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レイフの想い
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眠れるはずがなかった。八年ぶりに会った妹はラズを疎ましく思っているようだし、レイフの行動も気になる。明日の朝の仕事に間に合わないのが何より辛かった。孤児であるラズにとって信用がどれだけ大事なものであるのかセシリアには理解できないに違いない。
「どうしてレイフは俺のことを……」
ラズはレイフが何を考えているのか全くわからなかった。出会ったのは六つくらいの時だった。レイフは二つくらい年上だったけれど身体が小さくて、まだ魔力もラズと同じくらいだった。二年ほど経つとレイフが大きくなって魔力も強くなってきて、ラズへの執着も大きくなってきたはずだ。
「あの頃は小さくて可愛かったのにな……」
「おや、覚えてないって言ったのに。嘘つきはお仕置きしないといけないんだよ」
ガバッと起き上がると扉の内側にレイフが立っていた。音もしなかったのに。セシリアに命じられた護衛が立っていたはずだ。
「どうして……」
「セシリアが私のことを見張っていることは知っていたよ。まさか彼女に先を越されるなんてね」
レイフはさも可笑しそうに笑う。
「セシリアは?」
「どうしてると思う。……そんな顔をしなくても、殺したりしないよ。ユーリが私のものになってくれるならね」
一歩近づく度にラズは尻で後ろに下がっていく。
「お前はどうして俺を――」
少しの距離をおいて、レイフは椅子に座った。ベッドから落ちそうになる前にラズは何とかベッドの影に隠れた。
「どうして? ユーリが私を見つけてくれたんじゃないか」
意味がわからず、ラズは首を振った。そんな覚えはなかった。一緒に遊んだといえば。
「鬼ごっこ?」
「そうだよ!」
嬉しそうな声で肯定されて、ラズは頭の中に疑問符を浮かべた。
「意味がわからない」
「君にはわからないだろうね。私は伯爵家の親戚筋である子爵家の妾の子だったから、よく本家の子にも他の子供達にも苛められていた。鬼ごっこをしても誰も見つけてくれない幽霊だったのさ」
レイフは自分のことなのに可笑しそうに喋る。ラズが覚えているレイフはそんな立場の子ではなかった。ラズと一緒にお菓子を食べている子を押しのけたり、魔法ができることをひけらかしている強い子供だった。
「君は強かったと思う」
「それは……、ユーリが鬼ごっこで私を見つけてくれて……。魔法の勉強を教えてくれて……手を握ってくれて、一緒に頑張ろうって言ってくれたから――。だから頑張ったんだ」
ラズはガクンと頭をベッドの端に押しつけた。レイフだったかは覚えていないけれど、魔法の練習を一緒にやった子は居たな、と記憶の隅から掘り起こしてみた。
「自分の首を絞めてたのか、俺は……」
「ユーリは可愛くて、優しくて……私の憧れだったんだ。でも、私が取り巻きの一人を魔法で怪我をさせてしまって……それでもう行っちゃいけないって言われて……」
あの頃を思い出しているのだろう。口調が子供のようだ。
「ユーリを追い出すつもりなんてなかったんだ! 伯爵家の子供になってユーリを助けようと思ってた。それにユーリのお母様が貴実だったから、きっと将来はユーリをお嫁さんにできるって……承諾したのに――。ユーリはいなくなっていたんだ……」
レイフの目は真剣そのもので、ユーリアスだった頃の自分がどれだけ周りを見ていなかったか今更ながらに思い知った。だからといって、過去は変わらない。ユーリアスは父に見限られて、森の中で死んだ。今はラズとして生きていて、それを捨てたいとも思っていない。
「俺はラズ、だ。ユーリは死んだ。森の中で。だからあんたのことなんか知らない――」
俯いたレイフはフッと唇を歪ませた。笑いというには、昏い笑み。
「ラズでもいい。私のものにする。もう、誰にも奪われないように――」
レイフはベッドを軽く越え、ラズを抱き寄せた。
頤を持ち上げられ髪を撫でられると、ラズの茶色の髪が金に染まった。
「やめっ」
「太陽の光のようだよ、ラズ」
唇が触れた。
「どうしてレイフは俺のことを……」
ラズはレイフが何を考えているのか全くわからなかった。出会ったのは六つくらいの時だった。レイフは二つくらい年上だったけれど身体が小さくて、まだ魔力もラズと同じくらいだった。二年ほど経つとレイフが大きくなって魔力も強くなってきて、ラズへの執着も大きくなってきたはずだ。
「あの頃は小さくて可愛かったのにな……」
「おや、覚えてないって言ったのに。嘘つきはお仕置きしないといけないんだよ」
ガバッと起き上がると扉の内側にレイフが立っていた。音もしなかったのに。セシリアに命じられた護衛が立っていたはずだ。
「どうして……」
「セシリアが私のことを見張っていることは知っていたよ。まさか彼女に先を越されるなんてね」
レイフはさも可笑しそうに笑う。
「セシリアは?」
「どうしてると思う。……そんな顔をしなくても、殺したりしないよ。ユーリが私のものになってくれるならね」
一歩近づく度にラズは尻で後ろに下がっていく。
「お前はどうして俺を――」
少しの距離をおいて、レイフは椅子に座った。ベッドから落ちそうになる前にラズは何とかベッドの影に隠れた。
「どうして? ユーリが私を見つけてくれたんじゃないか」
意味がわからず、ラズは首を振った。そんな覚えはなかった。一緒に遊んだといえば。
「鬼ごっこ?」
「そうだよ!」
嬉しそうな声で肯定されて、ラズは頭の中に疑問符を浮かべた。
「意味がわからない」
「君にはわからないだろうね。私は伯爵家の親戚筋である子爵家の妾の子だったから、よく本家の子にも他の子供達にも苛められていた。鬼ごっこをしても誰も見つけてくれない幽霊だったのさ」
レイフは自分のことなのに可笑しそうに喋る。ラズが覚えているレイフはそんな立場の子ではなかった。ラズと一緒にお菓子を食べている子を押しのけたり、魔法ができることをひけらかしている強い子供だった。
「君は強かったと思う」
「それは……、ユーリが鬼ごっこで私を見つけてくれて……。魔法の勉強を教えてくれて……手を握ってくれて、一緒に頑張ろうって言ってくれたから――。だから頑張ったんだ」
ラズはガクンと頭をベッドの端に押しつけた。レイフだったかは覚えていないけれど、魔法の練習を一緒にやった子は居たな、と記憶の隅から掘り起こしてみた。
「自分の首を絞めてたのか、俺は……」
「ユーリは可愛くて、優しくて……私の憧れだったんだ。でも、私が取り巻きの一人を魔法で怪我をさせてしまって……それでもう行っちゃいけないって言われて……」
あの頃を思い出しているのだろう。口調が子供のようだ。
「ユーリを追い出すつもりなんてなかったんだ! 伯爵家の子供になってユーリを助けようと思ってた。それにユーリのお母様が貴実だったから、きっと将来はユーリをお嫁さんにできるって……承諾したのに――。ユーリはいなくなっていたんだ……」
レイフの目は真剣そのもので、ユーリアスだった頃の自分がどれだけ周りを見ていなかったか今更ながらに思い知った。だからといって、過去は変わらない。ユーリアスは父に見限られて、森の中で死んだ。今はラズとして生きていて、それを捨てたいとも思っていない。
「俺はラズ、だ。ユーリは死んだ。森の中で。だからあんたのことなんか知らない――」
俯いたレイフはフッと唇を歪ませた。笑いというには、昏い笑み。
「ラズでもいい。私のものにする。もう、誰にも奪われないように――」
レイフはベッドを軽く越え、ラズを抱き寄せた。
頤を持ち上げられ髪を撫でられると、ラズの茶色の髪が金に染まった。
「やめっ」
「太陽の光のようだよ、ラズ」
唇が触れた。
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