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呪いはただの恋愛のこじれ
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「夜都に言付けておいた」
「夜都……?」
目が覚めると、腰が痛くて起き上がれなかった。碧は多くの受験生の例に漏れず、総じて運動不足だ。
「ああ、祭司の一人だ。堅物だが教育関係は夜都のものの仕事だ」
召喚されて犯された時にいた黒髪。碧と同じ色を持つから勝手に親近感を抱いていた。が、陽王と一緒に初めての碧を強姦した男なので警戒心はもっている。
「堅物って……」
堅物な男があんなことするかよと思っていたのが顔に出ていたらしい。
「あれは儀式だ。そなたが辛い想いをしたことはわかっているが、真摯な気持ちだということを理解してくれ」
「勝手だ。それにあんたは愉しんでるじゃないか」
「よくわかったな。愉しんだほうが楽になれるぞ」
陽王は堅物とは縁遠い人間のようだ。だけど仕事は真面目なようで朝から夜まで部屋に帰ってくることはない。
部屋を出たら他の人間を抱いてるのかも知れないが。碧には知る権利も術もない。
「陽王に聞きました。巫女(アメフラシ)はこの世界のことを知りたいとか」
次の日の昼ご飯の時、夜都がやってきた。一緒に食べることになって緊張しながら碧は頷いた。
「うん、言葉は聞き取れるし意味もわかるけど文字が読めないんだ」
「文字ですか。そうですね、お昼ご飯をご一緒にしてもよろしいですか?」
「それはいいけど……。巫女(アメフラシ)って呼ぶのをやめてくれたら」
夜都は人に任せるのではなく、自分で教えてくれるようだ。
お昼ご飯の時に碧が知りたいことを伝えて、食後に文字を教えてくれるという。
「碧様は勤勉なのですね。陽王の巫女(アメフラシ)に選ばれたのも頷けます」
陽王がワーカーホリックではないかと思ったのは間違っていないようだ。碧も勤勉というわけではないけれど、こんなところまできて勉強しようと思ったのは間違いないのであえてスルーした。
「様とかいらない。俺のほうが年下だし、夜都は先生だし」
「碧……、でいいのですか?」
「敬語もいらないよ」
「ふふ、言葉遣いはこれでお願いします。このほうが楽なんです」
穏やかな笑顔を見て、兄がいたらこんな感じなのかなと思った。一番日本人に近い容姿だからだろうか親しみやすい。身長は陽王と同じくらいで、かなり高いけれど。
「夜都。面倒だろうけどよろしくお願いします」
陽王より余程まともな人に思えた。夜都は教えるのが得意なようで、碧はあっという間に簡単な本を読めるようになった。
「図書館に行きますか? 読めるものはまだ少ないでしょうけど。気分転換になります」
夜都が提案してくれて、陽王の許可をもらって初めて違う階へ行くことができた。
石造りの城だ。碧の識る日本の城ではなく、どちらかというとゲームに出てきそうなやつだ。
「冬寒そうだな」
「雪は降りませんよ」
そうだ、雨が降らないのだから雪も降らないだろう。それとも碧が泣いたら雪が降るのだろうか。降らないと言うからには寒くないということだろうか。
「ここも四季があるのか?」
「碧の世界は四つの季節があるそうですね。どちらかというと、碧の世界の春と秋らしいです」
うらやましいと碧は真剣に思った。でもそうすると、アイスの美味しさやスキーとかのウィンタースポーツの楽しさを知らないということだ。どちらがいいかは人によるだろう。
「それも昔の巫女(アメフラシ)に聞いたの?」
「ええ、そうです。前の巫女(アメフラシ)はお喋りが大好きだったので、色々話してくれました」
「夜都は、その子の祭司だったの?」
「いえ、巫女(アメフラシ)の祭司を務めたら、役職を変わるのが決まりですから。私はまだ誰の祭司でもありません。碧と陽王の目の色が似ているでしょう?」
「そうかな?」
実際鏡で見たら、陽王の空の色の方が綺麗だった。碧の瞳はもう少し緑色掛かっている。
「きっと私の巫女(アメフラシ)は私と同じ紫の色をしていると思います」
そうなのか、それはわかりやすくていいかもしれない。
「俺の目の色が紫だったら、夜都が相手だったってこと?」
「そうです。残念です」
まるで、碧が良かったと思っているような夜都の言葉に落ち着かない。
「陽王は、そう思ってないだろうけどな。きっと、女の子が良かっただろうし」
それとも陽王が望んだから男が来たのだろうか。
「陽王は最近とても楽しそうですよ。そそくさと仕事を片付けていきますからね」
「一緒に仕事してるの?」
「ええ、私の仕事と陽王の仕事は関係することが多いので、夜都のものたちが手伝っています。陽王のものたちはあまり城に来たがらないので、人数が足りていないのですよ。だから侍女も美海のものたちでしょう? 美海のものたちは総じて世話好きで人情深いので、巫女(アメフラシ)のお世話を任せるのは安心ですけどね」
「普通は同じ一族のものたちが侍女とかするの?」
「そうでないと心が落ち着かない、と思うのですが。身の周りはできれば同族がいいですね」
よくわからないが、魔法の世界だし同族の方が何かいいことがあるのかもしれない。
「どうして、陽王のものたちは城に来たがらないの? 仕事なのに」
「そうですね、内緒にしていてもそのうちわかると思うので話しますが……」
夜都の目には迷いがあった。
「教えてほしい。知らないで踏み込んだりしたくないんだ」
それでも碧が望むと、話を聞かせてくれた。
それは悲しい、雨が降らなくなった理由だった。
「今の陽王の叔父が陽王を務めていた時、陽王(役職なので現在の陽王ではない)と治水を担当していた水瀬(役職)が恋仲だったらしいです。水瀬は共に役職を務めた後、結婚するつもりだったらしいのですが、陽王はそのつもりがなかった。結果、水瀬は自分の命と引き換えにメリルラシェ国に呪いをかけたのです」
「え、男同士で結婚とかできるの?」
「ええ、碧の国ではできないらしいですね。もちろん女同士でも、大丈夫です。跡継ぎが必要な家はどうしても異性との結婚を推奨されますが、二人まで結婚できますから」
同性結婚が可能ということより二人までというのが碧には驚きだった。
「へぇ……」
否定も肯定も当事者でない碧にはできないと、頷くほかなかったけれどモヤモヤする。
「外法を使ったため、国を治める八家から水瀬は外され、原因となった陽王は皆から糾弾されました。陽王のものたちはとても真面目なのです。そんなことで他家から責められ、辱められることに心が病んで、沢山の者達が城を去りました」
陽王を見ていて、そんな性格には見えなかった碧は内心で首を傾げた。
「陽王のものって皆陽王みたいな性格じゃないんだな」
「当代の陽王も真面目ですよ。打たれ慣れているだけですね。あれだけの強さがあればいいのですが、中々……」
夜都は陽王を思い出して少し笑う。
「打たれ慣れても痛いと思うけれどな」
思わず碧は言って、俯いた。続けてくれと目で訴えると夜都は頷く。
「当事者である陽王は、責任をとり、自分の命をかけて神に願いました。雨が降らなくなったこの国を哀れに思った神が陽王と水瀬を除く六家当主の夢に現れて召喚の儀を命じました。巫女(アメフラシ)は祭司五人の魔力により召喚され、祭司の一人が契約を結び、彼女の涙が国を潤したのです。それから、二、三年して涙が涸れると代わりの巫女(アメフラシ)を召喚することになっています。一人の巫女(アメフラシ)に一人の祭司と決まっているのは、最初の巫女(アメフラシ)を皆が望み、結果巫女(アメフラシ)が……身体を壊してしまい、神が決めたそうです」
碧は信じられないと目を剥いた。自分の身に起こったことを思い出して、夜都を見上げた。
「全員の相手をさせたのかよ」
身体が強張って、夜都から思わず目を背けた。今の祭司は関わっていないとわかっていても、平気でなんていられない。
「いえ、巫女(アメフラシ)が気を失ってしまったので」
「ここではそんなことが平気で行われるのか? 誰も止めなかったのか? 神が止めなければ誰も……」
怖い、と思った。いや、最初からわかっていたことだ。自分たちの命が掛かっていて、そこに投げ込まれた生贄なのだから。自分のことを巫女(アメフラシ)と言ったやつは、別に自棄になって言ったのではないのかもしれない。
碧は、自分の役割をはき違えていたのかもしれないと思った。
巫女(アメフラシ)、というのは生贄なのではないだろうか。
ここの人間にとって碧の価値とは、本当に雨を降らせられるかどうかであって、碧がどんな人間であるか、何を思うかなんて重要ではないのだ。
「すみません、怖がらせてしまいましたね。今は、巫女(アメフラシ)が望まなければ絶対に手出しできません。安心してください」
碧は、詰めていた息を必死で解いた。警戒されてはいけない。自分の世界に早く戻るための道筋を見つけるためには、碧が望むことを悟られないほうがいいのだ。
「大丈夫、続けて」
「はい。――陽王の叔父から陽王の父へ代替わりがされましたが、その間五人の祭司には選出されませんでした。ところが、前の巫女(アメフラシ)が自分の祭司だけでなく、他二人の祭司を望んだために、足りなくなってしまって、陽王が祭司に選ばれたのです。巫女(アメフラシ)が来るまでは、だれが巫女(アメフラシ)の相手に選ばれるかわかりません。まさか、陽王の巫女(アメフラシ)が来るとは思っていなかったので驚きました。男であることも、通常ではなかったことなのです」
「えっと、その二人はもう祭司じゃないの?」
「いえ、儀式の時に後ろにいた二人です。彼らは祭司の務めを果たしていないので、まだ降りられないのです」
ということは実際に選ばれる予定だったのは、陽王、夜都、美海の三人のうち一人だったのだろう。
「祭司の務めって、巫女(アメフラシ)の相手をするだけじゃないの? それならもう果たしたから七家あるなら、二人を外して二人をいれたらいいんじゃないのかな」
「祭司は年齢が決められているのです。その年齢に合うものがいなくて……」
「巫女(アメフラシ)の相手をしたら降りられるなら、俺が帰ったら陽王は降りるんだろう? 次は大丈夫なのか?」
「……あまり大丈夫ではありません。どうしてもいなかったら直系から外れたものが務めますが、どうしても魔力が少なくなるので、次の巫女(アメフラシ)を呼ぶために時間がかかるのです。あなたを呼ぶのにふた月かかりましたが、もっとかかります」
前の巫女(アメフラシ)は、意趣返しをしたのだろうか。
碧はそう思って、腕を擦った。人の想いの強さに寒気を感じたからだ。
「魔法、そうだ。魔法って俺でも使えるのかな?」
話が重すぎて、碧は話を変えようと思った。それに気付いた夜都も少し安堵したように、表情を緩めた。
「残念ですが、碧は無理かと。人を召喚する儀式の魔法陣は、僅かでも魔力があると通れないのですよ」
「ええっ! 俺も空飛んだり火とか水を操って戦ったりできるかと思っていたのに」
がっかりした碧を夜都は驚いたような目で見つめる。
「空を飛んだり、戦ったりはできませんよ。戦うのはまぁ、できるかもしれませんけど、普通に剣を使った方がいいかと思います」
真面目な顔で夜都が教えてくれた。
「どんな魔法があるんだよ」
「……私達、夜都は記憶力がいいですね」
「そうなんだ。受験にはありがたいけど」
え、それだけ。そう思った碧の驚きが見えたのか夜都は言い募る。
「祭司の私はこの国の歴史を受け継いでいます」
「それって凄いな」
長いか短いかわからないけれど、国の歴史を覚えているのは凄いことだと思う。残念ながら、受験が終わった今、欲しいとは思わないけれど。
「基本的に一族の特色の魔法を使えるだけです。祭司は名を捧げることでその間だけ特殊な魔法を使えますが、多分碧が望むようなものではないでしょうね。陽王は結界魔法ですね。役職についたら国の周りから危ないものが入ってこないように結界を張るのです」
「名を捧げる……。陽王が名前は明かせないと言ってたのは、それかな?」
「ええ、私も名前は使えません。大きな魔法は自分の名前を使いますがその時だけですね」
「……それって、俺を呼び出した魔法?」
一瞬夜都の目が驚いたように碧を見た。
「――そうです」
「夜都! 巫女(アメフラシ)にそんなことを――」
控えていた侍女達がざわめく。やはり本当の事のようだ。何故、夜都はそんなことまで教えてくれるのだろう。
「巫女(アメフラシ)に対して嘘などつけませんからね」
「そうは言っても、前の巫女(アメフラシ)の二の舞に……」
前の巫女(アメフラシ)は名前を知って、帰って行ったのだと気付いた。
「陽王は漏らさないでしょう……」
一年で帰って行った巫女(アメフラシ)は、どうにかして自分の祭司の名前を知ったけれど、夜都の言うとおり陽王が明かしてくれることはないだろうと碧も思った。
「友達の名前、知りたいけど無理そうだな」
そう告げた。今は、ヒントを得られただけでいい。陽王にも夜都にも侍女達にだって警戒されたら終わりなのだ。
碧は、自分の望んでいた魔法の世界について夜都に話した。夜都は興味深そうにその話を聞いていた。
「夜都……?」
目が覚めると、腰が痛くて起き上がれなかった。碧は多くの受験生の例に漏れず、総じて運動不足だ。
「ああ、祭司の一人だ。堅物だが教育関係は夜都のものの仕事だ」
召喚されて犯された時にいた黒髪。碧と同じ色を持つから勝手に親近感を抱いていた。が、陽王と一緒に初めての碧を強姦した男なので警戒心はもっている。
「堅物って……」
堅物な男があんなことするかよと思っていたのが顔に出ていたらしい。
「あれは儀式だ。そなたが辛い想いをしたことはわかっているが、真摯な気持ちだということを理解してくれ」
「勝手だ。それにあんたは愉しんでるじゃないか」
「よくわかったな。愉しんだほうが楽になれるぞ」
陽王は堅物とは縁遠い人間のようだ。だけど仕事は真面目なようで朝から夜まで部屋に帰ってくることはない。
部屋を出たら他の人間を抱いてるのかも知れないが。碧には知る権利も術もない。
「陽王に聞きました。巫女(アメフラシ)はこの世界のことを知りたいとか」
次の日の昼ご飯の時、夜都がやってきた。一緒に食べることになって緊張しながら碧は頷いた。
「うん、言葉は聞き取れるし意味もわかるけど文字が読めないんだ」
「文字ですか。そうですね、お昼ご飯をご一緒にしてもよろしいですか?」
「それはいいけど……。巫女(アメフラシ)って呼ぶのをやめてくれたら」
夜都は人に任せるのではなく、自分で教えてくれるようだ。
お昼ご飯の時に碧が知りたいことを伝えて、食後に文字を教えてくれるという。
「碧様は勤勉なのですね。陽王の巫女(アメフラシ)に選ばれたのも頷けます」
陽王がワーカーホリックではないかと思ったのは間違っていないようだ。碧も勤勉というわけではないけれど、こんなところまできて勉強しようと思ったのは間違いないのであえてスルーした。
「様とかいらない。俺のほうが年下だし、夜都は先生だし」
「碧……、でいいのですか?」
「敬語もいらないよ」
「ふふ、言葉遣いはこれでお願いします。このほうが楽なんです」
穏やかな笑顔を見て、兄がいたらこんな感じなのかなと思った。一番日本人に近い容姿だからだろうか親しみやすい。身長は陽王と同じくらいで、かなり高いけれど。
「夜都。面倒だろうけどよろしくお願いします」
陽王より余程まともな人に思えた。夜都は教えるのが得意なようで、碧はあっという間に簡単な本を読めるようになった。
「図書館に行きますか? 読めるものはまだ少ないでしょうけど。気分転換になります」
夜都が提案してくれて、陽王の許可をもらって初めて違う階へ行くことができた。
石造りの城だ。碧の識る日本の城ではなく、どちらかというとゲームに出てきそうなやつだ。
「冬寒そうだな」
「雪は降りませんよ」
そうだ、雨が降らないのだから雪も降らないだろう。それとも碧が泣いたら雪が降るのだろうか。降らないと言うからには寒くないということだろうか。
「ここも四季があるのか?」
「碧の世界は四つの季節があるそうですね。どちらかというと、碧の世界の春と秋らしいです」
うらやましいと碧は真剣に思った。でもそうすると、アイスの美味しさやスキーとかのウィンタースポーツの楽しさを知らないということだ。どちらがいいかは人によるだろう。
「それも昔の巫女(アメフラシ)に聞いたの?」
「ええ、そうです。前の巫女(アメフラシ)はお喋りが大好きだったので、色々話してくれました」
「夜都は、その子の祭司だったの?」
「いえ、巫女(アメフラシ)の祭司を務めたら、役職を変わるのが決まりですから。私はまだ誰の祭司でもありません。碧と陽王の目の色が似ているでしょう?」
「そうかな?」
実際鏡で見たら、陽王の空の色の方が綺麗だった。碧の瞳はもう少し緑色掛かっている。
「きっと私の巫女(アメフラシ)は私と同じ紫の色をしていると思います」
そうなのか、それはわかりやすくていいかもしれない。
「俺の目の色が紫だったら、夜都が相手だったってこと?」
「そうです。残念です」
まるで、碧が良かったと思っているような夜都の言葉に落ち着かない。
「陽王は、そう思ってないだろうけどな。きっと、女の子が良かっただろうし」
それとも陽王が望んだから男が来たのだろうか。
「陽王は最近とても楽しそうですよ。そそくさと仕事を片付けていきますからね」
「一緒に仕事してるの?」
「ええ、私の仕事と陽王の仕事は関係することが多いので、夜都のものたちが手伝っています。陽王のものたちはあまり城に来たがらないので、人数が足りていないのですよ。だから侍女も美海のものたちでしょう? 美海のものたちは総じて世話好きで人情深いので、巫女(アメフラシ)のお世話を任せるのは安心ですけどね」
「普通は同じ一族のものたちが侍女とかするの?」
「そうでないと心が落ち着かない、と思うのですが。身の周りはできれば同族がいいですね」
よくわからないが、魔法の世界だし同族の方が何かいいことがあるのかもしれない。
「どうして、陽王のものたちは城に来たがらないの? 仕事なのに」
「そうですね、内緒にしていてもそのうちわかると思うので話しますが……」
夜都の目には迷いがあった。
「教えてほしい。知らないで踏み込んだりしたくないんだ」
それでも碧が望むと、話を聞かせてくれた。
それは悲しい、雨が降らなくなった理由だった。
「今の陽王の叔父が陽王を務めていた時、陽王(役職なので現在の陽王ではない)と治水を担当していた水瀬(役職)が恋仲だったらしいです。水瀬は共に役職を務めた後、結婚するつもりだったらしいのですが、陽王はそのつもりがなかった。結果、水瀬は自分の命と引き換えにメリルラシェ国に呪いをかけたのです」
「え、男同士で結婚とかできるの?」
「ええ、碧の国ではできないらしいですね。もちろん女同士でも、大丈夫です。跡継ぎが必要な家はどうしても異性との結婚を推奨されますが、二人まで結婚できますから」
同性結婚が可能ということより二人までというのが碧には驚きだった。
「へぇ……」
否定も肯定も当事者でない碧にはできないと、頷くほかなかったけれどモヤモヤする。
「外法を使ったため、国を治める八家から水瀬は外され、原因となった陽王は皆から糾弾されました。陽王のものたちはとても真面目なのです。そんなことで他家から責められ、辱められることに心が病んで、沢山の者達が城を去りました」
陽王を見ていて、そんな性格には見えなかった碧は内心で首を傾げた。
「陽王のものって皆陽王みたいな性格じゃないんだな」
「当代の陽王も真面目ですよ。打たれ慣れているだけですね。あれだけの強さがあればいいのですが、中々……」
夜都は陽王を思い出して少し笑う。
「打たれ慣れても痛いと思うけれどな」
思わず碧は言って、俯いた。続けてくれと目で訴えると夜都は頷く。
「当事者である陽王は、責任をとり、自分の命をかけて神に願いました。雨が降らなくなったこの国を哀れに思った神が陽王と水瀬を除く六家当主の夢に現れて召喚の儀を命じました。巫女(アメフラシ)は祭司五人の魔力により召喚され、祭司の一人が契約を結び、彼女の涙が国を潤したのです。それから、二、三年して涙が涸れると代わりの巫女(アメフラシ)を召喚することになっています。一人の巫女(アメフラシ)に一人の祭司と決まっているのは、最初の巫女(アメフラシ)を皆が望み、結果巫女(アメフラシ)が……身体を壊してしまい、神が決めたそうです」
碧は信じられないと目を剥いた。自分の身に起こったことを思い出して、夜都を見上げた。
「全員の相手をさせたのかよ」
身体が強張って、夜都から思わず目を背けた。今の祭司は関わっていないとわかっていても、平気でなんていられない。
「いえ、巫女(アメフラシ)が気を失ってしまったので」
「ここではそんなことが平気で行われるのか? 誰も止めなかったのか? 神が止めなければ誰も……」
怖い、と思った。いや、最初からわかっていたことだ。自分たちの命が掛かっていて、そこに投げ込まれた生贄なのだから。自分のことを巫女(アメフラシ)と言ったやつは、別に自棄になって言ったのではないのかもしれない。
碧は、自分の役割をはき違えていたのかもしれないと思った。
巫女(アメフラシ)、というのは生贄なのではないだろうか。
ここの人間にとって碧の価値とは、本当に雨を降らせられるかどうかであって、碧がどんな人間であるか、何を思うかなんて重要ではないのだ。
「すみません、怖がらせてしまいましたね。今は、巫女(アメフラシ)が望まなければ絶対に手出しできません。安心してください」
碧は、詰めていた息を必死で解いた。警戒されてはいけない。自分の世界に早く戻るための道筋を見つけるためには、碧が望むことを悟られないほうがいいのだ。
「大丈夫、続けて」
「はい。――陽王の叔父から陽王の父へ代替わりがされましたが、その間五人の祭司には選出されませんでした。ところが、前の巫女(アメフラシ)が自分の祭司だけでなく、他二人の祭司を望んだために、足りなくなってしまって、陽王が祭司に選ばれたのです。巫女(アメフラシ)が来るまでは、だれが巫女(アメフラシ)の相手に選ばれるかわかりません。まさか、陽王の巫女(アメフラシ)が来るとは思っていなかったので驚きました。男であることも、通常ではなかったことなのです」
「えっと、その二人はもう祭司じゃないの?」
「いえ、儀式の時に後ろにいた二人です。彼らは祭司の務めを果たしていないので、まだ降りられないのです」
ということは実際に選ばれる予定だったのは、陽王、夜都、美海の三人のうち一人だったのだろう。
「祭司の務めって、巫女(アメフラシ)の相手をするだけじゃないの? それならもう果たしたから七家あるなら、二人を外して二人をいれたらいいんじゃないのかな」
「祭司は年齢が決められているのです。その年齢に合うものがいなくて……」
「巫女(アメフラシ)の相手をしたら降りられるなら、俺が帰ったら陽王は降りるんだろう? 次は大丈夫なのか?」
「……あまり大丈夫ではありません。どうしてもいなかったら直系から外れたものが務めますが、どうしても魔力が少なくなるので、次の巫女(アメフラシ)を呼ぶために時間がかかるのです。あなたを呼ぶのにふた月かかりましたが、もっとかかります」
前の巫女(アメフラシ)は、意趣返しをしたのだろうか。
碧はそう思って、腕を擦った。人の想いの強さに寒気を感じたからだ。
「魔法、そうだ。魔法って俺でも使えるのかな?」
話が重すぎて、碧は話を変えようと思った。それに気付いた夜都も少し安堵したように、表情を緩めた。
「残念ですが、碧は無理かと。人を召喚する儀式の魔法陣は、僅かでも魔力があると通れないのですよ」
「ええっ! 俺も空飛んだり火とか水を操って戦ったりできるかと思っていたのに」
がっかりした碧を夜都は驚いたような目で見つめる。
「空を飛んだり、戦ったりはできませんよ。戦うのはまぁ、できるかもしれませんけど、普通に剣を使った方がいいかと思います」
真面目な顔で夜都が教えてくれた。
「どんな魔法があるんだよ」
「……私達、夜都は記憶力がいいですね」
「そうなんだ。受験にはありがたいけど」
え、それだけ。そう思った碧の驚きが見えたのか夜都は言い募る。
「祭司の私はこの国の歴史を受け継いでいます」
「それって凄いな」
長いか短いかわからないけれど、国の歴史を覚えているのは凄いことだと思う。残念ながら、受験が終わった今、欲しいとは思わないけれど。
「基本的に一族の特色の魔法を使えるだけです。祭司は名を捧げることでその間だけ特殊な魔法を使えますが、多分碧が望むようなものではないでしょうね。陽王は結界魔法ですね。役職についたら国の周りから危ないものが入ってこないように結界を張るのです」
「名を捧げる……。陽王が名前は明かせないと言ってたのは、それかな?」
「ええ、私も名前は使えません。大きな魔法は自分の名前を使いますがその時だけですね」
「……それって、俺を呼び出した魔法?」
一瞬夜都の目が驚いたように碧を見た。
「――そうです」
「夜都! 巫女(アメフラシ)にそんなことを――」
控えていた侍女達がざわめく。やはり本当の事のようだ。何故、夜都はそんなことまで教えてくれるのだろう。
「巫女(アメフラシ)に対して嘘などつけませんからね」
「そうは言っても、前の巫女(アメフラシ)の二の舞に……」
前の巫女(アメフラシ)は名前を知って、帰って行ったのだと気付いた。
「陽王は漏らさないでしょう……」
一年で帰って行った巫女(アメフラシ)は、どうにかして自分の祭司の名前を知ったけれど、夜都の言うとおり陽王が明かしてくれることはないだろうと碧も思った。
「友達の名前、知りたいけど無理そうだな」
そう告げた。今は、ヒントを得られただけでいい。陽王にも夜都にも侍女達にだって警戒されたら終わりなのだ。
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