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公務ってこういうもの?(後)

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 私が命じた以上の仕上がり具合に、マリエルへの給金を増やすように言うべきだと私はエルフランを捜したがいないことに気付く。
 ああ、そうだ、今日はいないのだ。劇場の母上のシートではなく三階席の王族用の席を用意させたのだが(個室)、となりの警備目的で空ける部屋をエルフランとダリウスに一部屋づつ用意したのだ。エルフランは、最近恋人が出来たと言っていたので夕方から暇をやった。ダリウスはローレッタと楽しむといっていたが……。

 馬車でルーファスをエスコートし、感激する支配人と役者達の歓迎を受けた。ルーファスは緊張に少し顔が白かったが、それでも「楽しみにしています。がんばってください」と激励を送って今日の大任を果たした。
 白く強張った顔が、また堪らないストイックな感じでつくりものめいた完璧な美しさを引き立てるのだが、本人は気付いていないだろう。私に触れる指がキュッと緊張に強張ることはある。
 個室に入ると安堵からかホッと息を吐いたところみると、見た目以上に緊張しているのだろう。労うようにポンポンと頭に手を乗せると、嬉しそうに微笑む。
 ルーファスに上目遣いに見上げられた(身長差で)今日の主役の相手方は目線を上に下にと挙動不審だったが、無理もない。今日のルーファスは内から漏れる色気のようなものがあって、離宮を出る前にアルジェイドとマリエルに随分文句を言われた。

「ひさし振りなのはわかりますけど、あんなに艶っぽくなられたら、普通を装ってお世話するのも大変なんですけど!」

 お陰でルーファスが呆然とするほど、褒めまくったというが、ルーファスの美しさを褒めることなど簡単すぎるだろう見たままを言えばいいのだから。

「皆が赤くなってルーファス様を見るものですから、何か変なところでもあるのかと何度も聞かれました。安全を確保するためにもあんな状態で部屋からだされては困るんです」

 ルーファスの知らずに発する色(フェロモン)にフラフラと邪な想いをもってしまう人間が少なからずいるらしい。
 ちょっと火がつきやすくするために焦らしたのだが、とんでもない火事にならないとも限らない。私は少しだけ反省した。

「クリストファー、パンフレット見る?」

 王族用の個室はこの華美な劇場で一番金がかかっている。なのに、母はあそこで見ているのかと下を見て呆れる。

「いや、内容は知っている」

「クリストファーは、みたことあるの?」

 何度かこの劇場で見たが、そういうと後で困ったことになるかもしれないので、「王宮で一度公演したことがあるはずだ。この国では有名な演目だからな」と言っておいた。

「ふうん。『貴方に捧げる星語り』か。主人公、『星見』なんだね」

 どういう反応をするかと思っていたが、もう既に受け入れているのか『星見』に関してルーファスは何も言わなかった。

「そうだな。もし、お前が『星見』になっていたら、似たことになっていたかも知れんな」

 あはははとルーファスは笑うが、冗談ではなかった。

「『星見』の青年が王様に見初められて、後宮に入れられて……国が神殿を怒らせて破門された……って、これ」
「ああ、私の曽祖父の話だな。それ以来うちの国に星見は派遣されない。このときに初めて、同性同士の結婚が認められたんだ。王が三人まで妻をもてるというのも、『星見』を妻にしたかった曽祖父にはもう妻が二人いたからだ。それまでは二人しかもてないはずだった。曽祖父が亡くなり、教会の怒りが解けたあとも同性結婚はそのまま許されたから私達は結婚できたことを思えば、曽祖父には感謝だな」
「同性結婚は、人が増えすぎて食料に困った時に人口を調整するために導入されたと聞いてたけど……」
「まあ、王が『星見』を無理やり妻にして、教会の破門をくらったなんて醜聞だしな。ちょうどその頃、食糧危機が起こったのも確かなんだ」

 事実は小説より奇なりということかとルーファスはブツブツとパンフレットを見ながら呟いている。

「お前が『星見』になっていたら、私は同じようにお前を攫って隠しただろうな」

 音楽が鳴り始め、暗くなっていく。

「そんなこと……」
「わかっていたからクルド叔父は、お前を私に返したんだぞ。かなり気に入っていたからな。手元に置いておきたかっただろうに」

 緞帳が上がる。

「三階でも音がはっきり聞こえるんだね」

 ルーファスは、話を変えたようだった。私がどれだけルーファスを求めていたかもっと教えてやりたかったが、機会はいくらでもある。
 どういう構造になっているのか、明るい舞台上はしっかりと見えるのに、下からは見えないようになっているねと気付くルーファスだが、それがどういうことかはわかっていないようだった。

「コースではなく軽食のみにしているが……」
「うん、軽く食べてきたから大丈夫」

 さすがマリエルだと内心で褒めていると、軽食が運ばれてきた。横の個室の音は聞こえることがあるが、同じように食事をしているだろうから、気にせず飲んだり食べたりができるのも貴族の逢瀬(デート)にぴったりなのだろう。

「一口だけ飲んでみるか?」

 酒はルーファスに飲ませないようにしているが、一口くらいなら大丈夫だろうと渡すと、幸せそうな顔で、コクリ、コクリと飲むから慌てて止めた。

「美味しい~」

 身体が受け付けないのと、好き嫌いは関係ないのが可哀想なところだ。そんなに好きなら飲ましてやりたいが、苦しむのもルーファス自身だから許してやる事ができない。
 劇が始まって、最初こそ楽しそうにしていたルーファスだが、気がついたら眠っていた。居心地のいいソファと耳に心地いい伸びのある歌声は、疲れた体には心地よかったのだろう。豪華な軽食はあらかた食べ終わっているから、人を呼んで下げさせた。

「ルーファス?」 
 
 さっきのほんの少しのワインで酔っているのではないかと思えるほど、ルーファスの眠りはうたた寝にしては深かった。

「ルーファス……。そんなに無防備だと……」

 苦笑しながら、ルーファスの服の前を緩める。個室に入ったときに上着は脱いでいるので、簡単に服を乱すことが出来る。そういえば、着衣のままルーファスを抱いた事はなかったなと、気付いた。
 シャツの上から乳首に吸い付くと、唾液をすってシャツが透ける。

「う……ん……」

 僅かに声を上げたが、それくらいでは目を醒まさないようだ。私は、ルーファスの下着をずらし、乳首を舐めたり潰すように押した際に反応し、勃ちあがったルーファス自身を口に含んだ。これをするとルーファスは酷く嫌がるのだが、嫌がりながらも興奮してしまうのは男だから仕方ない。私の口の中で大きくなるソレを吸い込むと、ビクッと身体を震わせて、ルーファスは驚きで引きつった顔をしながら目を醒ました。

「ク……クリストファー……?」

 ここがどこかわからなかったのだろう、ルーファスは目線を彷徨わせると、身を捩った。

「や、やだ……なんで? 何でこんなところで――」

 目元にうっすら浮かんだ涙が、ルーファスの混乱を私に教えてくれる。

「ここは、そういうところなんだ」

 ルーファスは衝撃に息を飲んだ。

「え……?」

 ちょうどいいところに「ああんっ」と女の嬌声とわかる声が聞こえた。微かだが、ルーファスにも聞こえたのだろう、困ったように目を伏せた。

「ここは貴族がそういうことも楽しむために来てる場所なんだ。だから、気にしなくていい。下からは見えないようになっているだろう?」

 先ほど確認していたから、ルーファスもそれはわかっているようだ。反対から「はぅっ!」と男の声が聞こえた。エルフランの恋人は男なのか……と、ちょっと複雑だ。

「で、でも……俺……」
「大丈夫だ。皆、他の席のことは気にしないから。暗黙の了解てやつだ。お前がどんなに乱れても気にしない」
「あ……」

 もう一度含んだら、ルーファスは顔を真っ赤にして……諦めたように目を閉じた。

「ルーファス、ここに……」
「立ったままっ?」

 煽るだけ煽ったあと、私はルーファスをテーブルにうつ伏せにさせて尻を突き出させた。ルーファスの前にタオルをあて、香油を私自身にたっぷりとかけて、ゆっくりと挿入(いれ)た。さすがに昨日、今日の朝と解したせいか、ルーファスは私のソレをゆっくりと飲み込んでいった。

「あっ……んん……っ!」

 ルーファスは、必死に声を殺す。それでも少し漏れた声に、慌てて自分の口を手で押さえた。
 私を飲み込んだソコは、私が挿入(いれ)ただけで収縮し、前から白濁を零した。普段と違いすぎる状況に興奮していたからか、朝のお預け状態が辛かったせいか、理由はわからないが、「ふ、あっ……」と苦しげに息をもらすルーファスは激しくイっていた。もっていかれそうになるのを我慢して、ルーファスの中の痙攣がおさまるのをジッと待っていると「ご、ごめんなさ……い」とルーファスは声を震わせ泣きそうな声で謝る。

 自分だけが盛っていると思っているのだろうか。謝る必要などないというのに。

「ルー……ルーファス……動いていいか?」

 後ろから背中に口付けて聞くとルーファスは「うん……」と少し幼い声を出した。

「ん……んん……あ……んんっ」

 口を押さえても漏れる嬌声に、ルーファスは自分で煽られているようだった。腰を押さえつけ、激しく突き入れると抑えきれないと自分の指を噛んでいるのに気付いた。

「傷をつけるな……」
「だって……っ!」

 指を取り上げるとルーファスはしゃくり上げてしまった。

「わかった。噛むなら私を噛め」

 ルーファスの口元に腕を持っていくと、戸惑っているのが見て取れた。だが、そこで終われるわけもなく、私が推しつける様に抽挿を繰り返すと、腕に痛みが走った。
 泣きながら、私の責めを耐えていたルーファスは、感度のいい場所を幾度もこすられる度に身体を跳ねさせ、「ううう……ふっあああ」と声を上げて、絶頂の波に飲み込まれていった。
 ルーファスの搾り取るような動きをする後ろを長いストロークで責め、最後に最奥に私は飛沫をルーファスに叩きつけるように流し込んだ。

「……やらぁ……。も、無理……ぃ」

 私が再度動き始めると、舌足らずに無理だと子供のようにしゃくり上げながら泣き出した。

「ルーファス――……?」
「あっ、あっ、あっ! も、またイッちゃう……!」

 こんなに乱れるルーファスはそうあることじゃない。ルーファスはイってもイっても終わりがないようで、それにつられて私も絞りとられるように何度となく注ぎ込んだ。
 最後は吐き出すものもなく、後ろだけで達するルーファスが、あのたった一口、二口のワインで酔っ払っていたのだと気付いたのは、ルーファスが意識を失ってしまった後である。

「もう……飲めません~」と可愛い寝言を聞いて、私は、やっとルーファスがおかしかったことに納得したのだった。

「うた……上手だねぇ」

 意識が浅いところにあるのか時折、寝言のようにしゃべりかけてくるのが可愛い。
 ルーファスを出来る限り綺麗にし、さっと部屋を片付ける。こういうとき、学院で一人暮らしの術を(エルフランはいたが、クリストファーの代わりに総代を仕事をしていたので忙しかった)覚えておいてよかったと思う。

「歌、また聴きたいか?」
「……うん、クリス様と一緒だったら……聞きたいな……」

 夢の中ではクリス様なのだなと、笑う。
 物語は佳境に入っているが、そろそろ出ようとルーファスを抱き上げると、首に手を回して抱きついてくるので、頬に口付けた。
 廊下にでると、アルジェイドと私の護衛、そしてエルフランが立っていた。

「なんだ、最後まで楽しんでいけばいいのに」
「いえ、あのルーファス様はどうされたのですか?」

 他の人間は抱き潰したと疑いもしなかったが(その通りではあったが)、ルーファスの公務として来ているのだからエルフランは疑問に思ったのだろう。

「ああ、ワイン二口でこれだ……。お前に任せていいか?」

 ルーファスの代わりに最後に役者を労うのも、潰してしまった私の仕事だろうと、エルフランにルーファスをまかせた。
 アルジェイドを供にエルフランは先に馬車へと向った。
 アルジェイドの影にいた青年は、エルフランを頭を下げて見送っているところをみると恋人なのだろう。

「すまないね、エルフランを借りてしまって。君も一緒に馬車で待てばいい。送っていこう」
「いえ、僕は家が近くなので、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 少し青い顔をしているので心配だったが、青年は恐縮しながらクリストファーを見送った後、よろけながら帰っていった。どこかで見た顔だったが、思い出せなかった。


「素晴らしい歌声だった。また是非聞かせてもらいたい」

 私は機嫌が良かった。ルーファスの痴態にも満足だし、その後の寝顔も可愛かったからだ。普段の私を知る人間は二度三度と顔を見なおしたに違いない。
 ルーファスがまた聞きたいと言ったから、『星見』役の青年を名指しでわざわざ褒めたのだが、『星見』役の青年が何を勘違いしたのか「い、いつでも侍らせていただきます」と顔を真っ赤にして擦り寄ろうとするので、思わず一歩後退してしまうところだった。その青年と私の間に入ったのは、ダリウスだった。

「悪いんだけど、警備の関係上、それ以上側によらないでくれるかな?」

 ローレッタはいない。いたら、浮気だなんだとうるさかっただろう。

「あ……え……はい」

 もっと下がってとダリウスが言えば、『星見』の青年もそれ以上側に寄ろうとはしなかった。

「王太后様も喜ばれるだろう」

 私が支配人に告げれば、ホッとしたように「ありがとうございます」と頭を下げた。
 ダリウスと馬車に戻れば、エルフランが馬車の外で待っていた。

「その、クリス様と間違われて、抱きついてこられるので……アルジェイドと交代しました」

 エルフランは申し訳なさそうに頭を下げた。

「いや、恋人は帰ったようだが……」
「ええ、構いません」
「エル、クリス様てば『星見』役の男に色目使って惚れられてんだぜ」

 ダリウスが余計な事を言う。

「色目じゃない。ルーファスが歌声を気に入ったというからもう一度王宮に呼ぼうと思っただけだ。ルーファスは……少し……情緒というものを勉強したほうがいいと思うんだ」

「情緒! 是非、ローレッタにも教えてやって欲しい。あの伯爵家(いえ)はなんだ、情緒とかなんというか、情操教育をやってないんじゃないか?」

 ダリウスが、ローレッタも同じだという。

「まぁ、あの伯爵家(いえ)は元々将軍を輩出するくらいの武闘派ですからね……。先の伯爵がそちらに進まなかったので知らない人も多いですけど」

 エルフランの言葉に納得するものがある。

「ローレッタは、どうしたんだ」
「ああ……ワイン二杯で酔っ払って大変だったから一度家に連れて帰った。エルの恋人を見ようと思って戻ってきたんだけど、もう帰ったのか」

 残念そうにダリウスは肩を落とした。エルフランはダリウスと違って、特定の相手を恋人にしたことがないから珍しかったのだろう。ダリウスは特定の相手は作るが、三ヵ月ともったのはローレッタが初めてのはずだ。というか、もう結婚しているが。


 次の朝、目覚めたルーファスの落ち込み様は酷かった。折角の公務を全うできなかったと、普段食べる半分の量の朝ご飯しか入らなかったくらいだ。

「私がワインを飲ませたのが悪かったんだ。気にしなくていい。だが、どこまで覚えている?」

 食事をしたところまでらしい……。
 ということは、また逢瀬(デート)をするときは、劇場(ここ)はこういうところだという説明から始めなくてはいけないわけだ。ちょうどいいタイミングで嬌声が聞こえるようにエルフランとダリウスと図ったというのに……。

「そうか、今度は公務ではなく、逢瀬(デート)で行こうか」

 ルーファスにそう提案すると、落ち込みが少し浮上したようだ。
 いくらでも、付き合おう。情緒が育たなくてもいい。
 ルーファスの昨日の姿を思い出して、私はにやつきそうになるのを堪えるために必死で普通の顔を装うのだった。
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