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私の妻がもてすぎて困るんだが

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「リーエン、お誕生日おめでとう」
「ルーファス様、ありがとうございます」

 小さな身体は、便利だ。危機感なくルーファスに抱きつき、嬉しそうに頬を染めている。

「大きくなったね。何か欲しいものとかして欲しいことある?」

 へばりついた甥っ子を抱き上げ、目線の高さを同じにして微笑むルーファスは、女神のようだ。気にいらないが……。

「何でも?」

 六歳になったばかりとはいえ、王太子として育てられているリーエントがただの幼い子供であるはずがない。

「何でもいいよ」

 どうするんだ、邪なことをお願いされてもお前は頷くのか?

「明日、一緒におやすみなさいして、ご本読んで欲しいです」
「いい……」
「駄目だ――」

 間髪入れず、止めに入った私に不服そうな顔をするリーエントの頭をゴリゴリと撫でると、「いたい、いたい」とわめく。こういう芽は早めに摘んでおくべきだろう。

「でも、明日はクリストファーお仕事で泊まりでしょう? 一日くらいリーエンと一緒に眠っても……」
「駄目だ――」
「どうして――?」
「駄目だったら駄目だ」

 不満そうに頬を膨らましたお前も可愛いが、許すことは出来ない。

「それなら、ルーファス。明日は、私と一緒に――」
「駄目です、叔父上。何をさせるつもりなのですか」

 こちらは大人だ。もっと駄目だ。

「普通に酒でも飲みながら、ここでの生活について話を聞こうと」
「却下! 酒は駄目です。ルーファスは、酒にめっぽう弱く、吐きます」
「……お前の嫉妬からじゃないのか?」
「すいません、本当に俺弱くて……」

 自覚のあるルーファスは、落ち込みながら叔父に謝っている。それをみて、叔父も酒は諦めたようだ。

「なら、明日は私とお茶会にでましょう。貴族の奥様方とお話するのも楽しいわよ」
「駄目です――」

 まさか母までしゃしゃり出てくるとは。

「百戦錬磨の母上のお茶会に出たら、ルーファスが可哀想です」
「酷いわね……」
「どうせ、夫の悪口や、夫が下手くそだとかそんなことをお茶を片手に面白おかしくお喋りしているんでしょう」
「そんなことばかりじゃないわよ。今時のドレスや、帽子の話だって……」

 ああ、ルーファスのいく気がなくなっているのが見えてよかった。

 今日のお茶会は、母上、義姉上、叔父上、リーエント、ローレッタ、私達だった。

「ルー、セドリックが会いたがってたわ。進路について相談したいって言ってたわよ」
「進路なんて、自分で決めるものだ――。それが会いたい理由なら、必要ない」
「冷たーい」
「セドリックなら行っても構わないぞ」

 セドリックは、ルーファスとローレッタの弟だ。

「いえ、本当に……」
「この前会ってから、全然会ってくれないってセドリックが嘆いていたわよ」

 元々兄弟仲は、いいとか悪いとかよりも交流がなかったそうだが、母親と和解してから少しは兄弟らしくなったと言っていたのにどうしたのか気になった。

「ルーファ、理由があるなら無理しなくていいけれど、ないなら相談に乗って上げなさい」

 義姉上の言葉にも、ルーファスは困ったような顔をするだけで頷かない。これは余程のことだろう。

「一緒に会おうか?」

 時間が、そうあるわけではないが、ルーファスのためなら構わない。助け船を出したつもりが、ルーファスは立ちあがって、酷く傷ついた瞳で私を見つめた後、走っていってしまった。追いかけたが、追いつけなかった。アルジェイドが追いかけていったから安全だと思うが、何があったのかわけがわからない。

「……歳ね」

 母上が気の毒そうに、お茶を差し出した。

「ルーファス様、どうしたの?」
「あれは、何かあったんじゃないか。クリストファー、聞いていないのか?」
「何も……」
「ロッティは?」
「……ルーがあんな顔するなんて、殿下のことで何かあったんじゃないですか?」
「覚えがない……」

 責めるように問いただされても、私に思いつかない。本当に何もないのだ。
 アルジェイドからの伝言で、部屋に戻ったというから、慌てて立ちあがる。

「クリス様」
「ああ、すまないが仕事は任せた」

 迎えに来たエルフランに仕事を頼んで、部屋に戻ることにした。あんなルーファスを放っておくわけにはいかない。

 離宮の居間に入ると、ルーファスはソファに座ってぼんやりと窓の外を眺めていた。入ってきた私に気付き、こちらを振り返ると、小さな声で謝った。

「すいません、逃げてしまって」
「追いかけきれずに悪かった……」

 ふふっと笑うルーファスだが、その顔はいつもの溌剌としたものではなかった。

「セドリックと喧嘩でもしたのか?」
「いえ……」
「なら何故かと聞いていいか?」

 ルーファスにだって、知られたくないことはあるだろう。だが、興味がないわけじゃない。ルーファスのことなら、何だって知りたいと思うのは、夫として当然のことだろう。いや、愛するものが傷ついているのなら、手を差し出して一緒に悩みたいと心から思っている。
 頬に手をあてると、無意識の仕草で頬を寄せる。横に座り、唇を寄せるとその物憂げな瞳を閉じた。
 官能を煽るというよりも気持ちがほぐれるように、唇を軽く食む。やわらかいそれを何と表現すればいいのかわからないが、これほど気持ちのいいものを私は知らない。

「ん……」

 唇の合間から舌を差し込み、優しく愛撫を繰り返すと、睫が震え、とろりとした瞳が現れた。
 ギュッと私の背中にしがみつくその様子に、私の息子もゆっくりともたげる。
 ルーファスのシャツの釦を外しながら、次に移ろうと唇を離すと、銀に光る糸が煌めいた。

「クリストファー、のこと、格好いいって――」
「は?」

 何を言っているのかわからず、思わず見つめた瞳が伏せられる。そうだ、セドリックの話を聞こうとしていのだ。いや、忘れたわけではない……。多分。

「燃えるような髪の毛が神秘的だって――」
「私の髪か?」
「声がセクシーだって、学院で人気だから、お茶会に一緒に来て欲しいって言われたんだ……」
「セドリックは、皆に自慢したいだけだろう。俺は王族もお茶会に呼べるんだって」

 別にそれくらいは構わない。ルーファスの弟だから、私にとっても義理の弟なのだし。
 フルフルと頭を振るルーファスは、何を心配しているのだろう。

「ルーファスと一緒に来て欲しいと言ったんだろう? ルーファスのことも自慢したいんだろう」
「……セドリックは、沢山友達がいるんだ。社交的で、俺とは違う……。きっとクリストファーは、俺よりセドリックのほうがよかったって……思っ!」
 
 ルーファスをソファに押し倒し、口付けた。荒々しく、息もつけなくて苦しそうになるくらい何度も。

「んぅ――。や……、あ……っ」

 シャツを全て開け、トラウザーズと下履きを横に放り投げ、身体のあちこちに口付けを降らせていった。胸と脚は特に念入りに。

「ルーファス、こんなことを他の誰にすると思うんだ?」

 見せつけるように、屹立したソレを含んでやると、真っ赤な顔を背けて、快感に身体を跳ねさせた。チャポ、チュプと水音をわざとたててやるとルーファスの全身が赤に染まっていく。慎ましやかな奥の扉に指を差し込むと、ルーファスのあえかな声が本能を刺激する。

「も、もうっ」

 達けとばかりに強く吸い込み、絶頂に導いた。ルーファスは腹を波打たせ、勢いよく私の口の中に発射した。わかっていたから、咳き込むこともない。

「あ、出して――」

 手を差し出したルーファスを笑いながら、見せつけるように吐き出したものを飲みこんだ。

「っ! ごめんなさい……我慢出来なかった……」

 ルーファスは、何度飲み込んでも申し訳なさそうな顔をする。

「私は、嫌なものを口に入れたり、飲み込んだりしない――」
「だって……」
「気持ちよかっただろう?」

 頷くルーファスの頬に口付けた。

「お前は、私のことが信じられないかもしれないが、私は正直な人間だ。お前以外は、抱きたくないし、口付けるのだって嫌だ。気持ちがわるい。そんな私が、ちょっと褒められたり、お前に似たところがあるというだけの男に興味を持つと思うのか?」
「……でも」
「私の話をコリンに聞いたりしているだろう?」

 図書館司書のコリンは、私が学院時代に一度抱いたことのある人間で、ルーファスの信奉者だ。たまに図書館によったときに話していると護衛から聞いている。

「……はい」

 気まずそうなのは、ろくな話を聞いていないからだろう。

「それが本当の私だ。同じように扱われたと思うことはあるか?」
「いいえ、それはありません……」

 コリンが何を話したか知りたくなるほど、ルーファスはきっぱりと否定した。

「なら、少しくらい私に愛されているのは自分だけだとうぬぼれてくれないか?」

 少し泣きそうな顔をして、破顔したルーファスに打ち抜かれたのは、私の恋心というやつだ。少女のようにドキドキしてしまうが、もしや年のせいかと心配になる。

「クリストファー、愛してます――」

 あ、もう一発きた……。キラキラとルーファスが光って見えるのは、光源のせいか、疲れてチカチカしているのかわからないくらいだ。

「ルーファス……愛してる」

 狭さを我慢して、ソファにもう一度横たえ、唇を味わう。

「クリストファー、リーエントのお願いは聞いて上げていいでしょう? まだ小さいし、一緒に過ごすこともあまりないですし」
「酒は飲まないこと。キスをねだられてもしないこと」
「ほっぺなら」
「駄目だ――」

 ため息を吐いて、ルーファスは仕方ないとばかりに笑う。

「わかりました。明日は、王宮の方に泊まりますね」
「ああ、兄上に言っておこう」

 私の愛撫に身を委ねるルーファスは、恥ずかしがりながらも妖艶だった。

「あっあ……ん……まって……っ」
「どうした?」
「いつもより大き……い」

 震える舌が、苦しそうで可哀想なのに、煽られている気分になる。

「あんっ、や、ゆっくり……」
「ゆっくりだな……」
「んん、あ……気持ち、いいっ」

 小刻みに揺れると、ルーファスは吐息をもらし気持ちがいいという。激しく突き入れたいのを耐え、胸の突起を舐めると、キュウとソコが収縮する。

「クリストファー、いいです。動いて――。あぁん」

 許しが出たのを幸いと、思いのまま抽挿を繰り返すと、ルーファスは声をあげた。
 身体が揺れるのを止めて押し込むと、眉間に皺を寄せて苦しさに耐えている。

「ルーファス……」
「あ、はっ……あ」

 脚を動かして、背面から突くと、ルーファスの声は明らかに変わっていった。耐えきれないと背中をのばすから、そこに口付けると、ブルッと震えた。

「あっあぅあ……あ……あん」

 抱きしめながら、勢いよく全てを注ぐと、ルーファスはクッションに顔を押しつけてソファに倒れ込んだ。昼間だから、声を耐えたのだろう。

「ルーファス?」

 ビクビクと震えながら、私が抜いたそこから子種を溢れさせる姿は、何度でも構わず抱きたくなるほどの色香を湛えている。

「クリストファー……」

 意識はしっかりとあったようで、慌てて私から身体を隠そうとシーツをさぐるが、残念ながらいつもの寝室ではない。困ったような顔のルーファスにシャツを渡すと慌てて身体を隠すから(しかも隠れていない)可愛らしい。

「洗ってやろう」
 
 ギクリと身体をかたくするルーファスは、気付いている。私がこれで終わらないということを――。
 そう、正解だ――。
 口付けると、ルーファスは諦めたように手を伸ばし、私の首にしがみついた。

 ルーファスと、セドリックの知り合いのお茶会に出かけたのはその一月後だった。私のことなんて見ていないセドリックは、ルーファスを皆に自慢したくてしかたがなかったようだ。褒められすぎて居心地は悪そうだが、ルーファスも満更でもなかったようだ。

 そして、私の要注意人物記録用紙にセドリックの名前が一つ加えられたとだけ、報告しておこうと思う。

  
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