23 / 42
22 アラーナの気持ち
しおりを挟む
どうしてこんなことになったのだろうと、アラーナは一人、戻った自分の部屋の中で呆然としてしまった。宰相であるカシュー・ソダイを相手に自分の思い通りにいくとは思っていなかったが、まさか拒み続けた王城へ行くことになるとは思ってもみかった。
王であるアルベルトが相手だったとしても、アラーナは「嫌だ」と気持ちを押し通すことができただろう。けれどカシュー・ソダイは無理だった。そんなことはわかりきっている。四年前に既に証明されているのだ。
アラーナは、伯爵位を断るつもりだった。なのに気が付いたら、条件付きとはいえ受け取ることになっていたのだ。
一国の宰相とはそういうものなのだと、恐ろしく思ったのに、また同じことになってしまった。
「今更どんな顔をしてアルベルト様にお逢いすればいいの?」
久しぶりに出してきた白いドレスを震える手で撫でると、あの頃の辛かった気持ちが滲み出てくる。カシュー・ソダイにはああ言ったもののアラーナは四年かけても心が穏やかになることはなかった。
アルベルトが母親のことで苦しむのが嫌だ、とあの頃は思っていた。アルベルトのために少しでも早く王城から去ったつもりだった。
「自分の気持ちを偽っていたのだわ」
ドレスを前にすれば、あの時のアルベルトの冷たい瞳が脳裏に浮かぶ。
アルベルトは、信じられなかったのだろうと思う。周りの思惑に苛立ち、アラーナこともいらないと思うほど傷ついたのだ。
アルベルトの瞳には、憤りを必死に抑えたせいで氷のように固まった感情だけが映っていた。アラーナはその視線を受け止めることが出来なかった。
アルベルト様のため、と言いながら本当は自分のために王城を去った。
四年の間にアラーナは、事業を進めるために利害のからんだ大人たちと対峙してきた。もちろん最初は、シエラやレイモンド・エンディス、父親が矛先となり表に立ってくれた。自分のやりたいことのために自分を背に庇いながら戦う彼らの姿を見て、やがてアラーナも自分の意見を相手に伝えることを覚えた。最初から意見の合う交渉などなかった。
本当に少しずつ人と対峙すること、協力すること、自分の意見を俯瞰してみることを覚えた。
そこでやっとあの時の気持ちを自分で判断することができたのだ。アルベルトの元を去った時の自分のことが恥ずかしい。あれ以上傷つくことが怖かった。アルベルトに自分の意見を知ってもらうための努力をしなかった。ただ、傷つくのを恐れて逃げたのだ。
それなのに、アルベルトは逃げたアラーナのために伯爵位をくれた。
シエラは、レイモンド・エンディスとの生活があるにも関わらず着いてきてくれた。
カシュー・ソダイは、毎年、アルベルトがアラーナを忘れていないというように、薄紅色の花を持ってきてくれる・・・・・・。
それでもやはり、アルベルトの前に立つことが怖かった。
成長した自分を見てもらいたいという気持ちもあるが、やはりあの時と同じ瞳で見られたら、逃げ出したくなってしまうかもしれない。それに・・・・・・、カシュー・ソダイはアルベルトに奪ってもらえと言っていたけれど、今更だろう。アルベルトにとっては過去の人間であるアラーナが「抱いてほしい」といったところで鼻で笑われるのではないだろうか。
妾妃となるべく集められた女性が幾人も彼の側にはいるという。煌びやかな人々に囲まれたあの人は、アラーナにはもう手の届かない人だろうに・・・・・・。
「このドレスを作っていたころは・・・・・・本当に幸せだった――」
見れば辛いのに、ちゃんと幸せだったころの気持ちも溢れてくる。
居間でカシュー・ソダイと対峙した時のことを思い出すと完敗だったことがわかる。
「舞踏会に出るようなドレスは作っていないので・・・・・・」
そうアラーナが言えば、カシュー・ソダイは嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんパートナーとして私が用意させていただきますよ。女性にドレスを贈るなんて久しぶりですから、張り切ってしまいます」
甘いマスクのカシュー・ソダイがそう微笑めば、アラーナは口を閉じるしかなかった。
なんだろう、この顔面のパワーは。戦う気がしなくなる。
「けれど、あの、ダンスもあれから全く踊っていないので・・・・・・」
「いくら踏んで頂いても大丈夫ですよ。昔はよくシエラにも踏まれたものです」
「まぁ、シエラのダンスはカシュー・ソダイ様が?」
「ええ。陛下と一緒に習ってもらっていたのですが、あまりに足を踏むから嫌だとおっしゃるので、私の足を犠牲にしました・・・・・・」
完璧だと思っていたシエラの過去話に盛り上がってしまい、気がつけばカシュー・ソダイに手を取られて、居間で踊ってしまった。
カシュー・ソダイのリードはアルベルトのものと似ていた。アラーナは本当に踊っていなかったのに、足をもつれさせることもなくカシュー・ソダイの足を踏むこともなく、リズムを口ずさむカシュー・ソダイと楽しく踊ることになってしまった。
「さすが乗馬がお好きなだけあって軸がしっかりしていますね。全く問題はありませんよ」
カシュー・ソダイは、アラーナに合格ですといった。
何故だろう、合格と言われながら、こんなに敗北感に打ちひしがれてしまうのは。
アラーナは、「ありがとうございます」とお礼をいいながら、次の手を考える。
「ですが、王都のアレントの家は今はだれもおりませんし、今からだとホテルもとれないと思うのです。ですから・・・・・・伯爵位の返上はまた違う日に・・・・・・」
王城に行ってアルベルトに伯爵位を返上ために行くのは仕方ないが、出来るなら人の多い場所に出ていきたくない。
あれが、妾妃候補になりながらいらないと言われた女なのだと後ろ指をさされるのは、覚悟をして出てきたとはいえ、アラーナには辛いことだった。
「私の部屋には沢山客間がありますよ。陛下のお部屋にも近いですし。ね、問題はありません」
陛下のお部屋と言われて、あらぬことを想像してしまったアラーナは、声もなく白旗をふるしかなかった。
それでも・・・・・・望んでいいだろうかと、アラーナの恋心が囁く。
あの人アルベルトの手に、一度だけ・・・・・・。
そうでなくても、最近の求婚者達のアラーナを見る目が変わってきている。実際に押し倒されそうになったことだってあるのだ。結婚しないといっても変わらない彼らを振り切るためには仕方がないのだとアラーナは自分の心に言い聞かせる。アラーナは臆病になりそうになる自分を奮い立たせ、王城へ赴くことを決めたのだった。
王城へ行くと告げるとフィリップが怒りだしてしまった。
「でもそうしないと伯爵位をお返しできないのよ」
「アラーナが国王にあったら、きっとアラーナは閉じ込められる」
「どこに・・・・・・?」
「え・・・・・・。そんなの寝室に決まってるだ」
フィリップの顔をシエラが引っ張った。
「痛いっ! お前、本当に不敬罪で投獄するぞ」
シエラにそんなことを言ってはいけないとアラーナの厳しい視線を受けても、フィリップの怒りは収まらなかった。
「そんな子供みたいだからアラーナに相手にしてもらえないのよ」
シエラは堪えた様子もなく、食事を続けた。
食事はアラーナとシエラとその娘(二歳)とフィリップだけなので、シエラは容赦はしない。
「なんでシエラはそんなんだよ。俺は王子だぞ」
「マリーナ様とエルシオン様から躾をしていいと許可は頂いております」
フィリップに甘いお付きばかりがついてきていることもあって、シエラは一月前にマリーナのお祝いに行った際にお願いをされているのだ。元々一緒に育ったアルベルトが王だということもあり、高貴な人間に対する恐れのようなものがないから、是非ともと請われている。
「フィーおにいちゃま、すわってたべなきゃ、めっ! よ」
シエラの娘のアリエラに窘められてフィリップは静かに座った。とても可愛らしい二歳児は、シエラに似て口うるさいのだけど、小さすぎてフィリップは何も言えないのだ。
「アラーナ、王城にいくのはいいのだけど、個人的にお会いするのは勧めないわ」
アラーナは、まるで全てを見透かしたようなシエラの視線に頬を赤らめた。
「個人的にお会いできるなんて・・・・・・」
個人的に会うことが出来るとは限らないのだと、その時初めてアラーナは気付いた。
「陛下は、貴女がいなくなってからとても扱いづらいのよ。いつも顔色は悪いし、短気だわ」
顔色が悪いと聞いて、アラーナは目を瞠る。アルベルトは身体の具合が悪いのだろうかと思うと、今すぐにでも側に飛んでいきたくなる。けれど、アラーナの顔を見れば、もっと具合が悪くなったりしないだろうか。
「なんで国王の顔色が悪いのに主治医は何にもしないんだ?」
フィリップが不思議そうに尋ねる。
「やってると思うわよ」
皆、アルベルトが大切なのだ。それでもアルベルトにもどうにもならないのだろう。慢性的に睡眠不足だという。そんなことをアラーナに言えば、心配してアラーナ自体の体調を壊してしまいそうで今まで言わなかったけれど。
「カモミールを摘んでいこうかしら・・・・・・」
アラーナの心は既にアルベルトの元に飛んでいるのだろう。シエラは、アルベルトがアラーナにどう対するのか心配でならなかった。それでも止めることは出来ないとわかっている。
アラーナは、結局アルベルトへの想いを捨てることができなかったから。
「アラーナ、いつでも俺のところに来い。待ってるから」
フィリップもわかっているから、アラーナにそう告げた。相手にされていないこともわかっている。それでもアラーナが傷つくところを見たくない。
「フィリップ・・・・・・。ごめんなさい」
まだ子供だと思っていたフィリップが思いがけず包容力のある大人のようなことを言うから、アラーナはフィリップの顔を凝視した。そして、きっと彼の元には行けないとわかっているから、謝ったのだった。
王であるアルベルトが相手だったとしても、アラーナは「嫌だ」と気持ちを押し通すことができただろう。けれどカシュー・ソダイは無理だった。そんなことはわかりきっている。四年前に既に証明されているのだ。
アラーナは、伯爵位を断るつもりだった。なのに気が付いたら、条件付きとはいえ受け取ることになっていたのだ。
一国の宰相とはそういうものなのだと、恐ろしく思ったのに、また同じことになってしまった。
「今更どんな顔をしてアルベルト様にお逢いすればいいの?」
久しぶりに出してきた白いドレスを震える手で撫でると、あの頃の辛かった気持ちが滲み出てくる。カシュー・ソダイにはああ言ったもののアラーナは四年かけても心が穏やかになることはなかった。
アルベルトが母親のことで苦しむのが嫌だ、とあの頃は思っていた。アルベルトのために少しでも早く王城から去ったつもりだった。
「自分の気持ちを偽っていたのだわ」
ドレスを前にすれば、あの時のアルベルトの冷たい瞳が脳裏に浮かぶ。
アルベルトは、信じられなかったのだろうと思う。周りの思惑に苛立ち、アラーナこともいらないと思うほど傷ついたのだ。
アルベルトの瞳には、憤りを必死に抑えたせいで氷のように固まった感情だけが映っていた。アラーナはその視線を受け止めることが出来なかった。
アルベルト様のため、と言いながら本当は自分のために王城を去った。
四年の間にアラーナは、事業を進めるために利害のからんだ大人たちと対峙してきた。もちろん最初は、シエラやレイモンド・エンディス、父親が矛先となり表に立ってくれた。自分のやりたいことのために自分を背に庇いながら戦う彼らの姿を見て、やがてアラーナも自分の意見を相手に伝えることを覚えた。最初から意見の合う交渉などなかった。
本当に少しずつ人と対峙すること、協力すること、自分の意見を俯瞰してみることを覚えた。
そこでやっとあの時の気持ちを自分で判断することができたのだ。アルベルトの元を去った時の自分のことが恥ずかしい。あれ以上傷つくことが怖かった。アルベルトに自分の意見を知ってもらうための努力をしなかった。ただ、傷つくのを恐れて逃げたのだ。
それなのに、アルベルトは逃げたアラーナのために伯爵位をくれた。
シエラは、レイモンド・エンディスとの生活があるにも関わらず着いてきてくれた。
カシュー・ソダイは、毎年、アルベルトがアラーナを忘れていないというように、薄紅色の花を持ってきてくれる・・・・・・。
それでもやはり、アルベルトの前に立つことが怖かった。
成長した自分を見てもらいたいという気持ちもあるが、やはりあの時と同じ瞳で見られたら、逃げ出したくなってしまうかもしれない。それに・・・・・・、カシュー・ソダイはアルベルトに奪ってもらえと言っていたけれど、今更だろう。アルベルトにとっては過去の人間であるアラーナが「抱いてほしい」といったところで鼻で笑われるのではないだろうか。
妾妃となるべく集められた女性が幾人も彼の側にはいるという。煌びやかな人々に囲まれたあの人は、アラーナにはもう手の届かない人だろうに・・・・・・。
「このドレスを作っていたころは・・・・・・本当に幸せだった――」
見れば辛いのに、ちゃんと幸せだったころの気持ちも溢れてくる。
居間でカシュー・ソダイと対峙した時のことを思い出すと完敗だったことがわかる。
「舞踏会に出るようなドレスは作っていないので・・・・・・」
そうアラーナが言えば、カシュー・ソダイは嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんパートナーとして私が用意させていただきますよ。女性にドレスを贈るなんて久しぶりですから、張り切ってしまいます」
甘いマスクのカシュー・ソダイがそう微笑めば、アラーナは口を閉じるしかなかった。
なんだろう、この顔面のパワーは。戦う気がしなくなる。
「けれど、あの、ダンスもあれから全く踊っていないので・・・・・・」
「いくら踏んで頂いても大丈夫ですよ。昔はよくシエラにも踏まれたものです」
「まぁ、シエラのダンスはカシュー・ソダイ様が?」
「ええ。陛下と一緒に習ってもらっていたのですが、あまりに足を踏むから嫌だとおっしゃるので、私の足を犠牲にしました・・・・・・」
完璧だと思っていたシエラの過去話に盛り上がってしまい、気がつけばカシュー・ソダイに手を取られて、居間で踊ってしまった。
カシュー・ソダイのリードはアルベルトのものと似ていた。アラーナは本当に踊っていなかったのに、足をもつれさせることもなくカシュー・ソダイの足を踏むこともなく、リズムを口ずさむカシュー・ソダイと楽しく踊ることになってしまった。
「さすが乗馬がお好きなだけあって軸がしっかりしていますね。全く問題はありませんよ」
カシュー・ソダイは、アラーナに合格ですといった。
何故だろう、合格と言われながら、こんなに敗北感に打ちひしがれてしまうのは。
アラーナは、「ありがとうございます」とお礼をいいながら、次の手を考える。
「ですが、王都のアレントの家は今はだれもおりませんし、今からだとホテルもとれないと思うのです。ですから・・・・・・伯爵位の返上はまた違う日に・・・・・・」
王城に行ってアルベルトに伯爵位を返上ために行くのは仕方ないが、出来るなら人の多い場所に出ていきたくない。
あれが、妾妃候補になりながらいらないと言われた女なのだと後ろ指をさされるのは、覚悟をして出てきたとはいえ、アラーナには辛いことだった。
「私の部屋には沢山客間がありますよ。陛下のお部屋にも近いですし。ね、問題はありません」
陛下のお部屋と言われて、あらぬことを想像してしまったアラーナは、声もなく白旗をふるしかなかった。
それでも・・・・・・望んでいいだろうかと、アラーナの恋心が囁く。
あの人アルベルトの手に、一度だけ・・・・・・。
そうでなくても、最近の求婚者達のアラーナを見る目が変わってきている。実際に押し倒されそうになったことだってあるのだ。結婚しないといっても変わらない彼らを振り切るためには仕方がないのだとアラーナは自分の心に言い聞かせる。アラーナは臆病になりそうになる自分を奮い立たせ、王城へ赴くことを決めたのだった。
王城へ行くと告げるとフィリップが怒りだしてしまった。
「でもそうしないと伯爵位をお返しできないのよ」
「アラーナが国王にあったら、きっとアラーナは閉じ込められる」
「どこに・・・・・・?」
「え・・・・・・。そんなの寝室に決まってるだ」
フィリップの顔をシエラが引っ張った。
「痛いっ! お前、本当に不敬罪で投獄するぞ」
シエラにそんなことを言ってはいけないとアラーナの厳しい視線を受けても、フィリップの怒りは収まらなかった。
「そんな子供みたいだからアラーナに相手にしてもらえないのよ」
シエラは堪えた様子もなく、食事を続けた。
食事はアラーナとシエラとその娘(二歳)とフィリップだけなので、シエラは容赦はしない。
「なんでシエラはそんなんだよ。俺は王子だぞ」
「マリーナ様とエルシオン様から躾をしていいと許可は頂いております」
フィリップに甘いお付きばかりがついてきていることもあって、シエラは一月前にマリーナのお祝いに行った際にお願いをされているのだ。元々一緒に育ったアルベルトが王だということもあり、高貴な人間に対する恐れのようなものがないから、是非ともと請われている。
「フィーおにいちゃま、すわってたべなきゃ、めっ! よ」
シエラの娘のアリエラに窘められてフィリップは静かに座った。とても可愛らしい二歳児は、シエラに似て口うるさいのだけど、小さすぎてフィリップは何も言えないのだ。
「アラーナ、王城にいくのはいいのだけど、個人的にお会いするのは勧めないわ」
アラーナは、まるで全てを見透かしたようなシエラの視線に頬を赤らめた。
「個人的にお会いできるなんて・・・・・・」
個人的に会うことが出来るとは限らないのだと、その時初めてアラーナは気付いた。
「陛下は、貴女がいなくなってからとても扱いづらいのよ。いつも顔色は悪いし、短気だわ」
顔色が悪いと聞いて、アラーナは目を瞠る。アルベルトは身体の具合が悪いのだろうかと思うと、今すぐにでも側に飛んでいきたくなる。けれど、アラーナの顔を見れば、もっと具合が悪くなったりしないだろうか。
「なんで国王の顔色が悪いのに主治医は何にもしないんだ?」
フィリップが不思議そうに尋ねる。
「やってると思うわよ」
皆、アルベルトが大切なのだ。それでもアルベルトにもどうにもならないのだろう。慢性的に睡眠不足だという。そんなことをアラーナに言えば、心配してアラーナ自体の体調を壊してしまいそうで今まで言わなかったけれど。
「カモミールを摘んでいこうかしら・・・・・・」
アラーナの心は既にアルベルトの元に飛んでいるのだろう。シエラは、アルベルトがアラーナにどう対するのか心配でならなかった。それでも止めることは出来ないとわかっている。
アラーナは、結局アルベルトへの想いを捨てることができなかったから。
「アラーナ、いつでも俺のところに来い。待ってるから」
フィリップもわかっているから、アラーナにそう告げた。相手にされていないこともわかっている。それでもアラーナが傷つくところを見たくない。
「フィリップ・・・・・・。ごめんなさい」
まだ子供だと思っていたフィリップが思いがけず包容力のある大人のようなことを言うから、アラーナはフィリップの顔を凝視した。そして、きっと彼の元には行けないとわかっているから、謝ったのだった。
0
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる