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9 ワンコな青の騎士ディアハルト
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「ここの森は危ない魔物や動物はいませんが、奥の洞窟にいるので決して勝手に入ってはいけませんよ。ちゃんと案内の上級生についていってくださいね」
今日は学園の施設について十組に分かれて説明を受けることになった。俺はA班でライファーはC班。特に知り合いもいない。
「サイと一緒がいい」
ごねても無駄で、ライファーは説明をしてくれる上級生に連れられていった。
「サイラスはこっちだ」
聞き覚えのある暑苦しい声だ。
「ディアハルト、お前がA班の案内か」
「私もいるぞ」
振り向くと、赤い髪の生徒会長であるアルフォンスと青い長い髪の騎士ディアハルトが並んで立っていた。
キャーと同じ班の女子達から歓声があがる。
「……無駄に作画コストが高い――」
「何? 何コスト?」
「サイラス?」
妹が良く呟いていた言葉をコホンコホンと誤魔化しながら二人に近づくと、何故か更に悲鳴が上がる。女子多いな。どういう基準で選んでいるのか聞きたい。
「いえ、どうして二人が?」
「案内役だ」
「その護衛だ」
護衛が必要な人を案内役にするのは間違ってると思う。
ディアハルトは攻略対象者だ。乙女ゲームでは魔法騎士の家柄でありながら魔法が使えず鬱々としたところがあり、強さこそが己の価値! だが、実はナイーブな面もあるという面倒な性格だった。悪役令嬢のプリメリアに苛められていたヒロインから『あなたの剣に対する真摯な姿を見て、私も頑張ろうと思えたの』という言葉で癒され、ヒロインにだけ笑顔を見せるようになった。ヒロインと湖の側でキスしたときにヒロインの魔力に気付いて、その後自分の魔力の制御に成功し、魔力による肉体強化を覚えて家族にも認められるという話だった。
はい、すみません。物語の内容を変えようとして、俺が肉体強化のための魔力制御を教えたので(キスはしていない!)、こんな熱血騎士に成長しました。家族にも認められたディアハルトはどちらかというと孤高狼のようなキャラだったのに、ワンコみたいになっちゃいました。ゴールデンレトリバーのような懐っこさだ。
「会長がこんな雑務をする必要がないでしょう」
「新入生に学園を紹介するのは雑務か?」
「ディアハルトに任せておけばいいのです」
うんうんとディアハルトも頷いている。
「サイラスと一緒に学園を散歩したかったんだ」
「……いつでもお付き合いしますよ」
更に悲鳴が上がる。
「ほら、行くぞ。この森はキノコや果樹も沢山あるが、キノコは止めとけ~。たまに笑いがとまらなくなったり、腹を壊すやつがいるからな。果樹は好きに食べてもいいが、街に転売するとバレて放校処分になるからな、やめておけ! 洞窟はそうだな、攻撃魔法のレベルが3以上になるか剣術のレベルが3以上になったらドンドン行け」
「先輩は剣術レベルがいくつなんですか?」
「8だ。まだまだ上げていくぞ!」
「8かぁ、凄いです」
十人中三人しかいない男子のうち二人は、ディアハルトに懐いて色々質問をしている。
「サイラス、今度洞窟も行くか?」
「会長と?」
「ああ、奥にはいいものがあるんだ」
洞窟は確か祈りの泉というイベントがあったはずだ。一緒に水を飲むと幸せになれるというものだったはず。俺と行ってもしかたないけれど、綺麗な風景だったなと思って頷いた。
「でも剣術も魔法もとってないんですよ」
思い出してそう言うと、ディアハルトが振り向く。
「サイラスはもうレベル6だからな。問題ない」
「え、授業をとらなくても認定されるのか?」
「父上の弟子のくせに授業をとらないつもりだったのか? 無駄だ。もうお前の授業に組み込まれていると思うぞ。使い勝手のいい生徒を逃がすと思ってるのか?」
ディアハルトの父親ミュラーは騎士団長であり、学園の剣術の総轄だということは知っていたがまさか授業をとらなくても関係がないとは。何のためのオリエンテーションだ。
ちなみに俺がディアハルトと知り合ったのはディアハルトの父親に剣術を習っていたからだ。一つ年上だがあまり先輩という気はしない。
「ははっ、ミュラー卿はサイラスを自分のものだと勘違いしているのかな?」
アルフォンスの背後に青く燃える炎が見えた。心なしか優しい色であるはずの緑の瞳も獲物を狙う猛禽類のようだ。
「ち、父上に止めておくように進言したいと思います」
ディアハルトは、面倒くさい役目を負ってくれた。
「それがいいね。サイラスは忙しいからね」
「ですね」
俺との腕試しが好きなディアハルトは楽しみにしていたのだろう。ディアハルトの架空の尻尾と耳が下の方に垂れているように見えた。
今日は学園の施設について十組に分かれて説明を受けることになった。俺はA班でライファーはC班。特に知り合いもいない。
「サイと一緒がいい」
ごねても無駄で、ライファーは説明をしてくれる上級生に連れられていった。
「サイラスはこっちだ」
聞き覚えのある暑苦しい声だ。
「ディアハルト、お前がA班の案内か」
「私もいるぞ」
振り向くと、赤い髪の生徒会長であるアルフォンスと青い長い髪の騎士ディアハルトが並んで立っていた。
キャーと同じ班の女子達から歓声があがる。
「……無駄に作画コストが高い――」
「何? 何コスト?」
「サイラス?」
妹が良く呟いていた言葉をコホンコホンと誤魔化しながら二人に近づくと、何故か更に悲鳴が上がる。女子多いな。どういう基準で選んでいるのか聞きたい。
「いえ、どうして二人が?」
「案内役だ」
「その護衛だ」
護衛が必要な人を案内役にするのは間違ってると思う。
ディアハルトは攻略対象者だ。乙女ゲームでは魔法騎士の家柄でありながら魔法が使えず鬱々としたところがあり、強さこそが己の価値! だが、実はナイーブな面もあるという面倒な性格だった。悪役令嬢のプリメリアに苛められていたヒロインから『あなたの剣に対する真摯な姿を見て、私も頑張ろうと思えたの』という言葉で癒され、ヒロインにだけ笑顔を見せるようになった。ヒロインと湖の側でキスしたときにヒロインの魔力に気付いて、その後自分の魔力の制御に成功し、魔力による肉体強化を覚えて家族にも認められるという話だった。
はい、すみません。物語の内容を変えようとして、俺が肉体強化のための魔力制御を教えたので(キスはしていない!)、こんな熱血騎士に成長しました。家族にも認められたディアハルトはどちらかというと孤高狼のようなキャラだったのに、ワンコみたいになっちゃいました。ゴールデンレトリバーのような懐っこさだ。
「会長がこんな雑務をする必要がないでしょう」
「新入生に学園を紹介するのは雑務か?」
「ディアハルトに任せておけばいいのです」
うんうんとディアハルトも頷いている。
「サイラスと一緒に学園を散歩したかったんだ」
「……いつでもお付き合いしますよ」
更に悲鳴が上がる。
「ほら、行くぞ。この森はキノコや果樹も沢山あるが、キノコは止めとけ~。たまに笑いがとまらなくなったり、腹を壊すやつがいるからな。果樹は好きに食べてもいいが、街に転売するとバレて放校処分になるからな、やめておけ! 洞窟はそうだな、攻撃魔法のレベルが3以上になるか剣術のレベルが3以上になったらドンドン行け」
「先輩は剣術レベルがいくつなんですか?」
「8だ。まだまだ上げていくぞ!」
「8かぁ、凄いです」
十人中三人しかいない男子のうち二人は、ディアハルトに懐いて色々質問をしている。
「サイラス、今度洞窟も行くか?」
「会長と?」
「ああ、奥にはいいものがあるんだ」
洞窟は確か祈りの泉というイベントがあったはずだ。一緒に水を飲むと幸せになれるというものだったはず。俺と行ってもしかたないけれど、綺麗な風景だったなと思って頷いた。
「でも剣術も魔法もとってないんですよ」
思い出してそう言うと、ディアハルトが振り向く。
「サイラスはもうレベル6だからな。問題ない」
「え、授業をとらなくても認定されるのか?」
「父上の弟子のくせに授業をとらないつもりだったのか? 無駄だ。もうお前の授業に組み込まれていると思うぞ。使い勝手のいい生徒を逃がすと思ってるのか?」
ディアハルトの父親ミュラーは騎士団長であり、学園の剣術の総轄だということは知っていたがまさか授業をとらなくても関係がないとは。何のためのオリエンテーションだ。
ちなみに俺がディアハルトと知り合ったのはディアハルトの父親に剣術を習っていたからだ。一つ年上だがあまり先輩という気はしない。
「ははっ、ミュラー卿はサイラスを自分のものだと勘違いしているのかな?」
アルフォンスの背後に青く燃える炎が見えた。心なしか優しい色であるはずの緑の瞳も獲物を狙う猛禽類のようだ。
「ち、父上に止めておくように進言したいと思います」
ディアハルトは、面倒くさい役目を負ってくれた。
「それがいいね。サイラスは忙しいからね」
「ですね」
俺との腕試しが好きなディアハルトは楽しみにしていたのだろう。ディアハルトの架空の尻尾と耳が下の方に垂れているように見えた。
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