攻略対象に転生した俺が何故か溺愛されています

東院さち

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19 アルフォンスの炎

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「護衛? なんの話でしょうか」

 俺に護衛はついていない。表面上は。俺が剣も魔法もそこそこつかえると知っている義父は「護衛なんていりません」という言葉を信用してくれたからだ。
 もちろん、俺は俺を見ている目に気付いていた。とはいえ、護衛というか監視がついたのは婚約者の話が出てからだ。監視はとりあえず、気付いていないふりをした。

「っ! 王太子の婚約者となったお前には護衛がついている」
「聞いてませんよ。ずっと、私を監視していたのですか? 朝から、晩までずっと?」

 動揺したアルフォンスは「お前は王太子妃候補だ――」と言って口ごもる。言っていなかったことが駄目なことだとわかっていて、黙っていたのだとわかる。

「候補でしかないのに、護衛をつけてくれるんですね。そして、護衛は店の前で待っていたというわけですか。なのにあなたは迷いもなくここへやってきた。私が危険な目にあっているとでも思ったのですか?」
「ハリルトン家へ、ミリアに会いに来たのは何故だ――」

 アルフォンスの目の強さに負けず劣らず、俺の目の色は濃いだろう。ここで素直に謝ってくれれば、俺は許した。

「……殿下、私の問いに答えてはくれないのですか?」
「隠れて会いに来たのは何故だ――」
「……殿下、私がここに来たことを何故ご存じなのです?」

 多分、今ここに誰かが迷い込んできたのなら、きっと踵を返すだろう。アルフォンスは感情を高ぶらせても炎が舞い上がらないのに、何故俺のダイヤモンドダストは部屋の中を凍らせるのだろう。困ったものだ。

「お兄ちゃま!」
 
 さっき姿を消したと思ってたら、お茶を淹れていた風を装うつもりだったようだ。慌てていたのか、お兄様でもお兄ちゃんでもなくお兄ちゃま。

「お、お兄様」
「子供の時と同じお兄ちゃんでいいよ、ミリア」

 言い直したミリアにそう言った。お兄様なんて呼ばれたら笑ってしまう。

「お、お兄ちゃん。どういうこと。私のお部屋が……」
「すまない。感情の制御ができなくてな」
「酷い……」

 たしかにメイドは凍えているし、つららまでできている。窓は真っ白になっている。

「修理は侯爵家へ請求していい」
「もう、高いカーテン買っちゃうんだから」

 ミリアは場を和まそうとしてか、笑いながら凍って重さで破れてしまったカーテンを指さした。

「好きにしろ」
「サイラス!」

 炎が煌めく。今まで制御できていたアルフォンスの炎が高く天井にまで燃え上がった。

「ミリア!」

 俺は慌ててミリアとメイドを引き寄せて、魔力で防御した。
 二人を守りつつ、俺はアルフォンスに抱きついた。アルフォンスの身体から迸る炎を氷で覆い尽くすために。

「アルフォンス――」

 氷の魔力を叩きつけるようにしてギュッと抱きしめた。アルフォンスの身体も熱い。自分の魔力だから沸騰したりしないとは思うものの心配だ。

「ヤバいけど、いいところ……」

 背後のミリアの声は無視する。ミリアというか澪を喜ばせるためにやってるわけじゃない。

「サイラス……」

 アルフォンスの身体から噴き出した炎が収まっていく。

「魔力暴走かと思った」
「お前は……、怪我をしたらどうする」

 ライファーのように黒髪で黒目で生まれてきたものは別だが、王族であるアルフォンスは普通の貴族である俺より魔力が強い。

「殿下に言われたくありません。殿下が正気なら大丈夫だし、正気がないならちょっと離れたからといって無事に済むはずもない」

 アルフォンスとは呼ばない。さっきはそれどころじゃなかったから呼び捨てたけれど、俺は怒っている。

「お前は、酷い男だ。サイラス」
「殿下の方が酷いですよ。ここをこんな風にしてしまって」

 俺は天井があったところを見上げた。まだ昼前で晴れている。雲一つない青空だ。

「仕方がないですね。ミリア、オーディクス侯爵家へ来なさい」
「何を――」

 アルフォンスの非難は聞かない。誰のせいだと思っている。

「子爵家の屋根をぶち抜いたのは誰のせいですかね。私はね、殿下。怒ってるんです。勝手に護衛をつけて監視のようなことをされたことも。大事な幼馴染みの家を焼かれたことも。それなのに焼いた本人は悪気もないようだ」

 アルフォンスの目にある焦燥は、俺へどうすればいいのか考えているだけで、ミリアへの謝罪をどうするか考えているわけではないということはわかる。

「それは――」
「これ、ですよね。私の居場所を特定したのは。この髪留め。あなたの魔力が込められているから何も疑問に思わなかった……」

 アルフォンスからもらった髪留め。それを髪から外して、アルフォンスの手に無理矢理握らせた。

「サイ、ラス……?」
「しばらく顔を見たくありません。魔力も感じたくない。お引き取りを――、殿下」

 真っ黒の部屋の中を氷がキラキラと舞う。

「サイラス!」

 俺はミリアの手を引いて、アルフォンスを睨んだ。アルフォンスも大事な友達だ。けれど譲れないものが俺にはある。

「お兄ちゃん……いいの?」
「心配で眠れなくなるからな」

 もう二度と妹を守れないという後悔だけはしたくない。俺は言葉をなくしたアルフォンスを置いて、部屋をでた。被害はこの部屋だけだが、修理する間屋敷に住めないだろう。

「ハリルトン子爵に説明して、我が家の離れでよければ修理の間お住まいを移っていただけるようお願いして欲しい」

 執事は何事が起こったのかよくわからないだろうに、懸命に頷いていた。

「お兄ちゃん、王太子様を放っていっていいの?」

 茫然自失しつつ、俺が返した髪留めをギュッと握るアルフォンスを置いて、俺はミリアとメイドを連れてオーディクス侯爵家へと戻った。

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