騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

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反省

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「恥ずかしい? 魔力枯渇は命に関わることだぞ」


 責めるような口調だが心配してているのがわかった。頬を撫でられ、ハンカチーフで汗に濡れた顔と冷えた首筋を拭いてくれる。他人の抱擁に安堵したのはいつぶりだろうか。
 手に温かさが戻ってきていた。倒れる前は魔力の使いすぎで寒くてしかたなかったのに、今は身体が熱いくらいだ。


「魔力が減ってたのは知っています。でもそんな枯渇なんて……」


 魔力枯渇、魔法を使う人間なら誰だって知っている。魔法を習うときに最初に教えられることだ。魔力は生命力と結びついていて。限界以上に使うと死ぬこともある。だが皿やグラスを洗ったり乾かしたりしただけで……、いや、数が多すぎたのだろう。
 そうだ、グラス。
 ラズの前にガラスが散らばっている。グラスであったものの残骸が無残な姿になっていた。欲張ってギリギリ持てる量をトレーに載せていたのだ。
 慌てて立ち上がろうとして、止められた。


「無理はするな」


 低い厚みのある声を耳の横で聞いてしまい、体調を気遣ってくれる男が支えている背中が震えた。


「もう立てます」


 この声を耳元で聞いている方が心臓に悪い。


「自分の限界がわかってないようですね。下級使用人の緑のタイってことはそんなに魔力は多くないでしょう」


 ラズはここにいるのが助けてくれた男だけでないことに気付いた。
 魔力が少ないことを揶揄されると未だに心の傷が疼く。ちっぽけなプライドは捨てたつもりだったのに。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今日になって突然仕事が増えてしまって。いつもなら昼ご飯を食べられなくてもクッキーを摘まんだら大丈夫なんですけど、その暇もなくて……」


 言い訳しながら立ち上がる。視線を下げて、二人に頭を下げた。目眩もない。それどころかここ最近の疲れが嘘のように吹き飛んで快調だ。


「お昼ご飯がクッキー?」


 良い声の男が心配そうに目を細めて尋ねる。


「遅くなると食事がなくなってることがあるので……」


 別にお菓子を食事の代わりにしているわけではないと言い訳する。
 青く澄んだ瞳で見つめられると、まるで心の奥底まで覗かれているようで居心地が悪い。 初対面の人を不躾に見ていたことに気付いて慌てて視線を逸らした。吸い込まれそうな青い瞳から逃れると、男の顔が思ったより高い位置にあった。平均身長を軽く超えている。ラズよりも頭一つ分は高い。ごめん、見栄はった。一つと半分は高い。


「食事は働く為の基本だ。見直しが必要な案件だな」


 言葉を真摯に受け止めてくれたことに驚いた。


「魔力に甘いものが効くし……」


 ラズが言いつけたと上司に思われても困るので、慌てて別の理由も付け加えた。


「そうだな。私達もポケットに飴を忍ばせてる」
「ふふっ、そうなんですか」


 こんな大きな身体をした騎士が飴を隠し持っていることに驚いたが、そういうものなのだろう。少しだけだが手軽に魔力を補えるのでお高いMPポーションと違って気負わず食べられる。
 思わず声を立てて笑ってしまったけど、男も後ろにいた人も怒らなかった。
 さすが見ず知らずの人間に魔力を与えるくらい親切な人だ。
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