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拒絶
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リド様の視線を感じながらもラズは無言で歩いていた。何を言ったらいいのか、何を言うべきなのかわからない。言いたくないことばかりで思わず口を閉ざしてしまった。
リド様は思惟にふけってしまうラズに歩調を合わせて隣を歩いている。
「ラズ、部屋に行って良いか?」
レイフのことをどう説明すればいいのだろうか。悩みながらリド様を見たら思ったより近くにいた。
「腰に手をまわすのやめてください。部屋に……ですか」
いつの間にかエスコートされているような状態だった。それすらも気付いてなかった自分にラズは呆れた。
「せっかく恋人になったんだ。部屋に戻ってあんなことやそんなことまで」
リド様は何を想像しているのか、楽しそうだ。あんなことやそんなことって何とは聞きたくない。
「恋人になんてなりませんよ。聞いたって誰も信じたりしません」
「あの男は信じてくれたようだが」
レイフの顔を思い出すと脚に重りをつけられたように歩みが止まってしまった。
「俺の事を知らないからですよ。孤児院出身の平民の料理人です」
「美味しいお菓子で今や大人気のだろう」
「Aランチのことですよね」
リド様がわざとそんな風に茶化していることはわかっている。重苦しくなるラズの心を解そうとしてくれているのだ。
「私もウィスも骨抜きにしたくせに――」
「お菓子がそんなに好きなんですね。もう、子供みたいに口を尖らせないでください」
「お菓子だけと思うか?」
問いかけにラズは目を伏せた。
「恋人は平凡な人でいいんです。同じ平民で、できたら家族が多い人がいい。お金は沢山もってなくてもいいから俺のことを大事にしてくれる人と一緒になりたい。一時の気の迷いはいらないんです」
ちょっと親切にしてやっただけなのに何を自惚れているんだと馬鹿にされてるかもと、いつものラズなら思ったかもしれない。リド様やウィス様は短い付き合いだけど、ラズを同じ人間として接してくれている。だからこそ、恋人のマネなんてしていたらラズが本気になってしまわないとも限らない。
ラズは自分で気持ちを整理してから言葉にした。
「一時の気の迷いか……。ラズはどうしてそう思うんだ? 私はそんな移り気な男に見えるか?」
「そんな人には見えません。でもあなたは貴族ですから。俺は貴族、しかも領地持ちだけは絶対にいやなんです。それくらいなら結婚なんかしなくていい。一人で生きていきます」
ラズは、母と父が愛し合っていると思っていた。母が貧乏な子爵家の末娘で家族に売られるようにして伯爵家へ嫁いだことも、貴実として求められたのに父が望む効果がなく、跡継ぎになれる子供を産むことができなかったとも使用人達の噂で知っていた。それでも二人は穏やかに笑い合っていたし、ラズが出来損ないと罵られることもなかった。
父が優しい人だったとしても伯爵家の当主として、ラズを切り捨て、母を僻地に追いやって跡継ぎを得ることが必要だったのだろう。ラズを馬車から捨て、母を家臣に分け与えようとしたことが父の本意ではないと母は言っていた。その言葉を信じたわけではないけれど、そんなことをしなくてもよかったはずだと今のラズは思う。
ラズが貴実であるかどうかはわからない。神殿に行って判断してもらうか、男に抱かれて子供を身籠もるまでは。
「貴族というだけで嫌なのか?」
ラズは首を振る。爵位の得られない貴族の子弟なら違った。
「貴族になりたくないんです」
「マストのように貴族を捨てれば……」
「そんなことはありえません。ないことを仮定しても意味がありませんから」
リド様は侯爵家の跡継ぎだ。それだけじゃない。国を護る英雄が貴族を捨てられるわけがない。
「ラズ」
「助けてくれてありがとうございました。俺、帰りますね」
振り切るようにラズは駆けた。
自分の尊敬できる人、助けてくれた人に酷いことを言った。きっとウィス様にも伝わるだろう。明日からは避けられるに違いない。ラズはしかたがないと思いつつも、何故か頬に冷たいものが流れるのを止めることができなかった。
リド様は思惟にふけってしまうラズに歩調を合わせて隣を歩いている。
「ラズ、部屋に行って良いか?」
レイフのことをどう説明すればいいのだろうか。悩みながらリド様を見たら思ったより近くにいた。
「腰に手をまわすのやめてください。部屋に……ですか」
いつの間にかエスコートされているような状態だった。それすらも気付いてなかった自分にラズは呆れた。
「せっかく恋人になったんだ。部屋に戻ってあんなことやそんなことまで」
リド様は何を想像しているのか、楽しそうだ。あんなことやそんなことって何とは聞きたくない。
「恋人になんてなりませんよ。聞いたって誰も信じたりしません」
「あの男は信じてくれたようだが」
レイフの顔を思い出すと脚に重りをつけられたように歩みが止まってしまった。
「俺の事を知らないからですよ。孤児院出身の平民の料理人です」
「美味しいお菓子で今や大人気のだろう」
「Aランチのことですよね」
リド様がわざとそんな風に茶化していることはわかっている。重苦しくなるラズの心を解そうとしてくれているのだ。
「私もウィスも骨抜きにしたくせに――」
「お菓子がそんなに好きなんですね。もう、子供みたいに口を尖らせないでください」
「お菓子だけと思うか?」
問いかけにラズは目を伏せた。
「恋人は平凡な人でいいんです。同じ平民で、できたら家族が多い人がいい。お金は沢山もってなくてもいいから俺のことを大事にしてくれる人と一緒になりたい。一時の気の迷いはいらないんです」
ちょっと親切にしてやっただけなのに何を自惚れているんだと馬鹿にされてるかもと、いつものラズなら思ったかもしれない。リド様やウィス様は短い付き合いだけど、ラズを同じ人間として接してくれている。だからこそ、恋人のマネなんてしていたらラズが本気になってしまわないとも限らない。
ラズは自分で気持ちを整理してから言葉にした。
「一時の気の迷いか……。ラズはどうしてそう思うんだ? 私はそんな移り気な男に見えるか?」
「そんな人には見えません。でもあなたは貴族ですから。俺は貴族、しかも領地持ちだけは絶対にいやなんです。それくらいなら結婚なんかしなくていい。一人で生きていきます」
ラズは、母と父が愛し合っていると思っていた。母が貧乏な子爵家の末娘で家族に売られるようにして伯爵家へ嫁いだことも、貴実として求められたのに父が望む効果がなく、跡継ぎになれる子供を産むことができなかったとも使用人達の噂で知っていた。それでも二人は穏やかに笑い合っていたし、ラズが出来損ないと罵られることもなかった。
父が優しい人だったとしても伯爵家の当主として、ラズを切り捨て、母を僻地に追いやって跡継ぎを得ることが必要だったのだろう。ラズを馬車から捨て、母を家臣に分け与えようとしたことが父の本意ではないと母は言っていた。その言葉を信じたわけではないけれど、そんなことをしなくてもよかったはずだと今のラズは思う。
ラズが貴実であるかどうかはわからない。神殿に行って判断してもらうか、男に抱かれて子供を身籠もるまでは。
「貴族というだけで嫌なのか?」
ラズは首を振る。爵位の得られない貴族の子弟なら違った。
「貴族になりたくないんです」
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「そんなことはありえません。ないことを仮定しても意味がありませんから」
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「ラズ」
「助けてくれてありがとうございました。俺、帰りますね」
振り切るようにラズは駆けた。
自分の尊敬できる人、助けてくれた人に酷いことを言った。きっとウィス様にも伝わるだろう。明日からは避けられるに違いない。ラズはしかたがないと思いつつも、何故か頬に冷たいものが流れるのを止めることができなかった。
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