【完結】妹は憧れの王子と結婚したいようですが、まずはその凶暴な性格を直さないと無理だと思います!

貝瀬汀

文字の大きさ
上 下
6 / 7

6.光

しおりを挟む
 わたくしは――ふらつく足で一歩一歩、彼の眠るベッドに近づいてゆく。

「メイテス殿下……起きて、くださいませ……」

 弱々しい声で呟いた。彼からの返事はない。
 ああ、これ以上は、もう。心の中はぐちゃぐちゃで、考えが上手くまとまらなかった。けれど。
 罪悪感と、彼の善性に。観念……しよう。したくないけれど。させられた。
 わたくしは床にひざまずく。薄い掛け布をめくり、初めて触れる彼の白い右手を持ち上げて、両手でそっと包みこんだ。

「メイテス、殿下」
 
 瞳を閉じる。
 彼の怪我が、治りますように。今日、まだ元気だった頃の状態に戻りますように。また青色の瞳を煌めかせて、楽しそうに話をしてくれますように。

「どうか、……起きて……」

 心で、誰宛かもわからない祈りを捧げた。
 まぶたの向こうで白く、殿下が光りだすのを感じる。だんだんと強くなっていったそれは、頂点に達したのか次第に弱まっていく。
 部屋はしんとして、いつのまにか祈祷師らの声は止んでいた。

 わたくしには今世、治癒能力があった。こけてできた傷や、妹に殴られた痕などをよく治した。
 この力について人に言う気はまったくなかった。魔法などという言葉を聞いたこともない世界だったので、異端だと殺されるか、はたまた搾取されるのかと恐ろしかったのだ。
 目をゆっくりと開ける。世界には日常の色が戻っていた。

「――ラナ……?」

 殿下の青い目はついに開かれた。

「殿、下っ」
「わたしは……そうだ、階段から……」

 視線をさまよわせ自問自答する殿下。そしてまもなく、彼はわたくしのほうを見た。

「夢の中で……君の。ラナの声が聞こえたんだ。起きて、と……。ありがとう」
「いいえ、いいえっ……。殿下こそ、わたくしを助けてくださって、ありがとうございます……。多大なご迷惑を、おかけして。申し訳っ、ありませっ」

 殿下の手を放し、嗚咽を堪えながら謝罪をする。
 しかし思いがけず、メイテス殿下は目を細め、とろけそうな微笑みをこちらに向けていた。
 わたくしの心はかき乱され、壊れた涙腺からは次から次へと涙があふれてくる。頬を伝い落ちるそれを、殿下は胸元から取り出したハンカチで幾度も拭ってくださった。

「いいんだ……。君を守れて、本当によかった」

 抱き寄せられ、髪を優しく撫でられる。

「ふふ。ラナ、泣き止んでおくれ」
「――やったぞ! メイテス殿下がお目覚めだ! これは奇跡だ!」

 静まり返っていた屋敷は一転して歓喜に湧く。待機していた護衛たちが殿下に駆け寄ってきた。
 わたくしは腕の中から抜けだし立ち上がる。あたりを見回すと、入口の手前にいる両親と目が合った。一つ頷きどうにか命がつながった――かもしれない束の間の安堵を、分かち合うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

二人の男爵令嬢の成り上がり!でも、結末は──

naturalsoft
恋愛
オーラシア大陸の南に姉妹国と呼ばれる二つの国があった。 西側のアネーデス王国 東側のイモート王国 過去にはお互いの王族を嫁がせていた事もあり、お互いにそれぞれの王族の血が受け継がれている。 そして、アネーデス王国で周辺国を驚かすニュースが大陸を駆け抜けた。 その国のとある男爵令嬢が、王太子に見初められ【正しい正規の手続き】を踏んで、王太子妃になったのである。 その出来事から1年後、隣のイモート王国でも、その国の男爵令嬢が【第一王子】の【婚約者】になったと騒がれたのだった。 しかし、それには公衆の面前で元婚約者に婚約破棄を突き付けたりと、【正規の手続きを踏まず】に決行した悪質なやり方であった。 この二人の結末はいかに── タイトルイラスト 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...