騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

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脳筋だから

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「それにしても想定していたより穏便にすんで良かった。ウィス様は演技派なんですね」


 ラズはこそばゆい気持ちを隠すように話を戻した。ウィス様はわかってくれたようで歩き始める。

「気付いてましたか……」
「気付きます。だって、さっき嫌じゃないよなって聞かれたんですから」

 あの流れなら自分から移動を願ったわけではないから孤児院に嫌がらせされることはないだろう。
 ラズの意志が関係ないというなら、団長は聞かなかったはずだ。

「魔法の使える下級使用人なんて、こき使われてそうじゃないですか。しかも魔力枯渇で死にそうになってたのを見たところですし。それも踏まえて、使用人統括主任に告げ口しておきます。これから先は孤児院の就職先に騎士団をお勧めします。ラズが連れてきた子なら俺か団長が後見しますよ」
「えっと……」

 戸惑うラズに気付いて、ウィス様は説明をしてくれた。

「騎士団といっても皆が騎士じゃありませんよ。安心してください。馬の世話をするものもいるし、ラズのように食堂に就職してもいい。文官だっているからその補佐にだってなれますよ」

 平民が騎士になれないことをラズも知っている。騎士団には騎士以外の職があることも。そうではなく、ラズはこんな風に貴族である彼らが見返りもないとわかっているラズに便宜を図ってくれていることが不思議でならなかった。

「いえ、どうしてそんなに親切なんだろうって思って……」

 普段は考えてから話すようにしているのに、沢山のことがありすぎてラズは頭が回らなかった。

「親切? ラズはとても純粋なのですね。団長も俺も『鬼の』とか『零下』のって二つ名があるんですよ。簡単に信用してはいけません」

 少し演技がかったウィス様の言葉。鬼とか零下ってどっちがどっちなんだろう。二人には似合わない言葉だ。順番的に鬼が団長で、ウィス様は零下かな。
 ウィス様の銀色の髪が陽にあたってキラキラ輝いている。微笑みは春の日差しのようなのに、零下って……。団長よりは冷たい色合いの青紫の瞳だけど。

「でも親切にしてもらいましたよ」
「それはあなたに価値があるからです」

 ウィス様は笑いながら言ったから本音かどうかはわからない。
 価値? そんなものがあったら今こんなところにいないだろう。
 ラズは言葉をため息にして飲み込んだ。

「ラズは沢山我慢して、頑張ってきたのですね。言葉は飲み込まなくていいです。騎士団は少し他の部署よりも雑なので、言わないと伝わらないんですよ」

 脳筋だからな……と思ったら、ウィス様が笑った。

「騎士団は脳筋が多いので」
「え……」

 ドキッとした。言葉に出してた? それとも心を読む魔法とかあるのだろうか。

「ラズ、顔に全部書いてますよ」

 ウィス様は読み取るのにたけてるのだろう。ラズはどういう顔をしていいのかわからないまま、騎士団の食堂へ連れて行かれたのだった。
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