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エカテおばさん
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「ラズさん、お部屋はしばらく使い物にならないの。しばらくここで暮らしてもらっていいかしら?」
団長が猫の仔のように首根っこをつかんでアーサーを連れていった後、エカテおばさんは「お口のイガイガが治らないでしょうけど、夜ご飯を食べましょうね」と食事を運んでくれた。
「ありがとうございます。かわりの部屋がないのなら元の部屋に戻りましょうか?」
下級使用人の部屋はいくつか空いていたから元の部屋でなくても別に構わない。
「そんなわけにはいかないわ。私の落ち度よ。アーサーが使用人の寮に出入りしていることは知っていたの。あの子は身分差とかを気にしない子だから、友達の部屋に遊びに来たと言ってもあまり気にしていなかったの」
確かに団長に比べれば気安い雰囲気がある。顔は悪くないし、モテていただろう。
「エカテおばさんの落ち度ではないと思います。部屋を間違っただけらしいですし」
嘘だけど。嘘は吐いたらつき通すほうがいいと思うのはラズの信条だ。突き通せない嘘は吐かないほうがいいともいう。エカテおばさんのとりなしのお陰でMPポーションは返さなくていいと言われたし。
「両手を拘束してる時点でアウトよ。思い出してみれば、アーサーと仲の良かった子が、突然辞めることもあったように思うの。でも竜の血をひくこともあって血筋的に、その……人より性欲が大きいのは仕方がないことだと思って見ない振りをしていたわ。それがあなたを傷つけることになるなんて……。祝勝会の前にぼっちゃ……いえ、団長がウィスランド様に『食堂に勤めるもののうち、白鷲騎士団が遠征している間に退職したり違う部署に異動したまま帰って来ない人が何人かいるらしい』と聞いたそうなの。さっきあなたが気を失っている間に、移動した人に尋ねたら『アーサーの相手をするのが疲れた……』と言ったそうよ。……相手は全員アーサーの恋人だったわ」
まるでため息をついたかのように肩が落ちた。
このアリア王国の始祖は竜と人だという。王族の血をひくということは竜の子孫であるということだ。よくはわからないが性欲が大きいというのが竜の特性でもあるのかもしれない。
「全員ですか……」
「そう。六人全員。皆アーサーが遠征でいないうちに逃げたみたい。残っていたのが、あなたの部屋の横の子だったの」
「七人と付き合っていたのですか……」
「そうね……。辞めていない他の職業の人もいそうな気がするけれど。今わかっている人だけで七人よ」
ラズはクラクラした。自分には想像もつかない。
「ごめんなさい。食事の後にすればよかったわね。消化不良を起こしそうな話で申し訳なかったわ。あんな目にあったのですもの、しばらくは安心できる場所にいて欲しいの。ここなら私の目も届くから」
「ありがとうございます。こんな素敵な部屋に住めるならアーサー様に感謝したくなりますね。食事もとても美味しいです」
思わず本音が出た。
「ふふっ、そう言ってもらえたら嬉しいわ。ゆっくりしていってちょうだいね。ここでは団長も大人しくしていると思うから」
エカテおばさんが団長を呼ぶとき、子供に対する愛情のようなものを感じる。
「団長とエカテおばさんは仲がいいのですか?」
「気になる?」
そう返されて、ラズは困った。根掘り葉掘り聞くつもりはないけれど……。
「はい、アーサー様は先生と呼んでいらっしゃったし」
どうして団長のことはぼっちゃまと呼ぶのにアーサーのことは呼び捨てなのだろうか。
「私は団長……リカルド様のお母様にお仕えしていたの。嫁いだ姫様と一緒にエセルバーグ家に来て、そこで同じように仕える方と一緒になり、姫様から頼まれてリカルド様の教育を任されたの。だからエセルバーグ家では先生と呼ばれているのよ」
姫様というのはお嬢様という意味ではなく本当の姫様のような気がした。つまり王族だ。その人に仕えていたのだからエカテおばさんも貴族だろう。
「先生ですか」
「実際に教えるのは他の教師ね。私はこの人にこれを任せるとか決めるのが得意だったのよ。子供達の教育課程を考えたりするのは楽しかったわ。自分の子供のように思って欲しいからと名前も呼び捨てにするように言われて、でもリカルド様のことは『リカルド』とは呼べなかったわ。アーサー達のことは呼べたのに、不思議ね。歳をとってエセルバーグ家にいてもあまりお役に立てないから、ここの寮母にしてくれってリカルド様に無理を言ってまで着いてきたのにこんなことになってしまって……」
リカルド様が団長になって心配だからついてきたのだろう。
「団長も心強いと思います」
会ったばかりのラズですら、いてくれるだけで安心感がある。アーサーにエセルバーグの名を捨てろと言った程の人物だ。優しいだけじゃない。
「ありがとう。ラズさんは優しいのね。そうそう、とても美味しいお菓子を作ると聞いたわ。今度私も孤児院のバザーに行ってみるわね。そこで売ってるのでしょう?」
すごくプレッシャーを感じた。エカテおばさんの満足するお菓子を果たして作れているのだろうか。
「お口に合うかわかりませんが。助けてもらったお礼に今度作って持ってきます」
「嬉しいわ。ならそのお礼に団長の子供の時の話でもしてあげるわね」
団長の子供の頃の話を聞いてどう反応すればいいのだろう。ラズが戸惑っている間に、何故かそういう約束が交わされてしまった。謎だ。
団長が猫の仔のように首根っこをつかんでアーサーを連れていった後、エカテおばさんは「お口のイガイガが治らないでしょうけど、夜ご飯を食べましょうね」と食事を運んでくれた。
「ありがとうございます。かわりの部屋がないのなら元の部屋に戻りましょうか?」
下級使用人の部屋はいくつか空いていたから元の部屋でなくても別に構わない。
「そんなわけにはいかないわ。私の落ち度よ。アーサーが使用人の寮に出入りしていることは知っていたの。あの子は身分差とかを気にしない子だから、友達の部屋に遊びに来たと言ってもあまり気にしていなかったの」
確かに団長に比べれば気安い雰囲気がある。顔は悪くないし、モテていただろう。
「エカテおばさんの落ち度ではないと思います。部屋を間違っただけらしいですし」
嘘だけど。嘘は吐いたらつき通すほうがいいと思うのはラズの信条だ。突き通せない嘘は吐かないほうがいいともいう。エカテおばさんのとりなしのお陰でMPポーションは返さなくていいと言われたし。
「両手を拘束してる時点でアウトよ。思い出してみれば、アーサーと仲の良かった子が、突然辞めることもあったように思うの。でも竜の血をひくこともあって血筋的に、その……人より性欲が大きいのは仕方がないことだと思って見ない振りをしていたわ。それがあなたを傷つけることになるなんて……。祝勝会の前にぼっちゃ……いえ、団長がウィスランド様に『食堂に勤めるもののうち、白鷲騎士団が遠征している間に退職したり違う部署に異動したまま帰って来ない人が何人かいるらしい』と聞いたそうなの。さっきあなたが気を失っている間に、移動した人に尋ねたら『アーサーの相手をするのが疲れた……』と言ったそうよ。……相手は全員アーサーの恋人だったわ」
まるでため息をついたかのように肩が落ちた。
このアリア王国の始祖は竜と人だという。王族の血をひくということは竜の子孫であるということだ。よくはわからないが性欲が大きいというのが竜の特性でもあるのかもしれない。
「全員ですか……」
「そう。六人全員。皆アーサーが遠征でいないうちに逃げたみたい。残っていたのが、あなたの部屋の横の子だったの」
「七人と付き合っていたのですか……」
「そうね……。辞めていない他の職業の人もいそうな気がするけれど。今わかっている人だけで七人よ」
ラズはクラクラした。自分には想像もつかない。
「ごめんなさい。食事の後にすればよかったわね。消化不良を起こしそうな話で申し訳なかったわ。あんな目にあったのですもの、しばらくは安心できる場所にいて欲しいの。ここなら私の目も届くから」
「ありがとうございます。こんな素敵な部屋に住めるならアーサー様に感謝したくなりますね。食事もとても美味しいです」
思わず本音が出た。
「ふふっ、そう言ってもらえたら嬉しいわ。ゆっくりしていってちょうだいね。ここでは団長も大人しくしていると思うから」
エカテおばさんが団長を呼ぶとき、子供に対する愛情のようなものを感じる。
「団長とエカテおばさんは仲がいいのですか?」
「気になる?」
そう返されて、ラズは困った。根掘り葉掘り聞くつもりはないけれど……。
「はい、アーサー様は先生と呼んでいらっしゃったし」
どうして団長のことはぼっちゃまと呼ぶのにアーサーのことは呼び捨てなのだろうか。
「私は団長……リカルド様のお母様にお仕えしていたの。嫁いだ姫様と一緒にエセルバーグ家に来て、そこで同じように仕える方と一緒になり、姫様から頼まれてリカルド様の教育を任されたの。だからエセルバーグ家では先生と呼ばれているのよ」
姫様というのはお嬢様という意味ではなく本当の姫様のような気がした。つまり王族だ。その人に仕えていたのだからエカテおばさんも貴族だろう。
「先生ですか」
「実際に教えるのは他の教師ね。私はこの人にこれを任せるとか決めるのが得意だったのよ。子供達の教育課程を考えたりするのは楽しかったわ。自分の子供のように思って欲しいからと名前も呼び捨てにするように言われて、でもリカルド様のことは『リカルド』とは呼べなかったわ。アーサー達のことは呼べたのに、不思議ね。歳をとってエセルバーグ家にいてもあまりお役に立てないから、ここの寮母にしてくれってリカルド様に無理を言ってまで着いてきたのにこんなことになってしまって……」
リカルド様が団長になって心配だからついてきたのだろう。
「団長も心強いと思います」
会ったばかりのラズですら、いてくれるだけで安心感がある。アーサーにエセルバーグの名を捨てろと言った程の人物だ。優しいだけじゃない。
「ありがとう。ラズさんは優しいのね。そうそう、とても美味しいお菓子を作ると聞いたわ。今度私も孤児院のバザーに行ってみるわね。そこで売ってるのでしょう?」
すごくプレッシャーを感じた。エカテおばさんの満足するお菓子を果たして作れているのだろうか。
「お口に合うかわかりませんが。助けてもらったお礼に今度作って持ってきます」
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