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殿下の残念な部分が浮き彫りです(視点変更あり)
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ローレッタは自分の与えられた部屋からでて、双子の兄であるルーファスの住む離宮に向った。本当は、相手の了解もえずに訪問してはいけないのだけど、ちょっとだけ心配だったのだ。
大聖堂での結婚式でクリストファーに熱烈なキスをされて腰が立たなくなったルーファスが、恥ずかしさの余りに晩餐会を拒否しているんじゃないかと思ったのだ。
あのエロ王子め!
周りは唖然としてその暴挙を見つめ、赤くなったり青くなったり大変だった。ルーファスの顔はヴェールで見えなかったが、きっと真っ赤になっていただろう。
それで心配をして、やってきたのだが、「ただ今お取り込み中でして」と部屋の前に立つ護衛騎士に止められた。
「お取り込み中って……」
まさかあのエロ王子が盛ってるんじゃないでしょうねと、危うく口に出しそうになり、慌てて口を閉じた。
「そんなことをしてる時間なんてないでしょ!」
と無理やり部屋に入ったが二人の姿は見えなかった。
こっちかしら? と普段二人が寛いでいるという部屋の前で、流石に迷った。
でも、本当に時間がないはずだし……大丈夫よねと、恐る恐る扉を開けると、クリストファーに押さえ込まれているルーファスが驚いたようにこちらを見た。
「ルー……」
「クリス様、離してください――」
ぱっとみた限り服装に乱れはなかったので、ローレッタはホッと息を吐いた。
「だから、駄目だといってるだろう。お前が無理して出る必要はない」
何をいっているのだろうと思う。結婚披露の晩餐会に主賓がでない?
「あの、いい加減用意したほうがいいかと思いますが――」
ギロと冷たい目で射すくめられると、よくこんな怖い男を好きになれたなと双子の兄が不思議でならない。
「出なくていいといってる」
不機嫌さを隠そうともせず、ルーファスを押さえつけながらクリストファーは溜息を吐く。
「また眩暈を起こして倒れたらどうするんだ」
倒れた?
ルーファスの顔を見ると確かに少し白く見えた。
「でも……」
言いよどむルーファスの気持ちを汲んで、ローレッタは援護することにした。
「ルーは、王子を誑かしたって言われているんです。ルーが晩餐会に出なかったら、きっともっと酷い事をいわれてしまいます」
「誑かす?」
ルーファスの目が驚きに見開いていた。こんな事はいいたくなかったんだけどと、前置きして。
「クリストファー殿下が学院を改革したのは王子妃に望んだ人が、乱れた学院に行きたくないからって殿下の下を逃げ出したからだって言われています。そんなルーファスが、自分の晩餐会を放棄したら、王子を誑かした上に責任感のない王子妃にふさわしくない人物だといわれるのは目に見えています。ルーがそんな風に言われて平気なんですか」
「学院を……?」
「そう、ルーがいなくなって一番最初にしたのは学院の改革だったの。学院内でそういう行為をしているのを見つけたら、学生は放校、教授は免職よ。自分を棚に上げてよくやるとは思ったけど……」
クリストファーは、ルーファスから身を起こしてローレッタを睨みつけた。
「具合が悪くなるのは目に見えている。感情をコントロールするのを禁止したのに、やっただろう?」
「ごめんなさい……。俺……沢山人がいて、緊張してしまって――」
「だって、ルーが沢山の人の前に出たのなんて私の代わりにでた舞踏会くらいじゃないかしら? 学校だってそんなに沢山人がいるところではなかったんでしょう?」
ローレッタが近寄って、ルーファスの手をとると、やはり少し冷たくなっていた。
「緊張して当たり前なのよ。失敗してもいいじゃない。殿下はルーが失敗してもルーを嫌いになることなんてないと思うわ」
「当たり前だ――」
クリストファーが憮然と立ち上がってルーファスに確認する。
「具合がわるくなったらすぐにいうと約束できるか?」
ルーファスが微笑み、「はい、クリス様」と嬉しそうなのを見て、ローレッタは安心した。
「よかったわ。ルー、急いで仕度するのよ。沢山美味しいものがでるから楽しみにしてね。殿下とリリアナ様と私でメニューを決めたのよ。ルーが喜ぶようにって」
クリストファーは「後で驚かそうと思っていたのに」と文句を言って鈴を鳴らした。エルフランと侍女が二人の服を持ってきたのだ。
「じゃあ、また後でね」
手を振ると、「ありがとう、ロッティ。楽しみにしてる」と昔と変わらない笑顔を向けてくれた。
正面に一列、王族と主賓の席が設けられ、縦に出席者のための席が長く連なる。
ローレッタの席は家族、親族の席だから少し離れたところになっていた。ほぼクリストファーの関係者(というか国の関係者)しかおらず、家族親族のみだから、あまり年齢の近い友達もいないし、早く始まればいいのにと大人しく座ってはいたが、退屈だった。
沢山の人のざわめきに混じって、ルーファスに対する意見も聞こえてくる。ここが親族席になるのはわかっているのだから、わざと聞かせているのか、音量も調節できない年寄りねと思っていたが、段々ローレッタはムカついてきた。
「オルコット家は家長が亡くなられて残念なことですが、いいことが続きますな。お嬢さんが王妃になり、お子様をお産みになられるし、お孫さんの一人が王子妃に、一人は公爵夫人が約束されているとは。あやかりたいものですね」
どうやら馬鹿なようだ。堂々とお祖父様にうらやましいといっている。
「本当に、どう育てればいいのでしょうね。教えていただきたい」
「やはり美しさですか」
「しかし、わしはいくら美しくても男はかないませんな」
「まぁ殿下は多趣味でいらっしゃるから」
馬鹿ばっかりだと、ローレッタは叫びたくなってきた。が、母が隣で手を握っているので、必死に耐えた。
多趣味ってなに――?
ルーファスは、本当にいい子なのに。じっと我慢ばっかりしてるから、きっとエロ王子に好きにされているだろうけど、本当にがんばりさんなのに……。
「身体で虜にされたとお聞きしましたよ。女なら傾国の美女と言われ……」
ローレッタが我慢できずに立ち上がろうとした肩を抑える手があった。
「なっ!」
何するのよ! と声を上げようとしたら、身体で……と言った伯爵の頭にワインが掛けられていた。肩を抑えようとしていたのはダリウスで、ワインをかけたのはエルフランだった。
「なにをする!」
「失礼――。腐臭がしていたもので、ついつい消毒してしまいました」
怒り狂ったように立ち上がった伯爵は、そこに怖ろしく冷たい目をして二本目を開けているエルフランをみて、後退さった。ルーファスはきっと見たことがないだろうエルフランの姿は、ローレッタには馴染みのものだ。
「あ、あ……。服を汚してしまったので、退出してもよろしいでしょうか……」
エルフランは帯剣を許されている。その彼が何気に剣を触ったので、伯爵はかわいそうになるくらい真っ青になって退出していった。
「ロッティ、お行儀よくしてようね」
ダリウスが、よしよしと頭を撫でる。
「子供じゃないわよ」
文句をつけると、「うん、よく似合ってるよ」とドレスを褒めてくれた。よくわらかない人だが、私にはエルフランよりダリウスのほうがいい。全然マシだ。クリストファーにしろエルフランにしろ、ルーファスは大変な人に好かれているなぁとローレッタは思うのだった。
「そんな怒らなくてもルーファス様をみたら、皆納得すると思うよ」
ダリウスはそんな予感めいたことをいって自分の席に戻っていった。
音楽が鳴り始め、ローレッタも起立して待った。最初に王様ご夫妻と王太后様がおいでになり、最後に二人が入ってきた。
ルーファスの服は鮮やかだけど品のいい赤い服だった。女の子だったらドレスなんだけど、燕尾服が二人というのも地味だからといって、クリストファーの趣味で服を作らせたらしい。赤はクリストファーの髪の色で、王弟クリストファーの色でもある。ルーファスの黒い髪はどんな色にも似合うからデザイナーは狂喜乱舞していたとローレッタはダリウスに聞いた。
首の上のほうまで襟があって、手すら手袋で覆われる。ルーファスを隠したい気持ちの表れに見えてローレッタは呆れた。
金で刺繍された服は、結婚式のときと同じように足首まであって、下のトラウザーズがあまりみえないが、白にしたようだった。全部白だとルーファスが食事しにくいだろうというクリストファーの配慮だった。
クリストファーは普通に燕尾服に白いタイ。周りのご婦人方の目がハートになっているのをみると、いっそ憐れになる。あの男の目にはルーファスしかみえていないだろうに。
ローレッタが周りを窺っていると、さっきまでルーファスのことを馬鹿にしたようなことを言っていた男達の目があきらかに変わっていた。そこにいるのが信じられないというような崇拝の目でみるもの、明らかに必死に目線を外そうとしているもの、上気してポカンとルーファスを見つめるもの。
それを敏感に感じて、クリストファーの機嫌はあまりよくないようだった。流石に結婚式ではないので、ヴェールで顔を隠すということはできなかったのだろう。
ダリウスが言った意味がわかった。ルーファスを見れば、何も言えなくなるのはダリウスには目に見えていたことなのだろう。
ルーファスは、王様の祝辞、次々と行われる祝辞に頬を染めていた。顔色はさっきのようには悪くない。
クリストファーと何事か話していると思っていたら、いきなりクリストファーが立ち上がって「私達はこれくらいで――。皆様今日はありがとうございました」と、簡潔に終わりを告げてルーファスを抱き上げて出て行った。
意味がわからない――。まだ食事は半分しかすんでいないのに……。
「あははは――。申し訳ない。弟はもう違うものが食べたくてしかたがないらしい」
と、唖然とする参加者に告げて王妃様に怒られていた。
あの弟にしてこの兄ありってことかしら? それとも逆?
主賓が消えた晩餐会は、和やかに美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、ゆっくりと進むのだった。
「お姉さま、ルーファス兄上はどうされたんでしょうね」
まだ十五歳のセドリックに無邪気に聞かれたが、ローレッタは「お腹でも壊したんじゃない?」という事しかできなかった。
「僕は今日久しぶりにお話できると思っていたんですが、残念です」
セドリックは本当に残念そうに呟いた。規律を改めた学院に入学したばかりのセドリックは、まだルーファスに直接あっていないのだから、無理もないだろう。
「一週間くらいしたら、会えるんじゃない?」
ローレッタは、デザートのイチゴのケーキを食べながら、適当に話をあわせた。
大聖堂での結婚式でクリストファーに熱烈なキスをされて腰が立たなくなったルーファスが、恥ずかしさの余りに晩餐会を拒否しているんじゃないかと思ったのだ。
あのエロ王子め!
周りは唖然としてその暴挙を見つめ、赤くなったり青くなったり大変だった。ルーファスの顔はヴェールで見えなかったが、きっと真っ赤になっていただろう。
それで心配をして、やってきたのだが、「ただ今お取り込み中でして」と部屋の前に立つ護衛騎士に止められた。
「お取り込み中って……」
まさかあのエロ王子が盛ってるんじゃないでしょうねと、危うく口に出しそうになり、慌てて口を閉じた。
「そんなことをしてる時間なんてないでしょ!」
と無理やり部屋に入ったが二人の姿は見えなかった。
こっちかしら? と普段二人が寛いでいるという部屋の前で、流石に迷った。
でも、本当に時間がないはずだし……大丈夫よねと、恐る恐る扉を開けると、クリストファーに押さえ込まれているルーファスが驚いたようにこちらを見た。
「ルー……」
「クリス様、離してください――」
ぱっとみた限り服装に乱れはなかったので、ローレッタはホッと息を吐いた。
「だから、駄目だといってるだろう。お前が無理して出る必要はない」
何をいっているのだろうと思う。結婚披露の晩餐会に主賓がでない?
「あの、いい加減用意したほうがいいかと思いますが――」
ギロと冷たい目で射すくめられると、よくこんな怖い男を好きになれたなと双子の兄が不思議でならない。
「出なくていいといってる」
不機嫌さを隠そうともせず、ルーファスを押さえつけながらクリストファーは溜息を吐く。
「また眩暈を起こして倒れたらどうするんだ」
倒れた?
ルーファスの顔を見ると確かに少し白く見えた。
「でも……」
言いよどむルーファスの気持ちを汲んで、ローレッタは援護することにした。
「ルーは、王子を誑かしたって言われているんです。ルーが晩餐会に出なかったら、きっともっと酷い事をいわれてしまいます」
「誑かす?」
ルーファスの目が驚きに見開いていた。こんな事はいいたくなかったんだけどと、前置きして。
「クリストファー殿下が学院を改革したのは王子妃に望んだ人が、乱れた学院に行きたくないからって殿下の下を逃げ出したからだって言われています。そんなルーファスが、自分の晩餐会を放棄したら、王子を誑かした上に責任感のない王子妃にふさわしくない人物だといわれるのは目に見えています。ルーがそんな風に言われて平気なんですか」
「学院を……?」
「そう、ルーがいなくなって一番最初にしたのは学院の改革だったの。学院内でそういう行為をしているのを見つけたら、学生は放校、教授は免職よ。自分を棚に上げてよくやるとは思ったけど……」
クリストファーは、ルーファスから身を起こしてローレッタを睨みつけた。
「具合が悪くなるのは目に見えている。感情をコントロールするのを禁止したのに、やっただろう?」
「ごめんなさい……。俺……沢山人がいて、緊張してしまって――」
「だって、ルーが沢山の人の前に出たのなんて私の代わりにでた舞踏会くらいじゃないかしら? 学校だってそんなに沢山人がいるところではなかったんでしょう?」
ローレッタが近寄って、ルーファスの手をとると、やはり少し冷たくなっていた。
「緊張して当たり前なのよ。失敗してもいいじゃない。殿下はルーが失敗してもルーを嫌いになることなんてないと思うわ」
「当たり前だ――」
クリストファーが憮然と立ち上がってルーファスに確認する。
「具合がわるくなったらすぐにいうと約束できるか?」
ルーファスが微笑み、「はい、クリス様」と嬉しそうなのを見て、ローレッタは安心した。
「よかったわ。ルー、急いで仕度するのよ。沢山美味しいものがでるから楽しみにしてね。殿下とリリアナ様と私でメニューを決めたのよ。ルーが喜ぶようにって」
クリストファーは「後で驚かそうと思っていたのに」と文句を言って鈴を鳴らした。エルフランと侍女が二人の服を持ってきたのだ。
「じゃあ、また後でね」
手を振ると、「ありがとう、ロッティ。楽しみにしてる」と昔と変わらない笑顔を向けてくれた。
正面に一列、王族と主賓の席が設けられ、縦に出席者のための席が長く連なる。
ローレッタの席は家族、親族の席だから少し離れたところになっていた。ほぼクリストファーの関係者(というか国の関係者)しかおらず、家族親族のみだから、あまり年齢の近い友達もいないし、早く始まればいいのにと大人しく座ってはいたが、退屈だった。
沢山の人のざわめきに混じって、ルーファスに対する意見も聞こえてくる。ここが親族席になるのはわかっているのだから、わざと聞かせているのか、音量も調節できない年寄りねと思っていたが、段々ローレッタはムカついてきた。
「オルコット家は家長が亡くなられて残念なことですが、いいことが続きますな。お嬢さんが王妃になり、お子様をお産みになられるし、お孫さんの一人が王子妃に、一人は公爵夫人が約束されているとは。あやかりたいものですね」
どうやら馬鹿なようだ。堂々とお祖父様にうらやましいといっている。
「本当に、どう育てればいいのでしょうね。教えていただきたい」
「やはり美しさですか」
「しかし、わしはいくら美しくても男はかないませんな」
「まぁ殿下は多趣味でいらっしゃるから」
馬鹿ばっかりだと、ローレッタは叫びたくなってきた。が、母が隣で手を握っているので、必死に耐えた。
多趣味ってなに――?
ルーファスは、本当にいい子なのに。じっと我慢ばっかりしてるから、きっとエロ王子に好きにされているだろうけど、本当にがんばりさんなのに……。
「身体で虜にされたとお聞きしましたよ。女なら傾国の美女と言われ……」
ローレッタが我慢できずに立ち上がろうとした肩を抑える手があった。
「なっ!」
何するのよ! と声を上げようとしたら、身体で……と言った伯爵の頭にワインが掛けられていた。肩を抑えようとしていたのはダリウスで、ワインをかけたのはエルフランだった。
「なにをする!」
「失礼――。腐臭がしていたもので、ついつい消毒してしまいました」
怒り狂ったように立ち上がった伯爵は、そこに怖ろしく冷たい目をして二本目を開けているエルフランをみて、後退さった。ルーファスはきっと見たことがないだろうエルフランの姿は、ローレッタには馴染みのものだ。
「あ、あ……。服を汚してしまったので、退出してもよろしいでしょうか……」
エルフランは帯剣を許されている。その彼が何気に剣を触ったので、伯爵はかわいそうになるくらい真っ青になって退出していった。
「ロッティ、お行儀よくしてようね」
ダリウスが、よしよしと頭を撫でる。
「子供じゃないわよ」
文句をつけると、「うん、よく似合ってるよ」とドレスを褒めてくれた。よくわらかない人だが、私にはエルフランよりダリウスのほうがいい。全然マシだ。クリストファーにしろエルフランにしろ、ルーファスは大変な人に好かれているなぁとローレッタは思うのだった。
「そんな怒らなくてもルーファス様をみたら、皆納得すると思うよ」
ダリウスはそんな予感めいたことをいって自分の席に戻っていった。
音楽が鳴り始め、ローレッタも起立して待った。最初に王様ご夫妻と王太后様がおいでになり、最後に二人が入ってきた。
ルーファスの服は鮮やかだけど品のいい赤い服だった。女の子だったらドレスなんだけど、燕尾服が二人というのも地味だからといって、クリストファーの趣味で服を作らせたらしい。赤はクリストファーの髪の色で、王弟クリストファーの色でもある。ルーファスの黒い髪はどんな色にも似合うからデザイナーは狂喜乱舞していたとローレッタはダリウスに聞いた。
首の上のほうまで襟があって、手すら手袋で覆われる。ルーファスを隠したい気持ちの表れに見えてローレッタは呆れた。
金で刺繍された服は、結婚式のときと同じように足首まであって、下のトラウザーズがあまりみえないが、白にしたようだった。全部白だとルーファスが食事しにくいだろうというクリストファーの配慮だった。
クリストファーは普通に燕尾服に白いタイ。周りのご婦人方の目がハートになっているのをみると、いっそ憐れになる。あの男の目にはルーファスしかみえていないだろうに。
ローレッタが周りを窺っていると、さっきまでルーファスのことを馬鹿にしたようなことを言っていた男達の目があきらかに変わっていた。そこにいるのが信じられないというような崇拝の目でみるもの、明らかに必死に目線を外そうとしているもの、上気してポカンとルーファスを見つめるもの。
それを敏感に感じて、クリストファーの機嫌はあまりよくないようだった。流石に結婚式ではないので、ヴェールで顔を隠すということはできなかったのだろう。
ダリウスが言った意味がわかった。ルーファスを見れば、何も言えなくなるのはダリウスには目に見えていたことなのだろう。
ルーファスは、王様の祝辞、次々と行われる祝辞に頬を染めていた。顔色はさっきのようには悪くない。
クリストファーと何事か話していると思っていたら、いきなりクリストファーが立ち上がって「私達はこれくらいで――。皆様今日はありがとうございました」と、簡潔に終わりを告げてルーファスを抱き上げて出て行った。
意味がわからない――。まだ食事は半分しかすんでいないのに……。
「あははは――。申し訳ない。弟はもう違うものが食べたくてしかたがないらしい」
と、唖然とする参加者に告げて王妃様に怒られていた。
あの弟にしてこの兄ありってことかしら? それとも逆?
主賓が消えた晩餐会は、和やかに美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、ゆっくりと進むのだった。
「お姉さま、ルーファス兄上はどうされたんでしょうね」
まだ十五歳のセドリックに無邪気に聞かれたが、ローレッタは「お腹でも壊したんじゃない?」という事しかできなかった。
「僕は今日久しぶりにお話できると思っていたんですが、残念です」
セドリックは本当に残念そうに呟いた。規律を改めた学院に入学したばかりのセドリックは、まだルーファスに直接あっていないのだから、無理もないだろう。
「一週間くらいしたら、会えるんじゃない?」
ローレッタは、デザートのイチゴのケーキを食べながら、適当に話をあわせた。
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