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孤児院を訪れる
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「ラズ兄ちゃん、珍しいね。昨日も来たのに、今日も来られたの? 仕事大丈夫?」
心配そうな目を向けられて、ユーリアスはハハッと乾いた笑いを浮かべた。子供達から心配されるのは何だか複雑な気分になる。心配してもらえるのは嬉しいけれど。
「うわぁ。団長さんともう一人は誰なの? 綺麗」
「こらこら、初めての人にはどうするんだ?」
「こんにちは」
子供達が一斉に二人に向かって挨拶をする。二人が乗ってきた馬はさすが騎士の乗る馬だけあって元気のいい子供達の声にもビクリともしなかった。お昼ご飯をユーリアスと一緒に作ったウィスランドが譲る形で、リカルドに乗せてもらったから、二頭だ。
「サイ、馬たちに水と飼い葉をあげてくれる?」
サイともう一人の男の子が二人から馬を預かる。
リカルドが来る度に触り方や餌などを教えてもらっているので安心して任せられる。二人はいずれ騎士団での仕事を望んでいるので良い勉強になっているのだろう。
「院長先生はいる?」
ユーリアスのいなかったらいいのにという願いを神様が叶えてくれたのか、院長は出かけているという。二人を紹介しなければいけないと力が入っていたので少し肩透かしをくらった気分だ。
「応接室に案内しますね」
「紹介する前にお母さんから話を聞きたいんじゃないのか? 私達はクロと子供達と遊んでいるから行ってこい」
リカルドに勧められてウィスランドを窺う。
「ええ、いってらっしゃい」
初めてみたウィスランドに子供達は興味津々だ。
「いってきます」
母には三人で決めたことを伝えるだけでなく、聞きたいことがあった。父のこと、そして馬車からユーリアスを放りだした人物について。この先母がどうしたいのかも含めると長くなるかもしれない。
孤児院には個室はない。五歳になると男女別の部屋になるけれど大部屋だ。十五になるとやっと二人部屋をもらえて、ユーリアスも嬉しかった。母は沢山の洗濯物を取り込んでいた。
「お母さん、いいかな?」
「ラズ兄ちゃん、おかえりなさい!」
リンは母のことが好きで昔から後をついて回っていた。今も洗濯物を運ぶお手伝いをしていたようだ。
「リン、団長達が疲れたら応接室に案内してお菓子とお茶を出してあげて?」
察しのいいリンは一緒に手伝っていた子達を連れて、家事部屋を出ていった。たたんだ洗濯物は子供達が自分の分をもって部屋に運ぶことになっている。ユーリアスはまだたたんでいない洗濯物に手を伸ばした。
残った母は目をパチクリさせてユーリアスを見つめた。それでも手は自然とたたんでいる。
「団長さんだけじゃないの?」
「うん。副長のウィスランド様も一緒だよ」
「あら、両手に花なのね」
「うん」
相変わらずの母にユーリアスは笑って頷いた。
「まぁ、そうなの」
母の手が止まった。ユーリアスは迷いながらも母に訊ねた。
「お父様は、僕たちを見つけなかったわけじゃないんだね」
突然すぎるかなと思ったけれど、母は予想していたのか細く息を吐いた。
「ラズ、お父様から手紙をもらったわ。あなたが昨日何も言わなかったから……」
「二人に了承してもらえなかったら、聞かなくても良いかなって思ってたから」
「何を了承してもらったの?」
貴実として生きるのはあくまでも二人がユーリアスを必要としてくれたらの話だった。一人で生きるのなら、貴実であることも父のこともどうでもいいことだったから。
「二人を伴侶にすることだよ」
「二人を?」
「そう、両手に花だよ」
さっき母が言った言葉を繰り返すと、母は大きな目をまん丸にした。
「お父様が書いてることが良くわからなかったけれど、そういうことなのね。おめでとう、ラズ」
「うん、ありがとう。それから、ラズは返上してユーリアスに戻すよ」
「あら、クロにあげたんじゃなかったの?」
茶化されて、ユーリアスは首を振る。
「クロはクロって名前があるから、文句は言わないんじゃないかな」
「そうね。ユーリは、どうしたいの? 団長さん達の伴侶になるのに伯爵家に戻りたいのかしら?」
洗濯物を横に置いてユーリアスは居住まいを正した。
「お母さんはどうしてお父様と連絡をとっていることを教えてくれなかったんですか? 俺はお父様が伯爵家のお荷物になる俺を殺すように命じたのだと思っていました。お父様は俺とお母さんを邪魔者として追い出したのではないのですか?」
父がユーリアスを拒否した背中を思い出すと今でも苦しくなる。母はユーリアスの巻き添えをくらって追い出されたのだと思っていたから申し訳なかった。
ただ、思い出してみると母は「お父様はユーリを大事に思っている。愛してるの。私が弱かったからこんなことになってしまったのよ」とそんなようなことを言っていた。ユーリアスは、母が息子を傷つけないようにそう言っているのだと思った。思い出すのも辛くて、聞き返したこともなかった母の懺悔のような言葉が本当のことなら、何故父は母や自分を放置したのか知りたかった。
「違う!」
信じられないというような顔をして、母はユーリアスを見つめていた。
心配そうな目を向けられて、ユーリアスはハハッと乾いた笑いを浮かべた。子供達から心配されるのは何だか複雑な気分になる。心配してもらえるのは嬉しいけれど。
「うわぁ。団長さんともう一人は誰なの? 綺麗」
「こらこら、初めての人にはどうするんだ?」
「こんにちは」
子供達が一斉に二人に向かって挨拶をする。二人が乗ってきた馬はさすが騎士の乗る馬だけあって元気のいい子供達の声にもビクリともしなかった。お昼ご飯をユーリアスと一緒に作ったウィスランドが譲る形で、リカルドに乗せてもらったから、二頭だ。
「サイ、馬たちに水と飼い葉をあげてくれる?」
サイともう一人の男の子が二人から馬を預かる。
リカルドが来る度に触り方や餌などを教えてもらっているので安心して任せられる。二人はいずれ騎士団での仕事を望んでいるので良い勉強になっているのだろう。
「院長先生はいる?」
ユーリアスのいなかったらいいのにという願いを神様が叶えてくれたのか、院長は出かけているという。二人を紹介しなければいけないと力が入っていたので少し肩透かしをくらった気分だ。
「応接室に案内しますね」
「紹介する前にお母さんから話を聞きたいんじゃないのか? 私達はクロと子供達と遊んでいるから行ってこい」
リカルドに勧められてウィスランドを窺う。
「ええ、いってらっしゃい」
初めてみたウィスランドに子供達は興味津々だ。
「いってきます」
母には三人で決めたことを伝えるだけでなく、聞きたいことがあった。父のこと、そして馬車からユーリアスを放りだした人物について。この先母がどうしたいのかも含めると長くなるかもしれない。
孤児院には個室はない。五歳になると男女別の部屋になるけれど大部屋だ。十五になるとやっと二人部屋をもらえて、ユーリアスも嬉しかった。母は沢山の洗濯物を取り込んでいた。
「お母さん、いいかな?」
「ラズ兄ちゃん、おかえりなさい!」
リンは母のことが好きで昔から後をついて回っていた。今も洗濯物を運ぶお手伝いをしていたようだ。
「リン、団長達が疲れたら応接室に案内してお菓子とお茶を出してあげて?」
察しのいいリンは一緒に手伝っていた子達を連れて、家事部屋を出ていった。たたんだ洗濯物は子供達が自分の分をもって部屋に運ぶことになっている。ユーリアスはまだたたんでいない洗濯物に手を伸ばした。
残った母は目をパチクリさせてユーリアスを見つめた。それでも手は自然とたたんでいる。
「団長さんだけじゃないの?」
「うん。副長のウィスランド様も一緒だよ」
「あら、両手に花なのね」
「うん」
相変わらずの母にユーリアスは笑って頷いた。
「まぁ、そうなの」
母の手が止まった。ユーリアスは迷いながらも母に訊ねた。
「お父様は、僕たちを見つけなかったわけじゃないんだね」
突然すぎるかなと思ったけれど、母は予想していたのか細く息を吐いた。
「ラズ、お父様から手紙をもらったわ。あなたが昨日何も言わなかったから……」
「二人に了承してもらえなかったら、聞かなくても良いかなって思ってたから」
「何を了承してもらったの?」
貴実として生きるのはあくまでも二人がユーリアスを必要としてくれたらの話だった。一人で生きるのなら、貴実であることも父のこともどうでもいいことだったから。
「二人を伴侶にすることだよ」
「二人を?」
「そう、両手に花だよ」
さっき母が言った言葉を繰り返すと、母は大きな目をまん丸にした。
「お父様が書いてることが良くわからなかったけれど、そういうことなのね。おめでとう、ラズ」
「うん、ありがとう。それから、ラズは返上してユーリアスに戻すよ」
「あら、クロにあげたんじゃなかったの?」
茶化されて、ユーリアスは首を振る。
「クロはクロって名前があるから、文句は言わないんじゃないかな」
「そうね。ユーリは、どうしたいの? 団長さん達の伴侶になるのに伯爵家に戻りたいのかしら?」
洗濯物を横に置いてユーリアスは居住まいを正した。
「お母さんはどうしてお父様と連絡をとっていることを教えてくれなかったんですか? 俺はお父様が伯爵家のお荷物になる俺を殺すように命じたのだと思っていました。お父様は俺とお母さんを邪魔者として追い出したのではないのですか?」
父がユーリアスを拒否した背中を思い出すと今でも苦しくなる。母はユーリアスの巻き添えをくらって追い出されたのだと思っていたから申し訳なかった。
ただ、思い出してみると母は「お父様はユーリを大事に思っている。愛してるの。私が弱かったからこんなことになってしまったのよ」とそんなようなことを言っていた。ユーリアスは、母が息子を傷つけないようにそう言っているのだと思った。思い出すのも辛くて、聞き返したこともなかった母の懺悔のような言葉が本当のことなら、何故父は母や自分を放置したのか知りたかった。
「違う!」
信じられないというような顔をして、母はユーリアスを見つめていた。
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