46 / 62
名前
しおりを挟む
「あ……」
別に卑下しているわけじゃないと反論しようとしたラズの口をウィス様は反論は許さないとばかりに塞ぐ。魔力を与える為ではない、ただ愛しさを伝えるためのキスだとラズは気付く。
お仕置きにしては甘すぎる、そう思って笑った。
「ラズ……、ラズが欲しい」
耳の後ろから囁かれた低音に、ラズの背中が震える。リド様の声は破壊力がありすぎる。ゾクリと皮膚と肉の間を擦られたようで気持ち悪いと思うのに、何故かラズの中央が反応する。
「ラズ、最初は私でいいですか?」
離れた口元から銀の糸が二人を繋いだ。それを追いかけるようにラズはウィス様にキスをした。
「ん……、ウィス様が最初?」
「はい、ラズの後ろの最初をもらいますよ。お口はリド様が最初だったので」
後ろと言って、ウィス様はラズの尻を揉んだ。
「あっ!」
「ラズはどこも敏感ですね」
「そんなことは……ないと思うけど。リド様は見てるの?」
ラズとて孤児院という下町に近い場所で暮らしてきたので性に関する知識がないわけではない。ただあくまで普通の範囲である。孤児院の中で恋仲になった二人のセックスを目撃してしまったこともあるし、年上の子に精通を教えてもらった事もある。
ラズの疑問に二人はピタリと固まってしまった。
「挿れるのはウィスが最初だが……ラズが嫌でなければ参加させて欲しい」
リド様の神妙な声にラズは少し笑ってしまった。
「嫌じゃありません」
ホッと安堵のため息を二人が同時に漏らす。
「よかった。ラズ、私のことを伴侶と認めてくれるなら、ウィスランド、ウィスと呼んでくれませんか」
「駄目だと言われたらどうしようかと思ったぞ。ラズ、私の事もリカルド、リドと呼んでくれ」
グッとラズは喉を鳴らした。二人を相手にするよりよほど勇気がいることだ。簡単に「いいです」とは言えない。
「三人だけの時なら……」
人の目が怖い。とくにウィス様のファンには刺されそうだ。
「駄目だ、伴侶であることを見せびらかしてくれ」
「そうです、ラズが私達の伴侶であることを周知しないと安心できません。そうだ、明日すぐに結婚しましょう」
二人の強固な台詞を聞いて、ラズはおずおずと訊ねた。
「えっと、どちらと?」
結婚の誓約書には二人分しか名前を書くところがないのだ。どちらかと結べば、もう片方とは許されない。
二人は考えていなかったのかまたもや固まってしまった。
「そうでしたね。すっかりラズとの新婚生活をどうするかを考えていて、抜け落ちていました。結婚は少しだけ待ってもらえますか?」
「別に結婚しなくても……」
「「駄目」」
半分は本気で愛妾でもいいかと思うのだ。もう半分は二人を誰にも渡したくないという独占欲で、それ故に二人を困らせたくないと思ってしまう。
「ラズ、どうか時間をください」
「ウィス様……」
「……ウィスと――」
乞うように懇願されるとラズは弱い。ウィス様、いやウィスランドはラズの性格を見抜いているのだろう。
「ウィス、任せます。無理だったら……」
気にしないでくださいと言おうとしたら顔を上に向けられて、背後から覆い被さるようにリド様、もといリカルドがキスをしてきた。
「んぅ!」
苦しくて身じろぐと、フッとリカルドは笑う。
「ラズ、私の名前も呼んでくれ」
それなら言葉だけでいいのに。キスした意味とは。
「リド、俺は二人に無理をして欲しくないんです」
リカルドよりリドのほうがしっくりくる。
二人が困ったり、弱ったりして欲しくないと思ってラズは訴えた。
「ラズは私達を見くびっているぞ、ウィス。ラズは安心して気持ちよくなっていればいい」
見くびっているわけではないけれど、しがらみとかあるはずだ。侯爵家の跡継ぎなのだから。
「団長がいなくなったら困るのは国ですからね」
ラズを安心させるようにウィスランドは微笑んだ。
「ウィス、お前もリカルドかリドって呼ぶように。私達は平等だろう?」
リカルドがそう言うとウィスランドは眉を寄せた。
「ラズの事に関しては平等ですけど、団長でいいですよ」
いかにも面倒くさそうに言った。
「なんなら昔のようにリド兄様って呼んでもいいぞ」
「え、リド兄様って呼んでたんですか」
『リド兄様』なんて呼ぶ小さなウィスランドを想像したら、何だか癒された。絶対可愛かっただろう。そう思ったのがバレたのかウィスランドの目が据わる。
「従兄弟だから……可笑しくないでしょう?」
「ですね~、そうですね」
ラズは素直に頷いた。ウィスランドを刺激してはいけない。
「もうっ、リカルドが悪いです」
ウィスランドはリカルドと呼ぶことに決めたようだ。『リド兄様』でいいのにと思った事は内緒にしておこうと思う。
別に卑下しているわけじゃないと反論しようとしたラズの口をウィス様は反論は許さないとばかりに塞ぐ。魔力を与える為ではない、ただ愛しさを伝えるためのキスだとラズは気付く。
お仕置きにしては甘すぎる、そう思って笑った。
「ラズ……、ラズが欲しい」
耳の後ろから囁かれた低音に、ラズの背中が震える。リド様の声は破壊力がありすぎる。ゾクリと皮膚と肉の間を擦られたようで気持ち悪いと思うのに、何故かラズの中央が反応する。
「ラズ、最初は私でいいですか?」
離れた口元から銀の糸が二人を繋いだ。それを追いかけるようにラズはウィス様にキスをした。
「ん……、ウィス様が最初?」
「はい、ラズの後ろの最初をもらいますよ。お口はリド様が最初だったので」
後ろと言って、ウィス様はラズの尻を揉んだ。
「あっ!」
「ラズはどこも敏感ですね」
「そんなことは……ないと思うけど。リド様は見てるの?」
ラズとて孤児院という下町に近い場所で暮らしてきたので性に関する知識がないわけではない。ただあくまで普通の範囲である。孤児院の中で恋仲になった二人のセックスを目撃してしまったこともあるし、年上の子に精通を教えてもらった事もある。
ラズの疑問に二人はピタリと固まってしまった。
「挿れるのはウィスが最初だが……ラズが嫌でなければ参加させて欲しい」
リド様の神妙な声にラズは少し笑ってしまった。
「嫌じゃありません」
ホッと安堵のため息を二人が同時に漏らす。
「よかった。ラズ、私のことを伴侶と認めてくれるなら、ウィスランド、ウィスと呼んでくれませんか」
「駄目だと言われたらどうしようかと思ったぞ。ラズ、私の事もリカルド、リドと呼んでくれ」
グッとラズは喉を鳴らした。二人を相手にするよりよほど勇気がいることだ。簡単に「いいです」とは言えない。
「三人だけの時なら……」
人の目が怖い。とくにウィス様のファンには刺されそうだ。
「駄目だ、伴侶であることを見せびらかしてくれ」
「そうです、ラズが私達の伴侶であることを周知しないと安心できません。そうだ、明日すぐに結婚しましょう」
二人の強固な台詞を聞いて、ラズはおずおずと訊ねた。
「えっと、どちらと?」
結婚の誓約書には二人分しか名前を書くところがないのだ。どちらかと結べば、もう片方とは許されない。
二人は考えていなかったのかまたもや固まってしまった。
「そうでしたね。すっかりラズとの新婚生活をどうするかを考えていて、抜け落ちていました。結婚は少しだけ待ってもらえますか?」
「別に結婚しなくても……」
「「駄目」」
半分は本気で愛妾でもいいかと思うのだ。もう半分は二人を誰にも渡したくないという独占欲で、それ故に二人を困らせたくないと思ってしまう。
「ラズ、どうか時間をください」
「ウィス様……」
「……ウィスと――」
乞うように懇願されるとラズは弱い。ウィス様、いやウィスランドはラズの性格を見抜いているのだろう。
「ウィス、任せます。無理だったら……」
気にしないでくださいと言おうとしたら顔を上に向けられて、背後から覆い被さるようにリド様、もといリカルドがキスをしてきた。
「んぅ!」
苦しくて身じろぐと、フッとリカルドは笑う。
「ラズ、私の名前も呼んでくれ」
それなら言葉だけでいいのに。キスした意味とは。
「リド、俺は二人に無理をして欲しくないんです」
リカルドよりリドのほうがしっくりくる。
二人が困ったり、弱ったりして欲しくないと思ってラズは訴えた。
「ラズは私達を見くびっているぞ、ウィス。ラズは安心して気持ちよくなっていればいい」
見くびっているわけではないけれど、しがらみとかあるはずだ。侯爵家の跡継ぎなのだから。
「団長がいなくなったら困るのは国ですからね」
ラズを安心させるようにウィスランドは微笑んだ。
「ウィス、お前もリカルドかリドって呼ぶように。私達は平等だろう?」
リカルドがそう言うとウィスランドは眉を寄せた。
「ラズの事に関しては平等ですけど、団長でいいですよ」
いかにも面倒くさそうに言った。
「なんなら昔のようにリド兄様って呼んでもいいぞ」
「え、リド兄様って呼んでたんですか」
『リド兄様』なんて呼ぶ小さなウィスランドを想像したら、何だか癒された。絶対可愛かっただろう。そう思ったのがバレたのかウィスランドの目が据わる。
「従兄弟だから……可笑しくないでしょう?」
「ですね~、そうですね」
ラズは素直に頷いた。ウィスランドを刺激してはいけない。
「もうっ、リカルドが悪いです」
ウィスランドはリカルドと呼ぶことに決めたようだ。『リド兄様』でいいのにと思った事は内緒にしておこうと思う。
16
https://comicomi-studio.com/goods/detail/171091 通販してます
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
しば犬ホストとキツネの花屋
ことわ子
BL
【相槌を打たなかったキミへ】のスピンオフ作品になります。上記を読んでいなくても理解できる内容となっています。
とりあえずビッグになるという目標の元、田舎から上京してきた小太郎は源氏名、結城ナナトと名乗り新人ホストをしていた。
ある日、店の先輩ホストであるヒロムが女の人と歩いているのを目撃する。同伴もアフターもしないヒロムが女の人を連れていることが気になり、興味本位で後をつけることにした小太郎だったが──

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。

出会ったのは喫茶店
ジャム
BL
愛情・・・
相手をいつくしみ深く愛すること・・・
僕にはそんな感情わからない・・・
愛されたことがないのだから・・・
人間として生まれ、オメガであることが分かり、両親は僕を疎ましく思うようになった
そして家を追い出される形でハイワード学園の寮に入れられた・・・
この物語は愛情を知らないオメガと愛情をたっぷり注がれて育った獅子獣人の物語
この物語には「幼馴染の不良と優等生」に登場した獅子丸博昭の一人息子が登場します。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?
爺誤
BL
気づいたら美女な妹とともに監獄行きを宣告されていた俺。どうも力の強い魔法使いらしいんだけど、魔法を封じられたと同時に記憶や自我な一部を失った模様だ。封じられているにもかかわらず使えた魔法で、なんとか妹は逃したものの、俺は離島の監獄送りに。いちおう貴族扱いで独房に入れられていたけれど、綺麗どころのない監獄で俺に目をつけた男がいた。仕方ない、妹に似ているなら俺も絶世の美形なのだろうから(鏡が見たい)

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。

宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる