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貴実として
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母に二人を紹介した次の休みの日にエセルバーグ侯爵家へ訪れることになった。二つの家は親戚関係なので、ウィスランドの父と王族のまま貴実となった母がエセルバーグ家へ来てくれることになったのだ。
遠征があるのであまりゆっくりと時間がとれないので、正直忙しい。前日に孤児院でお菓子をつくり、二人と院長先生を会わせて、そのまま神殿に貴実かどうかの測定にも行った。貴実は竜種の子供を産み育てるために魔力の器は大きいけれど、自分で使える魔力は少ないのだそうだ。どちらも測定できる石に手を置くと石の色が変わる。
「おお、赤いですね」
「赤いと違うのですか?」
貴実ではなかったのかとガッカリ肩を落としたユーリアスの肩をリカルドが抱き、指をウィスランドが握ってくれた。安心しろと言ってくれているようで頼もしく思う。
「いえ、色が変わった時点で貴実であるとわかります。色が濃いでしょう? 非常に強い魔力の器をもっていることをしめしています。石が放つ輝きで魔力放出量がわかります。この魔力放出量だと貴族として生活するのは大変だったでしょう」
母の話を聞いて、父に対して抱いていた昏い気持ちを払拭したユーリアスは、伯爵家の一員として神殿へ来た。貴族として生きていくには大変だっただろうと神官達に憐れに思われるほどの放出量しかなかったのだ。
「貴実として認定されました。王族としての準備は進められていると聞いております。お喜び申し上げます」
神官達は全員跪き、ザッと頭を垂れた。その瞬間からユーリアスは王族の一員として扱われることになった。
「おめでとう、私達のお姫様」
「ユーリ、これからはユーリアス様って呼ばないと怒られますね」
二人に左右をエスコートされて、神殿を出た。
「俺が貴実でなくても変わらないのに、王族だと変わるんですか?」
「ユーリはユーリですね。可愛くて愛しい」
いつもと同じ空なのに、なんだか清々しく思えた。
エセルバーグ家では、エカテおばさんもお祝いに来てくれた。ユーリアスと仲がいいということで料理長のマストも招待されていて、緊張していたユーリアスは胸をなで下ろした。知らない人ばかりだと緊張すると気遣ってくれたことが嬉しい。
「きっとウィスランドの伴侶や子供には会えないだろうと思っていたから嬉しいよ。君の存在を神に感謝する」
ウィスランドとよく似た容姿のハイネガー侯爵はユーリアスの手をギュッと握った。ウィスランドはユーリアスの肩を抱いて嬉しそうに微笑む。
「神に感謝ではなくて、ユーリに感謝してください。ユーリが受け入れてくれなければ大変なことになっていたと思いますから」
「本当に感謝しているよ!」
ブンブンと握手した手を振られてユーリアスは驚いた。見た目とは違って随分気さくな人のようだ。
「貴実として王族になったのでしょう? 私は王宮で暮らしているの。何でも頼ってちょうだいね」
ウィスランドの母は侯爵夫人として降嫁せずに姫として暮らしているらしい。今日は来ていないが、侯爵夫人は別にいてウィスランドの弟や妹はそちらの方が産んだそうだ。ウィスランドは少しだけ家族と距離があるように見えた。
「ありがとうございます」
二人とも祝ってくれているようなので安心した。
「リカルドは選り好みが激しいのか中々相手が見つからなくて心配していたが……」
「ユーリアスさんがいなかったからどうなっていたことか」
リカルドはエセルバーグ侯爵夫人に似ている。黒い髪も青い瞳もそっくりだ。
「私がいなくてもリカルド様は格好いいし、優しいのできっと素敵な方があらわれたと思いますよ」
謙遜ではない。事実だ。ウィスランドもリカルドも容姿だけでなく素敵だ。よく貴族の子女が騎士団の訓練を見に来ているし、リカルドの名前も呼ばれて黄色い声が上がっていた。潔癖症のウィスランドはともかく、リカルドが独り身でいたことが不思議でならない。
「ラズ、じゃなくてユーリアス様。自慢げな顔で伴侶を褒めるのはやめてください。こちらが恥ずかしくなりますよ」
マストに揶揄われて、ユーリアスは焦ってウィスランドを見上げた。
「自慢してました?」
「ああ。リカルドの顔を見て見ろ」
自慢されて嬉しそうだ。
「そんなつもりじゃなかったんですよ。だって、こんなに……んふぅ」
人前だというのに。初対面の人ばかりだというのに。ご両親の前だというのに。リカルドにキスされた。
「坊ちゃま! ユーリアス様が涙目になっておられますよ」
リカルドがエカテおばさんに叱られている間に、ウィスランドはユーリアスの目尻にキスをして潤んだまなじりを舐めた。
「二人とも駄目です! 人前ですよ」
「「ユーリが可愛いのが悪い」」
「人のせいにしない!」
子供を叱るときの口調になってしまった。
あらあらと生暖かい目を向けられて、ユーリアスは目元を拭った。
「あの。私は強い竜種の二人を独占してしまって――」
きっと家族は受け入れられないのではないかと心配していたのに、何故か雰囲気が優しくてユーリアスは困惑を隠せない。二人を伴侶にすると言えば軽蔑されるのではないかと思っていたのに。
ウィスランドの父は「ユーリアス様なら安心だ」と言う。
「二人から聞いていますよ。本当に、よかった。安心だわ」
ウィスランドの両親と同じように微笑むリカルドのご両親、他多数。
「ユーリアス様が大変だと思いますけど、兄とウィスランド様をよろしくお願いしますね」
エセルバーグ家を継ぐ妹さんにもそう言われた。
誰もが喜んでいる状態にユーリアスは戸惑う。
「皆喜んでいるだろう? ユーリは気にしすぎだ」
リカルドもウィスランドもそう言うけれど、そういうものなのか? 長年離れた貴族の常識がユーリアスにはわからない。
「団長の力は強い。ウィスランド様もだ。竜種の中でも別格なんだ。その二人が伴侶として選んだのはたった一人の貴実だぞ。お前がいいと言わなかったら、二人が競い合って国が滅んでもおかしくなかった。そこまでいかなくても、確実にどちらかを失っていたんだ。もう、皆がどれだけお前の度量の広さに感謝していることか」
「これマスト、ユーリアス様にお前なんて言葉――」
エカテおばさんに怒られるマストに「いえ、ユーリって呼んでください。ユーリアス様とか気持ち悪いので。エカテおばさんも」と言うので精一杯だ。
稀代の貴実(悪女)と呼ばれてもおかしくないと思っていたのに、感謝されていた。その事実に驚きを隠せない。
「二人と幸せになってちょうだい」
リカルドの母にそう言われて、本当に祝福されているのだと実感する。
「「「はい、三人で幸せになります」」」
三人の口から出たのは同じ言葉だった。ユーリアスはこそばゆい気持ちを笑顔に変えて、二人と笑みを交わした。
遠征があるのであまりゆっくりと時間がとれないので、正直忙しい。前日に孤児院でお菓子をつくり、二人と院長先生を会わせて、そのまま神殿に貴実かどうかの測定にも行った。貴実は竜種の子供を産み育てるために魔力の器は大きいけれど、自分で使える魔力は少ないのだそうだ。どちらも測定できる石に手を置くと石の色が変わる。
「おお、赤いですね」
「赤いと違うのですか?」
貴実ではなかったのかとガッカリ肩を落としたユーリアスの肩をリカルドが抱き、指をウィスランドが握ってくれた。安心しろと言ってくれているようで頼もしく思う。
「いえ、色が変わった時点で貴実であるとわかります。色が濃いでしょう? 非常に強い魔力の器をもっていることをしめしています。石が放つ輝きで魔力放出量がわかります。この魔力放出量だと貴族として生活するのは大変だったでしょう」
母の話を聞いて、父に対して抱いていた昏い気持ちを払拭したユーリアスは、伯爵家の一員として神殿へ来た。貴族として生きていくには大変だっただろうと神官達に憐れに思われるほどの放出量しかなかったのだ。
「貴実として認定されました。王族としての準備は進められていると聞いております。お喜び申し上げます」
神官達は全員跪き、ザッと頭を垂れた。その瞬間からユーリアスは王族の一員として扱われることになった。
「おめでとう、私達のお姫様」
「ユーリ、これからはユーリアス様って呼ばないと怒られますね」
二人に左右をエスコートされて、神殿を出た。
「俺が貴実でなくても変わらないのに、王族だと変わるんですか?」
「ユーリはユーリですね。可愛くて愛しい」
いつもと同じ空なのに、なんだか清々しく思えた。
エセルバーグ家では、エカテおばさんもお祝いに来てくれた。ユーリアスと仲がいいということで料理長のマストも招待されていて、緊張していたユーリアスは胸をなで下ろした。知らない人ばかりだと緊張すると気遣ってくれたことが嬉しい。
「きっとウィスランドの伴侶や子供には会えないだろうと思っていたから嬉しいよ。君の存在を神に感謝する」
ウィスランドとよく似た容姿のハイネガー侯爵はユーリアスの手をギュッと握った。ウィスランドはユーリアスの肩を抱いて嬉しそうに微笑む。
「神に感謝ではなくて、ユーリに感謝してください。ユーリが受け入れてくれなければ大変なことになっていたと思いますから」
「本当に感謝しているよ!」
ブンブンと握手した手を振られてユーリアスは驚いた。見た目とは違って随分気さくな人のようだ。
「貴実として王族になったのでしょう? 私は王宮で暮らしているの。何でも頼ってちょうだいね」
ウィスランドの母は侯爵夫人として降嫁せずに姫として暮らしているらしい。今日は来ていないが、侯爵夫人は別にいてウィスランドの弟や妹はそちらの方が産んだそうだ。ウィスランドは少しだけ家族と距離があるように見えた。
「ありがとうございます」
二人とも祝ってくれているようなので安心した。
「リカルドは選り好みが激しいのか中々相手が見つからなくて心配していたが……」
「ユーリアスさんがいなかったからどうなっていたことか」
リカルドはエセルバーグ侯爵夫人に似ている。黒い髪も青い瞳もそっくりだ。
「私がいなくてもリカルド様は格好いいし、優しいのできっと素敵な方があらわれたと思いますよ」
謙遜ではない。事実だ。ウィスランドもリカルドも容姿だけでなく素敵だ。よく貴族の子女が騎士団の訓練を見に来ているし、リカルドの名前も呼ばれて黄色い声が上がっていた。潔癖症のウィスランドはともかく、リカルドが独り身でいたことが不思議でならない。
「ラズ、じゃなくてユーリアス様。自慢げな顔で伴侶を褒めるのはやめてください。こちらが恥ずかしくなりますよ」
マストに揶揄われて、ユーリアスは焦ってウィスランドを見上げた。
「自慢してました?」
「ああ。リカルドの顔を見て見ろ」
自慢されて嬉しそうだ。
「そんなつもりじゃなかったんですよ。だって、こんなに……んふぅ」
人前だというのに。初対面の人ばかりだというのに。ご両親の前だというのに。リカルドにキスされた。
「坊ちゃま! ユーリアス様が涙目になっておられますよ」
リカルドがエカテおばさんに叱られている間に、ウィスランドはユーリアスの目尻にキスをして潤んだまなじりを舐めた。
「二人とも駄目です! 人前ですよ」
「「ユーリが可愛いのが悪い」」
「人のせいにしない!」
子供を叱るときの口調になってしまった。
あらあらと生暖かい目を向けられて、ユーリアスは目元を拭った。
「あの。私は強い竜種の二人を独占してしまって――」
きっと家族は受け入れられないのではないかと心配していたのに、何故か雰囲気が優しくてユーリアスは困惑を隠せない。二人を伴侶にすると言えば軽蔑されるのではないかと思っていたのに。
ウィスランドの父は「ユーリアス様なら安心だ」と言う。
「二人から聞いていますよ。本当に、よかった。安心だわ」
ウィスランドの両親と同じように微笑むリカルドのご両親、他多数。
「ユーリアス様が大変だと思いますけど、兄とウィスランド様をよろしくお願いしますね」
エセルバーグ家を継ぐ妹さんにもそう言われた。
誰もが喜んでいる状態にユーリアスは戸惑う。
「皆喜んでいるだろう? ユーリは気にしすぎだ」
リカルドもウィスランドもそう言うけれど、そういうものなのか? 長年離れた貴族の常識がユーリアスにはわからない。
「団長の力は強い。ウィスランド様もだ。竜種の中でも別格なんだ。その二人が伴侶として選んだのはたった一人の貴実だぞ。お前がいいと言わなかったら、二人が競い合って国が滅んでもおかしくなかった。そこまでいかなくても、確実にどちらかを失っていたんだ。もう、皆がどれだけお前の度量の広さに感謝していることか」
「これマスト、ユーリアス様にお前なんて言葉――」
エカテおばさんに怒られるマストに「いえ、ユーリって呼んでください。ユーリアス様とか気持ち悪いので。エカテおばさんも」と言うので精一杯だ。
稀代の貴実(悪女)と呼ばれてもおかしくないと思っていたのに、感謝されていた。その事実に驚きを隠せない。
「二人と幸せになってちょうだい」
リカルドの母にそう言われて、本当に祝福されているのだと実感する。
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