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最初は……
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「ベッドに行きましょうか、ラズ」
「う……うん」
今更ながら緊張してきたラズをリカルドが抱き上げた。
「リカルド、ズルイです」
「早い者勝ちだ」
余裕のある年上のリカルドの笑みに、ウィスランドは悔しそうだ。
とても広い部屋。ラズが知る貴族の屋敷の部屋に比べても遥かに広い。違うところは他にもあった。さっきまでいたソファや低いテーブルもあるが、食事をするテーブルも、仕事をするための書斎のような場所もベッドさえ置かれていて不思議な空間になっている。どこも魔法で区切られているのかラズは運ばれるまでそこにベッドがあることに気付いていなかった。人を招待することを頭の片隅にも置いていないような部屋なのだ。
リカルドはラズが高価で繊細な作りの皿であるかのように丁寧に運んだ。少しくすぐったい気持ちでラズは弾力のある寝具の上に下ろされる。
「こんなところにベッドがあったのですね。しかも……こんなに大きいなんて――見てください。転がれますよ」
ラズはコロコロと転がって見せた。子供の頃なら飛び跳ねて遊んだだろう。
「ははっ、楽しそうだな」
「こんな広いベッド、初めて見ました」
一人で眠るには少し寂しい気がするが、三人が並んで寝ても少々寝相が悪くても問題なく眠れそうだ。
「よく間に合ったものだな」
「何となく、こうなりそうな気がしていたので――。遠征に出る前に屋敷ごと改装させたんです」
「遠征に行く前?」
ウィスランドの遠征前と言えば知り合ってすぐの頃だから、大してお互いのことも知らなかったはずなのに。
「そうですよ。ラズのことを好ましく思っていましたし、リカルドが諦めてくれるとも思えなかったので。リカルドが脱落してくれたら二人で暮らすつもりでしたけどね」
ウィスランドはラズの額にキスをして嘯く。
「こいつはこういう奴だ。ラズ、ここと城のエカテリテの部屋を魔方陣で繋いでいるから、ここから仕事に通えるぞ」
ご丁寧なことに転移魔法陣まで用意されているらしい。
「見事です、ウィス。俺はあの頃、そんなつもりなんて一切なかったのに――」
「褒めてください、ラズ」
ニッコリ笑うけれど、ウィスランドの目には焦げつきそうなくらいの熱が見てとれた。
「……ウィス、目が笑ってません」
「よくわかりましたね」
誤魔化すこともなく、ウィスランドはラズに覆い被さってきた。
「もう限界です」
切羽詰まった声に、ラズは身体を強張らせた。
「童貞の割に頑張ったな……」
「今言うことですか!」
ウィスランドが頬を赤らめて悔しそうにリカルドを睨みつけたことでそれが本当の事だとわかった。
成人と共に潔癖症になったと聞いていたけれど、きっとその前からモテていただろうからそんな可能性を微塵も考えていなかったラズは驚きを隠さずウィスランドを見上げた。
「ウィス様……が?」
「ウィスですよ。様はいらないと言ってるでしょう。そんなに驚かなくてもいいと思うのですが……」
驚き過ぎて、様をつけてしまった。
困ったような眉間の皺がもったいないけれど、普段のウィスランドからは想像もできない表情がラズの優越感をくすぐる。もっと色んな顔を見たいとラズは思う。
「いえ、とても綺麗なので、意外でした」
ウィスランドの煙るような長いまつげの下にある青紫の瞳の色はとても珍しい色だ。身体は筋肉質だが細身の方で、絵本に出てくる王子様のように見える。
「可愛いとか綺麗は禁句なんだ」
言われすぎて嫌になったのだろうなとラズは察した。
「ごめんなさい、知らなくて――。でも俺、ウィスの顔が好きなんですよ。綺麗だと言えないのは残念ですね……」
想いが伝わって、これから鑑賞し放題だというのに。これまでは失礼かなと思ってできるだけじっくり見ないようにしていたラズは本音を零した。
「嫌じゃないですよ。ラズが言ってくれる分には嬉しいです」
「無理してませんか?」
「していません」
嬉しそうに笑ったウィスランドの顔を指でなぞると、カプッと指先を咥えられた。
「あ……。指先は汚いんですよ」
「ラズに汚いところなどありません」
人差し指の先から中指との間まで舌でなぞられて、ラズは酷く恥ずかしくなって指を引き抜いた。
「服を脱ごうな」
「そうですね、さすが慣れてらっしゃる方は違いますね」
ウィスランドは自分の服を脱ぎながら、ラズのシャツのボタンを外すリカルドに嫌みを言った。
「あ……っ! 慣れてるなら……ん……あ……リドが、先の方がっいいんじゃないですか?」
ラズは自分の頭を膝枕してくれているリカルドに訊ねた。不器用そうなのにリカルドはシャツを脱がしながら、時折ラズの身体を指先で掠める。触られているだけなのに息が上がっていくのはリカルドが上級者だからだろうか。
「それも考えたんですけどね、リカルドのものは……少し……いや、大分と……酷なナニなんですよ。それで私が先にすることを了承してくれたんです」
酷なナニって……、先ほどから頭の下にいるナニかとラズは唾を飲み込んだ。
自分の服を全てベッドの横の椅子に放り投げたウィスランドは、ラズの服を脱がせながら悪戯をするリカルドを牽制するように笑い、ラズのズボンを下着ごと引き抜いた。
「わっ!」
あっという間に下半身丸裸にされたラズは、恥ずかしくて思わず下を手で隠した。
「そこはまだいいですよ、隠してて」
ウィスランドの笑いは同じ初心者には見えなかった。
ラズはウィスランドの顔を堪能しながら唇を味わった。精巧な彫像よりも麗しい顔が目を開けばいくらでも見られるのだ。肌理の細やかな肌は遠征を繰り返している騎士のものとは思えない。
ウィスランドは、ラズの視線をくすぐったいような顔で受け止め、早々に唇を離した。喉元、鎖骨、と唇が降りていく。
「う……うん」
今更ながら緊張してきたラズをリカルドが抱き上げた。
「リカルド、ズルイです」
「早い者勝ちだ」
余裕のある年上のリカルドの笑みに、ウィスランドは悔しそうだ。
とても広い部屋。ラズが知る貴族の屋敷の部屋に比べても遥かに広い。違うところは他にもあった。さっきまでいたソファや低いテーブルもあるが、食事をするテーブルも、仕事をするための書斎のような場所もベッドさえ置かれていて不思議な空間になっている。どこも魔法で区切られているのかラズは運ばれるまでそこにベッドがあることに気付いていなかった。人を招待することを頭の片隅にも置いていないような部屋なのだ。
リカルドはラズが高価で繊細な作りの皿であるかのように丁寧に運んだ。少しくすぐったい気持ちでラズは弾力のある寝具の上に下ろされる。
「こんなところにベッドがあったのですね。しかも……こんなに大きいなんて――見てください。転がれますよ」
ラズはコロコロと転がって見せた。子供の頃なら飛び跳ねて遊んだだろう。
「ははっ、楽しそうだな」
「こんな広いベッド、初めて見ました」
一人で眠るには少し寂しい気がするが、三人が並んで寝ても少々寝相が悪くても問題なく眠れそうだ。
「よく間に合ったものだな」
「何となく、こうなりそうな気がしていたので――。遠征に出る前に屋敷ごと改装させたんです」
「遠征に行く前?」
ウィスランドの遠征前と言えば知り合ってすぐの頃だから、大してお互いのことも知らなかったはずなのに。
「そうですよ。ラズのことを好ましく思っていましたし、リカルドが諦めてくれるとも思えなかったので。リカルドが脱落してくれたら二人で暮らすつもりでしたけどね」
ウィスランドはラズの額にキスをして嘯く。
「こいつはこういう奴だ。ラズ、ここと城のエカテリテの部屋を魔方陣で繋いでいるから、ここから仕事に通えるぞ」
ご丁寧なことに転移魔法陣まで用意されているらしい。
「見事です、ウィス。俺はあの頃、そんなつもりなんて一切なかったのに――」
「褒めてください、ラズ」
ニッコリ笑うけれど、ウィスランドの目には焦げつきそうなくらいの熱が見てとれた。
「……ウィス、目が笑ってません」
「よくわかりましたね」
誤魔化すこともなく、ウィスランドはラズに覆い被さってきた。
「もう限界です」
切羽詰まった声に、ラズは身体を強張らせた。
「童貞の割に頑張ったな……」
「今言うことですか!」
ウィスランドが頬を赤らめて悔しそうにリカルドを睨みつけたことでそれが本当の事だとわかった。
成人と共に潔癖症になったと聞いていたけれど、きっとその前からモテていただろうからそんな可能性を微塵も考えていなかったラズは驚きを隠さずウィスランドを見上げた。
「ウィス様……が?」
「ウィスですよ。様はいらないと言ってるでしょう。そんなに驚かなくてもいいと思うのですが……」
驚き過ぎて、様をつけてしまった。
困ったような眉間の皺がもったいないけれど、普段のウィスランドからは想像もできない表情がラズの優越感をくすぐる。もっと色んな顔を見たいとラズは思う。
「いえ、とても綺麗なので、意外でした」
ウィスランドの煙るような長いまつげの下にある青紫の瞳の色はとても珍しい色だ。身体は筋肉質だが細身の方で、絵本に出てくる王子様のように見える。
「可愛いとか綺麗は禁句なんだ」
言われすぎて嫌になったのだろうなとラズは察した。
「ごめんなさい、知らなくて――。でも俺、ウィスの顔が好きなんですよ。綺麗だと言えないのは残念ですね……」
想いが伝わって、これから鑑賞し放題だというのに。これまでは失礼かなと思ってできるだけじっくり見ないようにしていたラズは本音を零した。
「嫌じゃないですよ。ラズが言ってくれる分には嬉しいです」
「無理してませんか?」
「していません」
嬉しそうに笑ったウィスランドの顔を指でなぞると、カプッと指先を咥えられた。
「あ……。指先は汚いんですよ」
「ラズに汚いところなどありません」
人差し指の先から中指との間まで舌でなぞられて、ラズは酷く恥ずかしくなって指を引き抜いた。
「服を脱ごうな」
「そうですね、さすが慣れてらっしゃる方は違いますね」
ウィスランドは自分の服を脱ぎながら、ラズのシャツのボタンを外すリカルドに嫌みを言った。
「あ……っ! 慣れてるなら……ん……あ……リドが、先の方がっいいんじゃないですか?」
ラズは自分の頭を膝枕してくれているリカルドに訊ねた。不器用そうなのにリカルドはシャツを脱がしながら、時折ラズの身体を指先で掠める。触られているだけなのに息が上がっていくのはリカルドが上級者だからだろうか。
「それも考えたんですけどね、リカルドのものは……少し……いや、大分と……酷なナニなんですよ。それで私が先にすることを了承してくれたんです」
酷なナニって……、先ほどから頭の下にいるナニかとラズは唾を飲み込んだ。
自分の服を全てベッドの横の椅子に放り投げたウィスランドは、ラズの服を脱がせながら悪戯をするリカルドを牽制するように笑い、ラズのズボンを下着ごと引き抜いた。
「わっ!」
あっという間に下半身丸裸にされたラズは、恥ずかしくて思わず下を手で隠した。
「そこはまだいいですよ、隠してて」
ウィスランドの笑いは同じ初心者には見えなかった。
ラズはウィスランドの顔を堪能しながら唇を味わった。精巧な彫像よりも麗しい顔が目を開けばいくらでも見られるのだ。肌理の細やかな肌は遠征を繰り返している騎士のものとは思えない。
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