騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

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寮の一夜

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「……んぅっんん……」

 ラズは夢を見ていた。夢だから顔はわからないけれど、横たわったまま口付けられている。魔力を補充してもらうためとはいえ、キスというには深い口付けを二度もされたせいだろうか。酷く現実感のある夢だった。触れた感触や温度まで感じる夢は初めてだった。
 触れるだけの軽いキスから始まって、段々と口腔内を探るようなものに変わってくると夢とはいえ自分の身体に変化が起きた。それも夢かもしれないが、明日の朝は洗濯からかぁと憂鬱になる。

「ふふっ、敏感な子だな。思っていた相手とは違ったけれど、まぁいいか。楽しめそうだ」
「え……」

 夢ならば声の主は昼間会った団長かウィス様だろうと、ラズは思わず自分の夢にツッコんだ。ツッコミをいれた勢いで眠りから覚醒した。

「ああ、ここも可愛いな」

 まっ暗な部屋の中、目が慣れないラズは声の主を騎士だと認識した。身体の大きさや筋肉のつき方が団長に似ていると思ったからだ。
 上にのし掛かられていて重い。この男は誰だろうとまだ寝ぼけていたラズが瞬きした時、男が服の上からラズの股間に手を這わせて撫で上げた。

「ひっ!」

 気持ち悪さと知らない人が乗っている恐怖が突然襲ってきて、声が出た。
 ラズは男を撥ねのけようと身体を捩りながら手を突っ張った。

「おやおや、かわい子ちゃん。おいたは駄目だよ」

 楽しそうな声で、男は笑いながらラズの手首を一纏めにした。ラズの両手は器用にハンカチで拘束されて頭の上に置かれた。

「誰ですか! なんでこんな変態みたいな……」
「どうやら部屋を間違えたみたいだ。でもいいよね。君もその気があるみたいだし」

 少し勃ちあがったそこを突かれて、ラズは羞恥で顔を染めた。
 夢の中でのキスは誰が相手かわからなかったけれど、こんな変態ではなかった。気持ちが良くて、青少年には刺激的すぎたと言い訳をしたかった。決して変態に反応したわけじゃない。

「止めてください!」
「おや、慣れているのかと思ってたけど、初心なところもあるんだな。大丈夫」

 暴れようとするラズを簡単に制して、男はラズのズボンをふとももまでずらした。

「何を――」

 本当に危ない人だ。強姦魔に違いない。何で寮にこんな男がいるんだ。
 ラズは鍵をかけ忘れて眠ってしまったことを後悔した。

「ここは優しく慣らしてから……挿れて、あげっグッ! わぁ――!」

 男の手がラズの膝を持ち上げ、下着の上から尻の孔を指がなぞる。
 その瞬間、ラズは恐怖で魔法を放っていた。離れたいと思う気持ちが大きかったせいか男は風の魔法で扉の方に吹き飛ばされた。
 ラズは扉ごと廊下の壁に叩きつけられた男を見て「しまった」と思った。騎士にこんなことをしては仕事をクビになるだろう。

「せっかく……いい職場に……」

 マストががっかりする顔を想像してラズも悲しくなった。
 目を閉じたら眠気と寒さを感じた。無意識に放った魔法は詠唱ありの魔法に比べて何倍もの魔力を消費するからだ。
 きっとまた魔力が減っているのだろう。
 今日二度目の魔力枯渇による失神は、「何があったの!」と叫ぶエカテおばさんの悲鳴と共に訪れた。




  
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