騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

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竜ではなく人として

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「え……」

 ラズは二人の抱擁に戸惑う。

「ラズ、竜は番となる伴侶のみを愛します。私達が竜の血を引いていることは知っていますよね?」

 ウィス様の顔が近くてラズは目のやり場に困った。まつげまで銀色で美しい。

「はい、竜の血を持つ人は貴実に惹かれるんですよね。だから俺、なんでしょうか」

 パチパチと大げさにウィス様は瞬いた。

「ラズ、魔術学校を卒業して私に宛がわれようとした人達も貴実ですよ。それで言えば、あの人達でも良かったことになりませんか?」

 嫁候補が貴実。きっと由緒正しい王族の貴実だろう。
 
「どうして嫌だったんですか?」
「性格です。私はラズの仕事に対する真面目なところや、孤児達に対する責任感、後はお菓子の美味しさに惚れました。私を種馬のように見ていたあの人達とは違います。ラズが貴実で良かったとは思いますけど、貴実でなくても私はあなたに惹かれていたと思います」
「ウィス様は跡継ぎなのですから……」

 種馬というのも頷ける話だ。優秀な血を継ぐ子供がいないとラズの家のように跡継ぎに困ることになるからだ。

「私はラズがいらないというなら、子供をもたなくても構いません」
「ハイネガー家はどうするんですか!」

 古くからある侯爵家だ。その務めをウィス様が放棄するとは思えなかった。

「ラズは忘れているかもしれませんが……、私が他の人に触れるとも思いません」

 ウィス様の潔癖症は治ったんじゃなかったのかとラズは手を確認する。手袋ははめていないし、魔力の流れも感じない。薄く魔力を循環して薄い手袋のようにつけている訳でもなさそうだ。

「ラズだから素手で触れるんですよ」

 そう言われるとラズは言えなくなってしまう。どちらかを選べない。選ぶしかないなら、選ばない。ラズの強張った顔を見て、リド様は頬を撫でた。

「ラズ、私達は竜の血を引いているけれど、竜ではない。意味がわかるか?」

 リド様がなぞなぞのようなことを言う。どう見ても竜には見えない。けれど竜の血があるから他の竜からこの国を護れるということは子供でも知っていることだ。

「竜ができないことができる? ということでしょうか」
「そうだ、えらいな」

 褒められて、釈然としない気分だ。意味がわからないのに褒められても困る。

「竜は伴侶一人に愛を注ぐ。これは変わらない。だが、ラズが……ウィスを愛していても私は狂わない。私のことも愛してくれるのなら……」
「実際にどうなるかはわかりませんが、私も大丈夫だと思っています。ラズ、選べないなら、選ばなくていい。どっちも欲しいと望んでくれませんか?」

 リド様の言葉の意味もウィス様の笑顔の意味も、ラズにはよくわからなかった。ただ、自分のために二人が言葉を尽くしてくれたことだけはわかる。
 グッとこみ上げてくるものが二人を失わなくていいという安堵だということにラズは気がついた。

「望みます」

 ラズは今、神聖な誓いを二人にささげた。


 


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