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椿館の幽霊 3

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 食事は、思っていたよりも量が多かった。温かいミルクシチューには、鹿肉が入っていて美味しい。パンも王宮で出るより堅めだったけれど、チーズが沢山のっている。いつもは小食なクリストファーだけど、普通に食べているからどうしたのかと思ったら、座ってばかりじゃないからと言う。そのあたりが、自己管理が出来ている証拠だ。
 俺は、シチューのおかわりまでして、セシリーを驚かせた。俺の見た目は、あまり食べなさそうらしい。一緒に食事をすると大概驚かれるから、慣れたけれど。
 食事が終わって、熱はないけれど寝台で休むように言われた。クリストファーも一緒だから、嫌じゃない。いつもなら、俺が熱を出してもクリストファーは仕事にいかなければいけないから、こんな風に二人でゴロゴロとすることは、あまりない。

「ステンドグラス、カミーリアの花だね。庭にもたくさん咲いているし、きっとここに住んでいた人が好きだったんだろうね」
「ここは、曾お祖父様の妃が病気療養していた館なんだ。名前が確かミーリアだったはずだ。それもあって好きだったんじゃないか? 曾祖父は私と同じ赤い髪の毛だったそうで、そういう縁もあってこの領地を貰った」
「あの、二階にあった絵画はもしかして……」
「ああ、曾お祖父様と妃二人と、子供達だな」
「ミーリア様は、治ったの?」
「二年ほど暮らして、王宮に戻ったが、その後急な病で亡くなったらしい」

 ここで亡くなったわけではないのか。昨日のアレがミーリア様だったとしら、何故?

「どうした?」
「大したことじゃ……」
「お前の大したことじゃないは、あまり信用出来ないな」
「クリストファーは、もっと俺の事を信用してくれてもいいと思うんだけど」

 俺が信頼に足りないというのは、正直辛い話だ。

「お前の口は、嘘をつく」

 クリストファーが、突然俺に覆い被さってきて、口付けた。

「え……? んっ」

 今まで、そんな雰囲気は一切なかったのに、何があったんだろう。

「もっと――って言ってみろ」

 クリストファーの指が胸の突起を服の上から押しつぶして、その刺激に身体が逃げる。

「あ、駄目――っ」
「……本当に正直じゃない」
「……そういうことじゃ」

 その気があったわけじゃなくて、ただの悪戯だったようだ。

「だから、あからさまに安堵されるのも、私としては不満なんだが。で、何があったんだ?」

 クリストファーの目は、穏やかだけど、俺が隠そうとしたことを許してくれるほど甘くはないようだ。どうして、バレたんだろう? 王弟殿下、恐るべし。

「でも信じてくれる……か、不安なんです」

 そうして俺は、アルジェイドと体験した昨日のことをクリストファーに話したのだった。

「……なるほど。それで熱が出たのか。今も感じるか?」
「いいえ、何も感じません。きっと気のせいです」
「二人して夢でも見たと?」

 そうかも知れない。

「なら、幽霊にみせつけてやろう」

 どこからそうなったのか、俺にはわかりません……。

「んっ……くっ!」

 グチュといやらしい音が部屋に響く。いるのかどうかもわからない幽霊に見せつけるために脚を開かされて、クリストファーを受け入れた。

「ひっあ……」

 奥までいくと、脚を上に持ち上げて中を擦られた。両脚を右側に倒して、抜けそうになったモノをもう一度挿(い)れたとき、シーツを握りしめても我慢出来ずに一度達した。

「あああぁぁぁ――」
「締め付けすぎだ」
「あ、駄目、まだ……っ」

 官能に揺れる身体を抱きしめると、クリストファーは横になったまま後ろから俺をゆっくりと突いた。

「はぁっん」
「お前は、段々と艶っぽくなってくるな――。一年前の私に見せてやりたいくらいだ」

 一年前の俺は、まだ神学校の離島にいた。毎日を勉強と信仰と友情と汗に費やしていた。クリストファーは、今と変わらず王弟として仕事をしていたはずで。

「んぁ……」

 多少は体調を気遣っているのか送り込んでくる刺激は、もどかしいほどだ。

「お前が誰かのものになっていると信じていた――」
「それは……」

 俺なんて、クリストファーがローレッタと結婚しているだろうと思っていた。俺のものじゃなく、他の人に愛を誓って……。

「可哀想な子……」 

 口も開いていないのに、声は喉の奥から聞こえた。女の声は、静かに俺を哀れんだ。

「ルーファス! ではないな……。ミーリアか?」
「陛下、陛下はどうして――」
「レオン王は、お前を捨てたのか?」

 クリストファーは、俺ではない誰かと話をしている。レオンというのが、クリストファーの曾祖父なのだろう。
 俺は、息苦しくて胸を押さえた。ミーリアの悲しい気持ちが流れてきて、戸惑った。この想いは知っている。

「この子も可哀想。孤独だったのね」

 俺の過去を共有しているのだろう、そして同じようにミーリアの気持ちと思い出も流れ込んできた。同調しているのだ、俺の孤独とミーリアの孤独は違うけれど、寂しい気持ちは同じだから。
 孤独に飲み込まれそうになった俺の目に、窓の外、雪で作られたうさぎが映った。うさぎは、クリストファーが、俺のために作ってくれたんだ……。そう思うと、完全に同化しそうになった心が、解けて、離れた。

「ルーファス、お前には俺がいる――」

 クリストファーが、強い力で俺を抱きしめた。

「やぁあぁぁん」

 突然、ミーリアが泣きだしたというか、嬌声を上げた。

「勝手に動くな――」

 ああ……同調しすぎたんだ。俺の身体の感覚というか、挿(はい)っているクリストファーのモノがいいところにこすれて、反応してしまったのだろう。彼女が、戸惑っているのが手に取るようにわかるけれど、俺にだってどうすることも出来ない。

「いやぁぁん。そんなところ、だめぇ!」

 何だか気分が悪くなってきた。自分の身体だというのに、クリストファーが他の人を抱いているようで。

「ルーファス、抜くぞ」

 クリストファーは、あえて俺の名を呼ぶ。気付いたのは、腕の鳥肌と、青い顔、そして急激に存在感を失ったクリストファーのモノ。そういえば、信じていなかったけれどクリストファーは潔癖症だったんだ。俺じゃない人を抱くのはご免だと言っていた。俺の身体であっても、俺じゃないから拒否反応が出ているのだろうか。

「あああぁぁん」

 弾けるように達った。呆気なく達ってしまった。ミーリアと俺は同調したまま、抜かれる瞬間の刺激だけで。お互いの感覚が上乗せされ、強烈な快感に為す術もなく、震え、意識を失った。

「ルーファス? ルーファス!」

 クリストファーの焦る声が、怒号が、遠く聞こえた。
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