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「大丈夫、エリー。怖がることはない」

 リュシオンは僕の目に盛り上がった涙を宥めるように吸い取った。目を閉じると瞼にも撫でるような優しい口付けをくれる。
 もう一度舌が口の中に入ってきたけれど、さっきのような衝撃はなかった。身体を強ばらせた僕を安心させるようにゆっくりと蠢く。息が出来なくて、リュシオンにしがみつくと少しだけ口を離して抱きしめてくれた。何度か唇を合わせては離して、その度にリュシオンから送られてくる気が僕の身体を巡っていく。気持ちのよい倦怠感に包まれて、そのまま目を閉じた。

「エーリッヒ、大丈夫か?」

 耳元で囁かれた声に身体がビクッと反応した。

「あ……はい。えっと――」

 キスされたのだ。唇を食まれて、ゾクゾクする上顎の奥を長い舌で舐められて、息が出来ないと涙が出たところまでは覚えている。

「気を失ったのだ。苦しいところはないか?」
「はぁ……」

 僕は口付けだけで気を失ってしまったのだという。お風呂に来たというのに湯にも浸からず、僕は広い長椅子の上でリュシオンに抱きしめられていた。

「エーリッヒの髪は光をより集めたようだな――」

 僕の髪を梳くリュシオンの長い指はそのまま僕の胸にたどり着く。

「リュシオン?」

 トクトクと鼓動を打つ左側を手の平で何度も撫でる。

「奇跡のようだ……。紫の瞳など竜にはいない――。美しい」

 奇跡のように美しいとは、リュシオンのような容姿を言うのに。竜は目が悪いと聞いたことがあったけれど、こういうことなのかと納得した。
 リュシオンの黒銀の髪は夜空のようだ。

「あ……っ」

 胸の突起を押さえられると、腰のあたりが痺れた。

「私の気を身体の隅々まで巡らせねばならぬ。私の触らぬところはないと心得よ」

 竜の命令は、抗えない響きをもっている。

「は……い」

 リュシオンに触られると気持ちがいい。真っ白の雲の上に浮かんで眠っているようにフワフワする。

「エーリッヒ、眠るか?」

 窺うリュシオンの声が心地いい。まるで子守歌のように眠りの国に誘う。さっき目が醒めてからずっと眠気と戦っていた僕はリュシオンの言葉に惹かれてやまない。
 いや、だめ。眠ってはいけない。竜王の次代であるリュシオンがいるのに失礼になる。そう思っていても瞼は落ちていく。

「だめ……ねむっちゃ……」
「いい。好きなだけ眠るがいい。竜の気はそなたを消耗させる。だが、加減は出来ぬ。二年しかないのだからな……」
「二年?」

 そう訊ねようと口を開きかけたところを温かい舌が押し込まれた。

「そなたの気は馴染む――」

 気持ちがいいのは僕だけじゃないのかとわかってホッとした。
 その日から、僕はリュシオンの部屋で寝泊まりすることになった。

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