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8 ライファーでもなかった

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 フラワーガーデン学園は前世でいうところの大学に近いような気がする。俺も大学に行ったわけではないので、あくまで感覚だが。百人に満たない新入生は全員とりあえず講堂に集められる。とりたい授業を選んで、三年間の合計単位で卒業が決まる。だから学年で一番とか順位付けは入学するまでの話だ。クラスもとくにない。専門にとる授業によって集団が形成されることになる。

 紙に書かれた履修可能な授業を眺めていると隣の席に座っているライファーが唸っている。

「魔法学、習うのか?」
「いや、学園で習うものは全て履修しているから、今更だな。サイもだろ?」

 魔法は血筋が色濃いので、家で習うのがほとんどだ。フラワーガーデンで習うことができるのは、家で習わないような理論や実戦魔法や研究だ。

「魔法はライファーが教えてくれるからな。ライファーの魔法理論は面白い。俺では思いつかないことを考えるし、実行するだけの魔力も精度も高いだろう」
「サイがそんなに褒めるからオレもやる気になるんだよな……」

 知り合ったのは十二歳の頃だが、その頃にはもう魔塔の天才として有名だったライファーだ。

「俺は本当のことしか言わないし、褒めてるというより感嘆してるだけだ」

 乙女ゲームに逆らおうと決めた時、設定に眼鏡でクールビューティと書かれていたから絶対に眼鏡を掛けないと決めて魔塔に教師を頼んだ。ライファーを薦められたのは同い年という共通点があったからだが、決めたのは攻略対象だからだった。俺がプリメリアを守ろうとしてもこの世界で攻略対象者はある意味チートだ。ライファーが本気になったら俺もプリメリアも無事ではいられない。知り合いだったら、少しくらい加減してくれるだろうと安易に近づいたが、知り合ったライファーはいいやつで。ゲームとか関係なく友達になりたいと思った。
 ライファーは本当に凄い。俺は氷の魔法に加えて水の魔法くらいしか使えないが、全属性の黒髪黒目のせいか四大精霊魔法に加えて特殊な魔法も使えるのだ。

「褒め殺しってサイは知ってるのかな?」

 呆れたような顔をしてライファーが紙を置いた。

「本当のことしか言ってない」
「サイは本当にオレを転がすのが上手だよな。で、何の授業をとるんだ?」
「……社交はとったほうがいい。せっかくなんだから」

 このフラワーガーデンは、フラワー王国の社交界の縮図だ。そのため貴族であればどんな貧乏だろうが、爵位だろうが入学するために必死になる。

「踊ったりお茶会したりするだけだろう?」
「……ライファー、それは女のほうだ」
「え……」

 本気でそう思っていたらしい。踊るのはペアだからともかく、お茶会の勉強をしてどうする。あ、俺は王太子の婚約者なのだからそっちを習うべきなのか……?

「男は何をするんだ」
「狩りだな。後は遊戯や賭け事も習うはずだぞ」
「習う賭け事って……面白いのか?」
「知らん」

 ザッととるべきものを書いてみた。何事もなければ単位は取れるだろう。時間も余裕をみている。

「見せて見せて」
「……後悔するなよ?」

 一緒の授業をとろうと書き写し始めたライファーに忠告だけしておいた。

「ライファー、昨日西門のあたりでハンカチを拾ったりしなかったか?」
「ハンカチ?」
「ああ、女の子が落としたハンカチだ」
「ははっ、サイ。お前はモテるからそんな王道的なナンパにあったんだな」
「いや、俺のことじゃなくてお前のことだ」
「そんな美味しいシチュエーションあったら最初に話してる」

 ライファーはそういうやつだ。ということは、ライファールートでもないと。ヒロインは難しいケヴィンルートに挑戦する猛者だったのか。
 早くヒロインの顔を見たいものだ。

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