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デコレーションケーキ
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ラズは三日という猶予ができて、考えた。
今更リド様とウィス様は友達です、なんて言えるはずもない。ウィス様はプロポーズをするといい、リド様には愛してると言われたし、自分の気持ちも固まっている。
ただ、どう伝えるべきかわからなかった。ラズにとっては初めてのことなのだ。
英雄であるリド様、表にはでていないものの同様にウィス様も英雄であることはわかる。その二人にお前は相応しいのかと聞かれると「ちがう」としか言いようがない。
いざとなれば伯爵家を名乗ってもいいと父は言っていたし、出自はなんとかなるだろう。出自は。
鏡を見て、ため息を吐く。
「これだもんな……」
ラズは貴実として中途半端と言わざるを得ない。薄いピンクの瞳、貴実の瞳は深紅と決まっている。金の髪も、貴実としてはくすんでいる。今現在染めている茶色と貴実の金の髪の色を足して二で割ったような色だ。
貴実として成ったと(成人した)と言われても腸に子供を産むための器官ができたかどうか見ることもできない。ついでに成長も止まったはずだ。貴実は伴侶が衰えるまで容姿に変化がないという。つまり、もうこの身長は伸びないのだ……。
「辛すぎる……」
騎士と比べて小さいのはしかたがないが、料理人も比較的身体が大きく身長も高いものが多いのだ。調理台が自分のサイズに合っていないので、ラズは身長が伸びることを期待していたというのに。涙がこぼれそうだ。ものをとるのは魔法で何とかできるとして、調理台の高さを何とかできるわけもないし。
「はぁ、まぁ仕方ない」
ラズの人生において諦めるということは日常的なものであった。
ラズは鞄を用意して荷物を詰めていく。今日は午後から二人と約束しているので午前中は孤児院へいってお菓子を作るのだ。
身長はいい。言っても仕方が無い。貴実としてイマイチである自覚があるだけに二人に相応しいと胸を張ることができなくて、辛いのだ。しかも、二人だ。どちらも侯爵家の跡取りである。どっちを袖にすることも、どっちを選ぶこともラズにはできなかった。
彼らの愛情が見えたら良いのに。愛情といわれるものを数値で測って、どっちの愛情が上だからそっちに行きますと言えたら、ラズはこんなにグルグル悩まなくて済んだのに。
朝ご飯を食べながらエカテおばさんに零したら「どっちの数値も振り切れてそうね」と笑われた。
ラズは、こんなに暑い日なのに、少しだけ寒気を感じた。
「おはよう、クロ」
ユーリの名前は返してもらうことにした。ラズがユーリアスを名乗るつもりはないが、リド様に「ユーリ、可愛い」と撫でてもらう犬に嫉妬したくないからだ。
「ラズ兄ちゃん、クロはユーリじゃなくていいの?」
「ああ、もういいんだ。クロ、ごめんな。名前がコロコロ変わって困っただろう?」
「クロはいいやつだから、気にしてないよ」
謝ったラズをサイは励ましてくれる。
「そうだな、クロ。これ食べて良いぞ」
昨日職場でもらってきた肉の端切れをクロにやると尻尾で空を飛べるんじゃないかと思うほど振ってくれた。
「ラズ兄ちゃん、今日はどのお菓子を作るの?」
「うん、クッキーとマフィンはサイ達が作ってくれるか? 魔法は俺が掛けるから。今日は作りたいものがいくつもあるんだ」
「試食?」
期待に顔を輝かせた子供達にラズは頷いた。
「ああ、楽しみにしてろ」
「ラズ、お帰りなさい」
母がいつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。話したいことも聞きたいこともあるけれど、ラズは今でなくてもいいかと思っていた。ラズに内緒にしていた父のことやラズを殺そうとした男のことだ。多分、母は沢山悩んで、決断したのだと思う。ラズのことを思って決めたことを何も知らず護られていたラズが非難することはできない。母が話したいと思った時に聞けばいい。
「ただいま帰りました。今日は団長と副長にお菓子を持って行くので、バザーのほうは任せていいですか?」
「ええ、もちろんよ。あの男前の団長さん、ラズのお菓子が大好きだものね」
「はい、副長も男前なんです。今度連れてきますね」
「あら、惚気かしら。本命はどっちなの?」
母は笑いながら、お菓子の計量を始めた。母はこの手の話が好きなので今更焦ることも目くじらを立てることもない。
子供達が一人二人と増えていくにつれて、二人のすることは多くなるので話は途切れ途切れになる。
「どっちもです。選べません」
「ラズは昔から一つを選ぶのが苦手だったものね」
優柔不断なのは昔からだったかと首を傾げる。
計量を終えた子のバターを少し柔らかくするのはラズの役目だ。
「そうでしたっけ?」
「どっちを選んでも後悔する時は、選ばない子だったわ」
「覚えてません」
後は焼く直前まで子供達でできるので、ラズは自分の持ってきたレシピをとりだして準備をする。
「でも今回はどちらも諦めないのね」
「一生に一度くらい、欲張りになりたいと思って」
「そうね。大事なものは諦めちゃ駄目。覚悟していてもやっぱり後悔することになるから、怖がらないで進みなさい」
母を見ると、愛情が籠もった瞳と視線がぶつかった。
「はい」
ラズは素直に返事をした。母がいてくれてよかったとラズはそう思った。
生クリームを泡立てる時は空気を含むように、泡立て器に魔法で振動を加える。すると滑らかなホイップができあがる。焼いて冷やしたスポンジケーキにデコレートしていくと、真っ白な雪原のように見えた。スポンジの間にはこの前作った桃のコンポートを挟んでいる。これだとリド様のためだけに作ったように見えそうだから、スポンジには木の実をスライスしたものを敷いた。ウィス様は木の実の食感が好きなのだ。
二人が食べてくれると嬉しい。
「うわぁ美味しそう! 兄ちゃん、俺たちの分は?」
子供達はキラキラした目でラズを見上げる。
「こっちにあるよ。デコレーションは好きにしていいよ」
そう言うと我先にと子供達が自分の好きなものをトッピングしていく。
「あらあら、そんなに沢山のせたら綺麗に切れないわよ」
母の楽しそうな声を聞きながら、ラズは箱にケーキを入れて魔法で固定、冷蔵をした。
「じゃあ、行ってきます」
「ラズ兄ちゃん、気をつけていってらっしゃい」
子供達と母に見送られて、ラズは孤児院を後にした。
今更リド様とウィス様は友達です、なんて言えるはずもない。ウィス様はプロポーズをするといい、リド様には愛してると言われたし、自分の気持ちも固まっている。
ただ、どう伝えるべきかわからなかった。ラズにとっては初めてのことなのだ。
英雄であるリド様、表にはでていないものの同様にウィス様も英雄であることはわかる。その二人にお前は相応しいのかと聞かれると「ちがう」としか言いようがない。
いざとなれば伯爵家を名乗ってもいいと父は言っていたし、出自はなんとかなるだろう。出自は。
鏡を見て、ため息を吐く。
「これだもんな……」
ラズは貴実として中途半端と言わざるを得ない。薄いピンクの瞳、貴実の瞳は深紅と決まっている。金の髪も、貴実としてはくすんでいる。今現在染めている茶色と貴実の金の髪の色を足して二で割ったような色だ。
貴実として成ったと(成人した)と言われても腸に子供を産むための器官ができたかどうか見ることもできない。ついでに成長も止まったはずだ。貴実は伴侶が衰えるまで容姿に変化がないという。つまり、もうこの身長は伸びないのだ……。
「辛すぎる……」
騎士と比べて小さいのはしかたがないが、料理人も比較的身体が大きく身長も高いものが多いのだ。調理台が自分のサイズに合っていないので、ラズは身長が伸びることを期待していたというのに。涙がこぼれそうだ。ものをとるのは魔法で何とかできるとして、調理台の高さを何とかできるわけもないし。
「はぁ、まぁ仕方ない」
ラズの人生において諦めるということは日常的なものであった。
ラズは鞄を用意して荷物を詰めていく。今日は午後から二人と約束しているので午前中は孤児院へいってお菓子を作るのだ。
身長はいい。言っても仕方が無い。貴実としてイマイチである自覚があるだけに二人に相応しいと胸を張ることができなくて、辛いのだ。しかも、二人だ。どちらも侯爵家の跡取りである。どっちを袖にすることも、どっちを選ぶこともラズにはできなかった。
彼らの愛情が見えたら良いのに。愛情といわれるものを数値で測って、どっちの愛情が上だからそっちに行きますと言えたら、ラズはこんなにグルグル悩まなくて済んだのに。
朝ご飯を食べながらエカテおばさんに零したら「どっちの数値も振り切れてそうね」と笑われた。
ラズは、こんなに暑い日なのに、少しだけ寒気を感じた。
「おはよう、クロ」
ユーリの名前は返してもらうことにした。ラズがユーリアスを名乗るつもりはないが、リド様に「ユーリ、可愛い」と撫でてもらう犬に嫉妬したくないからだ。
「ラズ兄ちゃん、クロはユーリじゃなくていいの?」
「ああ、もういいんだ。クロ、ごめんな。名前がコロコロ変わって困っただろう?」
「クロはいいやつだから、気にしてないよ」
謝ったラズをサイは励ましてくれる。
「そうだな、クロ。これ食べて良いぞ」
昨日職場でもらってきた肉の端切れをクロにやると尻尾で空を飛べるんじゃないかと思うほど振ってくれた。
「ラズ兄ちゃん、今日はどのお菓子を作るの?」
「うん、クッキーとマフィンはサイ達が作ってくれるか? 魔法は俺が掛けるから。今日は作りたいものがいくつもあるんだ」
「試食?」
期待に顔を輝かせた子供達にラズは頷いた。
「ああ、楽しみにしてろ」
「ラズ、お帰りなさい」
母がいつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。話したいことも聞きたいこともあるけれど、ラズは今でなくてもいいかと思っていた。ラズに内緒にしていた父のことやラズを殺そうとした男のことだ。多分、母は沢山悩んで、決断したのだと思う。ラズのことを思って決めたことを何も知らず護られていたラズが非難することはできない。母が話したいと思った時に聞けばいい。
「ただいま帰りました。今日は団長と副長にお菓子を持って行くので、バザーのほうは任せていいですか?」
「ええ、もちろんよ。あの男前の団長さん、ラズのお菓子が大好きだものね」
「はい、副長も男前なんです。今度連れてきますね」
「あら、惚気かしら。本命はどっちなの?」
母は笑いながら、お菓子の計量を始めた。母はこの手の話が好きなので今更焦ることも目くじらを立てることもない。
子供達が一人二人と増えていくにつれて、二人のすることは多くなるので話は途切れ途切れになる。
「どっちもです。選べません」
「ラズは昔から一つを選ぶのが苦手だったものね」
優柔不断なのは昔からだったかと首を傾げる。
計量を終えた子のバターを少し柔らかくするのはラズの役目だ。
「そうでしたっけ?」
「どっちを選んでも後悔する時は、選ばない子だったわ」
「覚えてません」
後は焼く直前まで子供達でできるので、ラズは自分の持ってきたレシピをとりだして準備をする。
「でも今回はどちらも諦めないのね」
「一生に一度くらい、欲張りになりたいと思って」
「そうね。大事なものは諦めちゃ駄目。覚悟していてもやっぱり後悔することになるから、怖がらないで進みなさい」
母を見ると、愛情が籠もった瞳と視線がぶつかった。
「はい」
ラズは素直に返事をした。母がいてくれてよかったとラズはそう思った。
生クリームを泡立てる時は空気を含むように、泡立て器に魔法で振動を加える。すると滑らかなホイップができあがる。焼いて冷やしたスポンジケーキにデコレートしていくと、真っ白な雪原のように見えた。スポンジの間にはこの前作った桃のコンポートを挟んでいる。これだとリド様のためだけに作ったように見えそうだから、スポンジには木の実をスライスしたものを敷いた。ウィス様は木の実の食感が好きなのだ。
二人が食べてくれると嬉しい。
「うわぁ美味しそう! 兄ちゃん、俺たちの分は?」
子供達はキラキラした目でラズを見上げる。
「こっちにあるよ。デコレーションは好きにしていいよ」
そう言うと我先にと子供達が自分の好きなものをトッピングしていく。
「あらあら、そんなに沢山のせたら綺麗に切れないわよ」
母の楽しそうな声を聞きながら、ラズは箱にケーキを入れて魔法で固定、冷蔵をした。
「じゃあ、行ってきます」
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