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公務ってこういうもの?(中)
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前日に王妃リリアナ様から「お母様のご公務の劇場観覧をルーにお願いしたいと思っているの」と声を掛けられた。
アフタヌーンティを一緒に中庭でとることは日常茶飯事である。その日は王太后である母と、リリアナ妃、王太子であるリーエント、レティシア姫が一緒だった。ルーファスは学院、王である兄は仕事でその場にはいない。時間があえば、そうやって家族と過ごす事も私は嫌いではない。
「劇場ですか……」
この様子だと、リリアナ妃も母もよくある貴族席のアレコレを知らないようだ。
リリアナ妃が劇場観覧になる場合は、貴族席の三階は警護のためにだれも入れないようになる。
母は趣味がこうじて劇場鑑賞目的で大きな劇場を作った。芸術を育てるのは高貴なものの定めだとかいっているが唯の弁解であることは皆知っている。
三階席では浸れないのよ! という理由で一階最後尾に専用のシートをつくったくらいだから、貴族席には行ったことがないのかもしれない。護衛が十人は横につくし、一般人は入れないようになっているから安全といいはるものの、散々止めたが、劇場で暗殺されても本望だといって聞いてくれない。
劇場は貴族の夫婦や恋人、愛人などの逢瀬(デート)の場になっているのだが、それを知るのは私だけのようだ。
「公務というとルーファスも緊張するかもしれないけれど、人の目に触れることも今のうちに慣れておかないと……」
甥であるルーファスを心配してのことだけに、少し申し訳ない気分がないでもないが、私は至極真面目に「そうですね、心配なので私もついていきましょう」と告げた。
「そうしてくれると安心だわ」
リリアナ妃は、二人も子供のいる女性には全く見えない可憐な笑顔で私に微笑む。その信頼の眼差しに、少しだけ私は罪悪感を持たずにはいられない。少しだけだが……。
明日の事を考えるだけで、私は密かに小躍りしたくなる。だが、その前に、今日はルーファスの試験明けだ。帰ってきたルーファスをひさしぶりに堪能できる。
「おじちゃま、気持ち悪い~」
リーエントが失礼な事をいう。ああ、顔に出ていたか……。
ジーと見つめるリーエントに私は教えてやる。
「十年か二十年立てば、お前も同じようになる」
この愛するものへの執着心は、私だけではない。兄も父も祖父も曽祖父も代々受け継がれてきたものだ。私と同じ血を持つ限り、今は天使のようなリーエントもそのうちわかるだろう。
「い、やー」
リーエントは身内の贔屓目かもしれないが利発だと思う。だがまだ子供だ。わかっていない。
幼子の正直すぎる声を無視して私はほくそ笑んだ。
帰るとルーファスはまだいなかった。気がはやりすぎて、会議の紛糾しそうなところを全て視線で黙らせてしまったから、明後日はもう一度大臣達の話を個別に聞いてやるつもりだ。
扉を開けて入ってきたルーファスは、早い時間に帰ってきていた私をみて驚いていた。嬉しそうに私の胸の中に飛び込んできたあと、おずおずと背中に手を回し、私の目を覗き込む。
「待っていた――」
もっていた本を横の書庫にもどし、ルーファスの大好きな口付けを与える。本は、ルーファスをただジッと待っている姿が恥ずかしいから、ルーファスから自然に見えてすぐに抱きとめられる体勢を捜していただけだったりする。
「クリストファー――……」
二週間の間、私はまるで飼い主を待つ忠犬のようにただ待っていた。下手に触りっこだけなんて、緩慢な拷問を受けているだけのようだから、口付けすら触れる程度だった。
他に欲望を吐き出すなんて、この性におおらかな国であれば、相手を見つけることは簡単だ。だが、私はルーファス以外を抱きたいとは思えないのだ。
二週間が二ヶ月だったとしても、私はルーファスを待ち続けるだろう。
私の欲望を全て受け入れ、切なげに細められた目には私を欲する炎のような揺らめきがあり、それだけで簡単に煽られてしまう。一度目はあっけないくらいの早さでにルーファスの中に欲望を注ぎ込んだ。
それが更に潤滑剤となり、激しいリズムを刻む。ルーファスの嬌声が、私のリズムの少し後を追い、最後には声すら出なくなっても、私を止めることはしなかった。
「ルーファス……愛してる」
「俺の方が……」
指先まで震え、視線すら定まらないのに、ルーファスは自分のほうが愛していると譲らない。絶対に私のほうがルーファスを愛しているのだが、ルーファスが折れないのはわかっているから、『お前は私がいなくても生きていけるが私は生きていけない』という言葉を飲み込んだ。
愛しい身体を思いのまま貪り、意識のなくなったルーファスの後ろを浴場で洗い流す。そのまま眠ってしまえば楽なのだが、ルーファスは私の子種をそのままにするとお腹を壊してしまうのだ。ルーファスは、いつも最後には眠ってしまう(気絶してしまうこともあるが)ので、これは夫である私の役目だ。後処理まできっちりこなす私をみれば、過去私に抱かれたことのある者達は、一様に驚くだろう。自分でも信じられないくらいだから、当然か。
夕方から抱いて、もう夜も更けている。明日の朝、ルーファスはきっとお腹がすいているだろう。綺麗に整えらえた寝台にルーファスを下ろし、侍女を呼ぶ。もうマリエルは帰ったと思っていたが、一向に寝室から出てこない主(ルーファス)を心配していたのだろう。
明日の公務のことと朝食のことを伝え、夜中にルーファスがお腹を空かせて起きてきたことを考えて軽い軽食を用意させた。
「クリストファー殿下も何かお召し上がりになりますか?」
「いや、もう眠る」
早くルーファスのいる寝台に戻って眠りたかった。
マリエルは心得たようにお辞儀をした。
よく出来た女性(ひと)だと思う。どちらかというと考えこむタイプのルーファスのためにいつも明るく優しく導いてくれているようだ。たまにやりすぎて、ルーファスが思考停止に陥っているのを見るとそれはそれで楽しい。
体温を求めてか、私に抱きついてくるルーファスのこめかみに口付けて、私も激しい疲労から深い眠りに落ちるのにそれほど時間はかからなかった。
次の日の朝、私は漲るエネルギーの充電に成功している事に気づく。あれだけハードな情事だというのに、ルーファスを抱いた次の日というのは気力体力ともに充実している。
あれか、ルーファスが甘露なる生命の果実ということだろうか。誰にもやれないし、やるつもりもないので検分はできないが、きっとそうに違いない。
寝ぼけ眼のルーファスを浴場に連れて行き、いつものように悪戯を始める。昨日の夜に散々開いた身体は、私の指を受け入れ快感に腰が揺れるというのに、試験の後の集まりを気にして私に集中できないようだ。
口付けを命じると、初心な少女のように私の唇の端にチュッと音を鳴らした。
「それで……満足か?」
笑いを含み尋ねると、迷いを目に浮かべ、おずおずと私の望むように唇に吸い付いてきた。私はワザと指を動かさず、ルーファスの口付けに集中して、絡む舌に陶酔するルーファスを冷静な目で見つめた。
私の目の色でルーファスは口付けだけで煽られているルーファスを見て楽しんでいることに気付いたようだ。ルーファスは羞恥に赤く色付く。
私の指を咥えたまま揺れる腰と口付けに酔い始めたルーファスを見ていると自然と笑みが浮かぶ。
「煽られているのかじらされているのかわからん」
笑いながらそういうと、少しすねたような顔をするから余計に堪らない。ルーファスのどんな仕草も声も私を煽るためだけにあるような気がするのだが……。
約束どおり、私は自身を挿入(いれ)ず、ルーファスのモノと自分のモノを重ねて扱いた。ピクピクと震えるルーファスのそれを愛撫するかのように私のモノがいきり立つ。後孔をうがつ指は偶にルーファスの良いところを掠めるだけで、いつものようにルーファスが欲しがるだけの快感を与えはしない。前だけで達したルーファスは、いかにも欲求不満という顔をしている。締め付けていた後ろは、もっと太いものを求めてキュウキュウに締め付けた後でピクピク震えている。ルーファスが求める快感以上のものを体が欲しているのだろう。
私はルーファスの髪を乾かし、何か言いたげなのに、いえないでいるルーファスの頭の天辺に軽い口付けを落とした。
後ろ髪をひかれながら、少し早いが執務室に行く。今日は劇場で逢瀬(デート)だ。きっとルーファスは驚き、私を拒否するだろう。ルーファスをその気にさせるために自身も辛いが中途半端なまま終わったのだ。
アフタヌーンティを一緒に中庭でとることは日常茶飯事である。その日は王太后である母と、リリアナ妃、王太子であるリーエント、レティシア姫が一緒だった。ルーファスは学院、王である兄は仕事でその場にはいない。時間があえば、そうやって家族と過ごす事も私は嫌いではない。
「劇場ですか……」
この様子だと、リリアナ妃も母もよくある貴族席のアレコレを知らないようだ。
リリアナ妃が劇場観覧になる場合は、貴族席の三階は警護のためにだれも入れないようになる。
母は趣味がこうじて劇場鑑賞目的で大きな劇場を作った。芸術を育てるのは高貴なものの定めだとかいっているが唯の弁解であることは皆知っている。
三階席では浸れないのよ! という理由で一階最後尾に専用のシートをつくったくらいだから、貴族席には行ったことがないのかもしれない。護衛が十人は横につくし、一般人は入れないようになっているから安全といいはるものの、散々止めたが、劇場で暗殺されても本望だといって聞いてくれない。
劇場は貴族の夫婦や恋人、愛人などの逢瀬(デート)の場になっているのだが、それを知るのは私だけのようだ。
「公務というとルーファスも緊張するかもしれないけれど、人の目に触れることも今のうちに慣れておかないと……」
甥であるルーファスを心配してのことだけに、少し申し訳ない気分がないでもないが、私は至極真面目に「そうですね、心配なので私もついていきましょう」と告げた。
「そうしてくれると安心だわ」
リリアナ妃は、二人も子供のいる女性には全く見えない可憐な笑顔で私に微笑む。その信頼の眼差しに、少しだけ私は罪悪感を持たずにはいられない。少しだけだが……。
明日の事を考えるだけで、私は密かに小躍りしたくなる。だが、その前に、今日はルーファスの試験明けだ。帰ってきたルーファスをひさしぶりに堪能できる。
「おじちゃま、気持ち悪い~」
リーエントが失礼な事をいう。ああ、顔に出ていたか……。
ジーと見つめるリーエントに私は教えてやる。
「十年か二十年立てば、お前も同じようになる」
この愛するものへの執着心は、私だけではない。兄も父も祖父も曽祖父も代々受け継がれてきたものだ。私と同じ血を持つ限り、今は天使のようなリーエントもそのうちわかるだろう。
「い、やー」
リーエントは身内の贔屓目かもしれないが利発だと思う。だがまだ子供だ。わかっていない。
幼子の正直すぎる声を無視して私はほくそ笑んだ。
帰るとルーファスはまだいなかった。気がはやりすぎて、会議の紛糾しそうなところを全て視線で黙らせてしまったから、明後日はもう一度大臣達の話を個別に聞いてやるつもりだ。
扉を開けて入ってきたルーファスは、早い時間に帰ってきていた私をみて驚いていた。嬉しそうに私の胸の中に飛び込んできたあと、おずおずと背中に手を回し、私の目を覗き込む。
「待っていた――」
もっていた本を横の書庫にもどし、ルーファスの大好きな口付けを与える。本は、ルーファスをただジッと待っている姿が恥ずかしいから、ルーファスから自然に見えてすぐに抱きとめられる体勢を捜していただけだったりする。
「クリストファー――……」
二週間の間、私はまるで飼い主を待つ忠犬のようにただ待っていた。下手に触りっこだけなんて、緩慢な拷問を受けているだけのようだから、口付けすら触れる程度だった。
他に欲望を吐き出すなんて、この性におおらかな国であれば、相手を見つけることは簡単だ。だが、私はルーファス以外を抱きたいとは思えないのだ。
二週間が二ヶ月だったとしても、私はルーファスを待ち続けるだろう。
私の欲望を全て受け入れ、切なげに細められた目には私を欲する炎のような揺らめきがあり、それだけで簡単に煽られてしまう。一度目はあっけないくらいの早さでにルーファスの中に欲望を注ぎ込んだ。
それが更に潤滑剤となり、激しいリズムを刻む。ルーファスの嬌声が、私のリズムの少し後を追い、最後には声すら出なくなっても、私を止めることはしなかった。
「ルーファス……愛してる」
「俺の方が……」
指先まで震え、視線すら定まらないのに、ルーファスは自分のほうが愛していると譲らない。絶対に私のほうがルーファスを愛しているのだが、ルーファスが折れないのはわかっているから、『お前は私がいなくても生きていけるが私は生きていけない』という言葉を飲み込んだ。
愛しい身体を思いのまま貪り、意識のなくなったルーファスの後ろを浴場で洗い流す。そのまま眠ってしまえば楽なのだが、ルーファスは私の子種をそのままにするとお腹を壊してしまうのだ。ルーファスは、いつも最後には眠ってしまう(気絶してしまうこともあるが)ので、これは夫である私の役目だ。後処理まできっちりこなす私をみれば、過去私に抱かれたことのある者達は、一様に驚くだろう。自分でも信じられないくらいだから、当然か。
夕方から抱いて、もう夜も更けている。明日の朝、ルーファスはきっとお腹がすいているだろう。綺麗に整えらえた寝台にルーファスを下ろし、侍女を呼ぶ。もうマリエルは帰ったと思っていたが、一向に寝室から出てこない主(ルーファス)を心配していたのだろう。
明日の公務のことと朝食のことを伝え、夜中にルーファスがお腹を空かせて起きてきたことを考えて軽い軽食を用意させた。
「クリストファー殿下も何かお召し上がりになりますか?」
「いや、もう眠る」
早くルーファスのいる寝台に戻って眠りたかった。
マリエルは心得たようにお辞儀をした。
よく出来た女性(ひと)だと思う。どちらかというと考えこむタイプのルーファスのためにいつも明るく優しく導いてくれているようだ。たまにやりすぎて、ルーファスが思考停止に陥っているのを見るとそれはそれで楽しい。
体温を求めてか、私に抱きついてくるルーファスのこめかみに口付けて、私も激しい疲労から深い眠りに落ちるのにそれほど時間はかからなかった。
次の日の朝、私は漲るエネルギーの充電に成功している事に気づく。あれだけハードな情事だというのに、ルーファスを抱いた次の日というのは気力体力ともに充実している。
あれか、ルーファスが甘露なる生命の果実ということだろうか。誰にもやれないし、やるつもりもないので検分はできないが、きっとそうに違いない。
寝ぼけ眼のルーファスを浴場に連れて行き、いつものように悪戯を始める。昨日の夜に散々開いた身体は、私の指を受け入れ快感に腰が揺れるというのに、試験の後の集まりを気にして私に集中できないようだ。
口付けを命じると、初心な少女のように私の唇の端にチュッと音を鳴らした。
「それで……満足か?」
笑いを含み尋ねると、迷いを目に浮かべ、おずおずと私の望むように唇に吸い付いてきた。私はワザと指を動かさず、ルーファスの口付けに集中して、絡む舌に陶酔するルーファスを冷静な目で見つめた。
私の目の色でルーファスは口付けだけで煽られているルーファスを見て楽しんでいることに気付いたようだ。ルーファスは羞恥に赤く色付く。
私の指を咥えたまま揺れる腰と口付けに酔い始めたルーファスを見ていると自然と笑みが浮かぶ。
「煽られているのかじらされているのかわからん」
笑いながらそういうと、少しすねたような顔をするから余計に堪らない。ルーファスのどんな仕草も声も私を煽るためだけにあるような気がするのだが……。
約束どおり、私は自身を挿入(いれ)ず、ルーファスのモノと自分のモノを重ねて扱いた。ピクピクと震えるルーファスのそれを愛撫するかのように私のモノがいきり立つ。後孔をうがつ指は偶にルーファスの良いところを掠めるだけで、いつものようにルーファスが欲しがるだけの快感を与えはしない。前だけで達したルーファスは、いかにも欲求不満という顔をしている。締め付けていた後ろは、もっと太いものを求めてキュウキュウに締め付けた後でピクピク震えている。ルーファスが求める快感以上のものを体が欲しているのだろう。
私はルーファスの髪を乾かし、何か言いたげなのに、いえないでいるルーファスの頭の天辺に軽い口付けを落とした。
後ろ髪をひかれながら、少し早いが執務室に行く。今日は劇場で逢瀬(デート)だ。きっとルーファスは驚き、私を拒否するだろう。ルーファスをその気にさせるために自身も辛いが中途半端なまま終わったのだ。
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