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2.轟く

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「――それで、わたしの家庭教師の先生が紹介してくれた本が面白くてね。その本を持ってきたから、時間があるときぜひラナも読んでみてくれ。君の感想が聞いてみたいんだ」
「まあ、ありがとうございます。とても内容が気になりますわね。よく読みこんでおきますわ」

 豪華な装丁の本を手渡された。これは読んだことがないな。本はけっこうな貴重品なので、一期一会だと思ってじっくり読みたい。知識はあっても困らないのだ。
 わたくしは約束を交わしていたお客様と、おやつの時間を過ごそうと屋敷のテラスに出ていた。吹き抜けていく冷たい風と、遠くに聞こえる葉擦れの音が心地よい。
 
「大切な御本ですから、わたくし、今から部屋に置いて参ります。どうぞお掛けになって――」

 それは、突然だった。

「――待ちなさい!」
「なんで! なんで私がそんな格下の男と婚約しなければならないのよ!」

 屋内から轟いたのは若い女の声だった。

「……お聞き苦しいものを、大変申し訳ございません。そちらの席にお掛けになって少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ……ああ」

 一礼してからも丁寧な足運びで、しかし素早くその空間を抜け出した。
 あの声はまたルリーベラの癇癪、でしょうね。怪我人が出なければいいけれど……はぁ。先に、お借りしていた本を二階の自室に置き、まだまだ続く金切り声を辿り足早に渦中へと進む。
 
 使用人たちがはらはらと見守るのは父の書斎入口だった。
 扉を開けて、部屋を出て行こうとするルリーベラ。その腕を掴み室内に引き戻そうとしている青ざめた父は、いつになく苛立ちを隠せていなかった。それも当然か。大失態だ。

「話はまだ終わっていない! 部屋に戻りなさい!」
「話し合う余地などありません! もう少し待てば……殿下からの訂正の連絡がくるはずですわ! 私が本当の婚約者だと!」

 ――カツッ。

 しまった。靴音が。二人がこちらを振り向いた。

「すまないっ、ラナ……。ルリーベラ、もうそんな連絡はこないんだ。諦めなさい!」
「――なぜです! さきほどお父様が言っていた男とはラナ姉様が婚約して、私のほうが殿下と婚約すればいいのではないですか? それでいいことではないですかっ! お姉様もそれでかまいませんわよね?!」
「だからそれはっ、殿下のご意向が最優先だと何度も言っているだろう!」

 わたくしに確認してくるルリーベラにため息を吐きそうになるのを堪える。どちらも折れない、激しい言い争いが続いていた。
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