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12 姉弟の出会い プリメリア視点
しおりを挟む『リア、この子が弟になるサイラスだ。サイラス、お前の姉のプリメリアだよ』
私がサイラスと出会ったのは六つの時だ。母は私を産んですぐに亡くなり、乳母に育てられた。父は宰相で忙しく、家にはあまり帰ってこない。
乳母が『お母様が亡くなったのはお嬢様が産まれたからです』と言っていたから、母の亡くなった原因である私に会いたくないのだと信じ込んでいた。そのうち乳母は『侯爵様の弟君が亡くなったのは新しく来る女のせいです』と言い、来た後は『あの子は侯爵様の子供で、プリメリア様を押しのけて跡継ぎにするのですよ』と囁いた。
私はよくわからないままサイラス親子を憎んでいた。サイラスは父アランに似ていると思っていたから、マリアが父の愛人でサイラスは腹違いの弟だと疑わなかった。(サイラスの父がアランの弟なのだから当然なのに)。
出会った時、サイラスは『あっ!』と叫んで気を失った。アランはすぐにサイラスを抱き上げ寝台に運び、医者を呼んだ。私が泣いてもアランは振り向かなかった。
乳母は私の髪を撫でながら何度も『可哀想なお嬢様』と慰めてくれた。
その日から、私はサイラスもマリアのことも嫌いだと意思表示した。乳母に教えられた酷い言葉も使った。それなのに、サイラスは平気な顔で私の手を握り『リアも一緒に勉強します』とアランに宣言した。本当は勉強なんてしたくなかった。でも『リアが勉強する気になってくれて嬉しい』とアランが言うから、仕方なく続けたのだ。勉強は案外面白かった。昔の先生はすぐに怒ったり、呆れたり見下すので解雇していたけれど、今度の先生は、サイラスだけを褒めたりせず私の事も褒めてくれるし根気よく教えてくれた。後で先生に聞いた話では、そうするようにサイラスに頼まれていたらしい。アランのところに呼ばれた時は、絶対に私を一緒に連れて行く。何度も何度も会っていれば、アランが私を嫌っていない事も少し不器用なだけだということもわかった。サイラスが私を褒める度に目を細めて撫でてくれたからだ。
『さすが我がオーディクス侯爵家の娘だ』
『義父上、間違えてます。そこはさすが私の娘だ、ですよ。なんなら義父上とクリスティーナ様の娘だ、でもいいです』
『意味は一緒ではないか』
『僕は違うと思います』
ね?と微笑みを浮かべるサイラスは、私より歳下なのに大人のような顔をしてアランに意見をつきつける。
私が迷いながらうんと頷くと、アランは顔を手で隠しながら『さすが私とクリスティーナの娘だ。可愛いだけだと思っていたが、優秀だったのだな』と言って私を撫でてくれた。耳が赤くて、娘を褒めるのが恥ずかしかったのだと気付いた。
二人の娘と言われて、私はこみ上げてくる涙を堪えきれずに泣いてしまった。
アランは気まずそうにしながらも、不器用な手つきで私をずっと撫でてくれた。
いつの間にか乳母の代わりに私はマリアと一緒に過ごすようになっていた。その頃には私も乳母がおかしいということに気付いていた。
私には家族ができた。私を大事にしてくれる人達だ。心を揺さぶられることもお嬢様のためだと言って叩かれることもない穏やかな生活。アランは相変わらず忙しくて会えないことも多いけど、私は愛されていると信じられた。マリアに娘として大事にされて幸せだ。
心配なのは弟のサイラスのことくらい。あんなにしっかりしてるのに、あんなに勉強も魔法も剣術ですら褒め称えられているのに、サイラスはどこか変だ。
アルフォンスからの愛情を友情と勘違いしていることもそうだが、私もサイラスを男の子として意識したことがあった。私のためにと心を砕いてくれるサイラスを好きにならずにはいられなかった。早々に気付いたアランに血が近すぎるので駄目だとたしなめられたことも理由の一つだが、想いが届かないことに挫折してしまったのだ。
一時期張り合ったアルフォンスがまだ突撃を繰り返していることに、私は賞賛を送る。
「あまり殿下を煽っては駄目よ、サイラス」
「煽る?」
サイラスは、本当にわかっていないのだ。ライファーやその令嬢にどれだけアルフォンスがやきもきしているかを。護衛騎士のディアハルトだって、最初はサイラスと仲がいいから見張るために自分付きの護衛騎士にしたくらいだもの。
サイラスには悪いけれど、私はアルフォンスを応援している。自分の最初の恋は花も咲かずに終わったけれど、いつか届くといいなと思うくらいには。
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