騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

文字の大きさ
上 下
45 / 62

愛妾

しおりを挟む
「ラズ、嬉しいです」
「ラズならそう言ってくれると思っていた」

 二人は喜んでラズを更に強く抱きしめた。お陰でラズは脚が床に届かない。

「苦しいです!」
「ははっ、悪かった」

 謝りはしてもリド様もウィス様も離そうとしてくれない。大した力をいれていないつもりでもラズは苦しくて呻く。

「もぅ、離れてください!」

 二人を離そうとしても無駄だった。どっちも先に離したくないのか、ラズをギュウギュウと押しつぶしそうな勢いだ。
 ラズはため息を吐いて、バチッと自分の両手から火花を散らした。自分の魔法とはいえ、ラズも熱かった。まさかこんなところで痴漢よけの魔法を使うことになるとは思っていなかったのに。

「痛いです、ラズ」
「俺も痛いって言ってるじゃないですか。二人が離れてくれないなら何度でもやりますよ」

 地味に痛いはずだ。それにラズの魔力はそれほど多くないから何度もやっていればラズが倒れる。二人にはそれが一番堪えると思ったラズの捨て身の作戦である。

「わかりました。離れますから」

 ラズの意図をくみ取って二人はしぶしぶ離れてくれた。

「俺が子供を産めるかどうかわかりませんし、二人の子供を順番に産めるともかぎりません。そういうことも話しておかないと……」

 相性というものがあるらしいから、もしかしたらウィス様の子供しか産まれないかもしれないし、リド様の子供しか産まれないかもしれない。何よりどっちの子供かわからない可能性もある。

「ラズが産んでくれたらどっちの子でもいいですよ」
「ああ、ラズの子というのが大事なんだ」

 そうなの? とラズは首を捻った。由緒正しき侯爵家の跡取りの子供がどっちの子でもいいとかありえないような気がする。しかも当代で一番竜の血の濃いリド様と二番手のウィス様だ。

「あ、もしかして俺は愛妾なのか……」

 愛していると言われたせいもあるけれど正妻のつもりだったラズは恥ずかしそうに頬を掻いた。
 それなら合点がいく。一人で二人と結婚するわけにはいかないのだ。二人はそれぞれに相応しい正妻をえて、ラズを共有するつもりだったのだろう。それなら問題はない。跡継ぎはそれぞれに正妻と作ればどっちがどっちとか考えなくてもいいのだから。
 ウィス様は潔癖症があるから大変かもしれないが、やろうと思えばなんとかなるだろう。

「「ラズ!?」」
「それなら、俺も仕事を続けられるし……っ!」

 考えてみれば悪いことだけじゃない。今の職場はラズにとって最高の場所なのだ。沢山ケーキやお菓子を覚えて、将来は街にお店をもてたら最高だろうなと思ったところで、今度は前と後ろから抱きしめられた。リド様が後ろで、ウィス様が前だ。

「ラズ、そんな顔をして言うものじゃない……」
「ラズ以外はいらないってわからないんですか!」

 上から唾が降ってきた。

「だって……」
「だってじゃありません」

 ウィス様の目が据わっている。

「ラズは、私達の気持ちを軽んじてる。ウィス、そんな子には……、お仕置きが必要だと思わないか?」

 リド様はラズの耳元で甘く囁いた。後ろから押しつけられた下腹部が何だか、盛り上がっているように感じる。いや、そんなはずはない。リド様に限って、こんな真っ昼間から……。

「そうですね。ラズ、私にも許せることと許せないことがあるんです。例えあなた本人だとしても、私の最愛のラズを貶めることは許せません」

 ラズはコクリと唾を飲み込んだ。ウィス様の青紫の瞳が、これ以上ないくらい色気を湛えていたからだ。



しおりを挟む
https://comicomi-studio.com/goods/detail/171091 通販してます
感想 5

あなたにおすすめの小説

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?

爺誤
BL
気づいたら美女な妹とともに監獄行きを宣告されていた俺。どうも力の強い魔法使いらしいんだけど、魔法を封じられたと同時に記憶や自我な一部を失った模様だ。封じられているにもかかわらず使えた魔法で、なんとか妹は逃したものの、俺は離島の監獄送りに。いちおう貴族扱いで独房に入れられていたけれど、綺麗どころのない監獄で俺に目をつけた男がいた。仕方ない、妹に似ているなら俺も絶世の美形なのだろうから(鏡が見たい)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

処理中です...