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3 アルフォンスの魔力石
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「サイラス、お前の悪い癖だ。何を考えている?」
「アル……、えっと。何でこんなに距離が近いんだ?」
「お前が何を考えているかわらかないから、目を見ればわかるかなと思ってな」
鼻と鼻がくっつきそうなくらい近い。
「アルは一々距離が近すぎる!」
「怒っているのはわかった。ほら、氷を飛ばすのをやめてくれ」
さっきアルフォンスが水を湯に変えたときにも火の粉が舞ったようなエフェクトが周りに展開していたが、同じように俺も氷の結晶であるエフェクトが周囲に投影して魔法が発動する。フラワーガーデン物語の魔法は、キャラの個性の強調なのだ。エフェクトは綺麗だし、便利だ。攻撃魔法はメインキャラが見せ場で使ったりするから、強いのに、みんなあまり魔法を使わないのだ。あちこちでエフェクトが見えてたら、それはそれでうっとうしいけれど。
現代日本で作られたなんちゃってファンタジーロマンスゲームのせいか水道やトイレも電気も普通にある。使い勝手は電気で、パチッとボタンを押せば光が落ちてくるのに電気という概念はない。ボタンを押せばつくのが魔法の力で、電気の代わりに魔力が都合良く使われている感じだ。だからどの魔法具も魔石が源で、それを巡ってのエピソードもあった。ヒロインが魔石の泉をアルフォンスと見つけて、そのお陰で婚約者のプリメリアがいるのに婚約者を変更しようとしたのだ。そんなことをされたら、気位の高いゲームの中のプリメリアが暴走するのなんてわかっていただろうに。まぁ、今のプリメリアはアルフォンスに好意をもっているようには見えないから、ちょうどいいと譲るだろうけど。
攻略対象者である俺はオーディクス侯爵家の家系に多い氷の魔法使い。アルフォンスは炎の魔法の使い手だ。やはり公式での王道ヒーローだからだろうな。プリメリアは母方の血が濃いせいか氷ではなく、緑、植物に関する魔法を使う。
俺は魔力は多いけれど制御があまり得意ではないので、気を抜いていると感情の揺れでダイヤモンドダストのようなものを生成してしまうのだ。
「アルフォンス殿下が悪いと思います」
改まった口調で言うと、アルフォンスは慌てて距離をとった。
「わかった、悪かった!」
炎で氷を溶かすこともできるのに、アルは白くなった身体周りを叩いて霜のようなものを落として謝った。
「そんなに私とプリメリアの婚約が嫌なのか?」
探るような目つきでアルフォンスが尋ねる。
「駄目だ。絶対駄目なんだ……」
何故と言われても答えられないのに、俺は駄目だと繰り返した。
「それなら、お前が婚約者になればいい。さっきも言ったが、父上はオーディクス侯爵家との繋がりを求めているだけで、プリメリアがいいというわけじゃないはずだ。お前が私の婚約者になれば、プリメリアは自由だぞ?」
悪魔の囁きというのはこういうことをいうのだと思った。まっ暗な中に一筋の道が見えたなら、人は進むだろう。例え、それがガッタガタの舗装されていない道で落とし穴があるとわかっていても。
「俺が?」
「お前は侯爵家の人間だし、魔力も強いから跡継ぎも残せる」
前世では考えられないことだが、この世界は魔法で子供もできるのだ。ただ、かなり魔力が必要な上に魔力の調整も難しく互いの負担が半端ないので、子供が欲しければ異性とというのが一般的だ。結婚前にしっかりと話あって、契約をすませるのがこの世界の常識だ。
とはいえ、王族で国王になった人の伴侶は女性だけだ。きっと反対されるだろう。
「いや、俺は侯爵家の跡取りだ。義父はプリメリアに侯爵家という重い荷物を背負わせたくないから俺たちを引き取ってくれたんだ」
「王妃のほうが重いぞ」
「そうだが……」
王妃になるならまだいい。問題はヒロインが来たときのプリメリアの処遇だ。生きていれば何とかなることも死んでしまえばなすすべもない。
「せめて、卒業までは王太子妃は……」
卒業パーティさえすめば『花咲き誇るフラワーガーデン物語』は終わりを迎える。
「……卒業まで、お前が代わりを務めてはどうだ?」
「お前は自分の事だぞ。アルは男の王太子妃と卒業のプロムパーティまでパートナーを務めないといけなくなるんだぞ」
「あと一息か」
「何?」
ニッコリと人好きのする顔でアルフォンスは微笑んだ。
「気を遣わなくていいじゃないか。のんびり過ごしたいと思っていたからちょうどいい。それに王太子にとって同性婚は珍しいが、貴族では一般的なことだ。封建的だと言う連中を黙らすことができるぞ」
アルフォンスも学園生活が最後の自由な時間なのだ。嫌がっているとわかっている俺ならヒロインが登場したあと、アルフォンスも婚約破棄をきりだしやすいか。
「保守派の筆頭が義父上なんだがな……」
「愛する娘を手放すよりマシなんじゃないか」
さっきの剣幕を思い出して二人で笑った。
「わかった。だが、プリメリアは嫌がっているので俺でどうですか? なんて言っていいものか……」
きっと両親もプリメリアも反対するだろう。
「私と想い合っている、ということにすればいいのではないか?」
ジッと見つめるアルフォンスの緑の目が思ったより近かった。
「近すぎると言ってるだろうが」
「これくらいで動揺していては狸たちを誤魔化せないぞ」
「……わかった。おいっ、これ」
俺の銀の髪は少し長くて肩のあたりで紐を結んでいる。それを解いて、アルフォンスはかわりの髪留めを填めた。赤い、アルフォンスの髪の色と同じ石がついている。
「婚約しようというんだ。これくらいは渡しておかないとな」
これは普通の宝石ではなく、俺たち魔法を使うものが生まれてから自分の魔力で育てる魔石だ。子供を作るときに必要なもので、婚約を決めた相手に贈ることが多いけれど、卒業までの関係なら必要はないはずだ。
「俺は持ち歩いていない。それに必要ない……、だろ」
自分が進む道が少しだけ怖い。これを受け取れば、何か大きな力に絡め取られるような気がする。
「そうだな。サイラスが私と結婚してもいいって思ったら贈ってくれ」
「あくまで、これはプリメリアの婚約を阻止するためのものだからな」
満足そうにアルフォンスは頷いた。
「アル……、えっと。何でこんなに距離が近いんだ?」
「お前が何を考えているかわらかないから、目を見ればわかるかなと思ってな」
鼻と鼻がくっつきそうなくらい近い。
「アルは一々距離が近すぎる!」
「怒っているのはわかった。ほら、氷を飛ばすのをやめてくれ」
さっきアルフォンスが水を湯に変えたときにも火の粉が舞ったようなエフェクトが周りに展開していたが、同じように俺も氷の結晶であるエフェクトが周囲に投影して魔法が発動する。フラワーガーデン物語の魔法は、キャラの個性の強調なのだ。エフェクトは綺麗だし、便利だ。攻撃魔法はメインキャラが見せ場で使ったりするから、強いのに、みんなあまり魔法を使わないのだ。あちこちでエフェクトが見えてたら、それはそれでうっとうしいけれど。
現代日本で作られたなんちゃってファンタジーロマンスゲームのせいか水道やトイレも電気も普通にある。使い勝手は電気で、パチッとボタンを押せば光が落ちてくるのに電気という概念はない。ボタンを押せばつくのが魔法の力で、電気の代わりに魔力が都合良く使われている感じだ。だからどの魔法具も魔石が源で、それを巡ってのエピソードもあった。ヒロインが魔石の泉をアルフォンスと見つけて、そのお陰で婚約者のプリメリアがいるのに婚約者を変更しようとしたのだ。そんなことをされたら、気位の高いゲームの中のプリメリアが暴走するのなんてわかっていただろうに。まぁ、今のプリメリアはアルフォンスに好意をもっているようには見えないから、ちょうどいいと譲るだろうけど。
攻略対象者である俺はオーディクス侯爵家の家系に多い氷の魔法使い。アルフォンスは炎の魔法の使い手だ。やはり公式での王道ヒーローだからだろうな。プリメリアは母方の血が濃いせいか氷ではなく、緑、植物に関する魔法を使う。
俺は魔力は多いけれど制御があまり得意ではないので、気を抜いていると感情の揺れでダイヤモンドダストのようなものを生成してしまうのだ。
「アルフォンス殿下が悪いと思います」
改まった口調で言うと、アルフォンスは慌てて距離をとった。
「わかった、悪かった!」
炎で氷を溶かすこともできるのに、アルは白くなった身体周りを叩いて霜のようなものを落として謝った。
「そんなに私とプリメリアの婚約が嫌なのか?」
探るような目つきでアルフォンスが尋ねる。
「駄目だ。絶対駄目なんだ……」
何故と言われても答えられないのに、俺は駄目だと繰り返した。
「それなら、お前が婚約者になればいい。さっきも言ったが、父上はオーディクス侯爵家との繋がりを求めているだけで、プリメリアがいいというわけじゃないはずだ。お前が私の婚約者になれば、プリメリアは自由だぞ?」
悪魔の囁きというのはこういうことをいうのだと思った。まっ暗な中に一筋の道が見えたなら、人は進むだろう。例え、それがガッタガタの舗装されていない道で落とし穴があるとわかっていても。
「俺が?」
「お前は侯爵家の人間だし、魔力も強いから跡継ぎも残せる」
前世では考えられないことだが、この世界は魔法で子供もできるのだ。ただ、かなり魔力が必要な上に魔力の調整も難しく互いの負担が半端ないので、子供が欲しければ異性とというのが一般的だ。結婚前にしっかりと話あって、契約をすませるのがこの世界の常識だ。
とはいえ、王族で国王になった人の伴侶は女性だけだ。きっと反対されるだろう。
「いや、俺は侯爵家の跡取りだ。義父はプリメリアに侯爵家という重い荷物を背負わせたくないから俺たちを引き取ってくれたんだ」
「王妃のほうが重いぞ」
「そうだが……」
王妃になるならまだいい。問題はヒロインが来たときのプリメリアの処遇だ。生きていれば何とかなることも死んでしまえばなすすべもない。
「せめて、卒業までは王太子妃は……」
卒業パーティさえすめば『花咲き誇るフラワーガーデン物語』は終わりを迎える。
「……卒業まで、お前が代わりを務めてはどうだ?」
「お前は自分の事だぞ。アルは男の王太子妃と卒業のプロムパーティまでパートナーを務めないといけなくなるんだぞ」
「あと一息か」
「何?」
ニッコリと人好きのする顔でアルフォンスは微笑んだ。
「気を遣わなくていいじゃないか。のんびり過ごしたいと思っていたからちょうどいい。それに王太子にとって同性婚は珍しいが、貴族では一般的なことだ。封建的だと言う連中を黙らすことができるぞ」
アルフォンスも学園生活が最後の自由な時間なのだ。嫌がっているとわかっている俺ならヒロインが登場したあと、アルフォンスも婚約破棄をきりだしやすいか。
「保守派の筆頭が義父上なんだがな……」
「愛する娘を手放すよりマシなんじゃないか」
さっきの剣幕を思い出して二人で笑った。
「わかった。だが、プリメリアは嫌がっているので俺でどうですか? なんて言っていいものか……」
きっと両親もプリメリアも反対するだろう。
「私と想い合っている、ということにすればいいのではないか?」
ジッと見つめるアルフォンスの緑の目が思ったより近かった。
「近すぎると言ってるだろうが」
「これくらいで動揺していては狸たちを誤魔化せないぞ」
「……わかった。おいっ、これ」
俺の銀の髪は少し長くて肩のあたりで紐を結んでいる。それを解いて、アルフォンスはかわりの髪留めを填めた。赤い、アルフォンスの髪の色と同じ石がついている。
「婚約しようというんだ。これくらいは渡しておかないとな」
これは普通の宝石ではなく、俺たち魔法を使うものが生まれてから自分の魔力で育てる魔石だ。子供を作るときに必要なもので、婚約を決めた相手に贈ることが多いけれど、卒業までの関係なら必要はないはずだ。
「俺は持ち歩いていない。それに必要ない……、だろ」
自分が進む道が少しだけ怖い。これを受け取れば、何か大きな力に絡め取られるような気がする。
「そうだな。サイラスが私と結婚してもいいって思ったら贈ってくれ」
「あくまで、これはプリメリアの婚約を阻止するためのものだからな」
満足そうにアルフォンスは頷いた。
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