩と一緒に駆り出されてた。本当は今日、先輩と一緒に課題をやるつもりだったんだけど……僕達の部門の教授が土下座しながら頼んでくるから断れる訳もなくて。こうして喋りながら来場者用の椅子を出したり、資料をまとめたりしていた。その中で僕が“アニマ医療技術”を専攻した理由なんかを話してて…ほぼ僕の思い出話だったんだけど。
「理由なんてそんなもんだって!まぁオレのはいいのよ。てか話聞いてて思ったんだけどさ、探してるって言う割にはなんか進展なさそう?」
「実は……そう、なんです。て言うか僕自体がその子の事、ちゃんと思い出せなくて…あっくんって呼んでたのと犬みたいな大きな耳があるって事くらいで……」
「あれ、そうなの?でも小さい頃なんてそんなもんか……犬みたいなって事は…犬のアニマ?」
「どうなんですかね…獣のアニマなのは確かなんですけど」
椅子を出して並べるのと資料のまとめが終わって、先輩がうし、教授んとこ戻ろうぜ、と僕達が準備をしていた会場から出て廊下を歩いていた時に、僕も先輩も話しながら歩いてあたから前から来る人に気付かなくて、そのままぶつかっちゃったんだ。
「わ、あ……すみませ……ん、」
「………、気を付けて歩け。」
結構勢い良くぶつかったから慌てて前を見て思わず固まった。浅黒い肌にサラサラ流れる様に揺れる短い白銀髪。切れ長の目は綺麗な深い青色で……凄く綺麗でそこにも見惚れてしまったけど、何より目を惹かれたのは白銀髪の中に見えた“黒”……犬みたいに大きな耳だった。それを見て、僕の記憶の中から大切なあの子の記憶が蘇った。……そうだ、そうだった。どうして思い出せなかったんだろう?あの子……“あっくん”も目の前のこの人と似た姿だった。似た姿?違う、そんなんじゃない、あっくんが成長したら正しくこんな感じで、記憶の中のあっくんと目の前のアニマの人が重なるでもただ似てるだけかもしれない。でも胸の所が凄くドキドキして、落ち着かない。……やっぱり君は、
「すみません!おい三祈、大丈夫か…って三祈~生きてるか~?お~い?」
「なぁにやってんだ、アズ。……ってソイツどうしたんだよ?オマエ何かした?」
「……何もしてない。ぶつかっただけだ。」
「あ、お兄さん、その人の言ってるのほんとです。こっちがぶつかったのが原因で……」
先輩と目の前の犬(?)のアニマの人の後に別の人が来て、何か話してる。もう1人の人も耳の後ろや濃い藍色の髪の束の中から髪より色の薄い鳥の羽が生えていて。たぶん鳥類のアニマなんだろうけど、正直僕はそれどころじゃ無い。ぶっちゃけ先輩達が何話してるのかわからない。だって目の前に居るアニマの人が…ずっと探してた人かもしれない。ずっと会いたくて会いたくて、仕方なかった、僕の、大切な……………
「いやぁすみません、こいつ怪我もなんも無いんで気にせず行ってください。本当にすみませんでした」
「そうか?なら良いけど……俺達もちょいと急ぎでな。すまねぇ。ほら、アズ行くぞ。」
「……あぁ」
「………え、いく?あ!ちょ、ちょっと……待って……」
先輩が多分、大丈夫だからと言ったんだと思う。もう1人の人は申し訳なさそうに僕のぶつがった人…アズ、さん?の腕を引っ張って連れて行ってしまった。アズさんのフード付きのジャケットと連れて行った人のロングコートに水色の腕章を付けていた。その腕章のロゴには見覚えがある。2人とも服装は青と黒を基調とした感じだった。ゴツめでちょっとヒールのある黒いブーツと腰とか足には何か装備が巻き付けてある。チラッと見えたんだけど2人とも上着の下、背中空いてる黒いインナーだったよ…!?
「はぁ~全く。なんでぶつかっていきなり固まるんだよ、お前……っとに……お、今の人達…アンシャルの職員だったんだな。うお、しかも中ガッツリ背中空いてんじゃん。やっぱアニマの服は露出度高めだよな…」
「う、あ……すみません……アンシャルって今回の学会を主催してる…?」
「そうそう。今回のやつ、アニマ関係の研究発表がメインだから…そりゃそうだよな」
「アンシャル……か…」
アンシャルはアニマに関する問題の解決と収束を目的としている財閥。あらゆる企業とか組織よりも群を抜いてアニマ関連の研究が進んでいるし、データもあるそれを他の組織、企業問わず提供している。有名な組織として番組にも特集されてるのを見た事がある。
「専門医になるのも良いけど、アンシャルに就職するのもありだよなぁ……聞いた話だと職員はアニマが多いらしいし。そこの研究員にでもなればモフモフ間違いなしだな」
「アンシャルに、行けば……会える……?」
アンシャルにどうにかして行けば…あっくんに、会えるの…?いや、あっくんって言ってるけど本当にそうか分からないし……違ったら…恥ずかしい思いするし、また振り出しに戻っちゃう……でも、そうだとしても
「………僕、アンシャルに就職する事にします」
「えぇ~なに?もしかして一目惚れ?あんなに探してるあっくんはどしたの?」
「いや、違います!ただ…ちょっと確かめたい事が出来て…!」
それとあっくんはそういうのじゃないって言ったじゃないですか!と僕が言っても先輩はお前、ああいうのがタイプか~とかいやぁ後輩に春が来てオレは嬉しいぞ?とかそんなんばっかりで聞いてない。
「だから……僕、」
『緊急放送、緊急放送。非常事態発生。館内にいる一般人の方は速やかに避難してください。』
反論しようと言いかけたタイミングで変な館内アナウンスが流れた。地震?と思ったけどこのイベントホールは耐震設計で建てられてるって言ってたし、やっぱり違うのかな。それに地震だったらちゃんとそう言うよね。
「あんま聞かないアナウンスだな……何か怖いし、教授のとこ行って一緒に避難?しようぜ」
「あ、はい………っ!」
避難しようって言われて先輩について行こうとした瞬間、視界の端に見慣れた白銀が見えた。思っ切り振り返るとさっきぶつかったアズさんとアンシャルの職員?の2人がバタバタと避難しようとする人とすれ違いながら反対方向へ向かっていくのが見えた。もしかして…現場に向かおうとしてる?そう考えてしまったら、心臓の鼓動が早くなる。嫌な予感がする。気のせいかもしれない。アナウンスのせいで僕自身が不安なだけかもしれない。
「先輩…、用事思い出したので先に行っててください!」
「は…?どこ行く気だよ!?三祈!」
先輩が戸惑った様子で僕に声を掛けてる。でもなりふり構っていられなかった。このまま見送るだけだと、きっともう会えない…死んでしまうとかそういう事では無くて。もう僕の前には現れない。そう、感じてしまったんだ。最初は人混みを掻き分けて早歩きをしていたけれど段々、速度を上げて走り始めた。走ってあの2人を追う内にザワザワとすれ違う人達が戸惑いながら逃げているのが、悲鳴を上げて慌ただしくその場所から逃げようとしている状況になっていってる。それをすれ違い様に見たからなのか、走り続けているからなのか僕の心臓の鼓動はどんどん、早くなっていく2人をただひたすらに追い続けていたけど、一向に見つからない。何処に居るんだ、と息を切らしながら足を止めて周囲を見渡していた時、何人かの話し声とバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。どうしよう、と一瞬迷ったけど咄嗟に何かの物陰に隠れた。
周囲を見渡した時に気付いたけどここは会場前のエントランスで僕の隠れたここは受付の机の下だと思う。
「(……嘘っ、銃持ってる!?他にも武装っぽいのがある…顔は見えないけど…尻尾とか耳とかは分かる…服装 も武装してるのに露出高い…この人達はアニマって事…?)」
武装したアニマの集団……もしかしてテロリストって事なのかな、と武装集団は皆ガスマスクみたいな物を被っていて顔が分からないし、何を話してるのかも聞き取れない。そこで僕は、もしかして見つかったら捕まるか……殺されて、しまう?ここまで来てやっとその事まで頭が回ったけど、正直もう手遅れだ。
「そうだ、スマホ………」
僕はジーンズの後ろのポケットに入れてたスマホを取り出して、さっき別れた先輩に連絡しようとした。
先輩には怒られちゃうな、と思って電話しようとするけど繋がらない。なんで、どうして、と焦って何回もかけるけどやっぱり繋がらない。かけるのに夢中で気が付かなかったけど、僕のいる所より遠かった足音がどんどん近付いてきてる。このままじゃ…見つかる。殺されちゃう……まだ会いたい人に会えてないのに、死んじゃうなんて、そんなの………!
「………っ、あっくん……!」
死んじゃうの嫌だけど、もしどうしても死んでしまうってなったなら。あっくんに会ってから死にたかった
先輩が散々言ってたけど、やっぱり僕…あっくんに出会った時から……あっくんの、事が……
『……!……、………!!』
こんな事言いたくないけど、死ぬのを覚悟していたその時、武装集団の誰かが何か叫んだ後、鈍い音がした後に声は止んだ。その後も鈍い音と叫び声が聞こえてきたけれど…直ぐに静まり返ってた。怖くて覗き込む事も出来なくて縮こまっていたら、いつの間にか誰かが近付いてきて、僕に影が掛かって暗くなった。ハッと息を飲んで振り返って、思わず、息が止まった。
「……お前、何でこんな所に居るんだ。アナウンスが聞こえてなかった訳では、ないよな。」
立てるか、と手を差し伸べて来たのは僕が、追い掛けて来た人。手を差し伸べてる姿はやっぱり、僕の記憶の中の“あっくん”と完全に重なった。あぁ、あっくんだ。ずっと会いたくて、探してた…あの、あっくんだそう思ったら、涙が止まらなくて…僕は彼に抱き着いた。
「あっくん…あっくんだよね…!?ずっと…ずっと会いたかったんだよ!?なのに、全然…見つからないし……!」
「……無視しようにも、もう無駄か。久しぶり、だな。三祈」
あっくんは僕を抱き留めてはくれたけど、抱き締め返してはくれなかった。昔のあっくんなら抱き締めてくれたのに。……それよりもどうしてこんな危ない事をしているんだろう。怪我とか、してないのかな?あっくんに会えて安心しきった僕はあっくんに思った事を問いただしてた。
「あっくん、もしかしてずっと、こんな危険な事してるの?怪我とかしてない?それに…あの人達1人で倒すって…施設を出てから一体何があったの?」
「……三祈が俺に色々と聞きたい事があるのは分かる。だがそれに答えるつもりは無いし、これ以降お前と会うつもりは無い。」
せっかく会えたのに、あっくんは僕に冷たかった。昔みたいにぶっきらぼうだけど優しい態度じゃなくて、完全に拒絶しようとしているのが伝わってくる。
「ど、どうして……?誰かに何か言われてるから?あっくんに嫌な思いさせた?……あっくんは僕が、嫌いに、なったの…?」
「………答えるつもりは無いと、言ったろう」
兎に角、ここを離れるぞ。安全な場所まで送るから、
そう言って、あっくんは抱き着いてる僕を引き離そうとする。言葉は冷たくても、その仕草は優しいあっくんのままだったから。僕は納得出来なくて、わがままを言ってあっくんを問い詰める。
「い、嫌だ…ちゃんと話してくれないと離れない!会うつもりは無いって言ってるけど……僕はあっくんと会うつもりだからね!僕は…あっくんの傍に居たいから……!」
「………アズルってちゃんと名乗っても結局、“あっくん”のままなんだな」
何言ってるの、と言う前にあっくんは僕にキスをしてきた。……突然過ぎて何も言えなくて。ただあっくんの舌が口の中に入ってきて、思わず体が跳ねる。入ってきた舌が動いて、僕の舌と重なる。僕の舌の上に何か乗せられたけど、舌が重なって驚いた反射で考える間もなく飲み込んでた。唇が離れて話せる様になったけど、顔全部が熱くなって、もう、何がなんだが
「な、んで……キ、キ、スしたの……い、きなりすぎるよ!?僕、初めて、で」
「……俺だってずっと三祈に会いたかった。ずっと、三祈が……好きだった。だが、もう俺はお前の会いたかった“あっくん”じゃ、ないんだ。」
……あっくんが、僕を、好き?なのに、もうあっくんじゃないってどういう事?僕に会いたいって思ったてくれてたなら…なんで、傍に居てくれないの……あれ、話そうと、してるのに…なんで、こんな、ねむく……
「……あの頃の俺のままだったら、迎えに行ってた。ここでお前に会って、改めて分からされた。……やっぱりお前は、俺の“ザイル”なんだな。」
あっくんが何か言ってるのをちゃんと聞きたいのに、眠気に逆らえなくて、でもこのまま寝たらあっくんがいなくなるんじゃないかって不安で…あっくんを呼びながら一生懸命に抱き着いたまま、僕の意識は落ちていった。
『……また1人か。』
『僕だって……好きで1人なんじゃないよ……』
『……一緒に、来るか?』
そう言ってメソメソしてた僕に手を差し伸べてくれた頭に犬みたいな耳が付いてる男の子“あっくん”。その頃はよく分かってなかったけどあの子は……“アニマ”だったんだ。だから僕みたいに独りぼっちだったんだと思う。その頃の時代は今以上にアニマは怖がられていて、僕も会ったことも無いくせに話を聞いただけで怯えてた。でもあっくんのお陰でそんな怯えもなくなった。あっくんは凄く優しかったから。
『あっくん!!』
『そんなに大きい声で呼ばなくても、わかる』
『えへへ……ごめんね?』
本当にあっくんが大好きだった……だったんじゃない。ずっとずっと大好きで、大切なんだ。僕が嬉しい時も悲しい時も傍に居てくれた、たった1人の友達だから。
『あっくん……行っちゃうの……?やだよ、ずっと一緒にいてよ!あっくんと離れたくない!!』
『三祈(みつき)くん、寂しいのは分かるけどもう決まってしまったの……ごめんなさい。』
『三祈……ごめん。でも、また何処かで会おう。ちゃんと約束はできないけど……これ、あげる。御守り』
『ほんと……?すごい…きれい……ありがとう、あっくん……っ僕…僕っ絶対あっくんに会いに行くよ!だから、だからね…僕を忘れないで…!』
あっくんの引き取り先が決まってあっくんが施設から出て行く事が決まった日。僕はあっくんにも施設の先生にも駄々こねたんだ。物凄く泣きじゃくって。あっくんが居なくなるのが耐えられなくてあっくんも先生も困ってたのは分かってたのにずっと泣いてた。あっくんはそんな僕に綺麗な青白く光る石をくれたんだ。宝石みたいに綺麗な石。それを受け取って僕はあっくんに会いに行くって言ったんだ、僕にしては珍しく大きな声だったから先生もあっくんも驚いた顔してた。だから、僕は今の両親に引き取られて医大生になっても、あっくんを探してる。
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「ほぉーん。んでその貰った石を肌身離さずペンダントにして持ち歩いて今もずっと探してる、と。いやぁガチ恋じゃないの。愛じゃんもう」
「ガ、ガチ恋……!?べ、別にあっくんは……その……そういうんじゃないです!ずっと仲良くしてくれた、友達だから……!」
「その友達の為に怖がって専攻する人がほぼ居ない“アニマ医療技術”なんて取らんて。普通。」
「う……じゃあ、先輩はどうなんですか!先輩だって取ってるじゃないですか!!」
「えぇ~オレぇ?オレはほら、モフモフ大好きだし?アニマ専門医になれば合法的にモフれるじゃん?」
「そんな不純な動機だったんですか……!?」
そして今現在の僕……有瀬三祈は通っている大学も参加する学会の準備に同じ専攻の先輩と一緒に駆り出されてた。本当は今日、先輩と一緒に課題をやるつもりだったんだけど……僕達の部門の教授が土下座しながら頼んでくるから断れる訳もなくて。こうして喋りながら来場者用の椅子を出したり、資料をまとめたりしていた。その中で僕が“アニマ医療技術”を専攻した理由なんかを話してて…ほぼ僕の思い出話だったんだけど。
「理由なんてそんなもんだって!まぁオレのはいいのよ。てか話聞いてて思ったんだけどさ、探してるって言う割にはなんか進展なさそう?」
「実は……そう、なんです。て言うか僕自体がその子の事、ちゃんと思い出せなくて…あっくんって呼んでたのと犬みたいな大きな耳があるって事くらいで……」
「あれ、そうなの?でも小さい頃なんてそんなもんか……犬みたいなって事は…犬のアニマ?」
「どうなんですかね…獣のアニマなのは確かなんですけど」
椅子を出して並べるのと資料のまとめが終わって、先輩がうし、教授んとこ戻ろうぜ、と僕達が準備をしていた会場から出て廊下を歩いていた時に、僕も先輩も話しながら歩いてあたから前から来る人に気付かなくて、そのままぶつかっちゃったんだ。
「わ、あ……すみませ……ん、」
「………、気を付けて歩け。」
結構勢い良くぶつかったから慌てて前を見て思わず固まった。浅黒い肌にサラサラ流れる様に揺れる短い白銀髪。切れ長の目は綺麗な深い青色で……凄く綺麗でそこにも見惚れてしまったけど、何より目を惹かれたのは白銀髪の中に見えた“黒”……犬みたいに大きな耳だった。それを見て、僕の記憶の中から大切なあの子の記憶が蘇った。……そうだ、そうだった。どうして思い出せなかったんだろう?あの子……“あっくん”も目の前のこの人と似た姿だった。似た姿?違う、そんなんじゃない、あっくんが成長したら正しくこんな感じで、記憶の中のあっくんと目の前のアニマの人が重なるでもただ似てるだけかもしれない。でも胸の所が凄くドキドキして、落ち着かない。……やっぱり君は、
「すみません!おい三祈、大丈夫か…って三祈~生きてるか~?お~い?」
「なぁにやってんだ、アズ。……ってソイツどうしたんだよ?オマエ何かした?」
「……何もしてない。ぶつかっただけだ。」
「あ、お兄さん、その人の言ってるのほんとです。こっちがぶつかったのが原因で……」
先輩と目の前の犬(?)のアニマの人の後に別の人が来て、何か話してる。もう1人の人も耳の後ろや濃い藍色の髪の束の中から髪より色の薄い鳥の羽が生えていて。たぶん鳥類のアニマなんだろうけど、正直僕はそれどころじゃ無い。ぶっちゃけ先輩達が何話してるのかわからない。だって目の前に居るアニマの人が…ずっと探してた人かもしれない。ずっと会いたくて会いたくて、仕方なかった、僕の、大切な……………
「いやぁすみません、こいつ怪我もなんも無いんで気にせず行ってください。本当にすみませんでした」
「そうか?なら良いけど……俺達もちょいと急ぎでな。すまねぇ。ほら、アズ行くぞ。」
「……あぁ」
「………え、いく?あ!ちょ、ちょっと……待って……」
先輩が多分、大丈夫だからと言ったんだと思う。もう1人の人は申し訳なさそうに僕のぶつがった人…アズ、さん?の腕を引っ張って連れて行ってしまった。アズさんのフード付きのジャケットと連れて行った人のロングコートに水色の腕章を付けていた。その腕章のロゴには見覚えがある。2人とも服装は青と黒を基調とした感じだった。ゴツめでちょっとヒールのある黒いブーツと腰とか足には何か装備が巻き付けてある。チラッと見えたんだけど2人とも上着の下、背中空いてる黒いインナーだったよ…!?
「はぁ~全く。なんでぶつかっていきなり固まるんだよ、お前……っとに……お、今の人達…アンシャルの職員だったんだな。うお、しかも中ガッツリ背中空いてんじゃん。やっぱアニマの服は露出度高めだよな…」
「う、あ……すみません……アンシャルって今回の学会を主催してる…?」
「そうそう。今回のやつ、アニマ関係の研究発表がメインだから…そりゃそうだよな」
「アンシャル……か…」
アンシャルはアニマに関する問題の解決と収束を目的としている財閥。あらゆる企業とか組織よりも群を抜いてアニマ関連の研究が進んでいるし、データもあるそれを他の組織、企業問わず提供している。有名な組織として番組にも特集されてるのを見た事がある。
「専門医になるのも良いけど、アンシャルに就職するのもありだよなぁ……聞いた話だと職員はアニマが多いらしいし。そこの研究員にでもなればモフモフ間違いなしだな」
「アンシャルに、行けば……会える……?」
アンシャルにどうにかして行けば…あっくんに、会えるの…?いや、あっくんって言ってるけど本当にそうか分からないし……違ったら…恥ずかしい思いするし、また振り出しに戻っちゃう……でも、そうだとしても
「………僕、アンシャルに就職する事にします」
「えぇ~なに?もしかして一目惚れ?あんなに探してるあっくんはどしたの?」
「いや、違います!ただ…ちょっと確かめたい事が出来て…!」
それとあっくんはそういうのじゃないって言ったじゃないですか!と僕が言っても先輩はお前、ああいうのがタイプか~とかいやぁ後輩に春が来てオレは嬉しいぞ?とかそんなんばっかりで聞いてない。
「だから……僕、」
『緊急放送、緊急放送。非常事態発生。館内にいる一般人の方は速やかに避難してください。』
反論しようと言いかけたタイミングで変な館内アナウンスが流れた。地震?と思ったけどこのイベントホールは耐震設計で建てられてるって言ってたし、やっぱり違うのかな。それに地震だったらちゃんとそう言うよね。
「あんま聞かないアナウンスだな……何か怖いし、教授のとこ行って一緒に避難?しようぜ」
「あ、はい………っ!」
避難しようって言われて先輩について行こうとした瞬間、視界の端に見慣れた白銀が見えた。思っ切り振り返るとさっきぶつかったアズさんとアンシャルの職員?の2人がバタバタと避難しようとする人とすれ違いながら反対方向へ向かっていくのが見えた。もしかして…現場に向かおうとしてる?そう考えてしまったら、心臓の鼓動が早くなる。嫌な予感がする。気のせいかもしれない。アナウンスのせいで僕自身が不安なだけかもしれない。
「先輩…、用事思い出したので先に行っててください!」
「は…?どこ行く気だよ!?三祈!」
先輩が戸惑った様子で僕に声を掛けてる。でもなりふり構っていられなかった。このまま見送るだけだと、きっともう会えない…死んでしまうとかそういう事では無くて。もう僕の前には現れない。そう、感じてしまったんだ。最初は人混みを掻き分けて早歩きをしていたけれど段々、速度を上げて走り始めた。走ってあの2人を追う内にザワザワとすれ違う人達が戸惑いながら逃げているのが、悲鳴を上げて慌ただしくその場所から逃げようとしている状況になっていってる。それをすれ違い様に見たからなのか、走り続けているからなのか僕の心臓の鼓動はどんどん、早くなっていく2人をただひたすらに追い続けていたけど、一向に見つからない。何処に居るんだ、と息を切らしながら足を止めて周囲を見渡していた時、何人かの話し声とバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。どうしよう、と一瞬迷ったけど咄嗟に何かの物陰に隠れた。
周囲を見渡した時に気付いたけどここは会場前のエントランスで僕の隠れたここは受付の机の下だと思う。
「(……嘘っ、銃持ってる!?他にも武装っぽいのがある…顔は見えないけど…尻尾とか耳とかは分かる…服装 も武装してるのに露出高い…この人達はアニマって事…?)」
武装したアニマの集団……もしかしてテロリストって事なのかな、と武装集団は皆ガスマスクみたいな物を被っていて顔が分からないし、何を話してるのかも聞き取れない。そこで僕は、もしかして見つかったら捕まるか……殺されて、しまう?ここまで来てやっとその事まで頭が回ったけど、正直もう手遅れだ。
「そうだ、スマホ………」
僕はジーンズの後ろのポケットに入れてたスマホを取り出して、さっき別れた先輩に連絡しようとした。
先輩には怒られちゃうな、と思って電話しようとするけど繋がらない。なんで、どうして、と焦って何回もかけるけどやっぱり繋がらない。かけるのに夢中で気が付かなかったけど、僕のいる所より遠かった足音がどんどん近付いてきてる。このままじゃ…見つかる。殺されちゃう……まだ会いたい人に会えてないのに、死んじゃうなんて、そんなの………!
「………っ、あっくん……!」
死んじゃうの嫌だけど、もしどうしても死んでしまうってなったなら。あっくんに会ってから死にたかった
先輩が散々言ってたけど、やっぱり僕…あっくんに出会った時から……あっくんの、事が……
『……!……、………!!』
こんな事言いたくないけど、死ぬのを覚悟していたその時、武装集団の誰かが何か叫んだ後、鈍い音がした後に声は止んだ。その後も鈍い音と叫び声が聞こえてきたけれど…直ぐに静まり返ってた。怖くて覗き込む事も出来なくて縮こまっていたら、いつの間にか誰かが近付いてきて、僕に影が掛かって暗くなった。ハッと息を飲んで振り返って、思わず、息が止まった。
「……お前、何でこんな所に居るんだ。アナウンスが聞こえてなかった訳では、ないよな。」
立てるか、と手を差し伸べて来たのは僕が、追い掛けて来た人。手を差し伸べてる姿はやっぱり、僕の記憶の中の“あっくん”と完全に重なった。あぁ、あっくんだ。ずっと会いたくて、探してた…あの、あっくんだそう思ったら、涙が止まらなくて…僕は彼に抱き着いた。
「あっくん…あっくんだよね…!?ずっと…ずっと会いたかったんだよ!?なのに、全然…見つからないし……!」
「……無視しようにも、もう無駄か。久しぶり、だな。三祈」
あっくんは僕を抱き留めてはくれたけど、抱き締め返してはくれなかった。昔のあっくんなら抱き締めてくれたのに。……それよりもどうしてこんな危ない事をしているんだろう。怪我とか、してないのかな?あっくんに会えて安心しきった僕はあっくんに思った事を問いただしてた。
「あっくん、もしかしてずっと、こんな危険な事してるの?怪我とかしてない?それに…あの人達1人で倒すって…施設を出てから一体何があったの?」
「……三祈が俺に色々と聞きたい事があるのは分かる。だがそれに答えるつもりは無いし、これ以降お前と会うつもりは無い。」
せっかく会えたのに、あっくんは僕に冷たかった。昔みたいにぶっきらぼうだけど優しい態度じゃなくて、完全に拒絶しようとしているのが伝わってくる。
「ど、どうして……?誰かに何か言われてるから?あっくんに嫌な思いさせた?……あっくんは僕が、嫌いに、なったの…?」
「………答えるつもりは無いと、言ったろう」
兎に角、ここを離れるぞ。安全な場所まで送るから、
そう言って、あっくんは抱き着いてる僕を引き離そうとする。言葉は冷たくても、その仕草は優しいあっくんのままだったから。僕は納得出来なくて、わがままを言ってあっくんを問い詰める。
「い、嫌だ…ちゃんと話してくれないと離れない!会うつもりは無いって言ってるけど……僕はあっくんと会うつもりだからね!僕は…あっくんの傍に居たいから……!」
「………アズルってちゃんと名乗っても結局、“あっくん”のままなんだな」
何言ってるの、と言う前にあっくんは僕にキスをしてきた。……突然過ぎて何も言えなくて。ただあっくんの舌が口の中に入ってきて、思わず体が跳ねる。入ってきた舌が動いて、僕の舌と重なる。僕の舌の上に何か乗せられたけど、舌が重なって驚いた反射で考える間もなく飲み込んでた。唇が離れて話せる様になったけど、顔全部が熱くなって、もう、何がなんだが
「な、んで……キ、キ、スしたの……い、きなりすぎるよ!?僕、初めて、で」
「……俺だってずっと三祈に会いたかった。ずっと、三祈が……好きだった。だが、もう俺はお前の会いたかった“あっくん”じゃ、ないんだ。」
……あっくんが、僕を、好き?なのに、もうあっくんじゃないってどういう事?僕に会いたいって思ったてくれてたなら…なんで、傍に居てくれないの……あれ、話そうと、してるのに…なんで、こんな、ねむく……
「……あの頃の俺のままだったら、迎えに行ってた。ここでお前に会って、改めて分からされた。……やっぱりお前は、俺の“ザイル”なんだな。」
あっくんが何か言ってるのをちゃんと聞きたいのに、眠気に逆らえなくて、でもこのまま寝たらあっくんがいなくなるんじゃないかって不安で…あっくんを呼びながら一生懸命に抱き着いたまま、僕の意識は落ちていった。
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塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
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