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クリス様は意地悪です3
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「ルーファス……」
眠りから醒める瞬間をクリストファーの声に迎えれた。なんて幸せなんだろうと俺はぼんやりと思った。
昨日は一日身体のだるさがとれず、後ろの違和感もあってゴロゴロと眠っていたが、さすがに今日は起き上がりたい。大きく伸びるとクリストファーは笑いながら「おはよう」と口付けてくれた。
長年一人で眠っていたから、一緒に寝るとちょっと身体が固まるようだ。
クリストファーが深く口付けしてくる気配を感じたので慌てて「おはようございます」とチュッと唇に音を立てて逃げた。
不満気なクリストファーには悪いとは思ったけど……。
「お腹がすきました……」
俺がお腹を押さえてそういうとクリストファーは笑いながら立ち上がり、「ちょっとまってろ」と長い脚ですたすたと歩いて部屋を出て行った。王族というものはなんでも侍女がやるのだと思っていたが、クリストファーはなんでも自分でやってしまう。だから、エルフランが侍従と側近の二足わらじのようなことが出来るのだと思う。まぁエルフランが優秀なだけかもしれないが……。
昨日は、前日の夫婦の営みが激しかったからか、体調のせいなのか食欲も出なくて、水分と果実を少ししか食べる事ができなかった。その前は食事途中に拉致られてそのまま水分しか取れなかったし。島にいたときより確実に筋肉が落ちているのが自分でもわかる。食事に気をくばり、鍛錬をしなければ元々筋肉のつきにくい俺はすぐに情けない身体に戻ってしまうのだ。
マオじゃないけど、肉食べないと! 魚も食べたい! でも甘いものも欲しい!
服を着替え顔を洗っていると、クリストファーとエルフランが食事を運んできてくれた。
「おはようございます、ルーファス様」
「おはようございます、エルフラン様」
エルフランが驚いたような顔で俺を見るからなんだろうと思っていると、クリストファーは俺用に珈琲にミルクと砂糖を入れながら「ルーファス、これからはエルフランにもダリウスにも敬称はいらないぞ」と言った。
「ルーファス様は妃殿下であらせられますから。エルフランとおよび下さいませ」
キッチリと腰を折ってエルフランがお辞儀をする。
「え、あ……。嫌です。名前は仕方ないかもしれないけど、そんなふうに他人行儀に喋られたら、俺……」
ずっと兄のように優しくしてくれたエルフランが、困ったような顔をするが、俺もそこは譲れない。
「他人だろう」
そうだけど、そうかもしれないけど……。
こういうときはエルフランに言っても無駄なことを知っている。だから、クリストファーを上目遣いで見上げて「クリス様……」と呟いた。
「……お前は……。もういい――。エルフラン、諦めてやれ。こいつはこんな顔をしているのに頑固だからな。だが、敬称はつけるなよ。エルフランが困るからな」
「クリス様にお許しをいただきました。エルフラン、これからもよろしくお願いします」
エルフランが困ったような顔でクリストファーと俺を見る。
「言葉遣いも……丁寧すぎますよ」
癖になっているから、困ったなと思うが確かに示しがつかないのだろう。
「わかり……、わかった。お願いします」
「頑張ってください」
そう笑ってくれた。
勝手な話だが、自分に兄がいたら、こんな人だといいなと三年前からずっと思っていたのだ。
エルフランが、お辞儀をして部屋から出て行ったので二人で食事をする。
身体に優しそうな野菜と肉の入ったスープをゆっくり飲むと、身体に力がわいてくるようだった。パンもレタスとベーコンのサンドだ。
「お腹がすいているというのは本当だったんだな」
クリストファーがしみじみというほど、俺はしっかりと食べた。クリストファーはいつもどこのドレスのために減量しているお嬢様だ? と思うほどしか食べないから、呆れているのかもしれない。
「クリス様、そんな少量でお腹すかないんですか?」
「私はもう成長期を過ぎてるからな。そんなに食べなくても大丈夫だ」
「俺も成長期は……」
終わっていると思う。最近は骨がミシミシいって眠れないということもないし。
「お前はしっかり食べたらいい」
「でももうちょっと食べた方がいいですよ」
珈琲とパンを一枚食べただけだしと、自分の皿との格差が酷くてそういうと「じゃあそれ食べさせて」と桃に目を向けて言う。
桃……、何でこんな時期にと思うが、なんで丸ごと皿に載っているのだろう。
「皮は手でむけるだろう? 私は桃を丸ごと食べるのが好きなんだ――」
そう言って、クリストファーは口を開ける。
桃の皮を爪で剥ぎ取ると瑞々しい果実がいいにおいを放つ。それを、クリストファーの口元に持っていくと、シャリ……と音を立てて咀嚼する。
「クリス様っ、自分で持ったほうがいいです……」
俺は、クリストファーの口元から零れる桃の汁に目線を外せず、困ったように赤くなっていく自分の頬を感じた。
「んっ……」
飲み込むクリストファーの色っぽい声に桃を投げ出したくなったのは仕方ないよね?
俺の手を掴み、クリストファーが桃の果実から零れた水気に舌を這わせたのを驚きの表情で見つめた。
「あ……くすぐった……」
俺の指を舐めたり噛んだりしながら、クリストファーは俺から目線を外そうとはしない。堪らなくなって、顔を背けようとした瞬間手は離された。
「さ、ご馳走様でした」
ナプキンで口元を拭い、俺の手を拭いて、ニヤリとクリストファーは笑う。
やっと、俺は遊ばれたのだと気がついた――。
「あ、朝から何しているんですか!」
俺の真っ赤になった顔を撫でて「夜だからってやらせてくれないんだろう?」とクリストファーはそんな事を言う。
「ご、ち、そ、う、様!」
俺は怒りながら立ち上がり、部屋を出ようとするからクリストファーが慌てて俺の手を引く。
「どこへいく――?」
「ちょっと色々なものを吐き出しに! 庭にいますから!」
「に、庭? 何で庭で――? それは止めなさい。風呂で私がやってやるから……」
「何考えているんですか――! ちょっと運動してくるだけです!」
クリストファーの明後日な方向の問いにびびりながら、手を洗ってから庭に出た。
「マオ、ちょっと手合わせお願い」
俺の目付きの悪さにマオはひいたようだった。
「ちょ、今日は……昼からアルジェイドだから!」
「今、俺は今、手合わせがしたいの!」
アルジェイドだと真剣にならないと手合わせにならないが、マオだとちょうどいい。いい具合にストレスも発散できるだろう。体力も落ちてるしね。
「え……あ……、マジで――?」
マオは俺の気持ちを受けて仕方なく手合わせの礼をする。
少しでも俺の集中を削ごうとマオは「手合わせっていうけど、腰は大丈夫なのかな~?」と挑発する。
体勢を低くとり、下から正拳で突き上げるとマオがそれを受けて跳ぶ。衝撃は吸収しているようだから大したことはないだろう。
「おかげさまで!」
回し蹴りを繰り出すと足首をとられそうになったから反対の足に転換して、こめかみを狙う。
「お、ま……。ひでえ!」
手でそれを受けたままマオは後方へとんだが、今回は吸収できずに背中から滑っていく。
「油断は大敵だよね、マオ」
「油断なんかするか――!」
立ち上がるマオに正拳、裏拳を繰り出し、代わる代わる場所を変え、息が上がってきた頃「昼からクリストファー殿下はお前と街にいくつもりらしいぜ」とマオが言った。
「隙あり!」とマオが俺の手を後ろ手に捻ろうとするからするりとかわして、反対にマオの首を締め上げる。
「う、嘘じゃない……。も、降参させて――」
街にいくつもりなら、怪我したらもったいないし……と、俺はマオを解放して、「ありがとうございました」と手合わせの終わりの礼をした。
「今度から、ジェイドとやってよね!」
なんだか女みたいな叫びを上げて、マオは逃げていった。
「気持ちわるい……」
何気に酷い事を思い、ルーファスは部屋に戻った。窓から見ていたらしいクリストファーが青褪めながら「お前、強すぎだろう」と呟いた。
眠りから醒める瞬間をクリストファーの声に迎えれた。なんて幸せなんだろうと俺はぼんやりと思った。
昨日は一日身体のだるさがとれず、後ろの違和感もあってゴロゴロと眠っていたが、さすがに今日は起き上がりたい。大きく伸びるとクリストファーは笑いながら「おはよう」と口付けてくれた。
長年一人で眠っていたから、一緒に寝るとちょっと身体が固まるようだ。
クリストファーが深く口付けしてくる気配を感じたので慌てて「おはようございます」とチュッと唇に音を立てて逃げた。
不満気なクリストファーには悪いとは思ったけど……。
「お腹がすきました……」
俺がお腹を押さえてそういうとクリストファーは笑いながら立ち上がり、「ちょっとまってろ」と長い脚ですたすたと歩いて部屋を出て行った。王族というものはなんでも侍女がやるのだと思っていたが、クリストファーはなんでも自分でやってしまう。だから、エルフランが侍従と側近の二足わらじのようなことが出来るのだと思う。まぁエルフランが優秀なだけかもしれないが……。
昨日は、前日の夫婦の営みが激しかったからか、体調のせいなのか食欲も出なくて、水分と果実を少ししか食べる事ができなかった。その前は食事途中に拉致られてそのまま水分しか取れなかったし。島にいたときより確実に筋肉が落ちているのが自分でもわかる。食事に気をくばり、鍛錬をしなければ元々筋肉のつきにくい俺はすぐに情けない身体に戻ってしまうのだ。
マオじゃないけど、肉食べないと! 魚も食べたい! でも甘いものも欲しい!
服を着替え顔を洗っていると、クリストファーとエルフランが食事を運んできてくれた。
「おはようございます、ルーファス様」
「おはようございます、エルフラン様」
エルフランが驚いたような顔で俺を見るからなんだろうと思っていると、クリストファーは俺用に珈琲にミルクと砂糖を入れながら「ルーファス、これからはエルフランにもダリウスにも敬称はいらないぞ」と言った。
「ルーファス様は妃殿下であらせられますから。エルフランとおよび下さいませ」
キッチリと腰を折ってエルフランがお辞儀をする。
「え、あ……。嫌です。名前は仕方ないかもしれないけど、そんなふうに他人行儀に喋られたら、俺……」
ずっと兄のように優しくしてくれたエルフランが、困ったような顔をするが、俺もそこは譲れない。
「他人だろう」
そうだけど、そうかもしれないけど……。
こういうときはエルフランに言っても無駄なことを知っている。だから、クリストファーを上目遣いで見上げて「クリス様……」と呟いた。
「……お前は……。もういい――。エルフラン、諦めてやれ。こいつはこんな顔をしているのに頑固だからな。だが、敬称はつけるなよ。エルフランが困るからな」
「クリス様にお許しをいただきました。エルフラン、これからもよろしくお願いします」
エルフランが困ったような顔でクリストファーと俺を見る。
「言葉遣いも……丁寧すぎますよ」
癖になっているから、困ったなと思うが確かに示しがつかないのだろう。
「わかり……、わかった。お願いします」
「頑張ってください」
そう笑ってくれた。
勝手な話だが、自分に兄がいたら、こんな人だといいなと三年前からずっと思っていたのだ。
エルフランが、お辞儀をして部屋から出て行ったので二人で食事をする。
身体に優しそうな野菜と肉の入ったスープをゆっくり飲むと、身体に力がわいてくるようだった。パンもレタスとベーコンのサンドだ。
「お腹がすいているというのは本当だったんだな」
クリストファーがしみじみというほど、俺はしっかりと食べた。クリストファーはいつもどこのドレスのために減量しているお嬢様だ? と思うほどしか食べないから、呆れているのかもしれない。
「クリス様、そんな少量でお腹すかないんですか?」
「私はもう成長期を過ぎてるからな。そんなに食べなくても大丈夫だ」
「俺も成長期は……」
終わっていると思う。最近は骨がミシミシいって眠れないということもないし。
「お前はしっかり食べたらいい」
「でももうちょっと食べた方がいいですよ」
珈琲とパンを一枚食べただけだしと、自分の皿との格差が酷くてそういうと「じゃあそれ食べさせて」と桃に目を向けて言う。
桃……、何でこんな時期にと思うが、なんで丸ごと皿に載っているのだろう。
「皮は手でむけるだろう? 私は桃を丸ごと食べるのが好きなんだ――」
そう言って、クリストファーは口を開ける。
桃の皮を爪で剥ぎ取ると瑞々しい果実がいいにおいを放つ。それを、クリストファーの口元に持っていくと、シャリ……と音を立てて咀嚼する。
「クリス様っ、自分で持ったほうがいいです……」
俺は、クリストファーの口元から零れる桃の汁に目線を外せず、困ったように赤くなっていく自分の頬を感じた。
「んっ……」
飲み込むクリストファーの色っぽい声に桃を投げ出したくなったのは仕方ないよね?
俺の手を掴み、クリストファーが桃の果実から零れた水気に舌を這わせたのを驚きの表情で見つめた。
「あ……くすぐった……」
俺の指を舐めたり噛んだりしながら、クリストファーは俺から目線を外そうとはしない。堪らなくなって、顔を背けようとした瞬間手は離された。
「さ、ご馳走様でした」
ナプキンで口元を拭い、俺の手を拭いて、ニヤリとクリストファーは笑う。
やっと、俺は遊ばれたのだと気がついた――。
「あ、朝から何しているんですか!」
俺の真っ赤になった顔を撫でて「夜だからってやらせてくれないんだろう?」とクリストファーはそんな事を言う。
「ご、ち、そ、う、様!」
俺は怒りながら立ち上がり、部屋を出ようとするからクリストファーが慌てて俺の手を引く。
「どこへいく――?」
「ちょっと色々なものを吐き出しに! 庭にいますから!」
「に、庭? 何で庭で――? それは止めなさい。風呂で私がやってやるから……」
「何考えているんですか――! ちょっと運動してくるだけです!」
クリストファーの明後日な方向の問いにびびりながら、手を洗ってから庭に出た。
「マオ、ちょっと手合わせお願い」
俺の目付きの悪さにマオはひいたようだった。
「ちょ、今日は……昼からアルジェイドだから!」
「今、俺は今、手合わせがしたいの!」
アルジェイドだと真剣にならないと手合わせにならないが、マオだとちょうどいい。いい具合にストレスも発散できるだろう。体力も落ちてるしね。
「え……あ……、マジで――?」
マオは俺の気持ちを受けて仕方なく手合わせの礼をする。
少しでも俺の集中を削ごうとマオは「手合わせっていうけど、腰は大丈夫なのかな~?」と挑発する。
体勢を低くとり、下から正拳で突き上げるとマオがそれを受けて跳ぶ。衝撃は吸収しているようだから大したことはないだろう。
「おかげさまで!」
回し蹴りを繰り出すと足首をとられそうになったから反対の足に転換して、こめかみを狙う。
「お、ま……。ひでえ!」
手でそれを受けたままマオは後方へとんだが、今回は吸収できずに背中から滑っていく。
「油断は大敵だよね、マオ」
「油断なんかするか――!」
立ち上がるマオに正拳、裏拳を繰り出し、代わる代わる場所を変え、息が上がってきた頃「昼からクリストファー殿下はお前と街にいくつもりらしいぜ」とマオが言った。
「隙あり!」とマオが俺の手を後ろ手に捻ろうとするからするりとかわして、反対にマオの首を締め上げる。
「う、嘘じゃない……。も、降参させて――」
街にいくつもりなら、怪我したらもったいないし……と、俺はマオを解放して、「ありがとうございました」と手合わせの終わりの礼をした。
「今度から、ジェイドとやってよね!」
なんだか女みたいな叫びを上げて、マオは逃げていった。
「気持ちわるい……」
何気に酷い事を思い、ルーファスは部屋に戻った。窓から見ていたらしいクリストファーが青褪めながら「お前、強すぎだろう」と呟いた。
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