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3.凶行
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どうにか説得しようと父は言葉を尽くすが、妹の意見は変わらない。
やがてルリーベラは我慢の限界に達したのだろう。父の手を強く振りほどき、わたくしを睨みつけながら足音荒く近寄ってきた。
「よくも……」
「――痛っ?!」
パンッ! と頬を張られる。
「……よくもっ! 涼しい顔をして私からメイテス殿下を盗っていけたわね!」
頭や肩にも平手の衝撃がくる。続いてふくらはぎも蹴りつけられた。痛い。か弱く見えるがルリーベラは叩き慣れているからか、重く激しい攻撃だった。
妹の悪癖。それはたびたび家族や使用人に暴力を振るうこと。わたくしも彼女から暴行を受け、患部が内出血で変色することすらよくあった。思い通りにならないと気が済まない性質なのだと思う。
殿下との婚約がニーシス家にとって悩ましい問題になるだろう……と予測したのはこれがあったからである。
わたくしがメイテス殿下に嫁ぐことになり、奇怪なしきたりに縛られるのも嫌だが。そもそもわたくしと殿下の婚約をルリーベラが大人しく見ているはずがないのだ。
そして万が一彼女の要求が通り殿下の婚約者になれても。結婚にまでこぎつけられたとしても。今度はルリーベラが殿下に手を上げないか、それにより一族郎党皆殺しにでもならないかと、わたくしたち家族は怯えながら生きることになるのだ。
どれも心の平穏とはほど遠い、訪れてほしくはない未来だったが……。
「いつもいつもいいところをアナタが持っていく! アナタさえいなければ、私は……私がっ!」
ドンッ!
勢いよく左肩を押された。
――わたくし、下りの階段のすぐ近くにいたんだわ。迂闊だった。目に天井が映る。ああ、死ぬのかも。宙に投げ出された不快感が、背筋を走り抜けた。
「――ラナっ!!」
え? 背に、受け止めてくれた誰かの腕の感触。体はそれに強く押し返された。
「いっ!?」
気がつけばわたくしは廊下に膝を打ちつけていた。今のは、そのお声は……っ。背後を恐る恐る覗きこむ。
呼吸が止まった。なんで、こんなことに。
「キャー!!」
そこかしこから悲鳴が上がる。
階段の向こう側には。さきほどわたくしの名を呼び、助けてくださったであろう御方の。ぐったりと横たわる姿があった。
やがてルリーベラは我慢の限界に達したのだろう。父の手を強く振りほどき、わたくしを睨みつけながら足音荒く近寄ってきた。
「よくも……」
「――痛っ?!」
パンッ! と頬を張られる。
「……よくもっ! 涼しい顔をして私からメイテス殿下を盗っていけたわね!」
頭や肩にも平手の衝撃がくる。続いてふくらはぎも蹴りつけられた。痛い。か弱く見えるがルリーベラは叩き慣れているからか、重く激しい攻撃だった。
妹の悪癖。それはたびたび家族や使用人に暴力を振るうこと。わたくしも彼女から暴行を受け、患部が内出血で変色することすらよくあった。思い通りにならないと気が済まない性質なのだと思う。
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わたくしがメイテス殿下に嫁ぐことになり、奇怪なしきたりに縛られるのも嫌だが。そもそもわたくしと殿下の婚約をルリーベラが大人しく見ているはずがないのだ。
そして万が一彼女の要求が通り殿下の婚約者になれても。結婚にまでこぎつけられたとしても。今度はルリーベラが殿下に手を上げないか、それにより一族郎党皆殺しにでもならないかと、わたくしたち家族は怯えながら生きることになるのだ。
どれも心の平穏とはほど遠い、訪れてほしくはない未来だったが……。
「いつもいつもいいところをアナタが持っていく! アナタさえいなければ、私は……私がっ!」
ドンッ!
勢いよく左肩を押された。
――わたくし、下りの階段のすぐ近くにいたんだわ。迂闊だった。目に天井が映る。ああ、死ぬのかも。宙に投げ出された不快感が、背筋を走り抜けた。
「――ラナっ!!」
え? 背に、受け止めてくれた誰かの腕の感触。体はそれに強く押し返された。
「いっ!?」
気がつけばわたくしは廊下に膝を打ちつけていた。今のは、そのお声は……っ。背後を恐る恐る覗きこむ。
呼吸が止まった。なんで、こんなことに。
「キャー!!」
そこかしこから悲鳴が上がる。
階段の向こう側には。さきほどわたくしの名を呼び、助けてくださったであろう御方の。ぐったりと横たわる姿があった。
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