騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

文字の大きさ
上 下
38 / 62

侵入者、二人

しおりを挟む
「「ラズ!」」

宙に浮いたお守りの光は魔方陣だった。空中に描かれた魔方陣からウィス様と何故かリド様まで現れて、ラズは驚きと共に安堵した。

「ウィス様! リド様!」

 魔方陣を蹴るようにして床に着地した二人は、ラズを見てギョッと目を剥いた。視線の先が自分の上半身で、そう言えば何も着ていない上に首輪つきだったことを思い出して、ラズは慌ててシーツを引き寄せた。

「貴様ら! 誰の屋敷だと思ってる――!」

 レイフはラズを隠すように二人の侵入者に立ち塞がった。ウィス様やリド様を知らないわけがないのにその台詞をよく言えたな……とラズはレイフの背中を見ながらこっそり思う。 レイフがどれほどの魔力を持っているのかわからないけれど、普通ならこの覇気に耐えられるとは思えない。レイフが竜の血筋を持っているというのは本当のことなのだろう。

「ラズを誘拐しておいてよく言ったものだな」

 リド様の目は鬼と呼ばれるに相応しくつり上がっていた。ラズは怯えてしまいそうになる自分を叱咤激励する。助けに来てくれた人に怯えるわけにはいかない。
 リド様は、見せつけるようにゆっくりと腰に佩いた剣を抜く。刀身が赤く光って見えた。

「誘拐? 婚約者を婚約者の家に連れて帰っただけの話だ」
「婚約者?」

 ラズは思わず顔を俯けた。聞かれたくないし、知られたくなかったことなのに。

「ユーリアス・リスティオンは跡を継ぐ私のものだ」

 ウィス様が怪訝な顔で聞き返したことに機嫌を良くして、レイフは歌うように高らかと宣言した。

「ユーリアス・リスティオンは死亡届けが出ています。今更ですよ」

 何故、ウィス様がそのことを知っているのかわからず、ラズは視線を彷徨わせた。

「お前の婚約者はユーリアスの妹のはずだが」

 リド様もウィス様と平然とレイフに事実を告げる。死亡届けが出ているだろうとおもっていたけれどラズは確かめたわけではなかったので知らなかったことだ。それを何故二人が知っているんだろうと視線を二人に向けた。

「どうして――」
 
 ラズは問わずにはいられなかった。二人には何も言っていないはずなのに。

「「調べた」」

 悪びれもせず、口調も揃えた二人にラズは目眩がした。 

「ユーリ兄ちゃんで、ユーリが犬っていうのは無理があったぞ、ラズ」
「うぐっ」

 穴があったら入りたくなるくらい恥ずかしい。『可愛い、ユーリ』と連呼していたのは嫌がらせだったのだ。

「私は好きな人のことは何でも知りたい質のようです。孤児院の線から弾きだしました。孤児院に毎年多額の資金援助しているリスティオン伯爵から調べたんです。ラズは貴実でしょう? 絶対いないとはいいませんが、私は平民の貴実は見たことがなかったので」
「俺は貴実じゃ……」

 ないと思うけれど、絶対とは言い切れない。それに、父が孤児院に寄付していることは知らなかった。それなら、何故と……やりきれない思いが溢れる。
 ラズが思いふけるのを破ったのは、レイフのとんでもない言葉だった。

 
「ユーリは私のものだ。既に契りも交わしている」

 あまりに驚きすぎて、ラズは声を失った。
 ラズの衝撃を見たリド様は、本当の事だと思ったのだろうか。その瞬間、リド様の剣から白金に輝く魔力の塊が飛び出した。

「ひぇ!」

 ラズの口から変な声が出た。まさか、家の中で? とラズは身体を強張らせる。それをどうやったのかレイフは弾いて見せた。凄まじい轟音が轟いて窓のあった方の壁が吹き飛び、丸くぽっかりあいた穴から空が見えた。

「団長、ラズにあたったらどうするんですか!」

 本当にその通りだ。レイフが弾け飛んだらラズも無事ではすまなかっただろう。

「殺す!」

 リド様の声には殺気が感じられた。いつもの鷹揚で優しい団長ではなく、嫉妬に我を忘れた男に見えた。

「え……、団長、本気にしたんじゃありませんよね……」

 ウィス様はレイフの挑発だと気付いていないリド様を呆気にとられて見つめている。二度目の攻撃をレイフが弾くその瞬間、ラズは右にある扉が開くのを見た。隙間に輝くのはセシリアの金の髪だ。

「お兄様! ご無事ですか!」
「お嬢様、危険です」

 止めるジェシカの声、ラズは無意識に『妹を護らなければ!』と思った。身体は危険を察知して自分の力以上の速さでラズを扉の方へと走らせた。

「「ラズ!!」」
「ユーリ!」

 レイフの手が、ラズを掴もうとして空を切った。

「セシリア!」

 どうしたって間に合わない。軌道を塞げばセシリアを護れるだろうか。
 ラズはそれに賭けた。
 背後にどどろく音、熱さを感じる。ラズはチリッと髪が焼ける音を聞いた、ような気がした。


しおりを挟む
https://comicomi-studio.com/goods/detail/171091 通販してます
感想 5

あなたにおすすめの小説

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?

爺誤
BL
気づいたら美女な妹とともに監獄行きを宣告されていた俺。どうも力の強い魔法使いらしいんだけど、魔法を封じられたと同時に記憶や自我な一部を失った模様だ。封じられているにもかかわらず使えた魔法で、なんとか妹は逃したものの、俺は離島の監獄送りに。いちおう貴族扱いで独房に入れられていたけれど、綺麗どころのない監獄で俺に目をつけた男がいた。仕方ない、妹に似ているなら俺も絶世の美形なのだろうから(鏡が見たい)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...