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雨が降らない
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「今日も雨は降らない……」
食事時にしては考え込むような声だ。陽王は、窓の外を窺うように見ていた。今のは独り言だろうかと要は思った。
熱を出して、全快するまで一週間ほどかかってしまった。
最初は熱だけだったのに、喉も痛くなって咳き込んだ。よく考えてみれば、受験、卒業、入学からの異世界転移、初めてのセックスは衆人環視の中で男に抱かれるという想像外のハードモードだった。雨に打たれたのも悪かったのだろう。
一週間程度の風邪ですんでよかった。陽王は約束通り、要に朝ご飯を食べさせてから仕事へ向かう。夜にならないと帰って来ないので、その間は美海の侍女達に世話をしてもらった。儀式の時にいた祭司の一人、オネエさんのようなお兄さんが美海というらしいが、その人の一族が城の使用人として働いているらしい。陽王と同じで美海も役職なんだそうだ。
「雨……」
そう言えば、どんよりしていた空が青く澄み渡っている。
「もう郷愁の思いは断ち切ったのか……。驚くほど早いな」
熱を出して寝込んでいる間、故郷のことを思って悲しかったけれどずっと悲しんでいるわけにはいかない。早く帰るためにはそれより大事なことがある。
「男だからな」
いつまでもくよくよしていられない。
「そういうものか。それにしても早すぎる。回復してたのはよかったが……」
陽王は首を傾げ、食事を食べきった要を見つめた。
「俺、あんたが仕事の間暇なんだけど」
「歴代の巫女(アメフラシ)は、二、三ヶ月ほど泣き暮らしていたが」
「空がな」
泣きたくても涙が出ないのだ。
「後は、美海の侍女達と散歩をしたり、料理をしたり、裁縫をしたりしていたな」
「散歩はともかく、俺は料理も裁縫もできないし、興味ない」
「……なら何がしたいんだ?」
「本が読みたい」
元の世界に戻る方法を聞いてまわるわけにいかないなら、本ならどうだろうかと思ったのだ。
「本か。たしか巫女(アメフラシ)は言葉は通じるが、文字は読めなかったはずだ」
いきなり行き詰まって、要は心が折れそうになった。
「……嘘だろ」
「本当のことだ」
「なら、読み方を知りたい」
現役の学生なのだ。勉強は嫌いじゃなかったし、暇つぶしにもなる。
「……いいだろう。夜都に相談して教師をつけてやろう。他には?」
「俺の涙が雨となってこの国を潤すんだろう? ここがどんなところか、見てみたい」
逃げる気満々で悪いが、折角の機会だ。外国すら行ったことのない要は旅行気分を味わいたかった。
「それは許可できない。七家の同意が必要だ」
ふぅとため息が出た。
「なら同意をとってくれ」
そう言いながら、要は不思議に思っていた。
父が酷かったせいか、大人の男が苦手だったのに、陽王には平気でものが言えた。
「承知した。今日は早めに戻る」
「ふぅん。どうでもいいけど」
何なら生意気な口を叩くこともできた。それが不思議でならなかった。
要は手持ち無沙汰で部屋を出た。朝ご飯を食べた後は、昼ご飯まで美海の侍女も来ないからだ。
「簡単に出られるんだな」
鍵でも掛けられているかと思っていたから意外に思った。陽王の部屋を出て、食事に使ったことがある部屋も通り抜け、さぁ階段だと思ったところで先に進むことができなくなった。
「なんでだ」
まるでそこに透明の壁でもあるかのように進むことができない。
「巫女(アメフラシ)、どうされたのですか?」
美海の侍女に見つかってしまった。美海の侍女は皆少しずつ顔が似ている。一番背の高い、多分侍女で一番偉い人。
「散歩に行こうと思って」
とっさに嘘が口をついて出た。
「……そんな格好ではまたお熱を出しますよ。さぁ、お部屋に戻りましょう」
「どうして、この先に行けないんだ?」
「巫女(アメフラシ)は、この先にいくための通行証を持っていませんから。陽王の結界を越えることはできません」
「結界?」
まさかの魔法の世界だったのか。驚きながら要は透明の壁のような場所を押した。
「陽王の許可のないものはこの階に入ることができませんし、でることもできません」
グッっと喉が鳴った。
「あいつの許可がいるのか――」
「陽王の許可をいただいてからお散歩に参りましょうね」
優しい笑顔を浮かべる侍女に、文句を言うこともできない。収穫のないまま要は部屋に戻った。部屋を出てから五分も経っていなかった。
「何?」
「香を焚きますね」
直ぐに出ていくかと思ったら、侍女は寝台の横の香炉を手に持っていた。もしかするとそのためにこの部屋に来る途中だったのかもしれない。
しばらくすると要の座っているあたりにもスッキリとした香りが漂ってきた。
「いい香りだな」
「ええ、きっとリラックスできますよ。お風呂に入りましょうか。体調が悪くて身体を拭くことしかできませんでしたからね。お手伝いいたします」
侍女はもちろん女の人だ。例え、髪の色が赤くても、青い目でも、背が要より高くても。
「いえ、一人で入ります」
思わず敬語になってしまった。
「でも背中に手が届かないでしょう」
どうやら女は要が子供に見えているようだ。
「大丈夫。着替えだけ用意してほしい」
渋々という風に侍女は風呂の場所と使い方を説明して出ていった。
風呂は大きくてたっぷり湯が入っていた。
「水が大事なんじゃないのか?」
こんな風呂は雨の降らない国では使えないだろうと思った。いや、巫女(アメフラシ)が召喚されて風呂でもジャバジャバ水を使えるのかと思うと何だかモヤモヤした。
それでも一週間ほど風呂に入っていなかった要はゆっくりと身体を伸ばして上がる頃にはスッキリとした気分になっていた。
香の香りが強い。ミントのような爽やかな匂いに何か甘ったるい匂いが混ざっている。
「スマホもないし、本もない。することがないっていうのは苦痛だな」
陽王の部屋は広かった。センスと高級感はあると思うが、あまり人が住んでいる部屋には見えない。要の実家の狭い部屋だって、もう少しゴチャゴチャしていたのに、ホテルの部屋のようだ。置きっぱなしのものがない。陽王が几帳面なのだろうか。それでも棚にいくつか本があった。
「読めないけど」
開いてみてみると、やはり知らない文字だった。図は、漫画やアニメで見たことのある魔法陣のようだ。
「本当に魔法の世界なのか。でも魔法なんて使っているところ見たことないけどな」
魔法が使えたら空を飛びたい。知らない場所へ行って、冒険してみたい。後は、そうだな。学校へ瞬間移動ができたら便利だな。
「俺も練習したらできないかな」
小さい頃に魔法少女に憧れたことがあったことを思い出した。怖い父をやっつけたいと思っていた。
「ははっ、子供みたいに何やってるんだろう」
本で変身できるわけがないのにクルクル回って、ベッドに倒れ込んで笑った。
なんだか暑い。季節は春みたいな過ごしやすい温度だけど、本を杖に見立てて回ってたせいか汗ばんできた。
「もしかして熱が上がった?」
ドクドクと心臓の音がする。まだ治っていなかったのかと思ってベッドのシーツに潜り込んだ。眠ろうとしても何故だか目が冴える。
「……なんか勃ってる?」
要も大学生だ。背はまだ伸びる余地があるけれど、既に大人で、一人でいたすこともある。
「一週間も病気で寝てたからかな……? 疲れマラとか聞いたことあるけど。そういうのかな」
受験の前にそんな話を友達としたなと思い出した。
「ああ、やだやだ。人のベッドでそんなことできないし。おさまれ、おさまれ」
難しいことを考えればいいのか。
「何をおさめるのだ?」
人が入ってきたことにも気づかなかった。被っていたシーツから顔を出すと、一番会いたくない人がそこにいた。
「ひぇっ、陽王!」
「悪いことでも考えていたのか?」
覗き込まれて、要は慌てて目を逸らした。
「そんなこと……」
「考えていたのだな。部屋からでてどこへいくつもりだった?」
「詮索するつもりで、戻ってきたのかよ」
きっと侍女から聞いたのだろう。
「いや、どうせこの階から出ることはできないからな」
「じゃあなんで? いつも夜遅くなるまで帰ってこないくせに」
まるで彼氏が構ってくれなくて駄々をこねているようだと思って、要は慌てて首を振った。
「帰ってこなくていいけどな!」
言うほどに墓穴を掘っているような気がした。
「お前を抱くためだ。もう三日も雨が降らない。まだ大地は潤っていない。そなたの郷愁が終わってしまったのなら、後は気持ちよくなってもらうしかないからな。執務は休んで、七家へ報告して帰ってきた」
面倒だと言わんばかりの陽王に要は手を突っぱねた。
「止めろ! 熱が出て……」
顔も赤くなっているはずだ。
「熱? 熱がでたら勃つのか?」
要の手首を掴んで、陽王はコツンと額を合わせた。
「それは――」
「熱はない。安心しろ」
陽王はシーツを剥ぎ取り、慌てて身体を丸めた要に笑いかけた。
「でも、そんな――、二、三ヶ月は大丈夫なんじゃないのかよ!」
「しかたあるまい。そなたは思っていたより強いようだ。我も気が強い方が安心して抱ける」
陽王はそう言って、緩く勃ち上がった要の陰茎を服の上から撫でた。
「ヒッ!」
「そなたは優しくされるのと、痛くされるのとどちらがいい?」
耳に囁く声は甘いけれど、意味がわからない。
「優しいほうがいいに決まってるだろ!」
要は叫んだ。
「そうか、ならばそなたも協力しろ。暴れて押さえつけながらやるのもいいが、まだ病み上がりだからな。もちろん、我はどっちでもいい。そなたが望む態度次第だと言っておこう」
逃げたり抵抗すれば痛い目に合うぞと脅迫されているのだと要も悟った。
「……ふざけるな」
力のない声しか出なかった。ここには誰もいない。助けもないし、屈した要を嘲笑うものもいない。
「いい子だ」
静かに目を瞑った要に陽王は宥めるようなキスをした。
食事時にしては考え込むような声だ。陽王は、窓の外を窺うように見ていた。今のは独り言だろうかと要は思った。
熱を出して、全快するまで一週間ほどかかってしまった。
最初は熱だけだったのに、喉も痛くなって咳き込んだ。よく考えてみれば、受験、卒業、入学からの異世界転移、初めてのセックスは衆人環視の中で男に抱かれるという想像外のハードモードだった。雨に打たれたのも悪かったのだろう。
一週間程度の風邪ですんでよかった。陽王は約束通り、要に朝ご飯を食べさせてから仕事へ向かう。夜にならないと帰って来ないので、その間は美海の侍女達に世話をしてもらった。儀式の時にいた祭司の一人、オネエさんのようなお兄さんが美海というらしいが、その人の一族が城の使用人として働いているらしい。陽王と同じで美海も役職なんだそうだ。
「雨……」
そう言えば、どんよりしていた空が青く澄み渡っている。
「もう郷愁の思いは断ち切ったのか……。驚くほど早いな」
熱を出して寝込んでいる間、故郷のことを思って悲しかったけれどずっと悲しんでいるわけにはいかない。早く帰るためにはそれより大事なことがある。
「男だからな」
いつまでもくよくよしていられない。
「そういうものか。それにしても早すぎる。回復してたのはよかったが……」
陽王は首を傾げ、食事を食べきった要を見つめた。
「俺、あんたが仕事の間暇なんだけど」
「歴代の巫女(アメフラシ)は、二、三ヶ月ほど泣き暮らしていたが」
「空がな」
泣きたくても涙が出ないのだ。
「後は、美海の侍女達と散歩をしたり、料理をしたり、裁縫をしたりしていたな」
「散歩はともかく、俺は料理も裁縫もできないし、興味ない」
「……なら何がしたいんだ?」
「本が読みたい」
元の世界に戻る方法を聞いてまわるわけにいかないなら、本ならどうだろうかと思ったのだ。
「本か。たしか巫女(アメフラシ)は言葉は通じるが、文字は読めなかったはずだ」
いきなり行き詰まって、要は心が折れそうになった。
「……嘘だろ」
「本当のことだ」
「なら、読み方を知りたい」
現役の学生なのだ。勉強は嫌いじゃなかったし、暇つぶしにもなる。
「……いいだろう。夜都に相談して教師をつけてやろう。他には?」
「俺の涙が雨となってこの国を潤すんだろう? ここがどんなところか、見てみたい」
逃げる気満々で悪いが、折角の機会だ。外国すら行ったことのない要は旅行気分を味わいたかった。
「それは許可できない。七家の同意が必要だ」
ふぅとため息が出た。
「なら同意をとってくれ」
そう言いながら、要は不思議に思っていた。
父が酷かったせいか、大人の男が苦手だったのに、陽王には平気でものが言えた。
「承知した。今日は早めに戻る」
「ふぅん。どうでもいいけど」
何なら生意気な口を叩くこともできた。それが不思議でならなかった。
要は手持ち無沙汰で部屋を出た。朝ご飯を食べた後は、昼ご飯まで美海の侍女も来ないからだ。
「簡単に出られるんだな」
鍵でも掛けられているかと思っていたから意外に思った。陽王の部屋を出て、食事に使ったことがある部屋も通り抜け、さぁ階段だと思ったところで先に進むことができなくなった。
「なんでだ」
まるでそこに透明の壁でもあるかのように進むことができない。
「巫女(アメフラシ)、どうされたのですか?」
美海の侍女に見つかってしまった。美海の侍女は皆少しずつ顔が似ている。一番背の高い、多分侍女で一番偉い人。
「散歩に行こうと思って」
とっさに嘘が口をついて出た。
「……そんな格好ではまたお熱を出しますよ。さぁ、お部屋に戻りましょう」
「どうして、この先に行けないんだ?」
「巫女(アメフラシ)は、この先にいくための通行証を持っていませんから。陽王の結界を越えることはできません」
「結界?」
まさかの魔法の世界だったのか。驚きながら要は透明の壁のような場所を押した。
「陽王の許可のないものはこの階に入ることができませんし、でることもできません」
グッっと喉が鳴った。
「あいつの許可がいるのか――」
「陽王の許可をいただいてからお散歩に参りましょうね」
優しい笑顔を浮かべる侍女に、文句を言うこともできない。収穫のないまま要は部屋に戻った。部屋を出てから五分も経っていなかった。
「何?」
「香を焚きますね」
直ぐに出ていくかと思ったら、侍女は寝台の横の香炉を手に持っていた。もしかするとそのためにこの部屋に来る途中だったのかもしれない。
しばらくすると要の座っているあたりにもスッキリとした香りが漂ってきた。
「いい香りだな」
「ええ、きっとリラックスできますよ。お風呂に入りましょうか。体調が悪くて身体を拭くことしかできませんでしたからね。お手伝いいたします」
侍女はもちろん女の人だ。例え、髪の色が赤くても、青い目でも、背が要より高くても。
「いえ、一人で入ります」
思わず敬語になってしまった。
「でも背中に手が届かないでしょう」
どうやら女は要が子供に見えているようだ。
「大丈夫。着替えだけ用意してほしい」
渋々という風に侍女は風呂の場所と使い方を説明して出ていった。
風呂は大きくてたっぷり湯が入っていた。
「水が大事なんじゃないのか?」
こんな風呂は雨の降らない国では使えないだろうと思った。いや、巫女(アメフラシ)が召喚されて風呂でもジャバジャバ水を使えるのかと思うと何だかモヤモヤした。
それでも一週間ほど風呂に入っていなかった要はゆっくりと身体を伸ばして上がる頃にはスッキリとした気分になっていた。
香の香りが強い。ミントのような爽やかな匂いに何か甘ったるい匂いが混ざっている。
「スマホもないし、本もない。することがないっていうのは苦痛だな」
陽王の部屋は広かった。センスと高級感はあると思うが、あまり人が住んでいる部屋には見えない。要の実家の狭い部屋だって、もう少しゴチャゴチャしていたのに、ホテルの部屋のようだ。置きっぱなしのものがない。陽王が几帳面なのだろうか。それでも棚にいくつか本があった。
「読めないけど」
開いてみてみると、やはり知らない文字だった。図は、漫画やアニメで見たことのある魔法陣のようだ。
「本当に魔法の世界なのか。でも魔法なんて使っているところ見たことないけどな」
魔法が使えたら空を飛びたい。知らない場所へ行って、冒険してみたい。後は、そうだな。学校へ瞬間移動ができたら便利だな。
「俺も練習したらできないかな」
小さい頃に魔法少女に憧れたことがあったことを思い出した。怖い父をやっつけたいと思っていた。
「ははっ、子供みたいに何やってるんだろう」
本で変身できるわけがないのにクルクル回って、ベッドに倒れ込んで笑った。
なんだか暑い。季節は春みたいな過ごしやすい温度だけど、本を杖に見立てて回ってたせいか汗ばんできた。
「もしかして熱が上がった?」
ドクドクと心臓の音がする。まだ治っていなかったのかと思ってベッドのシーツに潜り込んだ。眠ろうとしても何故だか目が冴える。
「……なんか勃ってる?」
要も大学生だ。背はまだ伸びる余地があるけれど、既に大人で、一人でいたすこともある。
「一週間も病気で寝てたからかな……? 疲れマラとか聞いたことあるけど。そういうのかな」
受験の前にそんな話を友達としたなと思い出した。
「ああ、やだやだ。人のベッドでそんなことできないし。おさまれ、おさまれ」
難しいことを考えればいいのか。
「何をおさめるのだ?」
人が入ってきたことにも気づかなかった。被っていたシーツから顔を出すと、一番会いたくない人がそこにいた。
「ひぇっ、陽王!」
「悪いことでも考えていたのか?」
覗き込まれて、要は慌てて目を逸らした。
「そんなこと……」
「考えていたのだな。部屋からでてどこへいくつもりだった?」
「詮索するつもりで、戻ってきたのかよ」
きっと侍女から聞いたのだろう。
「いや、どうせこの階から出ることはできないからな」
「じゃあなんで? いつも夜遅くなるまで帰ってこないくせに」
まるで彼氏が構ってくれなくて駄々をこねているようだと思って、要は慌てて首を振った。
「帰ってこなくていいけどな!」
言うほどに墓穴を掘っているような気がした。
「お前を抱くためだ。もう三日も雨が降らない。まだ大地は潤っていない。そなたの郷愁が終わってしまったのなら、後は気持ちよくなってもらうしかないからな。執務は休んで、七家へ報告して帰ってきた」
面倒だと言わんばかりの陽王に要は手を突っぱねた。
「止めろ! 熱が出て……」
顔も赤くなっているはずだ。
「熱? 熱がでたら勃つのか?」
要の手首を掴んで、陽王はコツンと額を合わせた。
「それは――」
「熱はない。安心しろ」
陽王はシーツを剥ぎ取り、慌てて身体を丸めた要に笑いかけた。
「でも、そんな――、二、三ヶ月は大丈夫なんじゃないのかよ!」
「しかたあるまい。そなたは思っていたより強いようだ。我も気が強い方が安心して抱ける」
陽王はそう言って、緩く勃ち上がった要の陰茎を服の上から撫でた。
「ヒッ!」
「そなたは優しくされるのと、痛くされるのとどちらがいい?」
耳に囁く声は甘いけれど、意味がわからない。
「優しいほうがいいに決まってるだろ!」
要は叫んだ。
「そうか、ならばそなたも協力しろ。暴れて押さえつけながらやるのもいいが、まだ病み上がりだからな。もちろん、我はどっちでもいい。そなたが望む態度次第だと言っておこう」
逃げたり抵抗すれば痛い目に合うぞと脅迫されているのだと要も悟った。
「……ふざけるな」
力のない声しか出なかった。ここには誰もいない。助けもないし、屈した要を嘲笑うものもいない。
「いい子だ」
静かに目を瞑った要に陽王は宥めるようなキスをした。
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