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愛妾
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「ラズ、嬉しいです」
「ラズならそう言ってくれると思っていた」
二人は喜んでラズを更に強く抱きしめた。お陰でラズは脚が床に届かない。
「苦しいです!」
「ははっ、悪かった」
謝りはしてもリド様もウィス様も離そうとしてくれない。大した力をいれていないつもりでもラズは苦しくて呻く。
「もぅ、離れてください!」
二人を離そうとしても無駄だった。どっちも先に離したくないのか、ラズをギュウギュウと押しつぶしそうな勢いだ。
ラズはため息を吐いて、バチッと自分の両手から火花を散らした。自分の魔法とはいえ、ラズも熱かった。まさかこんなところで痴漢よけの魔法を使うことになるとは思っていなかったのに。
「痛いです、ラズ」
「俺も痛いって言ってるじゃないですか。二人が離れてくれないなら何度でもやりますよ」
地味に痛いはずだ。それにラズの魔力はそれほど多くないから何度もやっていればラズが倒れる。二人にはそれが一番堪えると思ったラズの捨て身の作戦である。
「わかりました。離れますから」
ラズの意図をくみ取って二人はしぶしぶ離れてくれた。
「俺が子供を産めるかどうかわかりませんし、二人の子供を順番に産めるともかぎりません。そういうことも話しておかないと……」
相性というものがあるらしいから、もしかしたらウィス様の子供しか産まれないかもしれないし、リド様の子供しか産まれないかもしれない。何よりどっちの子供かわからない可能性もある。
「ラズが産んでくれたらどっちの子でもいいですよ」
「ああ、ラズの子というのが大事なんだ」
そうなの? とラズは首を捻った。由緒正しき侯爵家の跡取りの子供がどっちの子でもいいとかありえないような気がする。しかも当代で一番竜の血の濃いリド様と二番手のウィス様だ。
「あ、もしかして俺は愛妾なのか……」
愛していると言われたせいもあるけれど正妻のつもりだったラズは恥ずかしそうに頬を掻いた。
それなら合点がいく。一人で二人と結婚するわけにはいかないのだ。二人はそれぞれに相応しい正妻をえて、ラズを共有するつもりだったのだろう。それなら問題はない。跡継ぎはそれぞれに正妻と作ればどっちがどっちとか考えなくてもいいのだから。
ウィス様は潔癖症があるから大変かもしれないが、やろうと思えばなんとかなるだろう。
「「ラズ!?」」
「それなら、俺も仕事を続けられるし……っ!」
考えてみれば悪いことだけじゃない。今の職場はラズにとって最高の場所なのだ。沢山ケーキやお菓子を覚えて、将来は街にお店をもてたら最高だろうなと思ったところで、今度は前と後ろから抱きしめられた。リド様が後ろで、ウィス様が前だ。
「ラズ、そんな顔をして言うものじゃない……」
「ラズ以外はいらないってわからないんですか!」
上から唾が降ってきた。
「だって……」
「だってじゃありません」
ウィス様の目が据わっている。
「ラズは、私達の気持ちを軽んじてる。ウィス、そんな子には……、お仕置きが必要だと思わないか?」
リド様はラズの耳元で甘く囁いた。後ろから押しつけられた下腹部が何だか、盛り上がっているように感じる。いや、そんなはずはない。リド様に限って、こんな真っ昼間から……。
「そうですね。ラズ、私にも許せることと許せないことがあるんです。例えあなた本人だとしても、私の最愛のラズを貶めることは許せません」
ラズはコクリと唾を飲み込んだ。ウィス様の青紫の瞳が、これ以上ないくらい色気を湛えていたからだ。
「ラズならそう言ってくれると思っていた」
二人は喜んでラズを更に強く抱きしめた。お陰でラズは脚が床に届かない。
「苦しいです!」
「ははっ、悪かった」
謝りはしてもリド様もウィス様も離そうとしてくれない。大した力をいれていないつもりでもラズは苦しくて呻く。
「もぅ、離れてください!」
二人を離そうとしても無駄だった。どっちも先に離したくないのか、ラズをギュウギュウと押しつぶしそうな勢いだ。
ラズはため息を吐いて、バチッと自分の両手から火花を散らした。自分の魔法とはいえ、ラズも熱かった。まさかこんなところで痴漢よけの魔法を使うことになるとは思っていなかったのに。
「痛いです、ラズ」
「俺も痛いって言ってるじゃないですか。二人が離れてくれないなら何度でもやりますよ」
地味に痛いはずだ。それにラズの魔力はそれほど多くないから何度もやっていればラズが倒れる。二人にはそれが一番堪えると思ったラズの捨て身の作戦である。
「わかりました。離れますから」
ラズの意図をくみ取って二人はしぶしぶ離れてくれた。
「俺が子供を産めるかどうかわかりませんし、二人の子供を順番に産めるともかぎりません。そういうことも話しておかないと……」
相性というものがあるらしいから、もしかしたらウィス様の子供しか産まれないかもしれないし、リド様の子供しか産まれないかもしれない。何よりどっちの子供かわからない可能性もある。
「ラズが産んでくれたらどっちの子でもいいですよ」
「ああ、ラズの子というのが大事なんだ」
そうなの? とラズは首を捻った。由緒正しき侯爵家の跡取りの子供がどっちの子でもいいとかありえないような気がする。しかも当代で一番竜の血の濃いリド様と二番手のウィス様だ。
「あ、もしかして俺は愛妾なのか……」
愛していると言われたせいもあるけれど正妻のつもりだったラズは恥ずかしそうに頬を掻いた。
それなら合点がいく。一人で二人と結婚するわけにはいかないのだ。二人はそれぞれに相応しい正妻をえて、ラズを共有するつもりだったのだろう。それなら問題はない。跡継ぎはそれぞれに正妻と作ればどっちがどっちとか考えなくてもいいのだから。
ウィス様は潔癖症があるから大変かもしれないが、やろうと思えばなんとかなるだろう。
「「ラズ!?」」
「それなら、俺も仕事を続けられるし……っ!」
考えてみれば悪いことだけじゃない。今の職場はラズにとって最高の場所なのだ。沢山ケーキやお菓子を覚えて、将来は街にお店をもてたら最高だろうなと思ったところで、今度は前と後ろから抱きしめられた。リド様が後ろで、ウィス様が前だ。
「ラズ、そんな顔をして言うものじゃない……」
「ラズ以外はいらないってわからないんですか!」
上から唾が降ってきた。
「だって……」
「だってじゃありません」
ウィス様の目が据わっている。
「ラズは、私達の気持ちを軽んじてる。ウィス、そんな子には……、お仕置きが必要だと思わないか?」
リド様はラズの耳元で甘く囁いた。後ろから押しつけられた下腹部が何だか、盛り上がっているように感じる。いや、そんなはずはない。リド様に限って、こんな真っ昼間から……。
「そうですね。ラズ、私にも許せることと許せないことがあるんです。例えあなた本人だとしても、私の最愛のラズを貶めることは許せません」
ラズはコクリと唾を飲み込んだ。ウィス様の青紫の瞳が、これ以上ないくらい色気を湛えていたからだ。
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