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陽王の名前
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帰る前に二人で話せて嬉しい。でも碧は陽王の名前を覚えていられないのだ。元の世界に帰れば、記憶がなくなり傷も癒えると言っていた。
でもなぁと、碧は思う。
「どうして笑っている?」
「あんな凄いセックスしててさ、記憶がなくなっても俺の身体は物足りなくなるんじゃないかなって思っただけ」
「物足りない?」
「陽王より大きいアレ、あっちの世界じゃ中々なさそう」
「物足りなくなったらどうするのだ?」
聞かれて困る。何故なら碧はここに来るまで忙しい受験生で恋人もいなかったのだ。どうやって慰めるか、考えても名案はでてこない。
「おもちゃで慰めるか……、まぁそういう出会いの場にいくしかないかな」
大学で同性の彼氏を見つけるのは至難の業だ。
「おもちゃ……? 出会いの場?」
「いや、俺も知らないけどさ。そういうのあっちには結構あると思うし。何とかなるよ」
陽王はムッと顔を顰めて、碧を抱きしめる。
首筋にピリッと痛みが走って、陽王がキスマークをつけたことがわかる。
「んっ! キスマークつけても……向こうに戻ったら治るんだろ?」
「そんな泣きそうな目をしているくせに、何とかなるのか?」
陽王は今までで一番意地悪だ。
「何とかする――。だから次の……はっん……ちょっと、あんたこんなところで……んぅ」
真面目に陽王の心配をしているというのに、陽王は碧の尻を布の上から刺激しながら首筋を舐めた。
「しょっぱいな」
「出かけてたし、汗くらいかいてる! てか……ちょっ」
シャツを開けて、ツンと立った乳首を陽王が咥えて、碧は真剣に焦った。
「結界内だから周りには見えん。いや、見せたいなら入れないだけで見えるようにしてやるが」
どうすると聞かれて、碧は陽王から逃げようともがいた。
「もうどうしようもないんだろう? どんなにヤッても、俺が泣き叫ぶようなことをしたって雨は降らないんだろ!」
「……我は、いや私は祭司として失格だった。碧には謝らなければならない」
「陽王は祭司として失格じゃない! ん……、っふ――」
クスッと笑って、陽王は碧の背中を撫でた。それだけで身体が震えた。
「私は祭司として失格だ。そなたを抱きたくて、時間があればそなたを寝台に連れ込んだ。必要以上の雨に民も困っていただろうな」
碧はどんな顔をしていいのかわからなくなった。そう言えば、最初の方は香の焚かれた日だけだったのに、いつの間にかその他の日も抱かれていた。あれは陽王の独断だったのかと驚いた。
「陽王は、俺を抱きたかったのか?」
「ああ、一生懸命祭司としての使命を振りかざして、そなたを抱いていた。すまなかった」
染み入るように謝罪が碧の心の中に入っていった。最初は、父親のような男だと思っていた。暴力と変わらない性行為に何度陽王を恨んだことだろう。
いつから陽王を受け入れたのか、碧は覚えていない。
「あんたでも謝ることがあるんだな」
「私はあの男の息子だからな。一度謝るともう生きていけないと思っていた。私のためにそなたが怒って、そして泣いてくれて――、私は義父に生かされたことに感謝した。ずっと、私を生かした義父を恨んでいたよ。だからこそ、余計にメイは私のことが許せなかったんだろう。碧、ありがとう。できることなら、もう一度出会いから始めて、一緒に生きて行きたかった」
陽王の穏やかな笑みを初めて見たような気がする。
「俺も、あんたと生きていきたかった」
キスをした。深いキス、蕩けるような激しいキスを。息が上がって、陽王の胸に縋り付く。
「碧、美海が怒っている。あいつは精神感応だけでなく、結界も関係なく、干渉もできるのか。残念だ」
「ああ、美海の魔法は共感とかだったっけ」
普通にしていても相手の感情を感じやすいらしい。だから、侍女に多いと聞いたことがある。
「碧、私の名前はヨウだ。『ヨウの理を解いて、家に帰る』と言えば、いつでも帰ることができる」
知りたくて、知りたくなかった言葉だ。
「ヨウ、偶然だな。俺の元の名前は要というんだけど、ヨウとも呼ぶんだ。そして、俺の国の言葉で陽王の陽は、ヨウと呼ぶ」
「偶然、ではないかもしれないな。神は、私のためにそなたを遣わしたのだ。巫女(アメフラシ)であるそなたに傷をつけるとは思えないが、私がいないところでそなたに害を与えるものがでないとも限らない。いざというときは、先ほど言った呪文を唱えるんだ。だが、もう一度だけ、そなたに会いたいと、我が儘を言っていいか?」
陽王がコツンと額をぶつけて言った。
「うん、待ってる。俺もあんたに会いたい――」
このまま帰りたくなかった。陽王を悪意の中に一人置いていきたくなかったのだ。
陽王が何かを唱えると、結界が解けた。
でもなぁと、碧は思う。
「どうして笑っている?」
「あんな凄いセックスしててさ、記憶がなくなっても俺の身体は物足りなくなるんじゃないかなって思っただけ」
「物足りない?」
「陽王より大きいアレ、あっちの世界じゃ中々なさそう」
「物足りなくなったらどうするのだ?」
聞かれて困る。何故なら碧はここに来るまで忙しい受験生で恋人もいなかったのだ。どうやって慰めるか、考えても名案はでてこない。
「おもちゃで慰めるか……、まぁそういう出会いの場にいくしかないかな」
大学で同性の彼氏を見つけるのは至難の業だ。
「おもちゃ……? 出会いの場?」
「いや、俺も知らないけどさ。そういうのあっちには結構あると思うし。何とかなるよ」
陽王はムッと顔を顰めて、碧を抱きしめる。
首筋にピリッと痛みが走って、陽王がキスマークをつけたことがわかる。
「んっ! キスマークつけても……向こうに戻ったら治るんだろ?」
「そんな泣きそうな目をしているくせに、何とかなるのか?」
陽王は今までで一番意地悪だ。
「何とかする――。だから次の……はっん……ちょっと、あんたこんなところで……んぅ」
真面目に陽王の心配をしているというのに、陽王は碧の尻を布の上から刺激しながら首筋を舐めた。
「しょっぱいな」
「出かけてたし、汗くらいかいてる! てか……ちょっ」
シャツを開けて、ツンと立った乳首を陽王が咥えて、碧は真剣に焦った。
「結界内だから周りには見えん。いや、見せたいなら入れないだけで見えるようにしてやるが」
どうすると聞かれて、碧は陽王から逃げようともがいた。
「もうどうしようもないんだろう? どんなにヤッても、俺が泣き叫ぶようなことをしたって雨は降らないんだろ!」
「……我は、いや私は祭司として失格だった。碧には謝らなければならない」
「陽王は祭司として失格じゃない! ん……、っふ――」
クスッと笑って、陽王は碧の背中を撫でた。それだけで身体が震えた。
「私は祭司として失格だ。そなたを抱きたくて、時間があればそなたを寝台に連れ込んだ。必要以上の雨に民も困っていただろうな」
碧はどんな顔をしていいのかわからなくなった。そう言えば、最初の方は香の焚かれた日だけだったのに、いつの間にかその他の日も抱かれていた。あれは陽王の独断だったのかと驚いた。
「陽王は、俺を抱きたかったのか?」
「ああ、一生懸命祭司としての使命を振りかざして、そなたを抱いていた。すまなかった」
染み入るように謝罪が碧の心の中に入っていった。最初は、父親のような男だと思っていた。暴力と変わらない性行為に何度陽王を恨んだことだろう。
いつから陽王を受け入れたのか、碧は覚えていない。
「あんたでも謝ることがあるんだな」
「私はあの男の息子だからな。一度謝るともう生きていけないと思っていた。私のためにそなたが怒って、そして泣いてくれて――、私は義父に生かされたことに感謝した。ずっと、私を生かした義父を恨んでいたよ。だからこそ、余計にメイは私のことが許せなかったんだろう。碧、ありがとう。できることなら、もう一度出会いから始めて、一緒に生きて行きたかった」
陽王の穏やかな笑みを初めて見たような気がする。
「俺も、あんたと生きていきたかった」
キスをした。深いキス、蕩けるような激しいキスを。息が上がって、陽王の胸に縋り付く。
「碧、美海が怒っている。あいつは精神感応だけでなく、結界も関係なく、干渉もできるのか。残念だ」
「ああ、美海の魔法は共感とかだったっけ」
普通にしていても相手の感情を感じやすいらしい。だから、侍女に多いと聞いたことがある。
「碧、私の名前はヨウだ。『ヨウの理を解いて、家に帰る』と言えば、いつでも帰ることができる」
知りたくて、知りたくなかった言葉だ。
「ヨウ、偶然だな。俺の元の名前は要というんだけど、ヨウとも呼ぶんだ。そして、俺の国の言葉で陽王の陽は、ヨウと呼ぶ」
「偶然、ではないかもしれないな。神は、私のためにそなたを遣わしたのだ。巫女(アメフラシ)であるそなたに傷をつけるとは思えないが、私がいないところでそなたに害を与えるものがでないとも限らない。いざというときは、先ほど言った呪文を唱えるんだ。だが、もう一度だけ、そなたに会いたいと、我が儘を言っていいか?」
陽王がコツンと額をぶつけて言った。
「うん、待ってる。俺もあんたに会いたい――」
このまま帰りたくなかった。陽王を悪意の中に一人置いていきたくなかったのだ。
陽王が何かを唱えると、結界が解けた。
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