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愛する人は遠い地に
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クリストファーはジリジリと二日間を待った。あのロッティにそっくりのローレッタは見かけるのに、ロッティの姿が見えないことがクリストファーには気になって仕方がなかった。
二日たつといても立ってもいられず、クリストファーはエルフランを連れて母である王太后の部屋を訪れた。まだ朝ご飯を部屋でとっていた彼女は、息子の焦燥した顔をみて、何事かと驚いた。
「母上、ロッティと婚約したいのですが、私にはわけがわかりません。あのローレッタとかいう女はロッティのなんなんですか」
クリストファーは、この二日間、神経も立って眠りも浅かった。
「あら、ロッティを気に入ったの? あなたローレッタに婚約を申し込んだのじゃなくて?」
王太后は不思議そうにクリストファーを見上げ、隣に座るように言いつけた。クリストファーは大人しく椅子に座ったが、目はギラギラしていて、王太后は思わず笑った。
「何を笑っているのですか」
不機嫌なクリストファーにも動じることがないのは、流石だと後ろで見ながらエルフランは感心する。
「だって、あの下種なクリスがそんな熱のこもった……ふふふっ」
下種……。
貴婦人の鏡である王太后、その人の口から出た息子への言葉が『下種』。
「母上……?」
年をとっても美しい仕草で王太后は紅茶を飲む。
「私があなたがやってきた事を知らないとでも思っているの? クリストファー」
「私のやってきたことですか?」
どれだろうと思いながら、クリストファーは侍女のいれた紅茶に手をつけた。
「学院時代から好き放題食い散らかしてきたと聞き及んでますよ。まぁ、面倒くさがりで処女には手を出さないと聞いていたから、ロッティがあなたの部屋にいると聞いても怒鳴り込まなかったのだけど。あなた、まさかダリウスに下準備させたんじゃないでしょうね?」
ゲフッと、盛大に咽て、クリストファーはエルフランの差し出したハンカチで口元を覆った。
「母上……」
「リリアナから話は聞いてますよ。ローレッタに婚約を申し込みながら、ルーファスに手を出したとか。ルーファスの身体に酷い情事の後があったとか……」
鬼のような形相で、王太后はクリストファーを睨みつけた。王太后とて責任を感じていた。元々ルーファスの女装を楽しんでクリストファーにエスコートをさせたのは王太后その人であったからだ。
「あなた、ローレッタを妻にしてルーファスを愛人にするつもりなの?」
「ち、ちがっ」
「違います!」
クリストファーがなんでそんな事になっているんだと焦って否定しようとしたのをエルフランが遮った。従者の見本のようなエルフランがそんな行動をとること自体が今までにないことだったから、王太后もクリストファーも思わずエルフランを凝視した。
「違うんです。口を挟む事をお許しください」
エルフランは、普段とても寡黙だから王太后はエルフランの声を聞いたのは久し振りだった。
「ええ……いいわ」
許可を得て、エルフランはいかにクリストファーがロッティを可愛がっていたか、大事にしていたかを饒舌に語った。
「熱が下がらず、寝汗をかいたロッティ様の身体を拭き、水を飲ませていた時のクリス様の献身的なあの姿を! 王太后様に、是非見ていただきたかった! あの、クリス様が手ずから私にも手伝わせず、一人でロッティ様の看護ももちろん、お食事も用意されて……。私はあんなクリス様を見たことがありません」
王太后は、それこそ驚いて自らの息子を見つめた。
「クリストファーが?」
熱く語り熱心に頷くエルフランの姿は、クリストファーを庇っているだけには見えなかった。
「それにロッティ様はクリス様のことを好きだと思います。クリス様の話を聞くあの方の目は恋する人間の目でした。クリス様はローレッタ様のことは全く知らなかったんです。ロッティ様との婚約の話をダリウスにしていただけで……。何故、ロッティ様は本当のお名前を名乗らなかったのですか?」
そうだ、何故名乗らなかった――?
さっきからルーファスという名前を聞きながら、クリストファーは疑問だった。
「ルーファにはローレッタの代わりとして来てもらっていたから、私に気を使って言いたくても言えなかったんでしょう。そういう子なんです……」
隣の部屋の扉が開いていることに気がついていたが、クリストファーはそこから王妃が姿をあらわすと、驚きはしたものの立ち上がり、隣の椅子を引いた。
少し青い顔の王妃は礼を言って腰掛けた。
「私も貴婦人として振舞うように礼儀を教えましたしね。リリアナの甥とはいえ、男の子を同じところに住まわすのも憚るだろうと思って、そう言ったのですけど、あの子はそれを守ったのですね」
ロッティは、とても素直なところが可愛かったのだとクリストファーは目尻を下げた。
「私は、クリストファー殿下を誤解していたようですわね。未成年に手を出した事は許せませんけど、ローレッタとルーファスを並べて悦にいる変態かと思っておりました」
母親に『下種』と、義姉に『変態』呼ばわりされて、クリストファーは少しだけ虚ろげに天井を見上げた。
「ローレッタのことは白紙にもどしていいんですね?」
王太后の言葉に「もちろん」とクリストファーは頷いた。
「ルーファスは、王都の屋敷ではなく、領地の祖父のところに帰しました」
迷いながら、リリアナはクリストファーにルーファスの生い立ちを話しはじめた。
ルーファスは双子で生まれたが、妹を父親が溺愛したために母親が双子を倦厭したこと。その後生まれたセドリックを母親が仕返しのように溺愛したこと。ルーファスは、その中で孤独であったことを告げた。
「もちろん、祖父も祖母も結婚する前の私もルーファスのことは大事にしていましたが、私の結婚と同時に祖父が爵位を兄に譲り、領地に戻り、私も王宮に来ました。それからのルーファスは本当に屋敷にひっそりと生きてきたのです。大好きな星を見て、星見になりたいと勉強をがんばっていました……」
ロッティことルーファスの寂しい生活を思い浮べて、クリストファーは言動のいくつかに思い当たることがあった。
ダリウスが言っていた『気配を殺す』のもその時の癖のようなものだろう。
怒ってくれる人はクリストファーしかいないと嬉しそうだったのも、怒るほどに執着してくれる人がいないということかと、クリストファーはルーファスを想って周りに対する怒りが湧く。そして、寂しそうにするルーファスを想って心を痛めた。
「ローレッタに婚約を申し込んだと思っていました。だから、私は遊び人のクリストファー殿下ではない、ルーファスだけを愛してくれる人がきっと見つかるから、諦めなさいと言いました」
王妃が物凄く申し訳なさそうな顔をしてクリストファーに告げた内容に思わず絶句した。
「無理のないことだわ。聞きしにまさる『最低な男』ですもの」
息子の傷口に塩を塗りこむ王太后にも怒られるのではないかと構えている王妃にもクリストファーは何も言わなかった。
「それでロッティはなんと?」
あえてロッティと呼んだ。
「何も言わなかったわ。心配する私のことを好きだと言ってくれただけで」
ルーファスは諦めたのだ。自分を愛していると言いながら、自分とそっくりなローレッタを選んだクリストファーに見切りをつけて、戻っていったのだ。
どんな気持ちだったのだろうか――。
愛を求めていながら、愛を信じられないような子供だった。
大事にしているつもりで、何をしていたのだろうとクリストファーは自責の念で顔が青くなった。
早く誤解をとかなければ……。そう、クリストファーは焦る想いで立ち上がった。
「ロッティに会いにいってきます」
「ルーファスよ。また誤解されるわよ」
王太后の言葉に頭を振って、クリストファーは自嘲した。
「自分で名乗るまで、私はその名前は呼べません。自分で名乗ってもらいます」
クリストファーはルーファスの泣き顔を思い出した。
きっとまた泣くんだろうなと思うと、クリストファーは沸き立つような気持ちを押し込めた。
もう、二度と離したくない――。
クリストファーは、颯爽と風を切りルーファスの祖父の住む領地まで行った。
そこでルーファスがリグザル王国のジグラード教の神学校へ行ったことを知った。
途中の街で祖父にだけ手紙を送り、ルーファスは神殿という名の治外法権の檻に入ってしまった。どれだけクリストファーが望もうと、ルーファスが卒業までの間、連絡をとることも出来ない場所だった。
「無理よ、例えリグザルの王族が亡くなったとしても娘でも帰る事は許されないのですもの」
かつてリグザルの王女であった王太后はそう言った。入る前に世俗との関わりを絶つのはよくあることだ。そこに一切の政治は介入できないことも王太后は告げた。
「三年間待つことね……」
哀れみを込めた目で王太后は絶望で沈む息子に声を掛けた。
「学院に入学すると聞いていたのですが……」
「あんな腐った学院に入学するよりよっぽどいいわよ。それにルーファスは星見になりたいのでしょう? 星見になる資格を得たら、後二年卒業できないわね。諦めたらどうかしら? 顔は一緒なんだしローレッタでもいいんじゃない? 五年もたてば、ルーファスもちゃんとした男になるわ。あなたの腕で震えていた小鳥は失われたのよ」
王太后はそれこそ酷く傷つける言い方でクリストファーに現実的なことを言った。それがクリストファーのためにもルーファスのためにもいいことだと思って心を鬼にして言ったのだった。
五年――。母に言われなくても確実にクリストファーの知る少年はいなくなっているだろうと想像がついた。
ルーファスが成長過程でクリストファーの許容範囲を超えることはありえることだった。それに男だらけの神学校で、ルーファスが無事でいられるとは思えなかった。ルーファスがそこで愛する男を見つけてしまうかもしれないという焦りもあった。沢山の男を覚えたルーファスを潔癖症の自分が愛せるかどうかも怪しくて、クリストファーは焦燥の中で三年を過ごす事を考えた。
焼き切れそうな想いは、ルーファスが自分を信じなかったのだという悲しみを増長させた。
それでも、クリストファーはローレッタはもちろん他の人間を愛することなど考えられなかった。どんな華もクリストファーの凍った心を溶かすことはできないまま、三年の年月が静かに流れていくのだった。
二日たつといても立ってもいられず、クリストファーはエルフランを連れて母である王太后の部屋を訪れた。まだ朝ご飯を部屋でとっていた彼女は、息子の焦燥した顔をみて、何事かと驚いた。
「母上、ロッティと婚約したいのですが、私にはわけがわかりません。あのローレッタとかいう女はロッティのなんなんですか」
クリストファーは、この二日間、神経も立って眠りも浅かった。
「あら、ロッティを気に入ったの? あなたローレッタに婚約を申し込んだのじゃなくて?」
王太后は不思議そうにクリストファーを見上げ、隣に座るように言いつけた。クリストファーは大人しく椅子に座ったが、目はギラギラしていて、王太后は思わず笑った。
「何を笑っているのですか」
不機嫌なクリストファーにも動じることがないのは、流石だと後ろで見ながらエルフランは感心する。
「だって、あの下種なクリスがそんな熱のこもった……ふふふっ」
下種……。
貴婦人の鏡である王太后、その人の口から出た息子への言葉が『下種』。
「母上……?」
年をとっても美しい仕草で王太后は紅茶を飲む。
「私があなたがやってきた事を知らないとでも思っているの? クリストファー」
「私のやってきたことですか?」
どれだろうと思いながら、クリストファーは侍女のいれた紅茶に手をつけた。
「学院時代から好き放題食い散らかしてきたと聞き及んでますよ。まぁ、面倒くさがりで処女には手を出さないと聞いていたから、ロッティがあなたの部屋にいると聞いても怒鳴り込まなかったのだけど。あなた、まさかダリウスに下準備させたんじゃないでしょうね?」
ゲフッと、盛大に咽て、クリストファーはエルフランの差し出したハンカチで口元を覆った。
「母上……」
「リリアナから話は聞いてますよ。ローレッタに婚約を申し込みながら、ルーファスに手を出したとか。ルーファスの身体に酷い情事の後があったとか……」
鬼のような形相で、王太后はクリストファーを睨みつけた。王太后とて責任を感じていた。元々ルーファスの女装を楽しんでクリストファーにエスコートをさせたのは王太后その人であったからだ。
「あなた、ローレッタを妻にしてルーファスを愛人にするつもりなの?」
「ち、ちがっ」
「違います!」
クリストファーがなんでそんな事になっているんだと焦って否定しようとしたのをエルフランが遮った。従者の見本のようなエルフランがそんな行動をとること自体が今までにないことだったから、王太后もクリストファーも思わずエルフランを凝視した。
「違うんです。口を挟む事をお許しください」
エルフランは、普段とても寡黙だから王太后はエルフランの声を聞いたのは久し振りだった。
「ええ……いいわ」
許可を得て、エルフランはいかにクリストファーがロッティを可愛がっていたか、大事にしていたかを饒舌に語った。
「熱が下がらず、寝汗をかいたロッティ様の身体を拭き、水を飲ませていた時のクリス様の献身的なあの姿を! 王太后様に、是非見ていただきたかった! あの、クリス様が手ずから私にも手伝わせず、一人でロッティ様の看護ももちろん、お食事も用意されて……。私はあんなクリス様を見たことがありません」
王太后は、それこそ驚いて自らの息子を見つめた。
「クリストファーが?」
熱く語り熱心に頷くエルフランの姿は、クリストファーを庇っているだけには見えなかった。
「それにロッティ様はクリス様のことを好きだと思います。クリス様の話を聞くあの方の目は恋する人間の目でした。クリス様はローレッタ様のことは全く知らなかったんです。ロッティ様との婚約の話をダリウスにしていただけで……。何故、ロッティ様は本当のお名前を名乗らなかったのですか?」
そうだ、何故名乗らなかった――?
さっきからルーファスという名前を聞きながら、クリストファーは疑問だった。
「ルーファにはローレッタの代わりとして来てもらっていたから、私に気を使って言いたくても言えなかったんでしょう。そういう子なんです……」
隣の部屋の扉が開いていることに気がついていたが、クリストファーはそこから王妃が姿をあらわすと、驚きはしたものの立ち上がり、隣の椅子を引いた。
少し青い顔の王妃は礼を言って腰掛けた。
「私も貴婦人として振舞うように礼儀を教えましたしね。リリアナの甥とはいえ、男の子を同じところに住まわすのも憚るだろうと思って、そう言ったのですけど、あの子はそれを守ったのですね」
ロッティは、とても素直なところが可愛かったのだとクリストファーは目尻を下げた。
「私は、クリストファー殿下を誤解していたようですわね。未成年に手を出した事は許せませんけど、ローレッタとルーファスを並べて悦にいる変態かと思っておりました」
母親に『下種』と、義姉に『変態』呼ばわりされて、クリストファーは少しだけ虚ろげに天井を見上げた。
「ローレッタのことは白紙にもどしていいんですね?」
王太后の言葉に「もちろん」とクリストファーは頷いた。
「ルーファスは、王都の屋敷ではなく、領地の祖父のところに帰しました」
迷いながら、リリアナはクリストファーにルーファスの生い立ちを話しはじめた。
ルーファスは双子で生まれたが、妹を父親が溺愛したために母親が双子を倦厭したこと。その後生まれたセドリックを母親が仕返しのように溺愛したこと。ルーファスは、その中で孤独であったことを告げた。
「もちろん、祖父も祖母も結婚する前の私もルーファスのことは大事にしていましたが、私の結婚と同時に祖父が爵位を兄に譲り、領地に戻り、私も王宮に来ました。それからのルーファスは本当に屋敷にひっそりと生きてきたのです。大好きな星を見て、星見になりたいと勉強をがんばっていました……」
ロッティことルーファスの寂しい生活を思い浮べて、クリストファーは言動のいくつかに思い当たることがあった。
ダリウスが言っていた『気配を殺す』のもその時の癖のようなものだろう。
怒ってくれる人はクリストファーしかいないと嬉しそうだったのも、怒るほどに執着してくれる人がいないということかと、クリストファーはルーファスを想って周りに対する怒りが湧く。そして、寂しそうにするルーファスを想って心を痛めた。
「ローレッタに婚約を申し込んだと思っていました。だから、私は遊び人のクリストファー殿下ではない、ルーファスだけを愛してくれる人がきっと見つかるから、諦めなさいと言いました」
王妃が物凄く申し訳なさそうな顔をしてクリストファーに告げた内容に思わず絶句した。
「無理のないことだわ。聞きしにまさる『最低な男』ですもの」
息子の傷口に塩を塗りこむ王太后にも怒られるのではないかと構えている王妃にもクリストファーは何も言わなかった。
「それでロッティはなんと?」
あえてロッティと呼んだ。
「何も言わなかったわ。心配する私のことを好きだと言ってくれただけで」
ルーファスは諦めたのだ。自分を愛していると言いながら、自分とそっくりなローレッタを選んだクリストファーに見切りをつけて、戻っていったのだ。
どんな気持ちだったのだろうか――。
愛を求めていながら、愛を信じられないような子供だった。
大事にしているつもりで、何をしていたのだろうとクリストファーは自責の念で顔が青くなった。
早く誤解をとかなければ……。そう、クリストファーは焦る想いで立ち上がった。
「ロッティに会いにいってきます」
「ルーファスよ。また誤解されるわよ」
王太后の言葉に頭を振って、クリストファーは自嘲した。
「自分で名乗るまで、私はその名前は呼べません。自分で名乗ってもらいます」
クリストファーはルーファスの泣き顔を思い出した。
きっとまた泣くんだろうなと思うと、クリストファーは沸き立つような気持ちを押し込めた。
もう、二度と離したくない――。
クリストファーは、颯爽と風を切りルーファスの祖父の住む領地まで行った。
そこでルーファスがリグザル王国のジグラード教の神学校へ行ったことを知った。
途中の街で祖父にだけ手紙を送り、ルーファスは神殿という名の治外法権の檻に入ってしまった。どれだけクリストファーが望もうと、ルーファスが卒業までの間、連絡をとることも出来ない場所だった。
「無理よ、例えリグザルの王族が亡くなったとしても娘でも帰る事は許されないのですもの」
かつてリグザルの王女であった王太后はそう言った。入る前に世俗との関わりを絶つのはよくあることだ。そこに一切の政治は介入できないことも王太后は告げた。
「三年間待つことね……」
哀れみを込めた目で王太后は絶望で沈む息子に声を掛けた。
「学院に入学すると聞いていたのですが……」
「あんな腐った学院に入学するよりよっぽどいいわよ。それにルーファスは星見になりたいのでしょう? 星見になる資格を得たら、後二年卒業できないわね。諦めたらどうかしら? 顔は一緒なんだしローレッタでもいいんじゃない? 五年もたてば、ルーファスもちゃんとした男になるわ。あなたの腕で震えていた小鳥は失われたのよ」
王太后はそれこそ酷く傷つける言い方でクリストファーに現実的なことを言った。それがクリストファーのためにもルーファスのためにもいいことだと思って心を鬼にして言ったのだった。
五年――。母に言われなくても確実にクリストファーの知る少年はいなくなっているだろうと想像がついた。
ルーファスが成長過程でクリストファーの許容範囲を超えることはありえることだった。それに男だらけの神学校で、ルーファスが無事でいられるとは思えなかった。ルーファスがそこで愛する男を見つけてしまうかもしれないという焦りもあった。沢山の男を覚えたルーファスを潔癖症の自分が愛せるかどうかも怪しくて、クリストファーは焦燥の中で三年を過ごす事を考えた。
焼き切れそうな想いは、ルーファスが自分を信じなかったのだという悲しみを増長させた。
それでも、クリストファーはローレッタはもちろん他の人間を愛することなど考えられなかった。どんな華もクリストファーの凍った心を溶かすことはできないまま、三年の年月が静かに流れていくのだった。
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