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お遣い
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「ラズ、悪いんだがこの酒を青竜騎士団の調理場に届けてくれないか。帰るついででいいから」
「青竜騎士団の調理場なんてラズは知らないでしょう。俺が届けますよ」
マストからの頼まれ事にハイターが答えた。
「ハイター、娘が寝込んでるんだろう。お前はさっさと帰れ。ラズも届け終わったらそのまま帰っていい」
ラズの仕事は夕方までだ。騎士団は二交代制なのでラズは夜の食事の準備まで。マストはラズよりは遅めに職場に入って夜の食事が終わった頃に帰る。
「ハイター先輩、娘さん病気なんですか」
「風邪だと思うけど昨日から熱が出てるんだ。悪いな、ラズ。着いていかなくて大丈夫か?」
「行けますよ。もう成人済みの男なんですから、お遣いくらいできます」
胸を張って言ってみたら、ハイターは微妙な顔で酷いことを言った。
「お前はちょっと可愛い顔してるからな。木陰に引きずり込まれないようにしろよ」
ハイターとは五歳くらいしか離れていないのに保護者の顔で心配された。
「何をとは言いませんが、蹴り上げてやりますよ」
「うん、そうだった。お前はそういうやつだった」
「先輩、これ娘さんにお見舞いです」
最近はリド様しかいないのにお菓子の材料は沢山もらっているので食堂でもランチにつけたりしている。それとは別に小箱にいれて持ってきていたぶんを ハイターに渡した。クッキーとパウンドケーキが入っている。
「いいのか?」
「甘い物で元気がでるといいんですが」
「ラズのお菓子は人気だからな。今日もお菓子付きのAランチは秒殺だったもんな」
「Aランチはお菓子がついてなくても秒殺ですよ。ハイター先輩のコロッケだったんですよ。俺もまかないで食べたけど凄く美味しかったです」
ハイターは嬉しそうな顔でラズの頭を撫でた。
「先輩、俺子供じゃないですよ」
「そうだったな。娘が『お父さんのコロッケ最高!』って言うときの顔と同じだったからつい」
最近は子供の頃より頭を撫でられることが増えた。謎だ。
「コロッケなら、毎日でもいいです」
「それは胸焼けしそうだな」
そう言って、ハイターは帰って行った。着替えてからお酒を持つ。
「青竜騎士団は、中央棟の向こうだから遠いんだよな。しかも白鷲騎士団の寮はこっちだから……」
行って戻ることになる。いつも寮と職場の往復なので散歩気分で城の中を闊歩できる。私服に着替えているのでマストからもらった通行証がなれけばできないことだ。
「青竜騎士団のほうが人が多いんだな」
迷うこともなく青竜騎士団の調理場にお酒を届けた。ホッとした顔でお礼を言ってくれたので調理に使う大事なお酒なのかなと思った。それとも食事と一緒に出すお酒だろうか。
青竜騎士団の食堂は大きくて白鷲騎士団の倍近くあった。考えてみればわかる。城と王都の護りを受け持つのだから多くて当然だ。しかも白鷲騎士団は国のあちらこちらに赴くため半数が遠征に出ている。
「ウィス様、早く帰って来ないかな……」
ひと月と半分、そろそろ帰ってくるはずだ。その間に増えたお菓子を食べてもらいたい。きっと喜んでくれるだろう。
「これのお礼もしないといけないし」
首にかけたネックレスはウィスにもらった耳飾りに紐をつけたものだ。服の上からギュッと握ると、ウィス様の青紫の瞳を思い出す。青紫の石がついているからだろう。
ウィス様に何を作ろうかと考えて歩いていると、前から見知らぬ人に呼び止められた。
「ユーリ? ユーリアスじゃないかい?」
心臓が飛び出るかと思った。ラズが捨てた……犬のクロにあげた名前を呼ぶのは、貴族だとわかる知らない男だった。
「青竜騎士団の調理場なんてラズは知らないでしょう。俺が届けますよ」
マストからの頼まれ事にハイターが答えた。
「ハイター、娘が寝込んでるんだろう。お前はさっさと帰れ。ラズも届け終わったらそのまま帰っていい」
ラズの仕事は夕方までだ。騎士団は二交代制なのでラズは夜の食事の準備まで。マストはラズよりは遅めに職場に入って夜の食事が終わった頃に帰る。
「ハイター先輩、娘さん病気なんですか」
「風邪だと思うけど昨日から熱が出てるんだ。悪いな、ラズ。着いていかなくて大丈夫か?」
「行けますよ。もう成人済みの男なんですから、お遣いくらいできます」
胸を張って言ってみたら、ハイターは微妙な顔で酷いことを言った。
「お前はちょっと可愛い顔してるからな。木陰に引きずり込まれないようにしろよ」
ハイターとは五歳くらいしか離れていないのに保護者の顔で心配された。
「何をとは言いませんが、蹴り上げてやりますよ」
「うん、そうだった。お前はそういうやつだった」
「先輩、これ娘さんにお見舞いです」
最近はリド様しかいないのにお菓子の材料は沢山もらっているので食堂でもランチにつけたりしている。それとは別に小箱にいれて持ってきていたぶんを ハイターに渡した。クッキーとパウンドケーキが入っている。
「いいのか?」
「甘い物で元気がでるといいんですが」
「ラズのお菓子は人気だからな。今日もお菓子付きのAランチは秒殺だったもんな」
「Aランチはお菓子がついてなくても秒殺ですよ。ハイター先輩のコロッケだったんですよ。俺もまかないで食べたけど凄く美味しかったです」
ハイターは嬉しそうな顔でラズの頭を撫でた。
「先輩、俺子供じゃないですよ」
「そうだったな。娘が『お父さんのコロッケ最高!』って言うときの顔と同じだったからつい」
最近は子供の頃より頭を撫でられることが増えた。謎だ。
「コロッケなら、毎日でもいいです」
「それは胸焼けしそうだな」
そう言って、ハイターは帰って行った。着替えてからお酒を持つ。
「青竜騎士団は、中央棟の向こうだから遠いんだよな。しかも白鷲騎士団の寮はこっちだから……」
行って戻ることになる。いつも寮と職場の往復なので散歩気分で城の中を闊歩できる。私服に着替えているのでマストからもらった通行証がなれけばできないことだ。
「青竜騎士団のほうが人が多いんだな」
迷うこともなく青竜騎士団の調理場にお酒を届けた。ホッとした顔でお礼を言ってくれたので調理に使う大事なお酒なのかなと思った。それとも食事と一緒に出すお酒だろうか。
青竜騎士団の食堂は大きくて白鷲騎士団の倍近くあった。考えてみればわかる。城と王都の護りを受け持つのだから多くて当然だ。しかも白鷲騎士団は国のあちらこちらに赴くため半数が遠征に出ている。
「ウィス様、早く帰って来ないかな……」
ひと月と半分、そろそろ帰ってくるはずだ。その間に増えたお菓子を食べてもらいたい。きっと喜んでくれるだろう。
「これのお礼もしないといけないし」
首にかけたネックレスはウィスにもらった耳飾りに紐をつけたものだ。服の上からギュッと握ると、ウィス様の青紫の瞳を思い出す。青紫の石がついているからだろう。
ウィス様に何を作ろうかと考えて歩いていると、前から見知らぬ人に呼び止められた。
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心臓が飛び出るかと思った。ラズが捨てた……犬のクロにあげた名前を呼ぶのは、貴族だとわかる知らない男だった。
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