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「あ……」
別に卑下しているわけじゃないと反論しようとしたラズの口をウィス様は反論は許さないとばかりに塞ぐ。魔力を与える為ではない、ただ愛しさを伝えるためのキスだとラズは気付く。
お仕置きにしては甘すぎる、そう思って笑った。
「ラズ……、ラズが欲しい」
耳の後ろから囁かれた低音に、ラズの背中が震える。リド様の声は破壊力がありすぎる。ゾクリと皮膚と肉の間を擦られたようで気持ち悪いと思うのに、何故かラズの中央が反応する。
「ラズ、最初は私でいいですか?」
離れた口元から銀の糸が二人を繋いだ。それを追いかけるようにラズはウィス様にキスをした。
「ん……、ウィス様が最初?」
「はい、ラズの後ろの最初をもらいますよ。お口はリド様が最初だったので」
後ろと言って、ウィス様はラズの尻を揉んだ。
「あっ!」
「ラズはどこも敏感ですね」
「そんなことは……ないと思うけど。リド様は見てるの?」
ラズとて孤児院という下町に近い場所で暮らしてきたので性に関する知識がないわけではない。ただあくまで普通の範囲である。孤児院の中で恋仲になった二人のセックスを目撃してしまったこともあるし、年上の子に精通を教えてもらった事もある。
ラズの疑問に二人はピタリと固まってしまった。
「挿れるのはウィスが最初だが……ラズが嫌でなければ参加させて欲しい」
リド様の神妙な声にラズは少し笑ってしまった。
「嫌じゃありません」
ホッと安堵のため息を二人が同時に漏らす。
「よかった。ラズ、私のことを伴侶と認めてくれるなら、ウィスランド、ウィスと呼んでくれませんか」
「駄目だと言われたらどうしようかと思ったぞ。ラズ、私の事もリカルド、リドと呼んでくれ」
グッとラズは喉を鳴らした。二人を相手にするよりよほど勇気がいることだ。簡単に「いいです」とは言えない。
「三人だけの時なら……」
人の目が怖い。とくにウィス様のファンには刺されそうだ。
「駄目だ、伴侶であることを見せびらかしてくれ」
「そうです、ラズが私達の伴侶であることを周知しないと安心できません。そうだ、明日すぐに結婚しましょう」
二人の強固な台詞を聞いて、ラズはおずおずと訊ねた。
「えっと、どちらと?」
結婚の誓約書には二人分しか名前を書くところがないのだ。どちらかと結べば、もう片方とは許されない。
二人は考えていなかったのかまたもや固まってしまった。
「そうでしたね。すっかりラズとの新婚生活をどうするかを考えていて、抜け落ちていました。結婚は少しだけ待ってもらえますか?」
「別に結婚しなくても……」
「「駄目」」
半分は本気で愛妾でもいいかと思うのだ。もう半分は二人を誰にも渡したくないという独占欲で、それ故に二人を困らせたくないと思ってしまう。
「ラズ、どうか時間をください」
「ウィス様……」
「……ウィスと――」
乞うように懇願されるとラズは弱い。ウィス様、いやウィスランドはラズの性格を見抜いているのだろう。
「ウィス、任せます。無理だったら……」
気にしないでくださいと言おうとしたら顔を上に向けられて、背後から覆い被さるようにリド様、もといリカルドがキスをしてきた。
「んぅ!」
苦しくて身じろぐと、フッとリカルドは笑う。
「ラズ、私の名前も呼んでくれ」
それなら言葉だけでいいのに。キスした意味とは。
「リド、俺は二人に無理をして欲しくないんです」
リカルドよりリドのほうがしっくりくる。
二人が困ったり、弱ったりして欲しくないと思ってラズは訴えた。
「ラズは私達を見くびっているぞ、ウィス。ラズは安心して気持ちよくなっていればいい」
見くびっているわけではないけれど、しがらみとかあるはずだ。侯爵家の跡継ぎなのだから。
「団長がいなくなったら困るのは国ですからね」
ラズを安心させるようにウィスランドは微笑んだ。
「ウィス、お前もリカルドかリドって呼ぶように。私達は平等だろう?」
リカルドがそう言うとウィスランドは眉を寄せた。
「ラズの事に関しては平等ですけど、団長でいいですよ」
いかにも面倒くさそうに言った。
「なんなら昔のようにリド兄様って呼んでもいいぞ」
「え、リド兄様って呼んでたんですか」
『リド兄様』なんて呼ぶ小さなウィスランドを想像したら、何だか癒された。絶対可愛かっただろう。そう思ったのがバレたのかウィスランドの目が据わる。
「従兄弟だから……可笑しくないでしょう?」
「ですね~、そうですね」
ラズは素直に頷いた。ウィスランドを刺激してはいけない。
「もうっ、リカルドが悪いです」
ウィスランドはリカルドと呼ぶことに決めたようだ。『リド兄様』でいいのにと思った事は内緒にしておこうと思う。
別に卑下しているわけじゃないと反論しようとしたラズの口をウィス様は反論は許さないとばかりに塞ぐ。魔力を与える為ではない、ただ愛しさを伝えるためのキスだとラズは気付く。
お仕置きにしては甘すぎる、そう思って笑った。
「ラズ……、ラズが欲しい」
耳の後ろから囁かれた低音に、ラズの背中が震える。リド様の声は破壊力がありすぎる。ゾクリと皮膚と肉の間を擦られたようで気持ち悪いと思うのに、何故かラズの中央が反応する。
「ラズ、最初は私でいいですか?」
離れた口元から銀の糸が二人を繋いだ。それを追いかけるようにラズはウィス様にキスをした。
「ん……、ウィス様が最初?」
「はい、ラズの後ろの最初をもらいますよ。お口はリド様が最初だったので」
後ろと言って、ウィス様はラズの尻を揉んだ。
「あっ!」
「ラズはどこも敏感ですね」
「そんなことは……ないと思うけど。リド様は見てるの?」
ラズとて孤児院という下町に近い場所で暮らしてきたので性に関する知識がないわけではない。ただあくまで普通の範囲である。孤児院の中で恋仲になった二人のセックスを目撃してしまったこともあるし、年上の子に精通を教えてもらった事もある。
ラズの疑問に二人はピタリと固まってしまった。
「挿れるのはウィスが最初だが……ラズが嫌でなければ参加させて欲しい」
リド様の神妙な声にラズは少し笑ってしまった。
「嫌じゃありません」
ホッと安堵のため息を二人が同時に漏らす。
「よかった。ラズ、私のことを伴侶と認めてくれるなら、ウィスランド、ウィスと呼んでくれませんか」
「駄目だと言われたらどうしようかと思ったぞ。ラズ、私の事もリカルド、リドと呼んでくれ」
グッとラズは喉を鳴らした。二人を相手にするよりよほど勇気がいることだ。簡単に「いいです」とは言えない。
「三人だけの時なら……」
人の目が怖い。とくにウィス様のファンには刺されそうだ。
「駄目だ、伴侶であることを見せびらかしてくれ」
「そうです、ラズが私達の伴侶であることを周知しないと安心できません。そうだ、明日すぐに結婚しましょう」
二人の強固な台詞を聞いて、ラズはおずおずと訊ねた。
「えっと、どちらと?」
結婚の誓約書には二人分しか名前を書くところがないのだ。どちらかと結べば、もう片方とは許されない。
二人は考えていなかったのかまたもや固まってしまった。
「そうでしたね。すっかりラズとの新婚生活をどうするかを考えていて、抜け落ちていました。結婚は少しだけ待ってもらえますか?」
「別に結婚しなくても……」
「「駄目」」
半分は本気で愛妾でもいいかと思うのだ。もう半分は二人を誰にも渡したくないという独占欲で、それ故に二人を困らせたくないと思ってしまう。
「ラズ、どうか時間をください」
「ウィス様……」
「……ウィスと――」
乞うように懇願されるとラズは弱い。ウィス様、いやウィスランドはラズの性格を見抜いているのだろう。
「ウィス、任せます。無理だったら……」
気にしないでくださいと言おうとしたら顔を上に向けられて、背後から覆い被さるようにリド様、もといリカルドがキスをしてきた。
「んぅ!」
苦しくて身じろぐと、フッとリカルドは笑う。
「ラズ、私の名前も呼んでくれ」
それなら言葉だけでいいのに。キスした意味とは。
「リド、俺は二人に無理をして欲しくないんです」
リカルドよりリドのほうがしっくりくる。
二人が困ったり、弱ったりして欲しくないと思ってラズは訴えた。
「ラズは私達を見くびっているぞ、ウィス。ラズは安心して気持ちよくなっていればいい」
見くびっているわけではないけれど、しがらみとかあるはずだ。侯爵家の跡継ぎなのだから。
「団長がいなくなったら困るのは国ですからね」
ラズを安心させるようにウィスランドは微笑んだ。
「ウィス、お前もリカルドかリドって呼ぶように。私達は平等だろう?」
リカルドがそう言うとウィスランドは眉を寄せた。
「ラズの事に関しては平等ですけど、団長でいいですよ」
いかにも面倒くさそうに言った。
「なんなら昔のようにリド兄様って呼んでもいいぞ」
「え、リド兄様って呼んでたんですか」
『リド兄様』なんて呼ぶ小さなウィスランドを想像したら、何だか癒された。絶対可愛かっただろう。そう思ったのがバレたのかウィスランドの目が据わる。
「従兄弟だから……可笑しくないでしょう?」
「ですね~、そうですね」
ラズは素直に頷いた。ウィスランドを刺激してはいけない。
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