王は約束の香りを娶る 〜偽りのアルファが俺の運命の番だった件〜

東院さち

文字の大きさ
上 下
11 / 32

11

しおりを挟む
 ローレルがクスッと笑う気配がした。嫌な感じはしなくて、レフィを可愛いと言っていたエルネストの笑顔と重なった。
 どれだけ待っていても来なかったエルネストの事を想う。
 きっとレフィだけが約束を覚えていたのだ――。忙しく、身分の高いエルネストには過去の小さな約束事の一つにすぎなかったのだ。
 そう思わないとレフィは、大事な人を裏切っているという後ろめたさでおかしくなりそうだった。

「あっ、駄目っ! もうっ」
「いいよ、フィオ……。快楽に身を委ねて――」

 ローレルは慣れているのか巧みにレフィを導いた。

「兄様……っ」

 レフィは、放つ瞬間に今抱きしめているローレルの名前ではなく、思い出の中のエルネストを呼んでしまった。

「レ……フィオッ!」

 少し遅れてローレルも達った。未だ合わさったままのペニスはローレルがアルファであることをレフィに教えた。アルファの精液の量は多いと聞いていたけれど、レフィは自分との違いに驚いた。いつまでもドクドクと溢れるのが合わさっているペニスで感じるのだ。
 情事の最中に他人の名前を呼ぶことが非常識だとレフィもわかっていた。怒鳴られても、けなされてもおかしくない事をしてしまったと緊張したレフィの肩に頭を乗せて、ローレルは大きく息を吐いた。艶めかしい吐息に、レフィの肌がざわついた。

「フィオ……」
「……ローレル、もう止めないか? 俺はあんたにふさわしくないと思う」

 ローレルはレフィが呼び間違えたことをなかったことにしたようで、敢えて触れなかった。レフィの提案に駄目だともふざけるなとも言わず、ただ手についた二人分の精液をレフィの下腹になすりつけた。見えないながらもレフィはそれを感じて、首を傾げた。

「何を」
「次は君のここに注ぐ……」

 それは諦めきれないレフィに告げたローレルの静かな意思表示だった。

「ここ……?」
「お腹いっぱいになるまで、フィオの中に注ぐ」
「い、嫌だ!」

 アルファであるローレルの精液の量は、見えなくても多いと実感したばかりだ。それをお腹一杯になるまで注がれた日には、番うどころか子供までできてしまう。

「これだけは聞いてあげられない。ごめんね。私の子供を産んで……」

 レフィが感じた恐れは間違っていなかった。
 知らない男の子供を宿すことへの恐怖と、それを拒みきれないだろうオメガの本能に引き裂かれそうになる。言われた台詞に慄きながらも、ジンッと尻の奥からローレルを受け入れるための蜜が降りてくるのを感じて、本能には逆らえないのだとレフィは知った。『陛下を拒めないの』と母が曇った顔をしていたことを思い出した。あの時、自分は『嫌だったら嫌って言った方がいいよ』と提案したはずだ。まさか自分に返ってくるとは思ってもみなかった。

「大丈夫だ、もっと気持ち良くなるはずだ」

 ローレルの低い声がレフィの体を貫いて、同意したようにレフィのペニスがゆるりと勃ち上がった。

「ローレル……」

 レフィは目を閉じた。それを了承ととったのかローレルはレフィに口付け、広がった尻の間に指を差し込んだ。

「あ……」
「もう柔らかい……」

 ローレルは剣を握る大きなゴツゴツした手をしていた。エルネストがレフィの頬を撫でる時の滑らかな指とは大違いだった。同じようにペンだこがあるのは、剣だけが生業でないからだろう。
  知らない人、なのだ。仕事も家族も――。

「んっ……くぅん」

 レフィは口を閉じても声が抑えられず、言葉にならない声を上げた。

「フィオ、可愛い」

 ローレルがそう思っているのは間違いないだろう。動物が愛しい相手にするように顔を擦り寄せ、レフィの肌を味わうように舐めながら、自分が挿るための場所に一本ずつ指を増やしていった。最終、四本の指を咥えさせられて、レフィはローレルにしがみつきながら涎をこぼした。快感が全身を巡っていく。ローレルの指がバラバラに動くので、レフィは中の感じる場所がどこなのか判断できなかった。
 立てた爪の跡がローレルの上半身のあちこちに散りばめられていることに、目の見えないレフィは気づかない。同じようにレフィの身体のあちこちに鬱血の蹟が残されていることにも。

「もう、達かせて――……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ
BL
事故から始まったつがいの二人がすれ違いを経て、両思いのつがい夫夫になるまでのオメガバースラブストーリー。 *オメガバース自己設定あり 【あらすじ】 華やかな恋に憧れるオメガのエルフィーは、アカデミーのアイドルアルファとつがいになりたいと、卒業パーティーの夜に彼を呼び出し告白を決行する。だがなぜかやって来たのはアルファの幼馴染のクラウス。クラウスは堅物の唐変木でなぜかエルフィーを嫌っている上、双子の弟の想い人だ。 エルフィーは好きな人が来ないショックでお守りとして持っていたヒート誘発剤を誤発させ、ヒートを起こしてしまう。 そして目覚めると、明らかに事後であり、うなじには番成立の咬み痕が! ダブルショックのエルフィーと怒り心頭の弟。エルフィーは治癒魔法で番解消薬を作ると誓うが、すぐにクラウスがやってきて求婚され、半ば強制的に婚約生活が始まって──── 【登場人物】 受け:エルフィー・セルドラン(20)幼馴染のアルファと事故つがいになってしまった治癒魔力持ちのオメガ。王立アカデミーを卒業したばかりで、家業の医薬品ラボで仕事をしている 攻め:クラウス・モンテカルスト(20)エルフィーと事故つがいになったアルファ。公爵家の跡継ぎで王都騎士団の精鋭騎士。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ
BL
樹(Ω)涼太(Ω)豊(α)は友人であり、幼馴染みだった。樹は中学時代、豊に恋している事を涼太に打ち明け、応援されていた。 が、高校の受験前、涼太の自宅を訪れた樹は2人の性行為に鉢合わせしてしまう。信頼していた友人の裏切り、失恋による傷はなかなか癒えてはくれず...。 そして中学を卒業した3人はまた新たな出会いや恋をする。 叶わなかった初恋よりもずっと情熱的に、そして甘く切ない恋をする。 ※表紙イラスト→ as-AIart- 様 (素敵なイラストありがとうございます!)

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

処理中です...